LG電子 isai LGL22LG電子の最新鋭フラグシップ機種であるG2を基本に開発されたau向け専用機種。

HTCの明日はどっちだ? ~トラブル続きのHTC~

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by [2013年12月27日]

LG電子 isai LGL22
LG電子の最新鋭フラグシップ機種であるG2を基本に開発されたau向け専用機種。

auの2013年冬モデルでは、一つ興味深い動きがありました。

これまで、auはかのInfobarを筆頭に時期によりパートナーを変えながら、メーカーとの共同開発で独自設計の端末を幾つも開発してました。

特にここ2年ほど同社は、台湾のHTCと組んでHTC J(ISW13HT)・HTC J butterfly(HTL21)・INFOBAR A02(HTX21)と(後で日本国外で発売された機種のベースになったものも含め)独自性や先進性を前面に打ち出した機種を開発・発表してきました。

ところが今回登場した独自デザイン機種であるisai(LGL22)はその型番が示すように、また以前の記事でも記したように、韓国LG電子との共同開発となったのです。

HTC One MAX
HTC Oneを5.9インチディスプレイサイズに拡大した、いわゆるファブレット機。なぜかこの機種はau向けには提供されていない。

さらに、海外ではこの冬発表された5.9インチ液晶ディスプレイ搭載のファブレット端末であるHTC One Maxが(auがファブレットのラインナップ整備に熱心であるにもかかわらず)一切日本向けの開発が行われないと報じられていて、いささか不可解というか不自然な状況となっています。

au自身は今冬モデルにHTCの新製品がラインナップされていないのは単に製品開発周期の問題であって何らかのトラブルがあったわけではない、としているのですが、実はこの裏で、HTC社内では重大かつ深刻な事態が起きていました。

今回はそんなHTCを巡る諸情勢を見てみることにしましょう。

暗雲垂れ込めるHTCの前途

HTC J butterfly HTL21
2012年12月に発売された、日本市場向けでは史上初の5インチフルHD解像度液晶搭載スマートフォン。初のフルHD機ながら基本設計の完成度が非常に高く、日本国外向けにも一部仕様を変更したモデルが提供されるなど、大きな成功を収めた。

HTCの端末は、少なくともauとの共同開発による日本独自デザインの初号機となったHTC Jと日本市場初のフルHD液晶搭載機となったHTC J butterflyの2機種が控えめに言っても成功と判断できる販売実績を残していて、右肩上がりに製品の完成度が高まっている印象がありました。

しかし、これらの完成度の高い機種の開発・販売が進む間に、HTCでは外部から見ても明らかにおかしな動きが表面化しつつありました。

これまでの製品の企画開発に重要な役割を果たしてきた幹部社員の退社や、デザイナー達の横領・スパイ容疑での逮捕、販売実績の激減や株価の暴落など様々な問題が、およそ一つの企業が存続する間に起こりうるありとあらゆる災厄が一時に降りかかってきたような勢いでもって立て続けに起きたのです。

相次ぐ人材流出と不祥事

特に幹部社員については、auのイベントに積極的に参加するなどして日本でも知られた最高製品責任者(Chief Product Officer)であった小寺康司氏(※ソニー・エリクソン出身)や製品戦略マネージャーであったEric Lin氏、グローバルリテール担当マーケティングマネージャのRebecca Rowland氏、それにグローバル・コミュニケーション担当ヴァイスプレジデントのJason Gordon氏など、製品の企画開発において要となる役割を担ってきた幹部職員が相次いで退職していたことが報じられました。

今思い返してみると、2013年5月20日のHTC J One発売時のイベントには前作HTC J butterflyまでの発売時の主要イベントに参加していた小寺康司氏の姿がなく、代わりにHTCの創業メンバーの一人であり、現CEOでもあるピーター・チョウ(Peter Chou)氏がKDDI田中孝司社長と2人で出席していて違和感があったのですが、この時点で小寺氏は既にHTCを退職していた訳です。

KAZAM 公式サイト
HTC英国法人の元幹部社員が同社退職後に設立した、イギリスのスマートフォンメーカー。公式サイトでは、まるでHTC時代のしがらみを断ち切るようにシンプルで力強い主張が示されている。

ちなみにこうして退職した元社員の中には、HTCイギリスの幹部であったMichael Coombes氏とJames Atkins氏の2人のように退職直後の2013年6月にKazamという新しいベンチャー企業を設立してスマートフォン市場に新規参入したケースもあって、彼らの退職理由がHTCの上層部による経営方針に対する強烈な不満、あるいは反発であったことが見て取れます。

実際、この時期に退職したEric Lin氏(Rebecca Rowland氏と共に退職後はMicrosoftに入社)は自身のTwitterアカウントで「To all my friends still at @HTC -just quit. leave now.it’s tough to do,but you’ll be so much happier, I swear.(まだHTCに残っている全ての友人へ。すぐ(HTCを)辞めてただちにそこを離れろ。辛いことだけど、そうした方が君たちは幸せになれると私は断言する。)」と発言しており、その後も「i didn’t leave for a competitor or a carrier or something. (私は競合相手やキャリアや何かのために(HTCを)去ったのではない。」とHTC社内に何らかの問題があったことを示唆する発言を残していることから、単純に彼らがヘッドハンティングでより条件の良い会社に転職した、というような簡単な話ではないのは明らかです。

Elic Lin氏による該当Tweetその1
Elic Lin氏による該当Tweetその2

そうしたHTC社内のコーポレートガバナンス面での問題の存在を裏付けるように、9月にはHTC Oneなどのデザインを担当してきた副社長兼チーフデザイナーの簡志霖氏ら社内のデザイナー達が同社の(その時点では未発表だった)ファブレット機であるHTC One MAXや同社製最新ユーザーインターフェイスである「Sense UI 6.0」の情報を会社に無断で中国企業に流出させていたことが発覚、台湾の検察当局に拘束されるという不祥事が発生しました。


このスパイ・横領事件を報じる中国時報のページ

そればかりか、彼らはHTC Oneの筐体設計を外部の企業に委託したように偽装して設計費用を横領し、その金で新会社を密かに設立、後は素知らぬ顔で退職する日を待つばかりとなっていました。

ところがHTCを退職する直前になって彼らは会社側にこのあたりの事実を察知され、その訴えを受けた検察当局に拘束されたとのことで、これはもう申し開きのしようのない背任行為と言うほかありません。

製品デザインを統括する副社長がこの有様ではなるほどHTCのコーポレートガバナンスは最悪で、Eric Lin氏ら幹部社員が同社を見限って去っていったのも無理ない話です。

Facebookとコラボしたら大惨敗

HTC First
Facebookと共同で開発された、初のFacebook Home標準搭載スマートフォン。もっとも発売後すぐに肝心のFacebook HomeがGoogle Playで提供開始されたため深刻な販売不振に陥り、発売開始からわずか1ヶ月で価格が1/100に急降下するという悲惨な結果に終わった。

以上のようにそれはもう、グダグダの社内状況に加えてとどめの一撃になりそうなのが、2013年4月にFacebookとの共同発表を行ったHTC Firstの覆い隠しようのない失敗です。

HTC FirstはFacebookに特化した専用メニューを標準搭載する、いわゆるFacebook Phoneとして開発された機種で、当初の予定ではこの機種の発売開始後しばらく経つまではFacebook Homeアプリの他機種向け提供を行わず、先行者利益をHTCにもたらすはずでした。

ところが何をどう考えたのか、Facebook側はHTC First発表から2週間も経たない内にFacebook HomeアプリをGoogle Playに登録・公開、発売されたばかりのHTC Firstのアドバンテージを潰すという仁義も何もあったものではない行動に踏み切り、あわれHTC Firstは発表から1ヶ月未満でバーゲンセール品扱いされる(※アメリカでこの製品の販売を行ったAT&Tの場合、売価99ドルが0.99ドルと発売から1ヶ月でなんと当初の1/100にまで値下げされてしまいました)という、滅茶苦茶な状況に追い込まれてしまいました。

このHTC Firstについては、「Facebook Homeの出来が悪すぎた」上にFacebook側が裏切った、というHTC側にはどうしようもない話が原因での不振(※とはいえ途中で誰か止める人間はいなかったのか、という話にもなりますが)ですから同情の余地が多分にあるのですが、問題はこれと前後して発表されたHTC Oneの当初供給不足です。

HTC製スマートフォンの現行フラグシップ機種であるHTC Oneですが、幹部社員が事前に警告していたにもかかわらずピーター・チョウCEOが判断ミスをして(他に代替の効かない目玉機能である)カメラ関係の部材調達が滞り、発売時に充分な数の製品を用意できずスタートダッシュに失敗する、という重大な問題が発生したのです。

最早満身創痍でどうにもならない

このような不幸や不手際が積み重なった結果、2013年度第三四半期のHTCの営業成績は税引後当期純損失がNT29.7億ドルと初めて赤字を記録することになりました。

HTC releases unaudited results for 3Q 2013

これはHTC Oneのスタートダッシュ失敗の影響が最大の理由と考えられますが、仮にスマートフォン事業が赤字でも他の事業の利益で内部補填できるLG電子やサムスンなどとは違い、HTCがスマートフォン市場に大きく依存する経営体質であることを考えると、端的に言ってこれはかなりヤバめの危険信号です。

企業機密はそれを盗み取ることを躊躇しない中国企業に奪われ、人材はどんどん流出し、判断ミスで製品のシェアも著しく縮小、株価はピーク時の約1割で資金調達も難しくなってくる、というおよそ考えつく限り最悪に近い絶望的な状況では、今後HTCが独力で再建を果たすのはまず不可能です。

こうなってくると、日本で言えば会社更生法の適用を受けるなどの措置に踏み切るか、どこかに気前の良いスポンサーを見つけるか、さもなくば他社に自社を身売りするか、のいずれかしか選択肢は残っていません。

au Infobar A02 HTX21
auとHTCのコラボレーションにより開発された、HTC製スマートフォンとしては現時点で最後の日本向け専用モデル。

そのためか、秋に入ってからHTCが他社に買収される、という観測気球めいた報道が相次いでおり、その候補として日本ではIBMから承継したThinkPadでおなじみのlenovoなどの名が挙げられています。

いつまで経ってもAndroid 4.2以降へのアップグレードも行われないまま放置状態のHTC J butterflyを愛用している筆者としては、HTCにはせめてそれが実現(※ただし、これについてはHTCの提案した新ユーザーインターフェイスへの移行をauが拒否した、という不穏な話も伝わっています)するまでは潰れないでいて欲しい、と祈るばかりです。

また、このような状況ですので、今後auとHTCのコンビによる日本オリジナル設計のスマートフォンが新規開発される可能性は皆無に近く、その意味ではInfobar A02はauとHTCの短くも濃密な関係の産んだ最後の落とし子、ということになりそうです。

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