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連載:IT因縁話「ビデオ信号が決めたCDのスペック(4)~ソニーが死守した量子化ビット数~」

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by [2014年3月24日]

1982年に最初の製品が発売されて以来、今もなお世界中で広く使用されているコンパクトディスク(CD)。

このCDではサンプリング周波数44.1kHz、量子化ビット数16ビットの音声データが2トラック(ステレオ)で収録され、容量にして最大で700メガバイト程度の収録を可能としています。

これらの仕様は1982年の最初のCDプレーヤーであるソニーのCDP-101が発売された時から現在まで全く変わっていません。

今回はそうしたCDの仕様決定に至るまでの背景と、規格制定と周辺技術開発で中心的役割を果たしたソニーとフィリップスの動きを見ていきたいと思います。

連載目次:「ビデオ信号が決めたCDのスペック」
1.PCMという記録方式
2.テレビ放送に由来するサンプリング周波数
3.デジタルインターフェイスもビデオに縛られた
4.ソニーが死守した量子化ビット数 14ビットでも16ビットに負けなかったフィリップスのDAC(今回の記事)
5.革命となった1ビットDAC

ソニーが死守した量子化ビット数

さて、以上の通りCDのサンプリング周波数はNTSCの映像信号フォーマットに縛られる形で決定したわけですが、量子化ビット数は別の経緯で決定されました。

CDの規格は元々ソニー独自で開発していた技術と、同様に独自にデジタル記録媒体の研究を行っていたオランダのフィリップスの技術が統合されて誕生したものなのですが、実はこのフィリップス社、規格制定の際に量子化ビット数を製品化の難易度の低い14ビットとすることを強く主張したことが伝わっています。

これに強く反対したのが後にワークステーション「NEWS」や愛玩用ロボット「AIBO」など先鋭的な製品開発プロジェクトを主導することになる、ソニーの土井利忠氏らでした。

現在のパソコン上でのサウンド設定の例
Windows 7などでは特に指定せず対応ハードウェアが実装されている場合、デフォルトで「24ビット、48000Hz」に設定されるようになっており、量子化ビット数16ビットでは不十分と考えられていることが見て取れる。

ここまででも述べてきたように、量子化ビット数は大きければ大きいほど原音に近い音声信号を得られ、また2ビットの違いは65536段階で表現されるものが16384段階に大きく削減されることになるため、その意味ではビット数を減らすのは良い判断ではなかったのです。

実際、CDの発売開始後、CDプレーヤーではn倍オーバーサンプリングと呼ばれる、デジタル処理で音声信号を44.1KHzからn倍した周波数に変換した上でデジタル→アナログ変換する高音質化技術(※この技術を用いるとノイズフィルターの設計が簡素化でき、その面でも音質向上に寄与します)が急速に普及したのですが、この際可聴域外の高周波数帯域にあるノイズ除去を行う副産物としてD/Aコンバータ(DAC)で扱う量子化ビット数を18ビットあるいは20ビットに増やして高音質化する手法が大流行しました。

それはつまり、ノイズ除去などを考慮すると量子化ビット数は16ビットでも十分とは言いがたかったということで、それは後のDVDオーディオなどで音声データの量子化ビット数が24ビットに引き上げられる一因となりました。

14ビットでも16ビットに負けなかったフィリップスのDAC

こうしてフィリップスが量子化ビット数14ビットを主張した背景には、同社が14ビットでも十分な音質を得られる優れたDACを自社開発していたことがありました。

実際、初期の同社製CDプレーヤーでは14ビットDACを搭載した機種が業務用のLHH-2000(1985年)を含め結構あって、それらに搭載されたTDA1540というDACは量子化ビット数14ビットのデータしか扱えない(CDに記録された16ビットデータの内2ビット分はデジタルフィルター回路で丸め込んで出力)にもかかわらず、同時期のソニーをはじめとする他社製で量子化ビット数16ビット以上のDACと比較して何ら遜色ないばかりか、ものによってはそれらを上回る音質を実現したほどでした。

それはCDの音質がフォーマットの優劣だけでなくD/A変換そのものの品質に依存することを示唆するもので、以後各社で熾烈なDAC開発競争が(デジタルフィルターを含めて)行われるようになりました。

BURR-BROWN(バーブラウン)PCM61P
18ビットマルチビットDACチップの例。本来単体でステレオ出力のチップだが、このように2チップ搭載し、1チップごとに片チャネルの正相と逆相の音声信号を出力させ、差動合成してノイズ低減や音質向上を図るという利用法が一頃大流行した。

CDの開発が行われていた当時、ラダー型マルチビットDACと呼ばれる、電流をオンオフするスイッチを並列にビット数分並べたタイプのDACが用いられていたのですが、実はこのタイプのDACは構造が単純で、一度に大きな電流あるいは電圧が出力できるため馬力感のある音が得られる反面、すべてのスイッチが同時にオンオフ制御できず若干のばらつきが生じるという問題を抱えていました。

フィリップスが量子化ビット数14ビットにこだわったのも恐らくこのスイッチの動作に関する精度の問題が原因で、1チップのDACではばらつきを解決しきれず、中には日本のアキュフェーズの作ったDC-81(1986年発売)のように思いあまって搭載されるDACを抵抗やトランジスタなどのディスクリートパーツで構成し、その製造工程で抵抗値などを厳密に調整・管理することでこのばらつきを解決するという、なんとも力業の手段を採った製品が現れるほどでした。

ちなみにこのDC-81は額面上16ビットのDAC搭載だったのですが、発表から10年以上を経た1990年代後半になってもなお、当時最新のDACに負けない素晴らしい音が出ており、かけた手間に十分すぎるほど見合った成果が得られていました。

(次回、「革命となった1ビットDAC」に続く)

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