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FacebookやDropboxの急成長を支えるグロースハックの本質に迫る【後編】

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by [2014年6月03日]

本記事はFacebookやDropboxの急成長を支えるグロースハックの本質に迫る【前編】の後編だ。前編に引き続き、5月15日と16日の両日に渡って開催された国内最大級のアドテクノロジーカンファレンス”Ad Engineering Summit”内で行われたパネルディスカッション『グロースハック進化論』の様子をお送りする。

今回は、日本とアメリカにおけるグロースハックへの意識の差、また、今後グロースハックを産業として発展させていく上での重要なポイントについての議論が交わされた。

前編はコチラ
FacebookやDropboxの急成長を支えるグロースハックの本質に迫る【前編】

AARRRとは

この後のディスカッションを追う上でAARRRというフレームの理解が必要になってくるのでここで解説する。
AARRRとは、ユーザー行動の変化を大きく5つに分けた非常にシンプルなフレームである。

まずユーザーがWebに入ってくるかどうか(Acquisition)、そのユーザーがサービスを使うかどうか(Activation)、そのサービスを繰り返し使うか(Retention)、そしてその結果としてそのサービスを他人に薦めるか(Referral)、あるいはサービスに対してお金を払うか(Revenue)、という5つにユーザーの行動を分割して分析する。
このディスカッションではRetentionの重要性が指摘されている。

Retentionが何よりも重要

渡邊 アメリカではRetentionの重要性が叫ばれているという話を耳にしたのですが、それについて詳しく聞かせていただきたいです。

梶谷 先日、リクルート主催の”Growth Hacker Month”という、シリコンバレーのグロースハック界隈での有名人を招いたセッションイベントがありましたが、そこでの登壇者が全員、「Retentionにフォーカスしろ。」と言っていたのが印象的でした。日本ではグロースハックというとAcquisitionにフォーカスしてしまいがちですが、彼らはRetentionがよければ他の要素は後からついてくるという考え方でした。ここが日本とは違うなと。

渡邊 要はRetentionがしっかりしていれば広告予算をかけてもいいということなんですよね。Retentionにフォーカスしていくことでより収益率を上げられると思うので、グロースハック = Acquisitionという誤解は解いていきたいと思います。

マーケティングとプロダクトはもっと協力するべき

須藤 Retentionにフォーカスされていない、という日本の状況には理由があると思います。日本では広告部と開発部の仲が悪いというか、距離が遠い。それがアメリカでは広告部と開発部、マーケティングとプロダクトの距離が近くて、Retentionが一番大事だという意識が共有できている。しかも、アメリカではマーケティングマネージャーが絶対的な目標を持っている。一方で、日本ではマーケターが明確なグロース目標を持っていないことが多い。そういう差が日本とアメリカのRetentionへの意識の違いを生んでいると思います。

梶谷 自分は前の会社ではマーケターをやっていたのですが、その頃は製品開発の人とは一度も話をしたことがなかったです。しかし、これは日本の中ではそこまで珍しい話ではない。Facebookはほんとに稀な例であって、普通はアドだけでRetentionを達成することは難しい。海外のハッカーが言うように、Retentionこそが一番の要であるのに、マーケターがプロダクトと絡まずにRetentionをなおざりにしているのはかなり危険だと思います。

インパクトを肌で感じることが大事

須藤 たぶんRetentionにフォーカスするっていうのは、実はこれまでのマーケティングの概念と大きく違っていない。ただ、環境が変わってきた結果として、それができる会社とできない会社の差が大きくなってきているんだと思います。

 その差が一番顕著に表れたのがゲーム業界だと思います。例えば、2013年はRetentionを重要視する風潮は日本にはまだ無かったんですけど、当時出たパズドラはRetentionに全力で取り組んだ結果大成功した。こういう成功事例があると、うちもRetention重視でやってみようか、という空気ができあがる。こういうことを通して、Retentionには大きなインパクトがあるんだと真に理解することが大事です。これから先、Retentionの効果を実感できるアドテクが出てくると、みんなRetentionを目指すようになるんじゃないだろうか。

アドテクとグロースハックの融合

 もう少し、アドテクに関して話を広げると、今までのアドテクはどちらかというと集客とかお金を上げる方向に向いていました。それが今では、実際にユーザーがどのようにサービスに定着して、どのように他のユーザーにシェアしているのかが簡単に分かるようなものが出てきています。今後このような技術がどんどん発展していけば、グロースハックに手を付けやすくなるので、これから先アドテクの業者にとってはグロースハックはおすすめというか面白い分野かなと思います。

渡邊 まさに林さんにおっしゃっていただいたことが今回のセッションの肝だと思っています。今回のカンファレンスは”Ad Engineering Summit”という名前の通りアドテクに関するサミットなのですが、そこで「グロースハック」がテーマのセッションをやるというと、「アドテクなのにグロースハック?」という声が多かったです。しかし、グロースハックは今後広告と融合していく、アドテクと密接に関わっていくべきものだと思っていて、この融合をどんどん進めていきたいと思っています。アドテクとグロースハックが融合した例があればお話を頂きたいです。

梶谷 自分は、アドテクとの関連ではFacebookに注目しています。Deep Linkという仕組みが出稿側から見ると面白い。Deep Linkによって、あるアプリをインストール済みのユーザーに対してそのアプリ内の個別のリンクに飛ばすことができるのですが、実はこれを使えばそのアプリのRetentionを見ることができる。つまり、Retentionをハックすることができるわけです。
媒体側からFacebookを見ても面白い。Facebookは元々、UX(ユーザーエクスペリエンス)を損なわずにRevenue(広告収益)を最大化する、ということに徹底的に取り組んでいました。そしてそれを洗練した形で提供する外部ネットワーク、Audience Networkが先日ローンチしました。これはUXにこだわる媒体にとってジャストミートする仕組みであり、自社でも導入を検討しています。

グロースハックの進化について


渡邊 最後の質問に移りたいのですが、今後グロースハックという言葉が浸透していく中で、グロースハックという概念がどのように進化していけば正しい理解や事業のグロースを達成できるのか、ということについて聞いていきたいと思っています。

梶谷 他の概念の進化のプロセスを振り返ってみると、今のグロースハックのように、マーケティングも提唱された直後にバブル期があって、色んな立場から色んな議論があって、その中でより洗練された広い概念として定着していきました。一方で、ビッグデータという概念も似たような変遷を経ているものの、バブル期に誤解を誤解のまま残しておいてしまった。その結果、ビッグデータという概念は本来もっと凄いポテンシャルを持った大きな概念であり、広い領域で提唱されるはずであったのに、日本においては本来よりも狭くて小さな概念になってしまった。グロースハックには前者のマーケティングのように進化していくことを望んでいます。そのためには、正しい認識を刷り込ませていかなければならない。例えば、グロースハックはお金を使わないマーケティング手法ではない。グロースが本質でありフォーカスされるべきであって、細かいTIPSなどは本質ではないのだ、ということを知ってもらう必要があります。グロースハックの本質を理解している人にバブル期の議論に積極的に参加してもらいたい。今のグロースハックをより洗練し、より大きい概念として世に残していくとことが大事だと思います。

渡邊 そうしたバブル期の議論を進めていく上で、どういう人が関わっていくべきでしょうか。たとえば経営者が関わるべきなのか経理の人が関わるべきなのか。明日からこういう風に変えていこう、という具体的な提言はありますか。

梶谷 やはり経営者が関わっていかないと厳しいです。大きい組織ではいくらマーケターがグロースハックの本質の重要性に気付いていても、意思決定者がその意識を共有できていないと正しく動けません。グロースハッカーが積極的に経営者層にコミュニケーションをとっていくことが重要です。

 もう少し話のレイヤーを上げて、そもそも人間がやるべき仕事と機械がやるべき仕事を分けていくのも重要かと思います。たとえば、グロースハックのTIPS部分は、プロフェッショナルな人が理解できるようにノウハウとして整理されていればよくて、事業主はこうすればUXがもっと良くなるよね、というアイディアをどんどん出すことにフォーカスする。そうして世界によりよいプロダクトを出せるように進化していく。これが、グロースハックのあるべき姿かなと思っています。

日本は技術への理解が足りていない

渡邊 どのような環境が整えば会社がグロースするのか、グロースハックのソリューションを提供する立場から平石さんの意見を伺いたいです。

平石 アメリカと日本を比較すると、技術への理解が日本には足りていないと思います。たとえば、日本の企業ではSDKの導入ですら時間がかかることが多いので、日本では法の承認が厳しかったりする部分も勿論あるとは思うのですが、まずはプロダクトに携わる人たちがスキルアップして技術の話題にキャッチアップできるようになることが重要だと思います。

渡邊 これって昔からよくありますよね。理解が無くて導入が進まないケース。

平石 昔からそういうケースは多いですね。今後は、グロースハックという概念を知らない人たちが、その概念を知らないにしろグロースハックを実行していくことこそが重要だと思うので、そこまでいくために代理店の力は必要かなと思います。

グロースハックの産業化には代理店の力が必要不可欠

渡邊 例えば、我々サイバーエージェントにもネット広告代理店業務があるのですが、広告部門でグロースハックに関する本を持っている人はほぼいないんですよね。要は、広告代理店マンからするとグロースハックは完全に他人事化しているコンセプトなんです。でも本来は、今日話したようにグロースハックの話題はプロダクトマーケティングですし、特に数字を見るのが得意な方やネット専業の方にとってはほんとに参入しやすい分野がグロースハックなんじゃないかと思います。

平石 広告代理店の友人にグロースハックについて聞いてみたんですが、やはり広告料を減らすものだと誤解していました。

須藤 ただ、グロースハックの将来のためには、それこそ代理店のような外部の力がすごく重要だと思います。グロースハックは産業になるべきだと思っているのですが、その際には産業として分かりやすい基準が存在しているかどうかが重要だと思うんです。要はなんでマーケティングという概念が今も残ってるのかというと、代理店が基準を作ってでかい産業になれたからなんです。ビッグデータに関しても今後産業として残っていくかどうかはSIerがどれだけ頑張れるかだと思います。
グロースハックの産業化のために重要だと思うことはもう1つあります。それはグロースハックを知ってる人々にきちんとグロースハックにきちんと取り組んでもらった上で成功してもらうことです。
グロースハックが単なるバズワードで終わるか産業になれるかは、グロースハックを使って成功する企業が出るかどうか、代理店が基準を作って産業にしてくれるのかどうかの2つにかかっています。グロースハックとは決してTIPSのことではなくて、どうすれば成長できるのかっていう概念のことなのでそれ自体が産業になることを期待しています。

グロースハッカーに求められる資質

渡邊 最後に一つ、質問なんですが今後グロースハックをコンセプトとして定着させるために必要なのはどのような人材だと思いますか。

平石 これは前から言われていることではあるのですが、やはり経営者視点でものを見れる人ですね。全ての事柄がグロースに関係しているので、分業じゃなくてサービス全体を見れる人。チューニングがうまくできる人が求められると思います。

渡邊 ちょっと質問を変えてみます。この会場にはスタートアップの方も多いと思うのでそういう方向けに回答いただきたいのですが、たとえばスタートアップでグロースハックチームを作るときに、必要なスキルや条件はなんだと思いますか。

梶谷 スタートアップでグロースハックチームを作る際には、グロースハッカーにちゃんと責任と権限を与えることが必要だと思います。当然、グロースハッカーの方がその責任を自覚することも重要です。

渡邊 林さんはいかがですか。

 あえて一つだけというなら、仮説を立てる力だと思います。自分のサービスに対してユーザー視点から、こういうものが必要なんじゃないかと仮説を立てる。そしてその仮説から、何を分析しなければならないのか、をその場で考えられる力が必要だと思います。

グロースハッカーの育成

平石 この間うちの会社のメンバーで、LinkedInでグロースハッカーを数えてみたら数十人いたんですけど、求人は27万件ありました。グロースハッカーのことを特殊な能力を持った人だと思ってる人も多いですが、実はそうではない。グロースハッカーは育成できる人材なので、どんどん育成してもっとグロースハッカーの人数を増やす必要があります。
ただ、グロースハッカーを育成するためにはやはり基準が必要です。これをしていたらグロースハッカーだ!みたいな共通の指標や基準になる言葉や数字を発明しなくてはならないと感じています。既にAARRRって言葉はあるのですが、コンセプトを広く普及させるにはよりシンプルな言葉が必要です。これに関しては代理店の方々に期待しています。

渡邊 グロースハックというコンセプトの認識の問題だと思うのですが、考えるレイヤーを上げればそれだけ関わる人が増えていく概念なので、より大きな広い概念として産業にしていきたいと考えております。本日は1時間ありがとうございました。

登壇者紹介

株式会社CyberAgent, 渡邊大介氏

2006年、青山学院大学を卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社。同社広告部門においてナショナルクライアントのウェブマーケティング、コミュニケーションプランニングに携わりつつ、ソーシャルメディアマーケティング部門の立ち上げを行う。
現在はビジネスパーソン向けの新規サービス開発、新規事業開発に従事。本ディスカッションではファシリテーターを務めた。

KAIZEN platform Inc. CEO 須藤憲司氏

2003年、早稲田大学を卒業後、株式会社リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、アドオプティマイゼーション推進室を立ち上げる。
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ執行役員で活躍の後、2013年にKAIZEN platform Inc.を米国で創業。

pLucky, 代表取締役 CEO 林宜宏氏

Netageグループ各社で開発・経営企画に携わった後、頓智ドットにて経営指標管理を主導。
独立後にpLuckyを創業し、ユーザーを経験によりセグメントして定着を計測できるツール「SLASH-7」を提供。
現在、誰でも改善プロセスを回せるようになるグロースハックのコンシェルジュ的なツール「Logbook」を準備中。

株式会社InnoBeta 代表取締役社長 平石大介

UIscopeというスマホアプリ・ウェブサービスのユーザーテストが簡単に行えるサービスを運営。600社以上が導入し、過去に2000件以上のテストを実施。
ユーザーテストを用いたサービス改善事例とサービス改善によるROI最大化についてのノウハウを共有させていただきます。

VASILY, inc. グロースハッカー 梶谷健人氏

VASILY, inc. のグロースハッカー。
自社プロダクト「IQON」のグロースハックに取り組む傍ら、グロースハック界隈でもっとも読まれている「VASILY Growth Hack Blog」を運営・執筆。

参考

VASILY Growth Hack Blog

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