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連載『bitcoinに迫る!』第8回 ~ゴールドラッシュの後に残るものは?~

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by [2013年12月24日]

前回の記事ではbitcoinを支えるマイニングという行為とそのメカニズムについて考えました。今回はマイニングから見たbitcoinの総量について考えてみたいと思います。

後へ行くほど難しいbitcoinマイニング

bitcoinのマイニングを行う側から見ると、bitcoinの総量が定まっていてしかも産出量が自動調整されるというルールからは、1つの結論が導き出せます。

それは、bitcoinのマイニングにおいては、充分な処理速度と規模のマイニング機器を用いないと設備投資や電力消費に見合った見返り(=bitcoin)が得られない、ということです。

実際、前々回および前回の記事でも触れましたが初期にはマルチコアCPUやハイエンドGPUによるGPGPUでもそれなりにマイニングで利益を得られたものが、マイナー(採掘者)の増加や産出量自動調整メカニズムのおかげで、今やFPGAチップにSHA-256計算処理用の回路を書き込んだものでも採算性が厳しく、ASICによるSHA-256計算専用チップを搭載したモジュールを多数導入してようやく競争力が維持できるという有様になってしまっており、かなり高額の設備投資を行わねば単独でのマイニングを(経済的に)成功させられなくなっています。

このあたりは、実際の鉱山、特に日本の炭鉱が競争力維持のために低効率な中小炭鉱を廃止し、高効率な大規模炭鉱を保護・強化するスクラップ・アンド・ビルド政策を実施し、老朽化した炭鉱を次々に閉山する一方で規模の大きな大手炭鉱に巨費を投じて巨大な立坑櫓を建設するなど様々な設備投資を行っていった、という過去の歴史を想起させる部分です。

それは、限られた資源をより効率的に採掘する、という命題のより良い解決策を模索すると結局こうした考え方に行き着く、ということなのですが、同時にその類似性は、bitcoinマイニングの「これから先」に起こる出来事を予告するものでもあります。

「上限に達した後」を考える必要がある

計算により導き出されるbitcoinの最大数が20,999,999.9769 BTCとあらかじめ定まっていてそれ以上増えることはない、とされている以上その上限に達した瞬間、これまで用いられてきたマイニングのための設備は全て意味を喪います。

もちろん、それらを別目的に転用して有効活用できるのならば問題は無いのですが、大規模設備投資を必要とする専用ハードウェアは、往々にして潰しが効かない(=転用が困難)ことが多く、bitcoinの場合でも他にいくらでも使い道のあるGPUカード(※実際、FPGAの出現でGPGPUがbitcoinマイニングで競争力を失った頃には多数のハイエンドGPUカードが中古市場に放出されて値崩れを引き起こしています)やプログラマブルで後からチップ内部の論理回路を書き換えられる(=別目的に転用できる)FPGAはともかく、SHA-256の計算にしか使えない設計の論理回路だけを搭載したASICを導入した場合、その設備投資のための投下資本が充分回収できる前にそれらが完全に無用の長物と化してしまう恐れがあります。

前回の記事でSSLの処理を肩代わりさせるためのアクセラレータをご紹介しましたが、あの種のチップ/拡張カードでもSSLのバージョンアップで暗号処理の中身が仕様変更された際に対応できず、高価な機器があっという間に時代遅れの粗大ゴミと化したこと(そのため、当該アクセラレータカードを販売していた各社はしれっとした顔で「販売終了」あるいは「サポート終了」を案内しています)がありました。

ASRock H81 Pro BTC
「BTC」という型番末尾のサフィックスが示すように、「bitcoinのGPUマイニングに最適化した」と謳うパソコン用マザーボードの一例。PCI Expressスロットを多数備え、GPUカードを多数搭載できることをもってbitcoinマイニング対応と称する。もっとも、bitcoinマイニングのトレンドがASICに移行し、GPUどころかFPGAですら競争力を失いつつある今となっては、この種のボードを利用してGPUマイニングを行うメリットは皆無である。

ASICはFPGAや汎用のCPU・GPUと比較して電力効率に勝る反面、回路が固定的に構成されているため、その回路で処理できないような仕様変更が必要となった際には対処できないのです。

bitcoinそのものの仕様は(少なくともマイニングでコイン総数が上限値に到達するまでは)変更されることはないでしょうから、突然の仕様変更で折角の設備投資が無駄になってしまう、といった事態に陥ることはないと考えられますが、それはそれとしても最終的に投資に見合った利益が得られるかどうかが不確定なことには変わりはありません。

最近でもパソコン用のマザーボードメーカーまでが「bitcoinのマイニングに最適」と称して多数のPCI Expressスロットを備えたマザーボード(※この仕様自体はそれほど珍しいものではなく、実のところこれを今更わざわざ「bitcoinのマイニングに最適」と称して売り出すのは誇大広告かつ時代錯誤も甚だしい話であったりします)を売り出すなどしていることから、未だにbitcoinマイニングのための機器の製造販売はビジネスとして「おいしい」ことが見て取れますが、これもまた「ゴールドラッシュで一番儲かったのは採掘道具の販売業者だった」という教訓が正しいことを証明しているだけでしかなく、bitcoinマイニングのための設備投資に邁進することを正当化するものではありません。

実際、先に挙げた日本の炭鉱の場合でも末期に大規模設備投資を行った炭鉱(※スクラップ・アンド・ビルド政策から俗に「ビルド坑」と呼ばれました)は、その内の少なくない数が最新鋭設備導入のための巨額の投下資本を回収できずに閉山・会社倒産するなどの悲惨な末路を辿っており、この問題はいずれ必ず表面化することでしょう。

設備投資をせずにマイニングを行う

さて、マイニングには基本的に大量かつ高速の計算資源が必要です。

そのため、前節でも触れたようにGPUだのFPGAだのASICだのといったハードウェアの導入がマイニングで利益を得ようとする人々の間で大流行したわけですが、総量上限への到達時期が視野に入っている現在、自分でハードウェアを揃えず電力負担もせずにマイニングの成果を得る方法が一つあります。

それは、何らかの有用そうなソフトウェアを開発し、それを無償公開する際の契約条件として、そのソフトの常駐とバックグラウンドでのbitcoinマイニング作業の実行を承諾させる、というやり方です。

Your Free Proxy公式ページ
常駐型のツールバーに「堂々と」bitcoinマイニングソフトを仕込んだ事が発覚し、猛烈な非難を浴びたプロキシサーバソフトの公式ページ。「Free download」と「7-day Trial」の2つのダウンロードボタンが用意されているが、2013年12月24日現在、押しても403エラーが返される状態となっている。

具体的に言えば、見かけ上そのソフトで別の役割を果たしているように見せかけて(実際にも一応その目的での動作をさせて)、実はbitcoinマイニングの処理をそのソフトをインストールした全マシンで分散して行わせることで、自分たちは電力消費も設備投資も行わずにマイニングを結果だけを受け取って利益を得るということで、ほとんどトロイの木馬型のウィルスやマルウェアも同然の手口です。

この種の手法はその処理による負荷が低ければ、あるいはその負荷に見合っただけの利益をユーザーに提供できるのならば、まだしもそれほど問題視されないのですが、問題はbitcoinマイニングが何をどうしても非常に「重い」ことです。

たとえ1データブロック単位の処理であっても、SHA-256のハッシュ算出が重いことは既にご説明してきた通りです。それを他人様のパソコンのバックグラウンドタスクとして実行させ続けるのですから、特に比較的ローエンドのパソコンにそうしたソフトを導入した場合やけに動作が重くて使いにくい、CPUの負荷率が何もしていないのに常時50パーセント以上になっている、といった形ですぐに問題が露呈することになります。

実際、Mutual Publicという会社の提供しているYourFreeProxyなるプロキシサーバソフトのFree版(with Ads)ツールバーにこの種の分散処理型bitcoinマイニングプログラムが仕込まれていて、しかも利用規約に堂々とそのことが明記されていた由で、それが発覚してネット上で猛烈に非難され、現在同社の公式サイトではこのソフトは(7日間利用可能のトライアル版も含めて)ダウンロードできなくなっています。

この手法は確かに(形式的に)ユーザーの「同意は得ている」ため、法的な問題は回避できるのですが、これを行う者は、行っていることがばれた場合には囂々たる非難を浴び、真っ当な有償版ソフトの販売にも悪影響が出る可能性が高いことは覚悟しておく必要があるでしょう。

ウィルス製作者にも注目されるbitcoin

広告表示だけでもそれなりの負担をユーザーに強いるのに、更に電力をバカ食いする(=ユーザーに金銭的な負担を強いる)bitcoinマイニングソフトをバックグラウンドタスクで公然と実行させていたのですから、非難を浴びるのは当然の話ですが、実のところこれは氷山の一角です。

というのも、最近のウィルスやマルウェアではこのbitocoinマイニングを感染先で分散処理させて、利益(つまり採掘されたbitcoin)だけを作者が受け取るようなタイプのものが増えているためです。

Folding@home
スタンフォード大学が中心となって進めている、タンパク質の折りたたみ構造解析プロジェクト。難病の治療法を発見するためにスタートしたプロジェクトで、PlayStation 3のシステムソフトウェアに標準でこのプロジェクトに参加するためのアプリが組み込まれていたことで知られる。ちなみにこのサービスを走らせた状態でPlayStation 3を1ヶ月放置しても電気代が100円増える程度であった。

元々、この種の常駐型分散処理ソフトを利用したグリッド・コンピューティングは、BSD版UNIXの開発で有名なカリフォルニア大学バークレー校Space Sciences Laboratoryが行っているSETI@home(※地球外知的生命体探査プロジェクトの一環で天文台の観測データを処理)やスタンフォード大学が主導するFolding@home(※タンパク質の折りたたみ構造解析を行う。2012年10月までソニーのPlayStation 3にこのソフトが組み込まれて大きな成果を挙げました)のように、学術的な(そして法外に「重い」)計算処理を分散して行うことでその計算時間を短縮させ研究に役立てよう、という考え方で10年以上前から存在していたのですが、それがbitcoinマイニングと、つまり「利益」に結びついたことでウィルス製作者に注目される様になったのです。

これは逆説的に言えば、少なくともウィルス製作者にとっても魅力的に見える程度にはbitcoinの価値が認められるようになった、ということで、少なくともbitcoinの埋蔵コインの採掘が上限に達するまでは、こうした「流行」が続くことになるでしょう。

bitcoinの総量上限の問題は、こんなところにも影響があるのです。

次回はbitcoinマイニングの収支について考えてみたいと思います。

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