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連載:IT因縁話「ビデオ信号が決めたCDのスペック(2)~テレビ放送に由来するサンプリング周波数~」

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by [2014年3月18日]


前回から引き続き、連載「ビデオ信号が決めたCDのスペック」をお送りします。

連載目次:「ビデオ信号が決めたCDのスペック」
1.PCMという記録方式
2.テレビ放送に由来するサンプリング周波数(今回の記事)
3.デジタルインターフェイスもビデオに縛られた
4.ソニーが死守した量子化ビット数 14ビットでも16ビットに負けなかったフィリップスのDAC
5.革命となった1ビットDAC(3/21配信予定)

テレビ放送に由来するサンプリング周波数

実はCDで用いられている44.1KHzといういささか半端な印象のあるサンプリング周波数の決定には、日本で用いられていたアナログテレビ放送の規格が関与しています。

というのも、CD、つまりデジタル音声信号を記録したメディアの開発が行われていた当時、そのメディアに記録すべきデータを保存・編集するのに用いる記録媒体が求められたのですが、人間の可聴域として想定された20~20KHz前後の周波数帯域の音声信号を16ビット程度の量子化ビット数で、かつステレオ2chで記録するには計算上、1.5Mbps程度の通信速度でデータをやりとりする必要がありました。

アナログ音声を記録するオープンリールのテープレコーダやカセットレコーダではこれだけのデータをリアルタイムに記録・再生するのは不可能(※ちなみに、パソコン用データ記録媒体としてカセットテープを利用するデータレコーダでは、おおむね2.4Kbpsあるいは2.7Kbps程度でのデジタル記録が行われていました。9.6Kbpsを実現した製品もありましたが、これはメタルテープの利用が必須でした)で、これらではとてもCDの求める大量のデータを記録できませんでした。

PCM録音の研究開発の初期には特殊な構造の回転ヘッドを搭載する専用デジタルレコーダの開発も模索されたのですが、これは開発コスト等の点で問題が多く、汎用性や普及を考慮するとより一般的な機器が利用できることが求められました。

そこで考え出されたのが、当時製品化が始まったばかりのビデオレコーダを流用する案でした。

回転式のヘリカルスキャンヘッドを備え、当時の日本で用いられていたNTSC(National Television System Committee:全米テレビジョン放送方式標準化委員会)の定めた規格に準拠する映像信号を記録するビデオデッキならば、余裕をもって所要の信号を記録再生でき、しかも普及が見込まれていたことからメディア・機器ともに低コストで調達可能と考えられたのです。

そうして、1970年代後半にデジタル音声信号を映像信号のフォーマットと相互変換してビデオデッキに記録・再生可能とするPCMプロセッサと呼ばれる機器(※現在のDAコンバータおよびADコンバータに相当)が開発されました。

DATレコーダのメカデッキ部
中央やや左上の奥に見える傾いて取り付けられた銀色の円筒が回転ヘッド。テープに対して斜めにヘッドを取り付け回転させることで信号記録帯域を大きく取ってある。CD並かそれ以上のデータ通信量を必要とするPCM方式デジタル音声データの磁気テープ記録には、ビデオデッキと同様のこうしたヘリカルスキャンヘッドの利用が事実上必須であった。

この種の機器では水平同期周波数15.75KHz(※ビデオデッキの機種によっては約15.734kHzのものもありましたが、ここでは割愛します)となるNTSC規格準拠の映像信号で回転ヘッドのヘッド切り替えに伴う記録不能時間を全体の1/15として扱い、さらに走査線1本に3つ分のステレオ16ビット量子化データを記録できたことから、1秒間に記録できるサンプリングデータは15750×14/15×3=44100個となり、ここで44.1KHzというサンプリング周波数が必然的に決定されました。

アナログ信号のデジタル化については、標本化定理により必要なアナログ信号の周波数帯域の2倍以上のサンプリング周波数としないと偽の信号が現れるという問題があります。そのため、サンプリング周波数44.1KHzを採用したCDでは計算上0~22.05KHzの範囲の音しか扱えないことになります。

(次回、「デジタルインターフェイスもビデオに縛られた」に続く)

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