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日本の第一次産業におけるIT活用~農業、漁業の未来を考える~

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by [2014年8月01日]

 現在、日本の第一次産業の状況は控えめに言っても厳しい状況に陥っている。総務省の発表によると、2010年の一次産業従事者は全産業従事者数のうち4%(農業・林業が3.7%、漁業が0.3%)しかいないということで、日本において一次産業は消滅しかねないところまで来ている。これには従事者の高齢化および新規従事者の減少傾向、情報社会の発達による相対的な三次産業従事者の増加傾向といった要因が考えられる。しかし、そうした厳しい現状でも一次産業従事者たちは多くの工夫をすることで生き残ろうとしている。例えば食品加工や販売をも担うという六次産業化や、品種改良などのバイオテクノロジーを生かした二次産業的要素を組み込むなどが挙げられる。今回はそうした工夫のひとつ、一見すると情報化と親和性の低い一次産業がどのようにITを活用しているかを事例を示すことで、その有用性を考えたい。

農業におけるIT活用


 熊本県益城町にある松本農園は、国内農家では珍しいグローバルGAPを取得している。グローバルGAPとは、農業生産物のグローバルな安全基準のことであり、欧州の大手小売会社が中心となって設立したフードプラスによって運営されている。去年には何度も話題になったTPPの農業分野に関する議論の場では、食品の安全性を懸念する際に持ち出されることが多く、第三者機関によるものとはいえ、事実上の国際標準規格とみていいほど、今後、農業生産物の自由貿易においては取得が推奨されている。しかし、この安全基準を達成することは一筋縄ではいかない。取得のためのチェック項目は250ほどであり、基準を達成するには適切な文書や調査が要求されている。たとえば、農作物の「トレーサビリティ」の項目においては、グローバルGAP協会は、

文書化された識別とトレーサビリティのシステムがあり、それによってGLOBALG.A.P.登録生産物を栽培した登録農場、また生産者グループの場合は、グループ内の登録農場までさかのぼることができ、かつ、直接の顧客へと辿ることができなければなりません。(以下、略)

としており、農場の「危害と応急処置」の項目では、農場での事故の対策手順書に記載すべき細かな要素にも言及しており、最短距離にある通信手段とその場所、地元の医療施設や病院、電気・ガス・水道の停止方法といったことも、義務としては下位だが、記す必要があり、これらの細かな言及からわかるように、グローバルGAPは徹底的な管理を要求するものとなっている。そして、そのために、松本農園はITによって農場を管理するという体制を取っている。
 日本経済新聞によれば、それぞれの従業員が、今日どこで、どのような作業をしたかという報告をタブレットを活用して登録したり、上述したトレーサビリティを実現するための具体的な方法として、『袋詰めした商品には最初の4桁が松本農園を示し、後ろの4桁が出荷日を示しているという8桁の数字を記載』しており、そのため回収すべき農作物が存在しても、袋の数字とデータをつきあわせれば、すぐに回収すべき対象の範囲を特定でき、回収までに至った原因の究明も行うことで、被害の拡大や事故の再発を防止することができるようになっている。また松本農園は一足早く導入したこのITの活用をほかの農場にも使ってもらおうと、ノウハウ、システムを全国レベルに展開しており、このシステムを使えば三ヶ月ほどでグローバルGAPの取得が可能とのことである。
 このように農場の安全対策や管理体制においては、ITの利用は生かされているということができるだろう。

漁業におけるIT活用

 漁業は農業と比べて、ITを活用することに積極的に取り組んできた。それは農業のように生産、管理するのではなく、魚という思い通りに動いてはくれない獲物を相手にするために、積極的な情報収集が必然的に求められてきたことに由来している。天候に左右されやすいためにラジオを漁船に持ち込んだり、魚群探知機などを駆使して網を投げ込むといったこともITを活用している例の一つだろう。そうした技術およびそれをもたらす機器を受け入れてきた背景と、昨今のタブレット端末の普及に伴い、漁業の現場においてiPadをはじめとしたITが活用されるようになってきた。

 代表的なものとしては、公立はこだて未来大学が開発したiPadアプリ「デジタル操業日誌」「marine PLOTTER」が挙げられる。これらは東京農業大学、北海道立総合研究機構の管轄下にある稚内水産試験場との共同プロジェクトの過程で開発されたもので、残すべき資源量を推定することで適切な漁獲量を示すという目的がある。「デジタル操業日誌」は網を投げた時間と揚げた時間、漁獲量、放流量などの基本的な情報を入力するもので、その名のとおり日誌として活用されている。

 「marine PLOTTER」はより実践的な場での活用が想定され、漁船のみならず旅客船や貨物船などの航行軌跡が画面上で表示されるというように、安全な漁業を行うための支援をしているアプリとなっている。

 これら二つのアプリから漁獲情報と位置情報を集めることで、どこまでなら獲っていいのか、あるいはいけないのかといったことと、航行しているほかの船の動きから網の配置を考える材料を提供するなど、漁に際しては大きな役割を果たしている。このほかにも、公立はこだて未来大学は「ユビキタスブイ」というセンサノードも開発しており、こちらは海上に浮かぶブイを電子的なネットワークに接続しているものとなっている。このブイで検知された水温や潮流などの情報は、東京農業大学の尽力により、インターネット上で配信する仕組みが構築されており、現在は「ubiquitous BUOY」というiPhoneアプリ上でも見ることができる。今後はこのITの活用が漁業者同士の間で広まることで、より広範囲のサンプルを取得することができるとみられ、それはまた質の高い漁業支援情報となって漁業者および漁場全体のバランスを保つための重要な役割を果たしていくことになるだろう。

二つの事例を通じて

 農業、漁業と二つの業界におけるIT活用の事例を紹介したが、農業においては松本農園のようにノウハウ、システムを提供してくれる先駆者がいるため、ある程度の資本やITに対する苦手意識さえなければ、従事者の誰もが活用することできるが、漁業においては地域(ブイなどは北海道、東北地方、沖縄地方、インドネシアなど部分的な設置となっている)が限定されているため、誰もがこの事例と同じような活用の仕方をできるとは限らない。しかし、調べた限りにおいてITの活用によるマイナス面というものは見当たらず(問題が発覚するにはあまりにサンプル数が少ないだけと考えることもできるが)、この事例においても問題なく正常に機能しているため、ひとまず有用性があると評価したい。
 自信をもって有用性があると言うには、今後の一次産業におけるITの活用が普及してから判断すべきだ。そして、そのためには一次産業従事者同士がIT活用事例を報告し合う機会をつくったり、漁業でのIT活用事例のような大学などの学術機関の開発を積極的に導入するようなITを受け入れるための土壌づくりが必要である。ITとは親和性が低いと思われる一次産業ではあるが、早期にITの導入および活用してほしい。そうすれば、ITが生かされる場合、生かされない場合の事例が集まり、真の有用性は見えてくることだろう。

松本農園
日本経済新聞 『アップルも注目 世界基準の農園、ITで安全管理』
GLOBALG.A.P. 協議会
産学官の道しるべ 『広がるIT漁業の輪 ―リアルタイムで情報収集・解析―』
デジタル操業日誌marine PLOTTERubiquitous BUOY

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