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スマホが「空気を読む」未来へ向けて ~ジンバル社設立~

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by [2014年5月09日]

QUALCOMMによるジンバル社設立を発表するプレスリリース。

2014年4月30日、通信用半導体大手のQUALCOMM社は自社の子会社であるQUALCOMM Technologies Inc.(QTI)が、投資家との間で流通ソリューションのための子会社としてQUALCOMM Retail Solutions(QRS)社を設立するための合意に達したと発表しました。

Qualcomm Establishes Retail Solutions Subsidiary as Standalone Company — Gimbal, Inc.

このQRS社はQTIの持つ「ジンバル(Gimbal)」と呼ばれる文脈認識(Context Awareness)を用いた技術プラットフォームを中核に据えて設立となったもので、そのためQRS社は社名を「ジンバル(Gimbal, Inc.)」に変更されることも発表されています。

文脈認識って何だ?

QUALCOMが公開している、「ジンバル」技術の機能や働きを紹介したページ

プラットフォームとしての「ジンバル」は元々QUALCOMM社の社内業務インキュベーショングループで開発されていたもので、コンピュータ側でユーザーが脳裏で思い描いている望みを様々な要素情報から読み取って予測的に判断し、それに適した情報の提示を行うための仕組みです。

具体的に言えば、例えばあるユーザーが買い物のためにどこかのショッピングモールに出かけたとして、そのユーザーの位置情報からどのように移動してきたか、移動先にどのような店があったか、そこにどの程度とどまっていたかを分析し、次にユーザーが移動したいと希望するであろう店の情報をあらかじめ案内する、あるいはユーザーが近づいている店側が提供している情報の中からユーザーの興味を引きそうなものを取捨選択して表示するなどコンピュータに「よく気の利く召使い」、あるいは「空気の読める案内人」として振る舞わせるための技術が、文脈認識技術の中核となります。

実は意外と前からあった文脈認識の基礎技術

この技術、実のところ現在でも(※機能的に非常に限られていますが)例えばスマートフォンのかな漢字変換入力時の次入力文字列候補の列挙、あるいはテレビ番組録画用ハードディスクレコーダーの「お任せ録画」機能といった形でユーザーの使用履歴を蓄積してゆくことでより望ましい候補の列挙・提示を行う最も原始的な、そして基礎となるものが実用化されています。

また、「ジオフェンス(Geofence)」と呼ばれる仮想的地理境界線の設定によりユーザーの意図や意思を検出する技術も、利用例は少ないものの比較的早い時期からスマートフォンに搭載されていましたから、この種の文脈認識を統合的に利用するサービスは遅かれ早かれいつかは登場するべきものであったのです。

「ジンバル」がこれまでの技術とひと味違うのは、そうしたソフトウェアによる文脈認識のための技術を基礎としつつ、位置情報検出機能や加速度検出などスマートフォンに搭載された各種センサーや店側に設置されるBluetoothによる近接ビーコンなどを組み合わせて用いることで、より高度に、より高精度に、しかも低消費電力でリアルタイムのユーザー位置情報を取得し、「ユーザーが次に望む情報」を提示できるようにしよう、と提案している点です。

ここまでで勘の良い方ならばお気づきかと思いますがこの技術は拡張現実(Augmented Reality:AR)との親和性が高く、QUALCOMMの今回の決定もそうしたAR技術の発展と今後の整備・普及をにらんでインフラの部分でイニシアチブを掌握する、という戦略的な目的が見え隠れしています。

「ジンバル」に死角はないか

ユーザーの位置情報を基礎として「より望ましい」候補を先読みして取り出す、というアクションは無駄な検索や情報アクセスを減らす、つまり通信量削減の観点でも概ね望ましい結果をもたらしますから、その意味でも通信用チップメーカーであるQUALCOMM社にとっては望ましい技術開発であり、技術発展です。

さすがに、ユーザーが何を選択するのか、何を探しているのかを完全に「予測」するのは無理な話ですが、「位置情報により時宜に適った情報提示・案内」を行う程度であれば現在のスマートフォンに搭載されているプロセッサでも処理できるレベルの話で、またそのための情報蓄積も量的に大きな負担とはならないと考えられます。

また、仮に予測をミスして多少「空気の読めない」情報が表示されたとしても、より多くの有益な情報が得られるのならば、その機能を無効にしてしまうユーザーはまずいないでしょう。

もっとも、この種の技術ではユーザーの移動経路パターンなどプライバシーにかかわる情報が大量に取り扱われることになります。

そのため、個人情報保護が非常に重要になってくるのですが、その点について「ジンバル」では「ジンバル・プライバシー」と称してユーザーのオプトイン・オプトアウト、つまりユーザーの参加意志の有無にかかわるプライバシーコントロールや、個人情報そのものの保護について特に一つの大きな機能として示しており、高い重要度を与えています。果たしてその程度のことで個人情報保護が万全に行えるのかどうかは定かではありませんが、それでもこれはQUALCOMMが文脈認識技術の実用化が個人情報保護なしにはあり得ない、と判断していることを示しており、今後そうした方面での議論や開発が進むことになるでしょう。

未来へ向けた大きな布石

ちなみにこの文脈認識の技術についてはCES 2014で他でもないQUALCOMM社のポール・ジェイコブスCEO(当時)が行った講演中でも重要な要素として大きく取り上げられていて、今回の技術プラットフォームとしてのジンバルを中核に据えた子会社設立もその講演の延長線上に位置する、QUALCOMM社としての既定方針に従ったものであると言えます。

言い換えれば、QUALCOMM社はこの文脈認識技術を基礎とした「ジンバル」とその先にあるものに、大きな可能性や商機を見いだしていてこの技術の応用に自信と確信を持っている、ということになります。

また、この技術はGPSやBluetoothなど、統合プロセッサに含まれる各種センサーや通信インターフェイスを総動員して実現されるものであり、その点でスマートフォン市場において特にモデム以下のベースバンドプロセッサ周辺の部分でトップシェアを握る(※iPhoneでもAndroid搭載スマートフォンでも関わりなくチップの開発供給を行っている)QUALCOMM社でなくては統合的にとりまとめて提案することも難しいと言え、同社だからこそできる、あるいは同社が行わねば普及の難しい性質のものです。

そのため、こうして同社が子会社を設立しこの技術の開発と普及に本腰を入れてきたことは、ライバルとなるプロセッサメーカー各社にとってはともかくユーザーや流通業界、あるいは広告業界などにとっては歓迎すべき決定であると言えるでしょう。

なお、先にも記したとおりこの文脈認識技術はARとの親和性が高く、むしろこの技術無しでのAR構築は非効率に過ぎるとも言えるレベルですから、この技術の発展と普及は、ARの未来にも大きく関わってくることになるでしょう。

以上のように、今回のジンバル社の創設はQUALCOMM社による将来に向けた大きな、そして様々な要素を含んだ布石となるものなのです。

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