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アマゾンに揺れる出版業界現代史

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by [2014年3月21日]

Amazon.comのCEOであるJeff Bezos氏

 APPREVIEWを運営している当社では、DTMマガジンという紙の雑誌も出版しています。DTMマガジンは実に創刊から20年を数えるのですが、社内にはいまだに出版業界のことがよく分からないというメンバーも多いのです。これは出版業界が他の業界と比べて複雑なことも理由のようです。
 そこで今回は、当社がお世話になりっぱなしの日本の出版業界と、その出版業界に大きな影響を与えてきたアマゾンについて振り返ります。

返本可能&定価販売で発展した日本の出版業界

 まずは日本の出版業界を特徴付ける2つの制度についてご紹介しましょう。

売れ残ったら返品できる“委託販売制度”
 みなさんはどのように本を手に入れていますか?「最近は専ら電子書籍」という人でも、書店に行ったことが無いという人はさすがに少数ではないでしょうか? インターネット通販で買うという人も増えていますが、アマゾンや楽天も出版社から見ると書店の1つです。これらの書店で、みなさんが書籍や雑誌を手にするまでの過程は次のようになっています。
 一般的な商品の流通は“メーカー→問屋→小売→消費者”というように一方通行であることがほとんどです。これに対して出版物の流通は“出版社⇔取次⇔書店→読者”というように、店頭で売れ残ったものは返品できるようになっています。この仕組みが委託販売制度(返本制度)と呼ばれるもので、書店の主な業務は、出版社の商品を並べる場所の提供と、料金の回収代行となります。この制度によって、書店は在庫のリスクを負うことなくさまざまな種類の出版物を店頭に並べることができるのです。
 ちなみに売れ残ったものは古紙化(リサイクル)されたり、他の書店で売れそうな書籍であれば研磨や表紙の掛け替え(改装と言います)を行なった後、再度書店に並ぶことになります。

値引き販売禁止“再販価格維持制度”
 スーパーや家電量販店にあって、書店に無いものは何でしょうか? それは値札です。書籍や雑誌の表4(裏表紙)を見ると、バーコードとともに、あらかじめ定価が印刷されていることが確認できます。これは、再販価格維持制度(再販制度)により、出版物の価格を出版社自身が決めており、書店はその価格(定価)でしか販売することができないためです。通常、小売店での販売価格の拘束は独占禁止法で認められていませんが、出版物は“文化の保護”という理由により、例外的に許されているのです。ただし、弾力運用という名の元に、大学生協の組合員特典や、書店が独自に行なうポイントサービスなど、数%程度の値引き販売も存在します。

 これら2つの制度がシナジーとなって、日本国民は全国どこでも同じ価格で本の多様性を享受できることになっています。このおかげもあってか、出版業界は1990年代前半に起きたバブル崩壊の後も、世の中の不景気を尻目に1996~1997年ごろまでは右肩あがりの成長を続けます。当時は「出版業界は不況に強い」なんて言葉をよく耳にしたものです。

公益社団法人全国出版協会「日本の出版販売額(取次ルート)」。現在の市場規模は1980年代半ばの水準となっている

 しかし、やがてこの独特な制度が、時間差のバブル崩壊を出版業界にもたらすことになります。返品可能で価格競争がないということもあり、バブル期までに新規参入も含めて爆発的に増えた大型書店は、いわゆる“金太郎飴”化の道をたどります。取次からの自動配本によって、書店員に専門性が求められることも少なくなると書店から個性が無くなり、この影響で出版物に格差がじわじわと広がっていきます。つまり、本が売れ始める→販売力のある書店にどんどん配本→ますます売れる…一方で売れない本は店頭に1週間と置かれない、販売が見込めない書店には配本が無い、という二極化です。この結果、読者の大型書店志向が強まり“町の本屋さん”的な中小書店の淘汰が進んだのです。

黒船(北海道に)上陸

 そんなタイミングを図ったかのように、2000年11月、当時すでに世界最大のオンライン書店となっていたアマゾンが日本でサービスを開始、翌年1月には北海道札幌市にカスタマーサービスセンターを開業しています。
 アマゾンは、自社倉庫による物流機能、高精度なレコメンド機能で、売れ筋はもちろん、少量多品種の出版物も販売するという、リアルの大型書店と専門書店のいいとこ取りを実現しました。その後は、1997年以降マイナス成長となった日本の出版業界を尻目に売上高を伸ばし続け、現在は出版物に留まらない、小売のポータルサイトと呼べるほどになっています。
 当初はアマゾンを“黒船”と恐れていた日本の出版業界も、その取り扱い高を無視できなくなり、出版社はアマゾンへの配本数を厚くしていきました。かくいう当社のDTMマガジンも総部数の6%ほどがアマゾンで売れており、これは1書店としては最大級の販売数です。
 このように、出版社にとっては無くてはならない存在となったアマゾンですが、出版の業界団体との関係は“送料無料”や“割引販売”“消費税”の問題もあり、必ずしも良好ではありませんでした。

私たちは御社の〈Amazon Student〉プログラムは、再販契約に違反しているとの立場から、即時停止を求めると共に、停止ができないなら自社の商品をそれから除外することを求めました。
拝啓 アマゾン・ジャパン様(日本出版者協議会)

「海外事業者に公正な課税適用を求める対策会議」が2013年8月28日に出した要望書は、海外事業者が電子書籍を販売する際に消費税が課税されず、国内事業者との競争が公平ではないと指摘する内容だ。
消費税を支払っていないアマゾン 出版業界など「不公平だ」と怒る(J-CASTニュース)

日本において電子書店事業を展開する、大規模海外電子書店事業者の日本での売り上げに対しては、海外からコンテンツを配信しているということから、日本の消費税が課税されていないという課題があり、日本の電子書店を展開する事業者との公平な競争が大きく阻害されています。
電子書店・電子書店流通事業における公平な課税適用を求めるフォーラム(電子出版制作・流通協議会)

 再販制度の成功体験から逃れられない出版業界が、割引販売を徐々に拡大するアマゾンへの危機感を強めているようですが、当社は前述のとおり出版社でもあります。アマゾンについての批判は業界団体にお任せしまして、もう一方のアマゾンが日本にやってきたことのメリットに目を向けることにします。

アマゾンが来て良かったこと

 アマゾンの日本の出版業界での功績は大きく2つあると思われます。

(以前よりマシな)電子書籍元年
 1つは電子書籍です。日本の電子書籍市場は、アメリカに比べればまだまだですが、それでもなかなか来なかった“電子書籍元年”が、ようやく迎えられたと言えるほどに成長しています。従来の携帯電話(ガラケー)向けの電子書籍の売上が減少し始めた2010年ごろ、スマートデバイス向けの電子書籍は皆無でしたが、電子書籍市場全体の規模が拡大する中、2012~2013年にその比率が逆転します(下図)。2012年10月24日に日本でサービスを開始したアマゾンの電子書店『Kindleストア』の影響を見て取ることができます。

電子書籍市場規模の推移(電子書籍ビジネス調査報告書2013より)

 またアマゾンは、電子書籍専用ストア『Kindle』や出版サービス『Kindleダイレクト・パブリッシング(KDP)』の他、オリジナル端末『Kindle』シリーズ、Android向け、iOS向けのリーダーアプリなど、著者(出版社)と読者双方の環境を整えて、電子書籍の普及に力を注いでいます。
 当社も例にもれませんが、参入まではいかなくとも、自社出版物の電子書籍化を検討していない出版社は少ないのではないかと思います。
 日本の電子書籍ストアにおいて、Kindleストアの利用率が高いのは、これらの成果ではないでしょうか(下図)。

2013年10月調査の電子書籍ストアの利用状況(複数回答)OnDeck電子書籍ストア利用率調査より

 Kindleストアの開始、スマートデバイス向けの電子書籍市場拡大…これらは国内におけるスマートフォンやタブレットの本格的な普及とタイミングを同じくしているので、一概には言えませんが、アマゾンは日本の電子書籍市場拡大に最も貢献している企業の1つと言えそうです。

変革を迫られた日本の出版業界
 もう1つは、アマゾン自身がそう意識したかは分かりませんが、日本の出版業界へ変革を迫ったことです。アマゾンやKindleでの読書(購買)体験は、書店で紙の本を買って読むのが当たり前の私たちには新鮮で便利なものでした。
 本を書店に注文したけどなかなか来ない、品揃えを当てにして大型書店に行ったけど欲しい本が無い、どの電子書籍ストアを使えばよいか分からない、といったユーザーの不満をアマゾンはことごとく解決しました。アマゾンの仕組みは、これまで日本の出版業界が再販制度と返本制度で守ってきた“日本全国どこでも様々な本を同じ価格で買える”ということまで実現しています。
 あくまで推測ですが、アマゾンが日本へ来なければ、“本離れ”はもっと進んでいたのではないでしょうか? 筆者は、学生が1日に20~30分も読書をしていることに驚きました(下図)。

第49回学生生活実態調査の概要報告より(全国大学生活協同組合連合会)読書時間の減少は止まらない。

 アマゾンと日本の出版業界の関係を見てきて想像するのは、黒船来航での日本人の混乱ぶりです。日本人があたふたしているうちに、西洋文化がスタンダードとなっていく…皆さん、今アマゾンが無くなったら結構困りますよね? 私は(ユーザーと出版社の両方の立場で)困ります。

▼参考リンク
公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所
拝啓 アマゾン・ジャパン様: 日本出版者協議会
消費税を支払っていないアマゾン 出版業界など「不公平だ」と怒る
電子出版制作・流通協議会
電子書籍ビジネス調査報告書2013

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