Nod_Hand

Nodが見せるユーザーインターフェイスの近未来

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by [2014年6月25日]

1942年に発表されたロバート・A・ハインラインの古典的名作「ウォルドウ」を筆頭に、手や指の動きを何らかの機器の操作に利用する手法は、音声入力デバイスとともに、常に「未来」を感じさせる入力装置としてSF作品で描かれてきました。

最近では映画「アイアンマン」の主人公、トニー・スタークの使用するコンソールが代表例になりますが、この種の手の動きを利用する入力デバイス(およびそれを利用したシステム)は、SF作品を作る人びとの心を引きつけてやまない何かがあるようです。

それゆえか、昔からSFマニアの多いコンピューター業界でもこうした手の動きを利用する入力デバイスを開発しよう、という動きはあったのですが、有線ならばともかく無線で動作するデバイスとなると、その電源となるバッテリーの物理的制約やデバイスそのものの消費電力や処理能力、それにセンサーの方式などの問題から、なかなか実用レベルに達するものが現れませんでした。

しかし最近ではBluetooth 4.0での超低消費電力動作(Bluetooth Low Energy:BLE)のサポートや、半導体製造プロセスの微細化による半導体の消費電力低減と高性能化、それにセンサー技術の発展により手袋型や指輪型の無線接続入力デバイスの開発がようやく実用に供するに足るレベルに到達し始め、また画像解析技術を利用したジェスチャー入力のためのハードウェアも、プロセッサ性能の飛躍的向上を背景とした必要処理性能の充足により、実用段階に到達するようになりました。

そこで今回は、指輪型デバイス開発の最前線にある「Nod」や「Ring」、それにジェスチャー入力で既に商用製品化されている「Kinect」や「LeapMotion」といった「手の動きを利用する」入力デバイスについて考えてみたいと思います。

Kinect

Microsoft Xbox 360(奥)と初代Kinect(手前)

Kinectはディスプレイ(テレビ)の上部に固定して設置したステレオカメラでユーザーを撮影、深度センサーを併用してその身体の動きを検出・判定し入力操作に用いる、ジェスチャー入力デバイスとそのシステムです。

これは元々Microsoftの家庭用ゲーム機Xbox 360のために開発された入力デバイスで、初代モデルは2010年11月に発売されています。

つまり、指輪型デバイスよりはずっと早い時期に実用段階に達していたわけですが、これはこのシステムが基本的にXbox 360本体とUSB 2.0で、つまり有線接続されていて電源の問題を考慮しなくとも済んだことなど、ハードウェア面での技術的な難度が比較的低かったことによるものです。

もっとも、入力に関わるハードウェア面での難度が低い反面、この技術は入力された画像情報を深度情報を参照しながら解析・処理して入力操作のジェスチャーを(それも複数ユーザーを識別しつつ)リアルタイムで検出・判定するのに膨大なプロセッサパワーを要したため、機器本体が高価格化(※開発初期段階ではXbox 360本体に搭載された3つのプロセッサコアで全ての処理を行わせることでKinect本体は低価格で提供する計画だったのが、あまりに高負荷となったことから途中からKinect本体にも専用プロセッサを搭載し、そちらに処理を負担させるように変更した結果、高価格設定とならざるを得ませんでした)してしまいました。

しかもディスプレイから最低でも約1メートル程度離れた位置で(相応の空間を確保した上で、しかも一定のキャリブレーションを行った上で)操作せねばならないことなどから、特に家屋の狭い日本ではこのシステムは一般化しきれないでいます。

Microsoft Xbox One用Kinect
テレビやディスプレイの本体上部に載せて使用する。

Xbox 360の後継機種となるXbox Oneでも改良進化したKinect(※センサーの方式が変わり、高分解能化しています)が当初は標準添付とされていたのですが、競合機種であるPlayStation 4がPlayStation Camera(※ソニーがKinect対抗技術として発表したPlayStation Moveのための高精度カメラ)を標準添付とせず本体を低価格化してシェアを伸ばしていることや、アメリカで先行発売されたXbox Oneが高性能化したKinectの処理に伴う負荷が重く、ゲームタイトルによってはあえて非対応とするケースが現れてきたことなどからこれを添付しない本体も発売される状況で、この方式の処理の重さやコストの大きさが際立つ状況となっています。

LeapMotion

Leap Motionの操作イメージ
キーボードの手前に置かれた小さな箱状の機器がLeap Motion本体である。

LeapMotionはLeap Motion社によって開発され、2013年より製品出荷の始まった、センサーを用いたジェスチャー入力方式を用いた入力デバイスです。

仕組みとしては、USB 2.0ケーブルでパソコンなどと接続される本体の上面に搭載されたカメラやセンサーを用いて、本体上方の8立方フィート(≒0.23立方メートル)の空間内に存在する手などを1/100mmの分解能で検出、指や手の動きを高精度でトレースする、というものです。

つまり、非接触でディスプレイをタッチパネル同様にするのではなく、ディスプレイから若干離れた位置で仮想のタッチパネルを展開してそれに対する操作を行う様なイメージになります。

このため、Kinectがセンサーから1メートル以上離れた部屋の大きな空間で検出していたものを、わずか8立方フィートの垂直に立てられた平たい板状の空間に絞って検出することで高精度化しています。

ちなみにこのLeapMotionは単純に手を検出するだけでなく、手が握ったペンや絵筆なども検出するようになっており、より実感的な「描く」操作をトレース可能です。

もっとも、Kinectもそうですが、この種のデバイスはセンサー本体をディスプレイ直近に「設置」せねば上手く動作しないため、ディスプレイと「手」の位置関係が一様ではないモバイル機器での利用にはあまり適しません。

Kinectがリビングルームに置かれたテレビの上に設置されるのが前提であるとすると、こちらは机の上のパソコンディスプレイの前に設置するのが定位置、ということになりそうです。

Ring

Ring本体
飾り気のない指輪状の形状である。

Ringは元々日本発の製品・技術を世界に発信することを目的とした「SF Japan Night」というコンテストで優勝したプロジェクトに端を発する、指輪型入力デバイスです。

「文字を書く」という動きを検出して文字入力し、円を描くように指を動かすことでメディアプレーヤーの音量調節を行い、通貨記号を書いて数字を続けることで買い物の支払い手続き処理を行い、そして何らかの通知あるいは警告を振動で受け取る。

このデバイスの特徴は「指で何かを描く」というアクションの検出に特化することで、つまり指の動きを二次元の平面で捉えて各種操作に翻訳する機能に特化することでハードウェアを大幅に簡素化し、また消費電力の低減を可能としたことにあります。

それはつまり、LeapMotionと同様に仮想のタッチパネルを操作するためのデバイスであるということで、入力を解釈する部分の処理はともかく、入力内容そのものは現在のスマートフォンやタブレットからそれほどかけ離れたものとならない、というメリットがあります。

ちなみにこのRingはKickstarterで目標額を大幅に上回る資金調達に成功しており、実用的な操作体系の構築に成功している(※ただし、現時点では未発売で、Wi-FiやBluetoothによる無線通信機能をサポートの上で2014年中の発売を計画しています)指輪型デバイスであると言えます。

もっとも、その操作体系からこれは複数を装着して複雑な操作を実現するような性質の機器ではなく、一般的なキーボードやマウスと同様、1つの本体に1ユーザーあたり1台を装着して使用するものとなるようです。

Nod

Nod本体
上掲のRingと異なり、タッチセンサーを備えるため、上部に突き出すようにセンサー面が設けられている。なお、指輪部分のサイズは各種用意されている。

ここまで見てきた3種の入力機器の内、LeapMotionとRingは、仮想的に空間座標上にタッチパネルに相当する平面を設定し、その上でタッチパネル操作と同様のジェスチャーを行わせることで、入力操作を行う機器です。

これらは操作系が既存の入力デバイスに近いため、OSやドライバレベルで特に難しい改変を行う必要がない、というメリットがあるのですが、その一方でタッチパネルの操作を模倣するものであるがゆえに、それ以上の操作が行えない、というデメリットがあります。

無論、既存のデバイスに近い操作で扱えるということは、その操作体系の学習や操作訓練に要する時間が短くて済むということですから相応の大きなメリットがあるのですが、せっかく三次元空間で操作を行うのに二次元的な挙動の枠内に操作体系を押し込めてしまうのは、何とももったいない気がします。

それと同じことを考えたのかどうか、アマゾン、アップル、グーグル、それにサムスンといったIT系企業各社やNASAなどで経験を積んだスタッフがシリコンバレーで新たに起業したNod社が開発した指輪型入力デバイス「Nod」では、その操作体系がRingと比べて、より高度に、より複雑になっています。

具体的にいえば、RingやLeapMotionが本質的に平面的な操作体系であるのに対し、このNodでは指の奥行き方向への動きを、画面の拡大縮小やスクロールなどの操作検出に利用しているのです。

また、Nod本体上面にタッチパネルを搭載することで、RingやLeapMotionなどでは難しかった、マウスのスクロールホイールに近い操作も可能となっています。

さらに本体の側面にタッチセンサーを搭載することで、Nodを装着した指の左右の指でNod本体を挟み込むように操作することで、マウスボタン的に利用することも可能となっており、パソコンやスマートフォン、タブレットなどでWebブラウザ操作などを行うことを考えれば、先行する各デバイスよりも格段に使い勝手が向上しています。

Nodの外装を外した状態
指輪部分の外面に各種センサーやプロセッサが搭載されている。

もちろん、操作が複雑になる分だけハードウェア的にも複雑になり消費電力も増えるのですが、このNodでは2つのCPUコアを搭載する一方で、本体となる機器との間の通信手段としてBluetooth 4.0(※BLEに対応するため、通信に伴う電力消費を低く抑えられます)およびWi-Fiをサポートしており、BLEで接続する場合にはフル充電状態で約1日の使用が可能とされています。

ちなみに、このNod本体は複数台の同時使用が可能な構造となっており、メーカー公式サイトではゲームで移動と攻撃に別々のNodへ機能を割り当てるという例を示しています。

また、この種の指輪型デバイスでは決して無視できない重要な仕様として、5気圧防水に対応することが明示されています。バッテリー内蔵でしかも水に触れる機会が少なくない指輪型デバイスですから、これは当然の仕様であると言えるでしょう。

5気圧防水では台所での水洗いなどは問題ありませんが、例えばこれをつけたままプールで泳ぐのは無理、ということになります。

なお、現時点でMicrosoft Windows、Android、iOS、Mac OS X、それにLinuxなどの主立ったパソコン・タブレット・スマートフォン向けOS、それにPowerPointやKeynoteといったプレゼンテーション用ソフトなどへの対応が謳われており、そればかりかGoogle傘下の温度調節機器メーカーであるnest社製サーモスタットやフィリップス社製室内灯(hue)、LG電子製スマートテレビなどへの対応も表明されています。

このNodを開発したNod社は実はKickstarterでの資金調達ではなく、Atlantic Bridge(アイルランド資本のベンチャーキャピタルで、シリコンバレーの技術開発投資に重点を置く)、Sequoia Capital(メンローパークに本拠を置き、スタートアップ企業への支援を重視する)、Menlo Ventures(メンローパークに本拠を置く、製造業中心のベンチャーキャピタル)、それにWalden Venture Capital(※サンフランシスコに本拠を置き、デジタルメディアやクラウドサービスに重点投資しているベンチャーキャピタル)といったカリフォルニア州に本拠、または重要拠点を置く大手ベンチャーキャピタルから資金を調達しています。

このあたり、Kickstarterの資金調達に依存して起業した各社とは毛色が異なっており、ベンチャーキャピタル各社の厳しい査定に耐える事業内容を備えている、資金的に安定した企業となります。無論、ベンチャーキャピタル各社が出資したからといって成功が約束されているわけではありませんが、少なくとも現段階では今年秋に予定されているNodの製品出荷までに会社が潰れて無くなるようなことにはならないでしょう。

後発のものほど高機能・高精度化している

以上、4種の「手の動きを利用する」入力デバイスを見てきましたが、当然といえば当然の話なのですが、後発のものほどより洗練された、そしてより高機能化されたインターフェイスを実現していることがわかります。

もっとも、この種のデバイスとしては事実上最先発となったKinectが、高い理想を掲げて高精度・高機能を目指したものの、それゆえに高負荷となって肝心のゲームのプレイアビリティに悪影響を与えるほどとなってしまったことが示すように、この種の人の動きを検出して入力に利用するデバイスでは機能を増やしたり精度を上げたりするには、総じてプロセッサパワーが必要となります。

RingにせよLeapMotionにせよ、それにNodにせよ、その実際の製品出荷時期が2013年以降に集中しているのは、何もスマートフォンやタブレットの隆盛が後押ししたからばかりではなく、この時期以降の製品に搭載されるプロセッサでなければ、十分なパフォーマンスが得られなかったことも大きな理由であったと考えられます。

また、NodがBLEを採用したことが示すように、消費電力の削減は特に指輪型デバイスの場合は最重要課題の一つであり、必然的に低消費電力技術が規格化された後の製品ほど有利ということになります。

筆者のように、SFマニアでしかもアーケードゲームやパソコンの黎明期から有象無象の怪しい入力デバイスを見てきた人間にとっては、Nodのように洗練された無線入力デバイスがわずか1万5千円前後の価格で販売されることには本当に感慨深いものがあるのですが、今のセンサー系技術や半導体製造技術の進歩から勘案すると、恐らくこのNodですら最終解ではなくそれに至るまでの単なる通過点でしかないのでしょう。

今後どのようなデバイスが登場するのか、この分野から目が離せません。

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