QUALCOMM Gobiチップセットの公式ページ目的別に多様な機種が提供されていることが示されている。

QUALCOMM、次世代ベースバンドプロセッサを発表

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by [2014年2月28日]

QUALCOMM Gobiチップセットの公式ページ
目的別に多様な機種が提供されていることが示されている。

「Gobi」と名付けられたQUALCOMMのベースバンドプロセッサシリーズは、3G世代の通信で必要な特許の大半を同社が握っていることもあって、近年の携帯電話キャリア各社の通信互換性チェックの際のリファレンス的位置づけになっています。

実際、アプリケーションプロセッサ部分については自社開発のA5~A7プロセッサを搭載しているAppleのiPhone/iPadでさえベースバンドプロセッサだけはQUALCOMM製Gobiシリーズを購入して搭載していますし、IntelやNVIDIAが自社開発したLTE通信対応ベースバンドプロセッサを搭載するチップは通信事業者の常として互換性や信頼性、あるいは実績を重視するキャリア各社からろくに認証されず採用もしてもらえない(※サムスンがGALAXYシリーズで搭載される統合プロセッサを自社製のExynosシリーズとQUALCOMM製Snapdragonシリーズの二択としているのも、この問題の対策です)という悲惨な状況に陥っていると伝えられています。

それゆえ、今回MWC(Mobile World Congress)2014でQUALCOMMが発表したベースバンドプロセッサ「Gobi 9x3x」シリーズもこれまでと同様に業界標準の地位に就くことになると考えられ、また新しい技術が投入されているため注目が集まっています。

Qualcomm Announces World’s First Commercial 20 nm LTE Advanced Chipset for Automotive

Qualcomm Shows First Smartphone Demo of LTE Advanced Category 6

今回はそんな「Gobi 9x3x」シリーズとその周辺技術について考えてみることにしましょう。

現状では2モデル

現時点で公表されている「Gobi 9x3x」シリーズに属するチップは、以下の2種です。

・Gobi 9×30:車載機器用でGlobal Navigation Satellite System (GNSS) を統合
・Gobi 9×35:スマートフォン用

QUALCOMMが公開しているキャリア・アグリゲーションによる速度向上の概念図。10MHz幅の帯域を2つ束ねて下り方向150Mbpsでの通信が可能となることを示している。

いずれも最大40MHzまでのキャリア・アグリゲーション(最大ダウンロード速度300Mbps)に対応しています。

目的別に様々なバリエーションモデルが提供されてきたこれまでの「Gobi」シリーズの製品展開実績から、今後より多くのバリエーションモデルが登場すると考えられますが、この2モデルがそれらの派生の基本となるわけです。

アプリケーションプロセッサに先駆けて20nmプロセスの導入が始まった

20nmプロセスと28nmプロセスのチップ面積比較図
同じトランジスタ数であっても、半導体の線幅が28nmから20nmに縮小されると単純計算で49パーセントものチップ面積削減につながる。ただし、20nmプロセスクラスになると様々な技術的制約があるため、実際にはここまでの大差はつかない。

「Gobi 9x3x」シリーズで最大の注目点、それはアプリケーションプロセッサ(QUALCOMMの場合はSnapdragonシリーズ)を差し置いて半導体製造プロセスが従来の28nmから20nmにシュリンク(縮小)されたことです。

20nm世代では様々な事情から以前よりもシュリンクによる節電効果や集積度向上率が低くなっているという話がありますが、それでも先行して20nmプロセスを導入したIntelのCore iシリーズの低消費電力ぶりから判断する限り、送信時に電力を大量消費するベースバンドプロセッサが20nmプロセスとなることによるメリットは計り知れません。

特に「Gobi 9x3x」の場合、次世代LTEであるLTE Advanced Category 6への対応が図られ、複数の帯域(この場合は4本)を束ねて送受信するキャリア・アグリゲーション技術や、複数のアンテナを利用するMIMO技術の導入が実施され通信時の消費電力がこれまで以上に大きくなることなどから、アプリケーションプロセッサより優先して20nmプロセスの導入を図る必要があったと言えます。

チップ生産歩留まりが問題だ

TSMC 公式サイト
QUALCOMMはこの会社に自社製アプリケーションプロセッサやベースバンドプロセッサの生産の多くを委託している。

もっとも、20nmプロセスについてはQUALCOMMがチップ生産を委託している台湾TSMCをはじめ各社で生産歩留まり(良品率)の向上に苦労していると伝えられており、充分な数量確保もままならないような状況です。

それらを踏まえて考えると、今回QUALCOMMがSnapdragonそっちのけでこのGobiだけを優先して20nmプロセスを採用したことから、20nmプロセスでSnapdragonレベルの集積度のチップの量産を安定的に行うのが未だ難しい状況にあるか、さもなくば使える20nmプロセスの生産ラインが限られる状況ではGobiのシュリンクを優先する方が(消費電力などの面で)メリットが大きい、と判断されたこと(あるいはその両方)が推定できます。

もちろん、ベースバンドプロセッサだけでなくアプリケーションプロセッサも20nmプロセスにシュリンクできるのならばそれに越したことはありませんが、限られたリソースの中で最善の選択肢を選ぶとすれば、ベースバンドプロセッサのシュリンクを優先すべき、ということなのでしょう。

なお、今回発表された20nmプロセスによる「Gobi 9×30」は車載用チップとされていますが、これはLTE-Advancedが自動車のような移動体での通信に適する技術を多数導入していて、早期の実用化が特に強く望まれていたため(※LTE-Advancedでは技術目標として、時速350kmの移動体中からの通信を可能とすることが挙げられています)です。

車載用ではNVIDIAが強力なGPUを搭載するTegra K1をVCM(Vehicle Computing Module)として提供することを発表しており、これに対抗する意味からも、QUALCOMMは低消費電力でより高速な通信を可能とする20nmプロセスによるLTE-Advanced対応ベースバンドプロセッサの発表を急ぐ必要があったと言えます。

ベースバンドプロセッサの変更はどの程度効くのか

それでは、ベースバンドプロセッサをより半導体製造プロセスの小さなチップに変更したらどの程度消費電力が減るのでしょうか?

流石に、具体的な数字はQUALCOMMも公表していません。

Apple iPhone 5c
実質的なiPhone 5の改良後継機種。筐体が金属からプラスティックとなり、バッテリ容量が約5パーセント増量、さらにベースバンドプロセッサが変更された以外は基本的にiPhone 5のままである。

しかし、以前の記事でも指摘したように、同じアプリケーションプロセッサを搭載し、ほぼ同程度の容量のバッテリーを搭載するiPhone 5とiPhone 5cを比較した場合、後者がバッテリー容量が5パーセント弱増えた(3.8V 1440mAh → 3.8V 1510mAh)だけなのに3G通話とLTE通信の公称稼動時間が25パーセント増し(いずれも8時間 → 10時間)となっていて、しかもそれ以外、特にアプリケーションプロセッサの性能に依存する音楽やビデオの連続再生時間が同一で据え置き(順に40時間・10時間)となっていることから、ベースバンドプロセッサの製造プロセスが1世代(あるいは0.5世代)違うだけで通信による電力消費が劇的に低減できることがわかります。

また、実質的にアプリケーションプロセッサのCPU部分を動作させているだけの音楽再生と、GPUもフルに動作させる必要のあるビデオ再生の連続稼働時間に4倍もの大差がついていて、しかも3G回線による通話とLTEによるWebアクセスがビデオと同じ10時間しか動作を保証できないことを勘案すると、この世代のベースバンドプロセッサ+モデムの電力消費はPower VR Series 5XTクラスのGPUで動画再生支援機能を稼動させて動画を視聴するのと同等の、CPUコアそのものの約3倍前後もの消費電力を要していることになります。

つまり、単純計算するとベースバンドプロセッサ周りの消費電力を例えば5パーセントでも削減できれば、CPU周りで15パーセント消費電力を節減するのと同等の効果が得られるということになります。

なお、TSMCの公式サイトでは同社の20nmプロセスが28nmプロセスと比較して25パーセントの電力消費削減が可能であることを明示しています。

20nm Technology

以上から、ベースバンドプロセッサのシュリンクは劇的な通話可能時間の延長をもたらすことが期待できます。

こうして考えると、チップ面積が単純計算で28nmプロセスの約51パーセントに縮小される(※ただし実際には様々な要素が絡むため、ここまでの縮小は期待できません)20nmプロセスをまずベースバンドプロセッサに採用する、というQUALCOMMの判断は非常に理に適ったものであると言えます。

付け加えると、低消費電力のベースバンドプロセッサはiPhone 5s・5cで筐体設計に由来するバッテリ容量の制約から連続稼働時間を延ばすのが難しい、Appleにとっては喉から手が出る程欲しい部品の筈です。

そう考えると、今回のベースバンドプロセッサのシュリンク優先は、大口顧客であり、しかもこの種の改良を必要としているAppleを狙ったものと推測しても良さそうです。

新しくなったのはベースバンドプロセッサだけではない

以上、QUALCOMMの新しいベースバンドプロセッサについてみてきましたが、実を言うと新しくなったのはこれだけではありません。

ベースバンドプロセッサ(およびモデム)の先、つまりアンテナやそのアンプ回路を含むRFモジュールについても発表がありました。

Qualcomm Launches First Chips with Integrated CMOS Power Amplifier and Antenna Switch for 3G/4G LTE multiband Mobile Devices

これは同社のRF360と呼ばれるマルチバンド/マルチモード対応RFモジュールで、CMOSによるアンプ回路とアンテナスイッチを内蔵したチップの生産が開始した、というものです。

従来であればRFモジュールとアンプ・アンテナスイッチは別体であったため電力消費のロスがあったのですが、これらをCMOS化してモジュールチップに統合してしまうことで、部品点数削減と電力消費量の低減を図るわけです。

この種の送受信回路に関わるアンプなどは電力消費やら必要な電圧やらの関係で別体にせざるを得ないことが多いのですが、それをCMOSで回路構成することで一体化に成功した、ということになります。

こうした改良はその重要性の割にさっぱり話題にならないのですが、さすがは業界の覇者QUALCOMMと言うべきか、怠りなく研究開発と改良が続いています。

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