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ウェアラブルの近未来~単眼式『Google Glass』と両眼式『MIRAMA』

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by [2014年6月18日]

6月11日から13日まで幕張メッセでアプリケーション開発企業およびユーザー企業を対象とした展示会、「APPS JAPAN(アプリジャパン2014)」が開催されました。

この展示会では様々なセミナーが開催されましたが、その一つに、日本Androidの会のメンバー3名が3部構成で講演を行う、日本Androidの会セッションがありました。

今回はその中から第一部「ジェスチャー入力、ウェアラブルMIRAMA」と題して行われた講演をご紹介したいと思います。

杉本 礼彦 氏

講演者:杉本 礼彦 氏

日本Androidの会 運営委員・関西支部長
(株)ブリリアントサービス 代表取締役
プログラマとしてソフトウェア技術者の仕事を続け、「技術者から搾取しない」ことを目指して今の会社を設立されたそうです。

まずはGoogle Glass

Google Glass

本題であるMIRAMAについて語る前に、杉本氏はまずGoogle Glassについて触れました。

Google Glassについてはこれまで多くの記事などで取り上げられていますが、単眼式、つまり片目(右目)に装着して使用するHMD(Head Mount Display:頭部装着式画像表示装置)の一種で、音声でのコマンド(命令)入力に対応するようになっています。

Google Glassは基本的にはAndroid搭載スマートフォンなどに接続しこれと通信して連携使用するようになっています。ハードウェアとしてディスプレイ部が640×360ピクセルで、ディスプレイを支持する弦の前部にタッチセンサーを搭載、またカメラを内蔵し、ジャイロ、方位センサー、装着状態を検出する装着センサー、それに電源となるバッテリーを搭載し、さらに通信機能としてWi-FiとBluetoothを搭載、初期モデルでは頭部に振動により音を伝達する骨伝導スピーカーまで搭載されていました。

ちなみにこの骨伝導スピーカー、音が聞こえないと不評だったそうなのですが、杉本氏によればレーシングカー乗車時にヘルメットの下に骨伝導スピーカー搭載のGoogle Glassを装着してみたところ、ヘルメットに圧迫されて押さえつけられたためかサーキットのような非常にうるさい環境でも良く音が聞こえたそうで、また骨伝導スピーカー搭載に戻して欲しい、と思っているとのことでした。

ソフトウェアには、OSはAndroidでホームアプリもAndroidのAPKを搭載しています。
プログラマ的な観点ではDebugON(通常使用では制限されている機能を有効化する)を行うと、ADB(Android Debug Bridge:Androidアプリ開発では不可欠のシステムの根幹に触れるための機能)を用いて開発環境(Eclipseなど)との接続が可能となります。

さらにMirror APIと呼ばれる新設APIと、これに対応したアプリが用意され、他に通常のAndroidアプリも動作するようになっています。

Google Glassの基本操作は本体側面のタッチセンサー搭載部をタップすることで決定、下方向へなぞる「スワイプダウン」でキャンセル、前方向へなぞる「スワイプフォワード」でページ送りなど、後ろ方向へなぞる「スワイプバック」がページ戻りなど、とタッチセンサーを用いたシンプルな操作体系となっています。

また、音声操作機能では、キーワードとして「OK GLASS」とマイク入力すると機能が起動し、各種音声コマンドを入力することでこれに対応する様々な機能が利用可能とされています。

Google Glassの使用感

杉本氏によれば、このGoogle Glassは装着して「普通に道を歩く分には邪魔じゃない」そうですが、特にバイクの運転時には全身の移動などがあるために邪魔になってとても装着していられないとのことでした。

それを踏まえて杉本氏は、スマートフォンに関してはどのメーカー、どのOSでも基本的な端末の形態やサイズなどは同様(=普遍的な形態がある)だが、ウェアラブル機器はなかなか汎用端末の形態が確立できないのではないか、と指摘しました。

また、Google Glassの操作に当たって結局は本体のタッチセンサーに触らねばならないことと、AR(Augmented Reality:拡張現実)ソフトウェアを開発してみたものの片目表示でしかも画面サイズが小さいため本当の世界の何かに重ね合わせてARを体感する機器としてはそんなに感動するものはなく、極小のサブディスプレイとしては凄く良いが、Google Glassだから完璧ということはない、としました。

さらに杉本氏はGoogle Glassについて、通信を行うにはスマートフォンを別途持っていなければ駄目で、ほとんどGoogleの提供するサービスが必要という点も指摘しました。

もっとも杉本氏は、Googleは自社のサービスとAndroidとによって情報の入り口を押さえているのは素晴らしい、としてGoole Glassの提供により(恐らく自社サービスなりAndroidなりが)人の目に触れる時間を長くしたい、というのが開発の狙いではないかという見解を示しました。

現状では肉眼からGoogleのサービスにたどり着くまでに(ウェアラブル機器を利用する場合は)肉眼→Google Glass→スマートフォン→各種サービス、と3段階を経る必要があります。これについて杉本氏はGoogle Glassを使用してみて気になったのはやはり消費電力と小型化の問題であったとのことで、現在の半導体の性能では小型化するには何か機能を妥協する必要があり、その点でGoogle Glassに3G通信機能を搭載して常時通信するのは(重量面で)ナンセンスだという考えがあり、そのためスマートフォンを介して通信する、というすばらしい妥協があったのではないかと推論を述べました。

更にその考えを踏まえて、杉本氏はGoogleが本当は肉眼→Google Glass→Googleの提供する各種サービス、という形態にしたいのではないか、という推測も合わせて示しています。

HMD専用プラットフォーム MIRAMA

続いて杉本氏は自社で開発を行っているHMD専用プラットフォーム「MIRAMA」の紹介に移りました。

なお、MIRAMAという名称は「見る+AMAZING」から採られた造語とのことです。

MIRAMAはジェスチャーによって操作を行う点が重要なポイントとなります。

MIRAMA本体図

MIRAMAには赤外線LEDが光源として搭載され、その赤外線が(前方に突き出された)装着者の手で反射し、その状態を本体前面中央に据えられた赤外線カメラ(Time Of Flight)で撮影、その手の指先の状態を解析してジェスチャー操作のコマンドとして解釈する仕組みとなっています。

つまり、Xbox 360の「Kinect」コントローラと似たようなジェスチャー検出を行ってコマンド入力する仕組みになっているのですが、個人用であるためかRGBカメラと深度センサーを併用するKinectよりずっと簡潔な検出メカニズムを搭載しています。

また、赤外線カメラと並べてRGBカメラも搭載されており、こちらはジェスチャー操作により撮影操作を行う、通常のカメラとして利用可能となっています。

MIRAMAのディスプレイは先に述べたGoogle Glassとは異なり両眼に透過型液晶を搭載しており、景色に重ね合わせて情報を表示できるようになっています。

これもOculus Rift(Oculus VRが開発中のHMD)などのVR(Virtual Reality:仮想現実)表示用HMDの先行機種と異なる点で、ARに特化し現実の景色に重ね合わせて表示を行えるところがポイントとなります。

さらにGoogle Glassなどとは異なり、本体に3Gモデムを内蔵しており、SIMカードを挿せば手話のジェスチャー操作により電話として機能できる仕組みとなっています。

続いて、このMIRAMAに搭載されているOSであるMIRAMA OSの構成についての説明がありました。

基本的にはハードウェアの上にドライバー層があり、その上に各種レイヤーが重なっている一般的な階層構成ですが、デバイスドライバは意図してBSD系UNIXと共通のものが採用されています。

ここでドライバをLinuxやAndroidと共通化しなかったのは、ライセンスの問題である、と杉本氏は明かしました。これは、LinuxやAndroidの場合はGPL(GNU General Public License)準拠となり、関連する各ソフトのかなりの部分までオープンソース化する=ソースコード公開を強いられる(杉本氏はこれを「GPLに汚染される」と表現しました)のに対し、BSDライセンスではソースコード公開が義務づけられていないためです。

また、そのドライバ層の上にはObjective-Cで書かれた層が載っており、杉本氏はこれを指して「Mac OS(※Mac OS X)と全く同じ」と表現しました。これは、MIRAMA OSのルーツがMac OS XやiOSと同じ所にあるためです。つまり、MIRAMA OSはiOSやMac OS X向けで開発を行っているプログラマにとっては親和性の高い環境であるということになります。

なお、MIRAMA OSではジェスチャーも独自に定義できるよう、SDK(Software Development Kit:ソフトウェア開発キット)を開発中とのことです。

今年2014年の2月にスペインで開催されたMWC(Mobile World Congress:世界最大級の携帯電話関連展示会とカンファレンスを組み合わせた複合イベント)に出展し、MIRAMAを装着したまま食事に出かけたところ、会場を出てわずか数メートル歩いただけで人だかりが出来てつかまってしまい、バッテリーが切れてMIRAMAが動作不能となるまで戻れなくなった、というエピソードが披露されました。

さらにロシア・スペイン・フランス・ドイツ・アルゼンチン・イスラエルなど世界各国のマスコミの取材を受け、スペイン語で大量の問い合わせが届いたもののスタッフが誰もスペイン語ができず対応に困っている、という裏話が語られました。

Google GlassとMIRAMAの違い

次に、Google GlassとMIRAMAの違いについての説明がありました。

ここで杉本氏はまず、MIRAMAはスマートフォンが不要であることを強調しました。

もっとも、それと同時にGoogle Glassと比較してMIRAMAが重いことも指摘しており、冗談めかして「モデムなんか載せへんかったらよかったかも」という言葉もありました。

次に、MIRAMAは両眼式ディスプレイであるがゆえに、本当の意味でのARが実現できる、としました。

曰く、工業や医療関係の人と話すと(表示を)視線距離にしたい、という要望が多い由で、特に遠隔治療などでは片眼式だと指示が誤判断される恐れがあることが例としてあげられました。

MIRAMAは何故この形なのか

続いて、杉本氏はMIRAMAがメガネ型かつウェアラブル、しかもジェスチャー入力である理由に触れました。

曰く、「逆にGoogle Glassでないと解決できない問題もたくさんあるが」としつつ、両手が分厚いグローブ装着である、手が汚れている、といった環境ではタッチパネル入力操作は利用が難しく、あるいは周囲がうるさい、といった状況では音声入力ではなかなかコマンドが正常認識されないという問題があるとしました。

例えば病院の手術室などでは、手が血まみれの状態で何らかの機材に触れて再度患部に触れると感染症が発生する恐れがあるためタッチパネルによる入力操作は利用できず、そうした環境で患者のカルテを参照したい、といった場合にはジェスチャー入力や音声入力になるだろう、と指摘し、機材に触れる必要がないというのは利点ではないか、としました。

また、分厚いグローブを常時装着するような職業ではタッチパネルの操作はなかなかおぼつかないのではないか、と指摘し、ジェスチャー入力を使用するMIRAMAはそうした場合の問題を一つ解決できる、と主張しました。

ファッションとの融合

ウェアラブル機器でよく取り上げられる問題の一つに、ファッションとの融合、あるいはファッションとの調和や整合性があります。

杉本氏曰く、「ウェアラブルは格好悪いから嫌だ」「ださい」「恥ずかしい」という声が結構ある由で、試しにMIRAMAをファッションショーに出してみたそうです。

具体的には、2013年10月にオレゴン州ポートランド市(ポートランド市は全米でも有数のIT企業誘致振興策を採っている市の一つで、ウェアラブル機器関連でも大きな投資や振興策を実施している由です)で開催された「FASHIO NXT」というファッションショーでモデルがMIRAMAをつけてRunwayを歩く、という企画を行ったとのことで、MIRAMAを使ってみたいというデザイナーの協力を得て、現行より一つ前のバージョンの(杉本氏曰く「デザインのださい」)MIRAMAを用いたとのことです。

ここで杉本氏は、「何が言いたいかというと、ファッション業界はHMDに全力で注目しています」と語り、「アパレル業界はウェアラブル機器を市場として捉え始めている」と付け加えました。

HMDの課題

ここで杉本氏はHMDの課題について触れ、安全性について「歩きスマホ禁止と言っているのに歩きウェアラブルはどうなんだ」という指摘があるとしました。また、操作中の道路での交通事故や鉄道駅でのプラットホームからの転落事故などの危険性や、内蔵カメラで他者の写真を無断で撮るといったプライバシー保護の問題、さらには完璧な文字入力をどうやって行うのか、といった入力系にかかわる問題を指摘しつつ、「まだ決定ではないからこそ(開発者には)大きいチャンスがあるし、良い市場もあるのではないか」という見解を示しました。

さらに杉本氏は、本体重量とユーザーインターフェイス(UI)の問題を指摘しました。曰く「新しいUIをやろうとするとどうしても重くなる」とのことで、バッテリーの問題については、「(便宜上)バッテリーと言っているけどこれは本来半導体(の消費電力低減努力)が解決すべき問題」としました。

実際問題としてバッテリー側の研究開発は、杉本氏が指摘するとおり、単位容積あたりのエネルギー量が2倍になるのにおおむね20年単位の長い時間を要し、さらに現在のリチウムイオン二次電池でさえ既に爆発物一歩手前の高エネルギー密度を実現しているため、ここから短期間で飛躍的な容量増を実現するのは非常に望み薄です。そのため電力供給側ではなくその電力を消費する側である半導体サイドでの低消費電力化技術の開発促進は喫緊の課題であると言えるでしょう。

そのため杉本氏は半導体の進化こそがウェアラブルの実現性を高めるとし、現在のところ世界中に出回っている半導体応用製品を分解調査してもほとんどが汎用チップを使用していることから、本格的にウェアラブル専用の半導体を開発する必要があり、ようやくIntelなどもそうしたチップの開発に乗り出し始めたところだ、と指摘しました。

HMDの未来

ここで杉本氏は、サンフランシスコのメガネ店を訪れた際に、GoogleがGoogle Glassの販売について少なくとも西海岸のメガネ屋と交渉を始めている節があるという話を披露。その話は度付きレンズとの組み合わせにまで及んでいるようで、GoogleがそのレベルでGoogle Glassの普及に本腰を入れていることを示唆しました。

その話を踏まえて杉本氏は半導体業界やソフトウェア業界などの動向も踏まえて考えると、(Google Glassのような)単眼式のHMDは2年か3年以内にそこそこ普及期に入る、という見通しを示しました。

一方、MIRAMAのような両眼式のものは技術的な難度が高いため、普及まで5年程度かかるのではないかというやや厳しい見通しを示しましたが、バッテリーの問題(=半導体の消費電力低減問題)が解決されれば非常に軽量なHMDがどんどん作られるようになるだろう、と付け加えました。

杉本氏曰く発熱も問題とのことで、Google Glassでもカメラを動作させながらソフトウェアを動作させると、こめかみの部分がかなり熱くなるのですが、これもまた半導体の研究開発で解決されるのではないか、と語りました。

続けて杉本氏は、低消費電力チップもそうだが小型高精細省電力の液晶開発が必要だ、と指摘しました。

曰く、「日本の液晶工場、パナソニックもシャープも液晶の工場が余っていると言っているが、大画面高精細の液晶など作らずに、超小型高精細の液晶を作るべきだ」とのことでした。

杉本氏はHMDの与えるインパクトについて、(頭部に装着するため)スマートフォンよりも人の目に触れる時間が長いことと、スマートフォンと違い鞄などから取り出すというアクションが不要で楽で時短効果があること、本物のARが実現できること、それにファッションになることを挙げました。

特に時短効果について杉本氏はデスクトップパソコンやノートパソコンからスマートフォンやタブレットへの移行を例に出して「ウェアラブルを体感してしまうと面倒くさくてスマートフォンに戻れない」と語り、その効果の大きさを強調しました。

MIRAMAの今後

最後に杉本氏はMIRAMAの今後の計画について語りました。

現在は部品の調達・工場選定・資金調達などを行っている段階で、2016年に発売を予定しているとのことです。

なお、杉本氏曰く「ウチの強みとしてメガネ型で何らかの光線なり電波なりを出してジェスチャー入力を行うというUIについて世界的かつ包括的な特許を取った」とのことで、今後HMDのジェスチャー入力について特許ビジネスができるのではないか、という見通しが控えめに示されました。

杉本氏の開発動機として、ウェアラブル機器でスマートフォンと同様、アメリカ西海岸勢(※AppleやGoogleといったシリコンバレーを中心とするアメリカIT企業)にやられまくっている現状で、このまま負けたくないのでHMD向けOSを開発した、というのがあったそうです。

そのため、小さい会社だけど今後もサービス・部品・ディスプレイなどで西海岸勢に負けたくない、と考えて「未来の普通を創る」をテーマにしている、と語って講演は締めくくられました。

ウェアラブルOS開発 mirama – 株式会社ブリリアントサービス

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