NICTが開発した、テレビ放送帯のホワイトスペースを用いたLTE技術による移動通信システムの接続概念図なお、右上のEPC(Evolved Packet Core)は「進化したパケットコア」を意味する名称が示すとおり、端末の位置管理や認証、基地局間のハンドオーバーといったLTEネットワークの管理を司る機器である。

第二のプラチナバンドになり得るか? ~各国ホワイトスペース事情~

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by [2013年11月29日]

皆さんは「ホワイトスペース(White Space)」という言葉をご存じでしょうか?

日本語訳すれば「余白」という意味になるこの言葉、無線通信の分野では単なる余白という意味ではなく、ある利用目的で帯域割り当ての行われた周波数帯の内、割り当て対象が使っていない、あるいは使っていても本来の使用目的に与える影響が充分小さい場合に、本来とは別の使用目的で二次利用できる周波数帯のことをこう呼びます。

このホワイトスペースはそのままでは一般的な通信には利用できないのですが、このほど独立行政法人 情報通信研究機構(National Institute of Information and Communications Technology:NICT)が、テレビ放送帯のホワイトスペースでLTE(Long Term Evolution)技術を活用した移動通信システムを開発しました。

テレビ放送帯のホワイトスペースで、LTE技術を活用した移動通信システムを世界に先駆け開発

そこで今回は、いささか扱いにくいホワイトスペースをこの移動通信システムがどのようにして利用しているのか、また各国でこの技術はどのように開発されているのかを考えてみたいと思います。

日本におけるホワイトスペース事情

さて、日本の地上波デジタルテレビ放送に限らず各国の一般的なテレビ放送では、放送される情報量の大きさなどから、各放送局からの電波送信についてUHF(Ultra High Frequency:極超短波)帯を用いています。

日本の場合は、地上波デジタルテレビ放送に470MHz~710MHzの帯域(チャンネル13~52に相当)を割り当てて利用されているのですが、実はこうしたテレビ放送においては、各エリアごとに割り当てられた帯域全てを常時使用しているわけではありません。

具体的には、例えば東京都内23区とそれに隣接する神奈川県などのエリアでは、同じ放送局でもチャンネルを変えて周波数帯の割り当てを行っていて、神奈川県エリアに割り当てられたチャンネルは東京では空きチャンネルとなっています。つまり、同じ放送について隣接エリアごとに周波数帯を変えて千鳥配置状としてあるのです。

これは、隣接したエリア同士で同じ放送を同じチャンネルで行った場合、両エリアの境界付近では距離の異なる2つの放送局から同じ周波数帯で電波が届くために、電波干渉が生じたりするのを未然に防止するための措置です。

そのため、全体で40あるチャンネルの内、ある特定のエリアで割り当てて使用されている周波数帯(チャンネル)の数は1エリアあたり最大でも8か9程度に留まり、意外なほど少なくなっています。

つまり、日本の周波数帯割り当ては、基本的に総務省により全国区で決定されるため、地上波デジタルテレビ放送に40チャンネル分もの帯域が割り当てられたのですが、エリアごとに考えた場合には、(前述の干渉対策の必要があるため、致し方ないのですが)実際には使われていない空きチャンネルが常時必ず30以上存在するという、いささか効率の悪いことになっています。

テレビに割り当てられた以外の周波数帯は逼迫している

一方、テレビ以外の移動体通信などでの周波数需要は、無線LANや携帯電話の普及などで年々増加の一途をたどっています。

移動体通信、特に携帯電話などの場合、端末サイズの制約からアンテナサイズの小型化が特に求められ、また送受信されるデータ量の大きさ、それに基地局との最大通信距離などの問題から、テレビと同様、UHF帯が一般に利用されています。

そこで、日本の電波行政を司る総務省は、これまでVHF帯やUHF帯を大きく占有してきた地上波アナログ放送を停波し、これに伴い発生した空き周波数帯を原資とすることで、大がかりな周波数帯の割り当て再編を断行しました。

しかし、それでもなお、携帯電話(スマートフォンなどを含む)に割り当てるのに好適な特性のUHF帯の周波数帯域は絶対的に不足していて、もはや通常の割り当て方法では現状以上の割り当て帯域拡大はまず望めません。

そのため、これ以上の通信高速化やネットワークトラフィックの輻輳の軽減・解消を実現するには、ホワイトスペースの周波数帯域をうまく活用してやる必要があります。

移動体通信でホワイトスペースを有効活用する手段

もっとも、これらのホワイトスペースにあたるチャンネルを全て、二次利用できるわけではありません。

なぜなら、周波数帯によっては様々な事情で既存のテレビ局の放送に干渉するものがあって、そうしたチャンネルは利用を差し控える必要があり、また放送局サイドでもホワイトスペースを活用する動きがあって、既に2012年4月2日に「平成24年総務省令第23号」を根拠として放送法施行規則が改正され、地域限定の狭いエリアを対象としたエリア局に対して、このホワイトスペースを利用した地上一般局免許が認可されるようになっているためです。

また、UHF帯を使用するワイヤレスマイク(特定ラジオマイク)の周波数帯割り当ても競合するため問題となっています。

これについては、現行のA帯・B帯の内A帯と呼ばれる周波数帯の利用割り当てを廃止し2019年4月1日以降それら全ての使用を禁止し、さらに新規格としてUHF帯の470MHz~714MHzまでと1240MHz~1252MHz・1253MHz~1260MHzの帯域を割り当てることで代替措置としています(なお、この新ワイヤレスマイクもホワイトスペースを利用する様に規格が定められています)。

つまり、ホワイトスペースを利用して高速無線通信を行いたい場合、既存放送局との干渉を回避し、他にホワイトスペースを利用しているエリア局や機器などがないか確認せねばなりません。

そこで、GPSなどを用いてその端末の所在位置情報を検出し、その座標においてホワイトスペースとして利用可能なチャンネルの情報を取得した上で、それらのチャンネルを自動的に切り替えつつ割り当て利用するための仕組みが必要になります。

NICTが開発した、テレビ放送帯のホワイトスペースを用いたLTE技術による移動通信システムの接続概念図なお、右上のEPC(Evolved Packet Core)は「進化したパケットコア」を意味する名称が示すとおり、端末の位置管理や認証、基地局間のハンドオーバーといったLTEネットワークの管理を司る機器である。

今回NICTが開発したのは、まさにそのための仕組みです。これは全国を対象としたホワイトスペースのデーターベースをサーバ上に構築し、各エリアで二次利用者が「使える」チャンネルを、二次利用者の端末からの問い合わせに応じて基地局を介して端末に伝え、それを受け取った端末側ではその応答で提示された利用可能なチャンネルを動的に切り替えて利用するようになっています。

このシステムの巧妙なところは、そうした端末の位置管理や認証、あるいは基地局同士のハンドオーバーといった煩雑な処理を、既存のスマートフォン用LTEネットワークで用いられているEPC(Evolved Packet Core)と呼ばれる機器に任せることで、特に大規模な開発を行わず低コストにシームレスな通信と切替を実現したことです。

また、LTE Release 8準拠の技術を積極的に活用した結果、信号帯域幅を5MHz、10MHz、20MHzの中から選択可能とし、テレビ放送1チャンネルの信号帯域幅が6MHzであるため、複数のチャンネルが連続して空いている場合、通信速度を1チャンネル分の場合と比較して2倍あるいは4倍に高速化が可能です。

さらに、このシステムはNTTドコモやauのLTE通信で使用されている周波数分割複信(FDD)とソフトバンクが採用している時分割複信(TDD)の2種の通信方式を切り替えて利用可能でもあるため、トラフィック量に合わせて動的に最適な通信方式を切り替えて運用することも可能とされています。

キャリアアグリゲーション技術があれば・・・

今更お断りするまでもないことですが、このNICTによる新しい移動通信システムは研究開発途上の試作品です。

そのため、このシステムの出来をあれこれ評価するのは避けたいのですが、あえて一つだけ言えることがあるとすれば、それは「このシステムにこそ、LTE-Advancedで定義されるキャリア・アグリゲーション機能が必要なのではないか」ということです。

そもそも商用レベルでまだキャリアアグリゲーションを導入したLTE-Advancedネットワークを稼動させているところが皆無のため、時期尚早という話もあるのですが、端末の位置などによって利用可能なチャンネルがダイナミックに変化するホワイトスペースの特性を考慮すれば、連続するチャンネルを単に2本あるいは4本束ねただけでは効率が悪く、飛び飛びに空いているチャンネルを束ねて使用できるようにすることが望ましいと言えます。

それこそがキャリア・アグリゲーション技術ですが、このシステムが商用化・製品化される頃には携帯電話キャリア各社によるLTE-Advancedの導入も本格化していると考えられるため、NICTさんにもLTE-Advanced技術によるこのシステムのブラッシュアップを期待したいところです。

日本国内のホワイトスペース事情についてはこれくらいにして、次は海外情勢を見てみるとしましょう。

欧米ホワイトスペース事情

ホワイトスペースについては、日本国外でも先日の記事でご紹介したアメリカのGoogleやマイクロソフト(両社ともアメリカ国内でのホワイトスペース利用に不可欠なテレビ周波数データベースの管理者となっています)など、米英を中心に研究開発が続けてられています。

特にマイクロソフトは、ケニアの情報通信技術省および同国の通信事業者インディゴ・テレコムとの提携による高速無線インターネット環境展開プロジェクト「Mawingu」でこのホワイトスペースを利用した高速無線インターネット環境の実用試験を行うところまで開発が進んでいます。

もっともこのプロジェクトで用いられているシステムは、電力インフラも満足に整備されていないエリアで有線インターネット接続の代替品として用いられる据え置き型システムが基本で、通信アンテナ「塔」とセットで開発されているといいますから、これがただちにモバイル機器に応用される可能性が低そうです。

ちなみに、マイクロソフトやGoogleが本拠を置くアメリカ本国では2008年頃からテレビ帯ホワイトスペースの利用が検討されていて、TVBD(TeleVision Band Device)として2012年1月からノースカロライナ州ウィルミントン周辺を皮切りに、ホワイトスペースを利用したシステムによる商用ブロードバンド通信サービスが開始されています。

一方、イギリスでも地上波デジタルテレビ放送への移行を控えた2009年頃からTVBDの導入へ向けた制度整備や技術的な検討が行われています。

最終的に問題となるのは互換性か

イギリスでのこうした動きは、将来的にイギリス連邦に属する各国に波及すると考えられるのですが、そうして各規格が普及した場合、問題となるのは機器の相互互換性です。

特にこのホワイトスペースの利用ではデータベースへのアクセスが関わっていて、ある程度以上は厳密に規格化する必要があるため、先行するアメリカとそれ以外の各国での規格の統一・仕様のすり合わせが必要となるでしょう。

というか、これができていないと海外旅行などで色々困ったことになるので、ホワイトスペースの利用をプラチナバンド並の価値のあるもののするためにも、このあたりの規格の国際規格化が必要ではないでしょうか、

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