Microsoft Windows 98Windows 95の直接の後継OSで、基本的なGUIなどの構成はほぼ同一である。これらWindows 9x系OSでのTCP/IPのサポートが同時期のインターネットの爆発的普及を下支えした。

連載:ITエロ進化論「アダルトが加速させたブロードバンド通信」

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by [2014年2月24日]

異論も様々にあると思いますが、1990年代後半以降のインターネットの爆発的普及,その初期の躍進を支えたものが3つありました。

1つは Microsoft Windows 95、1つはブロードバンド通信、そして最後の1つはアダルトサイトでした。

恐らく、前2者については異論はほとんど無いでしょう。

しかしこれらの端末と回線というインフラ整備に属する2要素だけで果たしてあそこまでの爆発的な普及が可能であったか、といえばそれは疑問です。

黎明期より「パソコンはソフトがなければただの箱」と言われてきましたが、どのような誹謗中傷や否定があろうとも、Quick Time対応CD-ROMがそうであったようにインターネットもまた、キラーコンテンツとなりうる魅力的なコンテンツを提供するサイト、特に人間の情欲に直結するアダルトサイトの存在無しにはあそこまで急速な普及はおぼつかなかった筈です。

そこで今回は1990年代後半からのインターネットの爆発的な普及について、これら3要素の関わり合いを中心に考えてみることにしましょう。

何はなくともWindows 95

Microsoft Windows 98
Windows 95の直接の後継OSで、USBが正式サポートされ、幾つか重要な改良があったがGUIはほぼ同一である。これらWindows 9x系OSでのTCP/IPのサポートが同時期のインターネットの爆発的普及を下支えした。

日本におけるインターネット普及の基礎としてMicrosoft Windows 95(およびそのマイナーチェンジ版であるWindows 98)が大きな役割を果たしたことは確かです。

x86系CPU搭載の一般向けパソコン用OSでは最初の32ビットOSであり、さらにGUI(Graphical User Interface)の面でも大きな変革となったこのOSは、一方で32ビットOSといいながらDOSアプリなどとの互換性維持のために16ビットコードで書かれたファイルがシステム中枢近くに残存し、メモリマネージャがかなり非効率な実装(※さすがに後継のWindows 98で全面的に作り直されました)となっているなど安定性や信頼性に関わる幾つかの点で深刻な問題を抱えていました。

しかし、そんなつぎはぎだらけで問題だらけであっても、PC/AT互換機やPC-9800シリーズに対応する一般向け日本語版Windowsとしては最初にインターネットの根幹をなす技術であるTCP/IP(※インターネットで標準的に用いられるネットワーク通信プロトコル。日本語版Windowsでは前世代のWindows 3.1までは非搭載)を標準でサポートし、VGA解像度(640×480ピクセル)で256色表示をディスプレイの最低条件として提示、より高解像度・多色での表示を推奨、さらにPCM音源によるサウンド機能も推奨要件としたこのOSの出現をもってはじめて、一般のパソコンユーザーが写真や音楽、あるいは動画といったマルチメディアコンテンツを含むインターネットサイト閲覧に必要な環境を手にすることができるようになったことは疑う余地がありません。

1GBのダウンロードに3日半かかる時代があった

I-O DATA DFML-560ER
現在も販売されている、ITU-T標準勧告V.90プロトコル(56Kbps通信)に対応するシリアルポート接続タイプのインテリジェントモデム。1990年代後半、インターネット接続にはこうしたモデムかISDNのターミナルアダプタ+回線終端装置が事実上必須であった。

Windows 95の普及が進んだ1995年~1996年頃にインターネット接続を利用していた方ならば恐らくご記憶のことと思いますが、この当時はそれまでのパソコン通信と同様に通信速度28.8Kbpsのモデムをパソコンとシリアル接続(あるいは拡張カードなどとして搭載)し、通常の従量課金制のアナログ電話回線を経由してプロバイダのアクセスポイントに電話をかけてインターネット接続するのが一般的でした。

現在のネット接続では公称100Mbps以上、ものによっては200Mbps以上の速度での通信に対応するサービスも珍しくないのと比較すると公称レベルで約1/3470以下という凄まじい遅さなのですが、それは言い換えれば同じ1つのファイルをダウンロードするのにも当時は単純計算で今の約3470倍の時間がかかったということで、従量制課金が当たり前だった当時の状況を考えれば、悪夢のようにコストのかかる仕組みでした。ちなみに28.8kbpsの回線で1GBの動画ファイルをダウンロードする場合、最速でも約83時間(3日半)を要しました。

しかもこの当時は悪名高いダイヤルQ2の全盛期で、プロバイダのアクセスポイントへの電話番号を無断で自社の(高額な料金課金のある)ダイヤルQ2番号に書き変えてしまうソフトをばらまく悪質業者が現れるなどしました。

そのため、アダルトサイトで1つエッチな画像を閲覧するだけでも空恐ろしい時間を要し、はっと気がつくと1ヶ月分で10万円以上もの凄まじい金額の記されたNTTやプロバイダの請求書に悲鳴を上げる羽目に陥った人があちこちに現れる結果となりました。

踊り場に過ぎなかったISDNの普及

さすがにこのような状況ではインターネットのより一層の普及は望みがたく、NTTは市内通話あるい隣接区域であれば深夜時間帯に限って定額利用できる「テレホーダイ」サービスを展開し急速に普及したのですが、これらは通信速度が遅いという根源的な問題については何ら解決策になりませんでした。例えばアダルトビデオコンテンツのオンデマンド配信を視聴したい、といったニーズを考えると、当時の通信速度はあまりに遅すぎたのです。

その最初の解決策となったのはISDNの利用でした。

1995年当時のアナログ回線経由より格段に高速な64Kbps(1回線)あるいは128Kbps(2回線併用)での通信を行うこの方式は一定の支持を集めました。もっとも、このISDNは安定的な高速性の代償として対応ハードウェア(NTT-MEのNM-128シリーズなど)が高価で、しかも回線使用料も通常の電話と比較して2倍弱と高額に設定されていたため、爆発的な普及は望めませんでした。当時大学生をやっていた筆者の周囲でも、このISDNを導入してアダルトサイト閲覧(無論、それだけではなかったのでしょうが)をやっていた知人がいたのですが、ISDN経由でのページ表示の高速さに驚く一方で、「アダルトサイトのために何万円もかけるのか」と別の意味で戦慄した記憶があります。

孫正義によるADSLモデムばらまき作戦

このISDNのコスト問題を背景として登場したのが、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line:非対称デジタル加入者線)でした。

既存のアナログモデムと大差ない構造の専用モデムを用いて銅配線の回線経由で通常使用されていない周波数帯を用いて通信し、インターネット利用で重要な下り方向の通信速度をISDNを大きく上回る数十Mbps以上(※理論最大値)に引き上げるこの技術には、基地局からの回線距離が長くなるほど指数関数的に通信速度が低下するなど様々な制約や問題もありました。しかし、それでも概ね既存モデムよりはマシな速度が得られたことから、このADSLは日本では孫正義率いるYahoo!BBの絨毯爆撃的なADSLモデム貸与戦略もあって、1990年代末に爆発的な普及をみました。

その結果、それまでならばとても実用的なサービスの展開ができなかった、アダルトビデオのオンデマンド配信やダウンロード配信などを有償提供するサイトがこの時期以降出現するようになり、トラフィック量の急増からプロバイダ各社は回線増強に、レンタルサーバ業者はサーバの増強に、それぞれ追われるようになりました。

ちなみに、こうした動きはADSLによる通信高速化だけによるものではなく、Windowsパソコン本体搭載のCPUに対するMMX命令やSSE命令といったSIMD系マルチメディア拡張命令セット(※動画の圧縮再生などの高効率・高速処理を可能としました。なお、当時のMacで用いられていたCPUでも少し遅れて1999年のPower PC G4以降、AltiVecとして同様のマルチメディア拡張命令セットのサポートが行われています)の新規実装、あるいは劇的な進化が続いていたグラフィックコントローラ(※この時期にはまだGPUという呼称は用いられていませんでした)での動画再生支援機能のサポートが進んだことも大きく影響しています。

ハードウェアパワーにものを言わせたデータ圧縮とADSLなどによる通信回線の速度向上の相乗効果により、ようやくそれなりに快適なネット動画視聴環境が整い始めたのです。

さすがに、「アダルト動画サイト表示が快適!」などと謳う勇敢な(無謀な?)パソコンメーカーやプロバイダは筆者の記憶する限りありませんでしたが、Windows 95(およびそれを搭載したパソコン)と高速回線の普及がそれまで存在しなかった「有料アダルト動画サイト」という新規市場の創出と発展に大きな役割を果たし、さらにそれがWindows 95や高速回線の普及を促進する、という相補関係を生み出したことは疑う余地はありません。

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