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文具を再定義するキングジム ~スマートフォン&モバイルEXPO~

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by [2014年5月23日]

キングジムというと、「テプラ」や「キングファイル」といった実用性の高い事務用品メーカーとしての顔と、「ポメラ」をはじめとするいわゆる通電系ガジェットを扱うIT系機器メーカーとしての顔を併せ持つ、老舗の文具メーカーです。

そのキングジムが、東京ビックサイトで5月14日から16日まで開催された「2014 Japan IT Week 春 ビッグサイト」のサブイベントの一つである「第4回スマートフォン&モバイルEXPO 春」に出展していました。

今回はそのキングジムの展示について、ご紹介したいと思います。

何が展示されていたのか

キングジムのブース
様々なガジェット系製品が展示され、特徴的な機能を備えているものについては直接触れてその機能を確かめることができるようになっていた。

今回のキングジムのブースは、「ブギ-ボード」を中心としつつデジタル文具、それにスマートフォン・タブレット関連の周辺機器(として動作する文具)などの多彩な新製品が展示されていました。

意外なことにというべきか、それとも単に直近に新製品がなかったためか、「ポメラ」やマウス型スキャナ、それにカメラ付きマウスといった、ここ数年でキングジムの社名をパソコン/モバイル機器ユーザーに知らしめた各製品はほとんど展示されていません。

逆に、スマートフォン・タブレット関連周辺機器では今回の展示の直前に公式発表されたばかりの真新しい製品が多数展示されており、それらの新製品の多くが使用感を体験できるような形で展示されていたことと合わせ、今回キングジムが「使ってみないことにはわからない」新製品をいかに入場者に興味を持たせ、また理解させるか、というテーマに重点を置いてブース展示を構成したことを雄弁に物語っています。

もっとも、見た目が地味な文具主体の悲しさか、それともブースの立地があまりよろしくなかったのか、筆者がブースを訪れたときはそれほどお客は多くなく、同日に筆者とは別に「第4回スマートフォン&モバイルEXPO 春」へ行っていたAPPREVIEW編集部のW氏も、後で訊いてみるとブースをざっと見ただけで後はスルーしていたほどでした。

「ポメラ」の初代機もそうでしたが、キングジムの製品はどうにも見た目が地味で「大したことが無い」感が強く(それはそれで文具としては重要な資質なのですが)、こと製品展示や広告となるとそうした特質が不利に働いているように筆者には思えます。

皮脂汚れをほぼ完全に除去するiコロコロ

今回キングジムが前面に押し出して展示していた製品の一つに、タッチパネルクリーナー「iコロコロ」があります。これは要するに、カーペット清掃などに用いられる粘着テープ付きローラーをスマートフォンやタブレットなどのディスプレイ表示面の清掃に利用しよう、という製品です。

この説明に、なんだ、単にコロコロを小さくして手持ちで使えるようにしただけじゃないか、と思われた方もおられるでしょう。実を言うと筆者も当初そう思っていたのですが、係員氏に尋ねてみたところとんでもない言葉が返ってきました。

この製品、清掃用具のコロコロを開発製造販売している株式会社ニトムズとの共同開発品で、しかもディスプレイ清掃に特化した特別な粘着剤を塗布したローラーを使用しているのだそうです。

そこで何が特別なのか、と尋ねてみると、「人間の皮脂を平均的に綺麗に吸着・除去できる特別な組成の粘着剤を開発した」との由でした。

キングジム iコロコロによる実演後の状態
わかりにくいが、iコロコロをディスプレイパネル上で2往復程度動かすだけで、皮脂による汚れが綺麗に除去できている。

人間の皮脂はそのときの体調や食べたものなどによって同じ人間でもその組成が大きく変動する上、床清掃用の「コロコロ」だと粘着力が大きすぎる上にうまく皮脂成分を除去できないのです。

そのため、適切な粘着力で皮脂成分を綺麗に吸着・除去でき、しかもその皮脂成分の組成が多少変動してもそれに関わりなくコンスタントに汚れをとれ、さらにそうして吸着した皮脂成分を表面から粘着層内部に吸収してしまうことで繰り返し利用を可能とする粘着剤が必要となったのですが、そんなひたすらに都合の良いステキ成分の粘着剤がそう簡単に開発できるはずもありません。

そのため、キングジムとニトムズの両社はなんと2年もかけて皮脂成分吸着に適した粘着剤の研究開発を行って製品化にこぎ着けたのだそうです。

通常だとこうした皮脂汚れはクリーニングクロスなどを用いてぬぐい取るわけですが、実のところそれだと単に皮脂汚れをディスプレイパネル全体に薄くのばしているだけに過ぎません。

それに対してiコロコロを用いるとそうした皮脂汚れがほぼ完全に除去できており、パネル面の曇りが無くなって新品時のコンディションに近い状態に戻っていることが一目でわかるレベルです。

ちなみにこのiコロコロは2012年秋に発売が開始されているのですが、その初代製品では粘着力が強すぎたために保護フィルムを貼ったパネル上では使用できず、そのため昨年秋になって粘着力を抑えた保護フィルム対応版が発売されています。

意外と(?)実用性のあるタッチペンシリーズ

キングジム 新タッチペンシリーズ(前列)
左から順にクリーニングクロス巻き取り内蔵、USBケーブル内蔵、ぶるぶる機能内蔵、となっている。

今回の「第4回スマートフォン&モバイルEXPO 春」開催直前の5月13日に発表されたばかりの新製品が、タッチペンに別機能を付与した新タッチペンシリーズです。

iコロコロがディスプレイパネルについてしまった皮脂汚れを除去するための器具であるのに対し、タッチペンはディスプレイパネルに皮脂汚れがつく=指でパネル面に触れる、という行為そのものを抑制するためのツールとなります。

このあたり、キングジムのスタンスはぶれがなく首尾一貫していると言えます。

ただ、そんなタッチペンに巻き取り収納式のクリーニングクロス(TP10)やMicro USBーUSBケーブル(TP20)を内蔵したのは実用面で理解できますし、多くの場合に有用であることは疑問の余地も無いのですが、さすがに「ぶるぶる機能」と称して振動機能を内蔵してしまった機種(TP30)については、おもしろいけどちょっとやり過ぎじゃないだろうか、と思ってしまいます。

もっとも筆者の見た限り、タッチペンおよびボールペンとしては恐らくこのTP30が最も使いやすく、その代償として余計な機能を搭載するためのスペースがほとんど無くなっていますから、この振動機能は本当に「おまけ」の域を出ないのでしょう。

恐らく、「付加価値のあるタッチペン」シリーズという商品展開上、無理にでも付加機能を搭載する必要があってこのような構成となったものと思いますが、もう一工夫欲しかった気がします。

なお、TP20についてはタッチペンの先端部を軸方向に回転させるとボールペンに切り替わる機能、TP30については先端部を取り外して上下を入れ替えることでタッチペンとボールペンを切り替える機能がそれぞれ搭載されており、さらに別売で両機種共通の交換用替芯(TP01)も用意されているため、ボールペンとして長期使用が可能です。

手書き入力デバイスの大本命?

キングジム Boogie Board SYNC 9.7(左)
右のiPadにブギーボード上で描いた文字なり絵なりのデータが送信され、リアルタイムに描かれた(入力された)データが同期表示されるというデモが行われていた。

今回のキングジムのブースで目玉商品となるのが、4月末に発表されたばかりの「Boogie Board(ブギーボード)」シリーズ最新作、「Boogie Board SYNC 9.7」です。

そもそも「ブギーボード」って何ぞ? とおっしゃる方もおられることでしょう。

ブギーボードは元々アメリカの老舗ディスプレイメーカーであるKent Displays社が子会社iMPROV ELECTRONICS社経由で製造販売している電子メモパッドです。

キングジム Boogie Board SYNC 9.7の画面上で適当に「描いて」みた状態
液晶の圧力による位相変化を利用した単純なメカニズムだが、意外なほどに鋭敏で書き味も紙にペンを走らせるのと大差なく、直感的に利用できる。

これは黒い状態の液晶パネルに圧力をかけると白く変化する(=液晶のねじれの方向が変わる)現象を利用した機器で、それによりパネルを紙に見立てて(専用のスタイラスペンなどを用いて)手書き入力した画像/文字の情報を保ち、不要になったら消去ボタンを押して電気的に液晶の「ねじれ」方向をリセットして画面を元の状態に戻す(※つまり消去の時以外は通電すらしていない)、という非常に単純な動作をする機器でした。

「でした」と過去形で記したのは、「Boogie Board SYNC 9.7」(以下SYNC 9.7と略記)ではそうではなくなったためです。

「SYNC 9.7」ではこうした従来のブギーボードの機能を基本としつつ2ギガバイトのデータ一時保存用メモリを搭載し、さらにBluetoothによる通信機能やUSBインターフェイスが搭載されました。

つまり、従来のブギーボードはただ「書いて消す」だけのスタンドアローンな手書き電子メモだったのですが、この「SYNC 9.7」は書いたものをPCDファイルとして保存し、また外部のモバイル機器に出力できる、より高度なBluetooth接続の手書き入力機器に進化したのです。

現時点では対応OSがWindows、Mac OS X、それにiOSとされ、WindowsとMac OS XではVDC(Virtual Desktop Companion:仮想デスクトップコンパニオン)をインストールすることで、iOSでは「Boogie Board Sync」をインストールすることで、それぞれブギーボード上で書いた画像データをリアルタイムでパソコン/タブレット/スマートフォンに表示可能となり、さらにVDCではEvernoteへの画像データアップロード機能が搭載され、それ以外でも容易にFacebook、Twitter、それにメール添付などで他の人とデータ共有ができるようになっています。

ちなみにAndroidへの対応も進められていて、iMPROV Electronics社はGoogle Playストアでベータ版のAndroid版「Boogie Board Sync」を公開しているのですが、係員氏曰く「Android搭載機器は画面解像度がばらばらで現状では対応が難しい」由で、現状ではキングジムとしてはAndroid対応を謳っていないとのことでした。

このAndroid対応問題が物語るように、この「Boogie Board Sync」とVDCはいずれも「SYNC 9.7」の液晶パネルの表示内容をスケーリングしてリアルタイム表示する機能を搭載していて、これによりパソコンの表示画面を手書きホワイトボード代わりに利用できるようになっています。

ここまでご紹介してきたiコロコロやタッチペンもそうですが、この「SYNC 9.7」は本当に実際に手にとって画面上でスタイラスペンを走らせてみないと、その真価の理解しにくい機種です。

筆者はこれまで様々なメーカーのペンタブレットを使ってみたことがありますが、それらと比較してもこの「SYNC 9.7」の書き味はあまりに自然で、しかも筆圧もごく自然に再現されていることに驚愕したものでありました。

マウス、トラックボール、ペンタブレット、ジョイパッド、それにタッチパネルとおよそ思いつく限りの入力機器を試しても、どうにも意図通りの操作のできなかった手書きによる描画操作が、よもやまさかこんな簡潔なデバイスで実現できるようになるとは、筆者は正直夢にも思いませんでした。

しかもこの「SYNC 9.7」はリチウムイオン充電池を内蔵しながら厚さわずか5mm、しかも重さは323gとこの種の入力機器としては破格の薄さ/重さとなっています。

これは恐らく液晶画面に加わる圧力とそれによる液晶の「ねじれ」方向の変化を入力に利用する、という卓抜なアイデアの勝利、ということになるのでしょうが、これだけ薄く軽くしかも使い勝手の良い「電子メモ」(※もっとも、係員氏曰く「これは電子ノートだ」とのことでしたが)が実現できるのであれば、ソフトウェア的な工夫次第でこの「SYNC 9.7」には(※例えば手書き入力の出来る仮想キーボードとしてモバイル機器に接続し利用するなど)もっともっとおもしろい可能性があるのではないでしょうか。

キングジムはIT時代の文房具を再定義するのか

以上、「第4回スマートフォン&モバイルEXPO 春」にキングジムが出展していたブースの展示物をご紹介してきましたが、今回の同社展示全般を見渡して感心したのが、ある意味分をわきまえた同社の立ち位置の絶妙さです。

タッチペン各種にせよ、iコロコロにせよ、周辺機器メーカーで企画・開発されていれば、もっと消耗品としての周辺機器であることを強調して製品化されていたはずで、もしそうなっていれば、例えば開発に手間のかかる/かかったiコロコロは製品化が途中で中止されていてもおかしくなかったと思います。

また、タッチペンも周辺機器メーカーであればもっと使い捨て感の強い、交換用替芯も用意されないような形※で製品化されていたと考えられ、ここに消耗品の長期供給を(恐らくは)当然のこととして捉える文具メーカーとしてのキングジムの立ち位置が明確に示されています。

※:周辺機器メーカーの場合、消耗品販売こそがビジネスの中心に据えられるプリンタのような例外を別にすれば総じて売り切り形で手離れの良い(=消耗品などのオプション販売品が用意されずユーザーサポートの必要の無い)製品を好みますから、製品の販売が終了した後も一定期間は消耗品の継続提供が必要な、今回のような形態での販売はよほどのことが無ければ避ける傾向があります。

また、SYNC 9.7を指して「これは書き込めるページ数の多い電子ノートである」と言い切った係員氏の明快な言葉が物語るように、キングジムのものづくり/ものえらびには、首尾一貫して「その製品をいかにして文具としての立ち位置に落とし込むか」という視線が存在しています。そしてそこでは、その製品がモバイル機器などの周辺機器であるかどうか、といった判断は恐らくなされていません。

こうした「分をわきまえ」、また「自らの立ち位置を明確にする」、言い換えればその自社の立ち位置で考えた場合に必要ないと判断されればどれほどキャッチーな機能であってもばっさりと削ってのける骨太かつ剛毅な製品戦略の存在こそが、キングジムのキングジムたるゆえんなのでしょう。

文具メーカーとしての見識に基づいて、文具メーカーとしての立場でITを再定義し製品化する。

それはおよそ安易に真似して真似しきれる性質のものではありません。かつて大手文具/事務用品メーカーのコクヨが周辺機器メーカーの「アーベル」を一度は傘下に納めたものの、最終的にその全事業をバッファローに譲渡してこの分野から撤退してしまった、という事実が物語るとおり、単に文具メーカーが周辺機器事業に手を出して成功できるほど、生やさしいものではないのです。

今後、キングジムがどのような製品を世に送り出すのかは定かではありませんが、少なくともこうした目的意識を明快にし割り切った製品作りを行うことが出来続ける限り、同社の立ち位置が脅かされることはないでしょう。

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