Google 「Project Link」公式サイト

IT帝国主義が21世紀のアフリカを席巻する ~Googleとマイクロソフトのアフリカ戦略~

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by [2013年11月28日]

歴史は繰り返す、という言葉がありますが、往々にして当事者達がそれをそうと意識することもないままに、歴史が再演されてしまうことがあります。

そして今、19世紀後半にアフリカで欧米列強諸国が行った帝国主義政策を巡る顛末が、主な出演者としてWindows Phone 8を擁するマイクロソフトと、Androidを擁するGoogleという2大IT企業を得て、形を変えて再演されようとしています。

そこで今回は、最近各国への投資、あるいは事業協力といった形で、ながらくITの僻地状態が続いてきたアフリカへのコミットメントを深めつつあるマイクロソフトとGoogleの思惑と戦略、それに現地事情について考えてみたいと思います。

アフリカは日本からはあまりに遠い

物理的な距離が離れていて、しかもその産品や文化と直接触れる機会が少ないためか、日本でアフリカの情報を手にする機会は(ユニセフなどによる飢餓救済キャンペーンや、どこどこの国で暴動が起きた、といったいささかネガティブなニュースを別にすれば)あまり多くはありません。

その一方で、日本の企業や商社、政府関係者、それに遠洋漁業船団などは第二次世界大戦後、アフリカの地に様々な足跡を残してきました。それはODAによる政府開発援助の一環としての技術協力であったり、資源輸出契約のための交渉であったりしました。

しかし実際のところ、そんな出来事に興味を持ちアフリカの文物に親しむ人はごくわずかで、例えばモーリシャスとジブチとブルンジがそれぞれどのあたりにあって、かつそれらの国々の首都が何という名なのか、と尋ねられて即答できる人は恐らくごく少数でしょう。

そのため、日本でアフリカのIT事情を知る機会はほとんど皆無に等しいのですが、一般の日本人が意識しないだけで、この地域には潜在的に非常に大きな消費市場が存在します。

何しろ2013年現在、アフリカ大陸の総人口は10億人を超え、しかもその内の8億人以上はこの60年間に生まれているというのですから、規模が大きくしかも非常に「若い」市場であると言えます。

もちろん、同じアフリカ大陸の諸国でも、飢餓やエイズをはじめとする伝染病、内戦、為政者の失政、低い教育水準、あるいは貧困などの問題で消費市場がどうのという以前の状況の国も少なくありません。

日本貿易振興機構(JETRO:Japan External TRade Organization)が2012年度に調査を行い、今年4月に発表した「アフリカビジネスの課題と可能性(2012年度「在アフリカ進出日系企業実態調査」から読み解く)」というレポートでも、調査を受けた日本の企業の過半数が「政治的・社会的安定性」をアフリカの問題点として挙げており、政情不安定のリスクを強く意識せざるを得ない状況にあることが判ります。

「アフリカビジネスの課題と可能性(2012年度「在アフリカ進出日系企業実態調査」から読み解く)」

ですが、豊かな鉱物資源や農業生産を背景として相応に経済成長を続けている国もモザンビークやモーリシャスをはじめ幾つかあり、特に政治的な安定度の高い南アフリカなどでは中間層が急速に台頭して消費市場も拡大しており、今後の経済成長という観点では、(政情さえ安定していれば)かなり有望な地域であると言えます。

もっとも、有望であるといっても下手をすると送電線や電話線といったインフラの整備さえ満足にできていない地域がアフリカには多く、そのためIT技術の普及には大きな問題を抱えているのも確かです。

ラスト・ワンマイル問題

アフリカの各国で長らくIT技術の普及を阻んできたもの、それはあまりに広大な国土に対し非常に貧弱な電力・通信インフラでした。

電力供給については、低価格化が進んだ太陽電池やガスを燃料とする発電機が普及することである程度の問題解決が図られましたが、地方の集落などで通信インフラが未整備であることによる問題は深刻でした。

というのも、そもそも各国の主要都市を結ぶ幹線系統の整備だけでも莫大な費用が必要で、そこから先、地方の各集落まで電話線を敷設するとなると、経費的にほとんど悪夢に近い状況であったためです。

一般に固定電話の通信回線では、銅線でも光ファイバーでも一定の間隔で中継増幅器と呼ばれる長距離搬送によって減衰した信号を増幅して送り出す、ブースターの役割を果たす機器を挿入しなくてはなりません。

そうしたことからアフリカの場合、主要都市に置かれた電話局から各家庭までの俗に「ラスト・ワンマイル」と呼ばれる区間が1マイル(約1.6km)どころか10マイル以上もの長さになることも不思議ではなく、ただ一軒の家庭に電話を引き込むためだけに膨大なコスト負担を強いられる、という問題がありました。

携帯電話+太陽電池の爆発的な普及

そのため、アフリカで電話が本格普及するには、21世紀に入りエリクソンが開発したNMT (Nordic Mobile Telecommunication System)やアメリカのArrayCommと日本の京セラが共同開発したiBurstなどの各規格に準拠した携帯電話が一般に普及するのを待つ必要がありました。

これらの携帯電話を携帯用太陽電池とセットで用いることで、従来の固定電話とは比較にならないほど低コストでの電話網構築が可能となったのです。

従来、アフリカでは長らく固定電話が全く伸び悩んでいた(※ブロードバンド回線の普及が始まった2013年現在でも、その利用率は11パーセント前後と低い水準に留まっています)のとは対照的に、経済が活性化しいわゆる中間層の購買力が急速に増大し始めた2006年頃から携帯電話の普及率が文字通り爆発的な勢いで急上昇しました。今やアフリカ大陸の総人口の6割以上、つまりアフリカの人々の2人に1人は確実に携帯電話を所持している、という状況となっています。

もっとも、そのほとんどは2Gあるいは3G世代の通信規格に対応するフィーチャーフォンで、スマートフォンの普及はようやく始まったばかりとなっています。

これについては、フィーチャーフォンとスマートフォンの間で端末価格差があまりに大きいことや、各国の携帯電話サービスにおけるデータ通信料金が定額制ではなく従量制であることがスマートフォン普及の障害になっていると指摘されており、それを裏付けるように現行の携帯電話ではパケット料金が安くて済む=送受信されるデータ量の少ないショートメッセージ(SMS)が多用されているとされます。

つまり、スマートフォン市場の拡大を狙う欧米の各社にとって今のアフリカ市場は、19世紀後半、彼らの父祖がかつて失礼なことに「暗黒大陸」と呼んだアフリカ大陸を列強7カ国で領土争いを繰り返しながら順次植民地化していったときと同様、自分たち(の製品であるところのスマートフォン)が制覇すべき(旧式のガラケーが跳梁跋扈する)未開の地でしかない、ということなのです。

ここから先は、こうしたアフリカ市場の「先」にあるものを見据えて帝国主義的な拡大政策に従って行動を起こしつつある各社の思惑や戦略を見てみることにしましょう。

「4 AFRIKA」を謳うマイクロソフト

欧米の大手IT企業で恐らく一番早い時期にアフリカに進出した企業の一つがマイクロソフトであったことは、同社が商用ソフトウェア販売の草分けであり世界中に現地法人を設立してきた経緯を考えれば、何の不思議もありません。

Microsoft 「4Afrika」プロジェクト公式サイト

そんなマイクロソフトがアフリカ進出開始20周年となる今年、「4 AFRIKA(アフリカのために)」をキーワードとして、2016年まで続ける予定で一大啓蒙・通信インフラ整備キャンペーンを開始しました。

4 Afrika

スマートデバイスへの手ごろな価格でのアクセス手段の提供、アフリカの開発拠点でのアフリカ向けアプリの開発支援、起業家の育成、と3つの分野に焦点を当て、若年層の育成と企業従業員の訓練、それに通信インフラの整備を掲げるこの長期計画では、既にAndroid搭載スマートフォンでアフリカへの進出を開始していた中国のHuaweiとの提携による「Huaway 4 AFRIKA」と称する低価格Windows Phone 8搭載スマートフォンの開発・販売、ケニアの情報通信技術省および同国の通信事業者インディゴ・テレコムとの提携による高速無線インターネット環境展開プロジェクト「Mawingu」の推進、それに学生によるアプリ開発を支援する「AppFactory」の開設、といったプロジェクトが順次展開されています。

その手法は、やはり彼らの父祖が植民地として狙った地にまず宣教師を送り込んで教会や学校を建てさせて地元住民の教化や宣撫、あるいは教育を行い、続いて鉄道を敷き道路を整備して資源奪取の手段を確保していったのと何ら変わるところがありません。

歴史は繰り返す、とは正にこのことなのでしょう。

ホワイトスペースを利用する「Mawingu」

さて、今回の「4 AFRIKA」プロジェクトの中で特に注目されるのが、スワヒリ語で雲、つまりクラウドという意味の名を与えられた「Mawingu」プロジェクトです。

これは、先に記したラスト・ワンマイル問題を解決するためにマイクロソフトが研究してきた技術を利用して行われているもので、本来テレビ放送のために割り当てられているものの実際には使われていない空き周波数帯(ホワイトスペース)を利用して無線インターネット接続を行おう、というものです。

このプロジェクトは、ケニヤでの成否を確かめた上で、上手く行った場合には今後アフリカの各国でこの方式の試験が行われることになっています。

実はGoogleもホワイトスペース利用を考えている

Google 「Project Link」公式サイト

さて、マイクロソフトは自社のアフリカ進出20周年にかこつけてこのような大規模な、いかにも帝国主義的な拡張政策を推し進めているわけですが、同社がこれによって不振のWindows Phone 8をアフリカで成功させようと画策しているのと同様に、Googleもまた、この大きな未開拓市場に目を付けていました。

Googleは創業から10年目に当たる2008年には既にケニヤの首都ナイロビに現地法人のオフィスを構え、この頃から将来的なアフリカ市場の成長を見据えた行動をとっていました。それから約5年、特に鳴かず飛ばずの状態だったのですが、今月の20日、同社はProject Linkと称して「A better way to connect(よりよい接続方法)」をキャッチフレーズとする、高速光ファイバー接続とホワイトスペース利用による高速無線インターネット接続環境の普及を目指すプロジェクトを公表しました。

Google Prpject Link A better way to connect

同じような計画になったのは決して偶然ではない

以上、大手IT企業2社がそれぞれ似たような計画を立てて推進しているわけですが、こうまで似通った計画となったのは、故無きことではありません。

むしろ、両社が同じ程度には目端が利いて商機に敏感だったからこそ、このようなバッティングが起きたのだ、と言って構わないでしょう。

同じ土地で、同じ購買層を対象に、同じように自社製品であるスマートフォンやタブレット、それにそのOSと付帯するサービスを売り込むことを最終目的としているのですから、似通った計画になっても不思議はないのです。

2社でタイミングも揃ったのは、アフリカの経済発展が、今のこの時期になるまで十分成長できていなかったからでしかありません。充分な収穫(利益)が見込めるようになったから、刈り取った収穫物を運ぶための道(※無線インターネット接続回線)を整備した、という以上のものではありません。善意がないとはいいませんが、それが全てというわけでもないのです。

もっとも、こうした同種で完全に競合関係にある政策の衝突もまた、19世紀後半の帝国主義の時代によく見られた出来事でした。高校の社会で世界史を選択しておられた方なら、ドイツ皇帝の主導する3B政策とイギリスの主導する3C政策がアフリカ大陸で衝突し、それがやがて第一次世界大戦に結びついていったことを思い起こされるかもしれません。

無論、当事者であるこれら2社はその計画で高邁な理想論を唱えてはいるのですが、マイクロソフトがしきりにアフリカに根付いた土着的な施策であることをアッピールしているのに対し、Googleの施策にはそんな話はかけらもなく、単に通信インフラの整備、つまりただ富を吸い上げる手段を用意し、アフリカの各国を自社IT技術およびサービスの植民地化しようとしているとしか見えません

その点で先にも述べたように、「AppFactory」を開設し、地元の学生達にアプリ開発技術を習得させよう、という方針を示すなど、土着化政策とでもいうべきものを示しているマイクロソフトはまだしも収奪的でないように見えるのですが、これとて宣教師達による学校運営と本質的な部分で何ら変わるところはなく、そのアプリ開発技術というのがWindows 8/8.1用のストアアプリやWindows Phone 8用アプリだ、という部分で馬脚を現してしまっています。

無論、マイクロソフトもGoogleも営利企業です。ですから、現在のWindows Phone 8搭載スマートフォン各機種が多少持ち直したとは言え、Android搭載スマートフォンに対して圧倒的に劣勢を強いられている状況にあることを考えれば、マイクロソフトがアフリカの学生達に対する「教育」において、そうした自社に有利になるような利己的な振る舞いを行うのはある意味当然の話であると言えます(そうした、いわゆる「紐付き」の教育支援は日本でも珍しくありません)。、

しかし、それはそれとしてもアフリカを舞台にしてこんな行動を起こされると、驚くほどに1世紀前の帝国主義時代の列強の行動様式が当てはまってしまい、正直この先本当に大丈夫なのだろうか、と不安になってしまいます。

今後のマイクロソフトとGoogleによる対アフリカ政策には要注目です。

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