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セキュリティで変わる日本の未来 日本は国家戦略としてセキュリティに注力すべき

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by [2014年5月14日]

株式会社DDS三吉野氏の呼びかけで「情報セキュリティの未来」をテーマに対談が行われた。東京電機大学未来科学学部長の安田浩氏▽ネットエージェント株式会社代表取締役社長の杉浦隆幸氏▽株式会社DDS代表取締役社長の三吉野健滋氏の三氏は、ID・パスワードに代わる新たな本人確認技術について意見交換をしたほか、日本の情報セキュリティが持つリスクと、創り上げるべき未来像について議論を交わした。

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「ID・パスワード」と決別する時がきた

三吉野(ファシリテーター役):2013年9月10日に発表されたiPhone5sをきっかけに、スマートフォンに指紋認証を搭載するというトレンドが大きな流れとなっています。また、PCのシェアトップ20に数えられるメーカーのすべてが、指紋認証の機能を搭載しようとしています。PCを構成するパーツ・メーカーについても、AppleによるAuthenTec買収の後、Synapticsというタッチパッドの世界最大手が指紋認証技術会社Validityを買収しました。世界全体がID・パスワードを用いた認証方式の限界に気付きはじめたといえるかもしれません。

杉浦:現行のID・パスワード方式が、本人確認の手段としてもはや使えないということは、十数年前から指摘され続けています。10年前であれば、暗号強度を担保するために8桁のパスワードであれば十分でした。しかし、10年前に世界最高レベルだったコンピュータが、今は個人向けのPCで代替できます。つまり、パスワードを破る側のコンピュータが持つ計算速度は向上しているのにも関わらず、暗号強度は変わっていないということです。これでは現在のハッキング技術に全く対応できません。

安田:デバイス内のストレージサイズが大きくなったことにより、ハッキングされた際に盗まれてしまうデータ量も増えました。加えて、全体のデータ量が多くても、重要な情報はキーワードですぐに見つかってしまいます。 ハッキングのリスクは以前よりも高くなっているといえます。

三吉野:実際、ID・パスワードでアカウントを管理するサービスが大規模にハッキングされる事件もすでに起きていますね。

杉浦:2013年には米SNSのLinkedInから650万人、Adobeから1億5000万人のID・パスワードが流出しました。ID・パスワードの代替となる認証技術が求められていますが、それには認証機器の普及が不可欠です。まずは端末デバイスから普及を図っていくしかないでしょう。

三吉野:本人確認技術は、ID・パスワードのといった「記憶」、スマートカードのような「所有」、指紋のような「生体認証・バイオメトリクス」といった大きく分けて三種類があります。しかし、前者の二つはデジタル技術を駆使すればハッキングできてしまいます。一方、毎日変化する人間の生体情報は、アナログ情報ですので、デジタルを駆使しても解くことはできません。これからは人間の生体情報が重要になってくると予想しています。

杉浦:生体の変化特性を採り入れない単純な指紋認証であれば、攻撃する側はデータを入手し認証を突破できます。しかし、日々変化するという人間の生体情報の特性を採り入れた指紋認証であれば、過去と同じデータは認証不可能となる。これではハッキングは通用しません。

「攻め」のセキュリティで産業革命

三吉野:弊社はセキュリティ製品を商品として取り扱っていますが、セキュリティ製品の提案を行っても「生産的ではない」と言われてしまうことがあります。私はセキュリティ製品が生産性や効率性に資するものが沢山あると主張したいのだけれど、その価値がなかなか認められない。本来は「情報セキュリティが確立されているからこそ、このようなプラス面が生まれる」という「攻め」の発想で予算を動かすべきなのですが、現在の日本では情報セキュリティを「攻撃に対する守り」として対処療法的にしか利用していない。

杉浦:企業内の情報セキュリティ対策でも、禁止するセキュリティは求められているのですが、逆に禁止しないこと、つまり禁止させないセキュリティ技術が「攻めのセキュリティ技術」と言えます。たとえばノートPCを持ち出せない企業が多く存在するなかで、逆にノートPCを持ち出せる情報セキュリティを提案することに価値があるのです。

三吉野:日本の情報セキュリティが「攻め」の姿勢に転換するためには何が必要でしょうか。

安田:情報セキュリティによって、日常生活で何が享受できるのかを、我々が具体的に描いて提案することが重要です。そうすることで、予算や製品購入という形でお金が回り始める。さらにその分野の研究が進み、技術が次のステージへ進化することにもつながります。

杉浦:情報セキュリティの技術で「キーレス社会」が実現できれば、「鍵」は持たずに済む。完璧なセキュリティ基盤を創り上げれば、住民票を役所に行かずともネットで入手することができる。ドアも生体認証による本人確認で開錠する仕組みが非常に利便性が高い。プライバシーや、自由への干渉といった課題もありますが、それらに包括的な解決を与えるのが情報セキュリティ技術の進むべき方向性だと思います。

安田:グーグルグラスをはじめ、センシングデバイスを応用した先進技術がすでに出はじめています。センシングデバイスとは、指紋認識技術・カメラ・匂いセンサーなど、人間の知覚を代替する機器です。先進技術が次のステージに入ろうとしているとき、情報セキュリティ技術にも次のステージが求められます。情報セキュリティの世界には大きな可能性があります。

三吉野:現在、情報セキュリティのベンダーから産み出されるのは、一つ一つの要素技術やプロダクトにすぎません。これから情報セキュリティ技術の統合的性を発展に高めることによって、新たな付加価値を生み出せると思います。スティーブ・ジョブズの「Think Big」然りです。イギリスで内燃機関が生まれて世界中に産業革命が沸き起こったように、情報セキュリティの分野で生まれた技術革新が世界中を動かす時が来ているように感じます。

セキュリティで変わる日本の未来

三吉野:安田先生はスマートフォン・セキュリティ協議会の会長もなさっています。そのお立場からご覧になって、日本のスマートフォンのセキュリティ業界やセキュリティ技術は、どの方向を目指して進むべきでしょうか。

安田:まずは、日本独自のセキュリティ技術を磨く必要があります。そのためには、その分野にどれだけ国が予算を出すかが問題になってきますが、残念ながら日本ではこの点があまり意識されていません。また、グローバルに目を向け、英語圏の人々と手を結び、セキュリティの政策決定に積極的に関わっていくべきです。

三吉野:「セキュリティが情報通信技術の本命である」という認識は、日本のどの組織に理解してもらえばいいのでしょうか。

安田:やはり行政を司る内閣と、立 法を司る国会、つまり政治家でしょうね。アメリカはNSA(アメリカ国家安全保障局)のように政策として進めているわけです。そうすれば、政治・行政・あるいは人材育成へお金が出るのに、日本はその意識が弱すぎる。政治家同士で啓発しあって、しっかり政策を進めないと国際競争にも国防でも負けます。政治家は、国家レベルのセキュリティ対策は政策課題であることを自覚して、サイバー攻撃に対する備えや予算編成をしっかりとするべきです。

杉浦:ハッキングという脅威は国家にとって非常にリスキーな問題です。必要な人材の育成にも時間がかかりますので、政治家には早急にITリテラシーを高めて対応していただきたいですね。

三者による対談を終えて

三吉野: 一つ一つのセンテンスに面白さがあった。杉浦さんは民間レベルの中ではトップレベルの技術者だし、先生は学会の中ではトップレベルの方です。我々DDSは一つの要素技術で商売している商売人です。

それぞれの業界が今回集まったわけですが、議論はかなり発散しました。つまり、皆考えていることが相当違う。カオスがあるということは、成熟していない証拠であり、発展する伸び代がある証拠です。発展性や生産性を高めるための技術革新の情報セキュリティ技術は絶対にあると思います。それはこれからの日本を世界の中で輝かせる一つになり得ると思います。

 


 

▽安田浩 氏プロフィール
画像符号化・画像圧縮技術の世界的権威。JPEG、MPEG規格の世界標準化に中心的役割を果たす。1996年、JPEG・MPEG規格標準化の功績により米国テレビ芸術科学アカデミーよりエミー賞(技術開発部門)を受賞。「MPEGの父」として世界的に高く評価されている。現、東京電機大学未来科学学部長。2009年に紫綬褒章受章。

▽杉浦隆幸 氏プロフィール
ネットワークセキュリティ製品の開発・コンサルティング業を展開するネットエージェント株式会社代表取締役社長。社会問題となっていたP2P交換ソフト『Winny』の暗号解読に成功。匿名性を謳った違法なファイル交換の神話を崩した。2013年には、コンピュータのハッキング技術を競う初の国主催の全国大会「CTFチャレンジジャパン」にて同氏の率いるチームが優勝を飾った。名実ともに日本を代表するホワイト・ハッカー。

▽三吉野健滋 氏プロフィール
日本における指紋認証技術のパイオニア企業、株式会社DDS代表取締役社長。同社は次世代の本人確認技術として本命と目される指紋認証サービスを展開する日本のリーディング・カンパニー。

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