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これがアマゾンの考えるスマートフォンだ ~独自OS搭載のFire Phone~

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by [2014年6月24日]

書籍販売大手のAmazonは独自の電子書籍ビュワー「Kindle」を開発販売、またAndroid向けに「Amazon Android アプリストア」を開設するなど、スマートフォン・タブレット向けのアプリやコンテンツの販売にも力を入れています。

このたび、そんなAmazonが独自のスマートフォン「Fire Phone」を発表しました。

この端末は現段階ではアメリカ、それも大手のAT&T一社独占での提供と発表されていますが、これまでのAmazonの事業展開状況から考えて、それで済むとは到底思えません。

そこで今回は、この「Fire Phone」と、それを取り巻くAmazonの方針や施策について考えてみたいと思います。

主な仕様

「Fire Phone」の現時点で判明している主なハードウェア仕様は以下のとおりです。

  • OS:Fire OS 3.5.0
  • チップセット:Qualcomm Snapdragon 800(2.2GHzクアッドコア)
  • サイズ:66.5×139.2×8.9mm
  • 重量:約160g
  • メインスクリーン
    • 種類:液晶
    • 解像度:1,280×720ピクセル(HD解像度)
    • 画面サイズ:約4.7インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:2GB
    • フラッシュメモリ:32 / 64GB
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:13メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:2.1メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/g/n/ac
  • LTE:Bands 1~5・7・8・17・20
  • Bluetooth:Ver.3.0
  • 電池容量:2,400mAh

以上からも明らかなとおり、片手持ち操作で実用になる上限と考えられる4.7インチパネル搭載で解像度はHD、統合プロセッサはSnapdragon 800、と現行Android搭載スマートフォンのハイエンドよりやや下のスペックとなっています。

ここで注目されるのはWi-FiでIEEE 802.11acはサポートしているのに802.11b、つまり日本では普及率の高い規格が対応外となっていることと、Bluetoothが3.0止まりとなっていることです。

このあたりはわざわざ省略したりグレードダウンしてもあまりメリットのない部分なのですが、ハードウェア的には対応しているがソフトウェア的に殺してあるのか、それとも最初からそのあたりの機能を削ったベースバンドプロセッサを搭載しているのかは現時点では明らかになっていません。

もっとも、LTEについては納入先となるAT&Tの意向もあるのでしょうが最新のキャリアアグリゲーション機能をサポートしており(※このことから、ベースバンドプロセッサそのものはGobiシリーズの最新機種かそれに近い機種(Gobi 9x3xシリーズ)が搭載されていることが推測できます)、先に述べたIEEE 802.11bの省略もこのキャリアアグリゲーションのサポートによるLTE通信の高速化を前提に、Wi-Fiは室内で他と干渉の少ない5GHz帯にて利用するものと割り切ってこのような仕様となっているのかもしれません。

また、BluetoothがKindle Fire HDなどと同様、Bluetooth 3.0までのサポートと明記されていることから、Bluetooth 4.0固有の超低消費電力通信(Bluetooth Low Energy:BLE)がサポートされず、将来的にもこのBLEを基礎とするiBeaconのような広告系の新技術には当然に対応しないことになります。

このあたりは、Amazonが実店舗を持たず実店舗との連携を考慮する必要がない、あるいは実店舗との連携を拒否しているためにこのようになっている可能性があって、実店舗との共存についてのAmazonの本音が見え隠れする部分です。

Dynamic Perspectiveの衝撃

Dynamic Perspective機能を紹介したページ
本体の四隅に丸い部品が見えるが、これが顔位置検出用サブカメラである。

このFire Phone、仕様を見ただけではハードウェア的に割と凡庸な印象があるのですが、実はこれ以外に一つ、特別な機能が搭載されています。

実は、ディスプレイ面の筐体四隅に小型低解像度のカメラが別途搭載されていて、これを利用して「Dynamic Perspective」と呼ばれる特別な機能が実現されているのです。

これは、ユーザーの顔の向きを4つのカメラによって赤外線を用いて検出・判定し、それに合わせてディスプレイ表示の傾きなどを変化させる技術で、例えばディスプレイ面をユーザーの顔の前で斜めに傾けると、平面的だった地図が立体的に斜めの俯瞰視点で表示されるように動的に変化したりする(※それ故、Dynamic Perspective=動的透視図法という名称が与えられています)わけです。

これは補助カメラなりなんなり、特別なセンサーを別途搭載して顔位置検出を行わねば実現が難しい=ソフトウェアだけで対抗技術を実装するのが難しい(※例えば傾き検出用のセンサーでは顔の向きは検出できない)ため、当分はFire Phone固有の技術となるでしょう。

個人的には、この技術を利用して往年のアタリゲームズの名作「マーブルマッドネス」を移植したら結構行けるのではないか、と思いました。

いずれにせよ、これはユーザーインターフェイスについての新しい提案であり、競合他社の対応を含め今後の展開が特に注目される部分です。

検索対象を自社ストアで買わせる気満々のFirefly

Fireflyと1年分のAmazon Prime利用権付属をアッピールするページ
Firefly機能については専用のボタンが用意されており、ここでも自社販売ページへ誘導する気満々である。

ハードウェアには直接関係しませんが、Fire Phoneの新機能として謳われているものの一つに、カメラで撮影した画像や文字を検出・自社データベースにあるデータと照合して合致した場合に、自社サイト内の該当製品の販売ページへ案内する「Firefly」があります。

文字列を撮影して検索に利用する機能は、最近のAndroid搭載スマートフォンで既におなじみですが、画像をマッチングさせてしまうのは膨大な商品画像データを自社データベースに保存していて、実際に膨大な数の商品を取り扱っているAmazonならではの力業と言え、確かに便利は便利ですが、何とも商魂たくましい部分です。

ただし、この機能では対応アプリへのデータ授受も可能となっています。そのため、単にAmazonの該当商品のショッピングを誘導するだけでなくAmazonのデータベース、特に画像データ群を上手く活用すれば、これまでにない新しいアプリが作れるかもしれません。

Fire OSって何だ?

さて、このFire PhoneではFire OS 3.5.0なる独自OSが搭載されています。

耳なじみの薄いこのOS、実はAmazonが展開している電子書籍ビューワー「Kindle」などに搭載されているOSの最新バージョンで、各端末開発時点でソースコードが公開されている最新版Androidをベースに、Amazonが独自の機能拡張を施したものです。

AndroidそのものはGoogleによるプロプライエタリなアプリ、つまりGoogle MapsやGoogle PlayのようなGoogleの独自サービスに直結した、同社の核心的利益につながるためにソース非公開となっている部分を除けば、OSとしての基本機能に関わる部分はソースコードが公開されていて自由に改変・利用可能であるため、こうした派生OSの開発は当然に可能です。

同様の用途での利用を前提としたOSの中枢部分が公開されているのに、わざわざ新規に別途開発するのは車輪の再発明みたいなものであって大変に非効率的な話ですから、その意味ではこのAmazonによるAndroid派生OSとしてFire OSを開発する、という方針は開発リソースを重要部分に集中させるという観点で、一定の合理性があると言えます。

もっとも、ソースコードが公開されてから開発に取りかかるということは、GoogleによるAndroidの開発動向が定まってからの後追い開発となるということで、また独自の追加拡張部分とAndroidでのバージョンアップに伴う改変部分とがバッティングした場合、その整合を取るのに面倒な手間を要することになるため、決して良いことばかりではありません。

また、改変が加わるということはAndroidで正常動作していたアプリがこのFire OS上で正常動作することを完全には保証できない(※これについては、現行のAndroidでもゲームを中心とするハードウェア固有の機能を利用するようなアプリの場合、端末ごとにアプリ側で動作対応の検証作業を行わねばならない状況にあるわけで、当然といえば当然の話です)ということです。

ただし、Fire OSそのものとしては既存Androidアプリの動作互換性をサポートしており(※そもそも現時点でAmazonが開発者向けに提供しているFire Phone向け開発キットであるFire Phone SDKはAndroid SDKに対するアドオン、つまり拡張プログラムの形式で提供されています)、Android向けアプリのインストール用パッケージファイル(APKファイル)をドラッグ&ドロップすることで互換性診断を行うサービスを提供するなど、アプリ開発者に対する互換性検証作業を支援する体制も整えられています。

AmazonがAndroidをそのまま採用しない理由

改変に伴う互換性問題などがあるにもかかわらず、AmazonがAndroidをそのまま搭載せず手間をかけてでも多少の改変を施したこのFire OSを採用したのは、ひとえに独自のストアアプリを搭載し、Googleの固有サービスによる支配を排除したかったためと考えられます。

TIZENを開発しているサムスンなどもそうですが、GoogleによるWebサービスの独占状態を快く思っていない企業は少なくありません。ことに、その本業がWeb上でのストアにあるAmazonにとっては、自社サービスの領域に徐々に侵入しつつあるGoogleの影響を排除することは至上命題であるはずで、自社ストアでのAndroid対応アプリの取り扱いも、それに対する対抗策として講じられたものでした。

実際、ショッピングの全てを自社サイトに集めるのが最終的な目的となるAmazonのようなサイトにとっては、アプリやコンテンツの販売を独占するAppleのApp StoreもGoogle Playも共に忌々しい存在であるはずで、今回のFire PhoneやFire TVなど近年のAmazonが発表・発売している機器類やサービスを見ると、明らかにAppleやGoogleに対抗する要素を多々含んだ製品が増えています。

Dynamic Perspectiveを活かしたアプリが出てくるか

もっとも、こうした囲い込みを行うという点ではAppleもGoogleもAmazonも同じ穴の狢で、どこも一つのパイ(市場)を独り占めしようと、自分の口に入れてしまおうと結構えげつない手口を講じていたりするのですが、ユーザーの側としてはそうした事情を勘案しつつもどれが「マシ」か、どれが『使いやすい」か、あるいはどれに「自分のお目当てのコンテンツやサービスが揃っている」か、という観点で選択する他ありません。

今回のFire Phoneは、少なくとも現時点の状態で判断する限り、そうした観点での選択に充分耐えうる端末とはなっていないように筆者には思えます。

Amazon側は24万本以上のAndroidアプリを自社のAmazon Appstoreで取り扱っていることを誇示していますが、現状でGoogle Playは70万点以上のAndroidアプリを提供しており、また特にゲームでは魅力的なものに限ってAndroidでも特定の端末でしか動作がサポートされていないというのが実情です。

また、そもそもAmazon Appstoreで扱われているアプリはストアアプリさえ入れればGoogle PlayのインストールされたAndroid搭載スマートフォンでも購入し動作させられるわけで、そうした側面ではアプリの選択肢が「縛られる」Fire Phoneをわざわざ積極的に選択する理由は乏しいといえます。

AT&Tから発売される端末の価格を見ると、同社との2年契約込みで199ドル、端末のみ購入だと649ドル、とiPhone 5sと全く同価格でずいぶん強気な価格設定になっていますが、正直同じ値段でiPhone 5sとこのFire Phoneを並べられて、後者を選ぶユーザーがどれだけいるかは疑問です。ちなみにAT&Tの2年契約の場合、99ドル相当となる1年分のAmazon Primeの利用権が付属していますが、これなどは1年分、というところでAmazon Primeへの露骨な誘導としか見えませんし、既にAmazon Primeを利用しているユーザーには何の魅力にもならないでしょう。

そのためかどうか、この6月18日にAmazonはBlackberryと戦略提携関係を結び、同社製スマートフォン用OSの最新バージョンであるBlackBerry 10.3でAmazon Appstoreが利用可能となることが発表されました。

これなども、Amazonによる「囲い込み」戦略の一環と言えますが、Fire Phone失敗に備えたリスクヘッジ策とも解せます。

以上のことから、日本でのFire Phoneの販売については未だ明らかになっていませんが、Dynamic Perspectiveに特化したアプリが出てくるまでは、様子見が良いのではないでしょうか。

Introducing Fire, the First Smartphone Designed by Amazon
Amazon Fire Phone, 32GB (AT&T) – Shop Now
Getting Started Developing Apps for Fire Phone
BlackBerry To Expand Application Ecosystem By Making Amazon Appstore Available on BlackBerry 10 Smartphones

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