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グーグル、アップルを巻き込んだスマホ大変革が2015年に起こる根拠(7/7)

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by [2013年8月27日]

第6回目では来たるべきスマホ用CPU像について考えました。第7回目では、未来のプロセッサのもたらすものについて考えます。

第1回 「小さくすれば速くて節電に」 はこちら
第2回 「CPU高速化の秘密」 はこちら
第3回 「速度向上の壁」 はこちら
第4回 「速度が出せないなら物量で解決だ」 はこちら
第5回 「64ビット化で大容量メモリを」 はこちら
第6回 「来たるべきプロセッサ」 はこちら

新時代のプロセッサがもたらすもの

前回までの記事でご説明した内容から整理すると、今後登場するであろう、ハイエンドスマートフォン用統合プロセッサ(およびその周辺)の基本的な構成は以下のようになると考えられます。

・64ビットアーキテクチャ準拠で、最大3GHz~4GHz程度で動作する4コア(※big.LITTLE技術(※1)による4+4コア構成などを含む)以上のCPUコア
・強力かつCPUとの間でシームレスなリソース共有の可能な内蔵GPU
・1chないしは2chのメモリインターフェイスと、これに接続された4ギガバイトのメインメモリ
・20nmプロセスあるいは14nmプロセスで製造されたチップ本体

ここまでやってしまうと、現在の一般的なパソコンすら遥かに上回る高性能、ということになりかねません。

しかし、メーカー各社の開発状況を見る限り、どこもこのクラスのプロセッサを1つのゴールに設定して開発を進めているのは確かです。

さて、それではこうした新世代プロセッサを使えば、どのようなメリットが得られるのでしょうか?

  • (※1)big.LITTLE技術:ARMの新技術。比較的大型(big)で高性能のCPUと、小型(LITTLE)で低消費電力のCPUコアを組み合わせる。その結果、スマートフォンやタブレットのバッテリ駆動時間を延ばす。
  • 理想のAndroid OSを実現するには今とは比べものにならないほど強力なプロセッサが必要だ

    現在のスマートフォンで広く普及しているAndroid OSはLinuxを基礎とし、ネイティブコードアプリとJavaアプリを併存させるために複雑な階層構造を備え、それゆえにどうしても挙動が「重く」なってしまう傾向があります。

    それがアンチテーゼとしてFirefox OS(※2)などのWeb OSが誕生する一因となったわけですが、先に挙げたような「未来のスマホ用プロセッサ」でプロセッサパワーが充分過ぎるほど大きくなれば、いかに重装備のAndroid OSと言えどサクサク快適に動作するようになるのはほぼ確実でしょう。

    もっとも、サクサク動作にはGPUとメインメモリの帯域性能の2つも大きく影響するため、単にCPUの演算能力だけ向上しても意味がありません。つまり、いかにバランス良くCPU・GPU・メモリの3要素が高速化するかが決め手となります。

    また、根本的な話としてLinuxを含むUNIX系のOSは、本質的には十分なパフォーマンスを得るにはメモリがたくさん搭載されていた方がハッピーで、実メモリの不足を補うために仮想記憶機能がある、という(※これは絶対的な容量の相違はあるものの、1980年代のBSD UNIX全盛期から変わらぬ傾向です)かなりメモリ喰らいのOSです。

  • (※2)Firefox OS: Linuxが基盤となり、その上でFirefoxが使用されているHTMLエンジン「Gecko」が直接動作するOS。Android OSでWebアプリを起動する場合、①基盤OSとしてLinux →②Dalvik VMが動作→③Webブラウザが動作→④Webアプリが動作という流れになる。しかし、Firefox OSなどのWeb OSを使用すれば、Dalvik VMのような中間レイヤをほとんど通す必要がないという利点がある。
  • 現行のAndroid OSにとって現行の端末の性能は充分なのか?

    そのため、たかだか1ギガバイトや2ギガバイトしかメインメモリが無い環境(それもGPUとCPUがメインメモリを分け合う状況)でタッチパネルで操作するグラフィカルユーザーインターフェイス(Graphical User Interface:GUI(※3))まで備えたシェルプログラム(※4)を動作させ、更にそのバックグラウンドで仮想マシンを動作させてJavaアプリを実行させる、という現在のAndroid OSの構成は、現状利用されている端末で充分満足できる性能が得られるものかと言えば、恐らくそうではありません。

    そもそも、OSのバージョンアップの度に対応端末の派手な足切りが発生する、というか数えるほどしかアップグレード対応する端末が発表されない、という状況そのものが、現在のAndroid OSの要求するCPUやメモリ容量といった端末の基本スペックについて本当にぎりぎりで妥協した結果でしかない、つまり端末側はまだ全く成熟しておらず、いわゆる「枯れた」ハードになっていないということを逆説的に証明している、と言えます。

    むしろ現在のAndroid OSのバージョンアップ状況を見ていると、開発元であるGoogle側には目標とする「理想のAndroid OS」とそれを実行させるための「理想のAndroid OSマシン」のスペックがゴールラインとして常に先にあって、端末の性能が向上して「理想のAndroid OSマシン」に少しでも近づく度に、その「理想のAndroid OS」の中からその端末で実現可能な一部分だけを切り出して「最新版のAndroid OS」に落とし込んでいる様にさえ見えます。

  • (※3)グラフィカルインターフェース(GUI):コンピュータを操作する際に、情報の表示にコンピュータグラフィックスを多用するユーザーインターフェ―ス。アイコンやボタンなどを多くし、マウスなどのポインティングデバイスで操作することで、直観的な操作と視認性に優れる。
  • (※4)シェル:ユーザの操作を指示として受け付け、その指示をOSの中核部分に伝えるソフトウェア。操作を解釈し、対応した機能を実行するようにOSに指示を与える。
  • ハイパワーなプロセッサは、AV機能を変革する

    ここまでOSの側から見た高性能プロセッサの利点を挙げてきましたが、スタンドアローン(※5)なこと極まりない、言い換えれば属人性の極端に強いデバイスであるスマートフォンにおいて、クラウドではなくローカルで、スタンドアローンに処理されるべきプログラムが高速処理される/できる、というのは少なくとも現段階では非常に大きな利点があります。

    特に、動画と音声、つまりいわゆるマルチメディア系のコンテンツの再生処理においては、Snapdragon S4 Proを搭載しそれなりに強力なCPUパワーを備えている筈のスマートフォンでさえ、高圧縮率のh.264で圧縮されたHD解像度以上の動画を再生表示させると結構なコマ落ちが発生していて、このクラスのプロセッサ(※GPUを含む)でさえこの種の用途には性能が不十分であることは明らかです。

    そのため、ディスプレイがフルHDどころか4k解像度(※6)になっても不思議はない(※もっとも、5インチ以下のディスプレイを搭載するスマートフォンの場合、現在のフルHD解像度でさえ操作にスタイラスペンが欲しくなる程度には超高密度ですから、当分はスマートフォンではフルHD解像度が上限となるでしょう)昨今の情勢では、96KHzや88.2KHzといったハイサンプリング周波数の音声入出力が当たり前に利用される時代が目前に迫りつつあるサウンド機能や、h.264以上に難物と伝えられる、次世代動画圧縮コーデックであるh.265コーデック(※現在のパソコン用CPUにおいて最速クラスの機種を搭載したマシンで、ソフトウェアによるデコードでは毎秒数フレーム程度のフレームレートでしか再生できていないと伝えられています)で圧縮された動画を滞りなく実用レベルのフレームレートで再生させるには、「未来のスマホ用プロセッサ」クラスの高性能プロセッサがあった方が望ましいのは、今更わざわざ言うようなことでもないでしょう。

    また、パソコンのFPS(First Person shooter:一人称視点シューティング)ゲームや映画コンテンツの再生時などで見られるような、疑似を含めた多チャネルでの3Dサラウンド音声出力機能(およびそのためのハードウェアによる再生支援機構)は、CPUに大きな負荷をかけてソフトウェア処理するか、さもなくばDSPチップ(※7)を別途搭載してそこで処理する、といった対応が必要となってくるため、特に消費電力の観点から、この種の機能をスマートフォンに搭載するのは難しい、と考えられているのですが、これも実装可能となってくるでしょう。

    一方、ハイサンプリング周波数かつ量子化ビット数をCD同等の16ビットから20ビットあるいは24ビットなどへ引き上げた音声データは、flac(※8)などの可逆圧縮フォーマットの形で各社の運営しているオンラインミュージックストアでも徐々に普及しつつあって、ウォークマンのようなポータブル音楽再生機器でもこの種のハイサンプリング音声データが普及しはじめていますから、プロセッサの処理能力に十分な余裕が確保できるようになり、イコライジングなどの音声処理が自由に行えるようになれば、この種の高音質音声データの再生機能は、スマートフォンでも普及するのではないでしょうか。

    シャープ AQUOS PHONE ZETA SH-06E
    2013年夏のシャープ製ハイエンド端末。CAAC-IGZO液晶によるフルHD解像度ディスプレイを搭載するだけでなく、高音質の音声Codecを搭載するなど、AV機能の強化が図られている。

    ただし、ハイサンプリング周波数&高量子化ビット数化されたデータをアナログ信号に変換して出力するには現在の統合プロセッサに内蔵されているような音声Codec(※9)では少々役者不足で、今夏のシャープ AQUOS PHONE ZETA SH-06Eがそうであったように、統合プロセッサ内蔵の音声Codecとは別に、ハイサンプリング周波数&高量子化ビット数対応の音声入出力用Codecチップを搭載し、Codecチップの外側、つまりアナログ入出力部分の増幅段の設計に配慮する、といったオーディオ的な配慮が必要となります。また、そこで手を抜くくらいなら、最初からハイサンプリング周波数や高量子化ビット数の音声など扱うべきではありません。

  • (※5)スタンドアローン:コンピュータを他のコンピュータと接続せずに利用する形態。
  • (※6)4K解像度:4000×2000ドット前後の解像度を示す表現。フルHDの解像度は1920×1080ドット。
  • (※7)DSP(Degital Signal Processor):デジタル信号処理を行うための演算処理装置。基本的にはCPUなので、携帯電話においてはユーザーインターフェースの処理を行う場合も多い。ROMから別のプログラムを読み込むことで、JAVSバーチャルマシンやMP3プレーヤになることもできる。
  • (※8)FLACファイル: 圧縮率の面ではWAVEファイルの半分程度だが、回線速度が高速化したこともあり、「可逆性」という性質のため重宝されている。
  • (※9)コ―デック/Codec: 半導体や電子機器において、音声や映像などのアナログデータをデジタルデータへ変換させたり、逆に、デジタルデータからアナログ信号に変換した上で出力する回路や部品を指す。
  • 仕様の量的な拡充はそれだけでも革新を促す力となる

    ここまで、CPUの高速化技術とその問題点、それに今後登場が予想できる「未来のスマフォ用プロセッサ」について考えてきました。

    この「未来のスマフォ用プロセッサ」は、単にプロセッサとして処理能力がより高性能になり、扱えるデータ量が大容量化する、といった量的な問題を解決するだけのものではなく、アーキテクチャの64ビット化、というパラダイムシフトによりOSにも相応の変革を促す、という一面があることは既に記してきた通りです。

    もっとも、そうした高性能プロセッサを用いたとしても、スマートフォン(およびそれと同等の機能を備えた携帯電話端末各種)では消費電力や端末のサイズ、それに重量などの厳しすぎる制約がついて回ることは避けられません。そのため、例えば3画面以上のマルチディスプレイ機能が当たり前になるであるとか、スピーカーを3つ以上内蔵してサラウンド音声出力に対応するとか、あるいはMIMO対応(※10)で内蔵大形ロッドアンテナが3本搭載されてWi-Fi接続時などに超高速通信可能になるであるとか、端末機能がそういった突拍子もない方向に進むことは考えにくいでしょう。

    付け加えて言えば、最近話題になっているウェアラブルコンピュータ(※11)へ、今後スマートフォンユーザーがこぞって移行する、といった展開もまずない(※特にスマートフォンのディスプレイサイズが次第に大型化してきている現状を考えると、それに逆行する形となる、小画面サイズの腕時計形端末への移行がトレンドとなる可能性は極めて低いと予測できます)とは思います。

    タッチパネル式の高解像度大画面のディスプレイと十分に高性能化と低消費電力化を実現した64ビットアーキテクチャ準拠の統合プロセッサ、ハイサンプリング周波数&高量子化ビット数対応となった音声Codec、通信性能が十分に高速化したベースバンドモデム、大容量のバッテリーとストレージ、そして64ビットCPUをサポートするOS。

    こうした量的な問題の解決が図られた仕様が並ぶだけでも、恐らくは現在の私たちが予測するよりもよほど快適な「スマートフォン」が作り上げられることでしょう。

    量的な拡充は奇策でも何でもなく、当たり前にできることを当たり前に行う、というだけの話なのですが、時にそれは他のどんな奇抜な「新機軸」にも勝るインパクトをもたらすものなのです。

  • (※10)MIMO(Multiple Input Multiple Output):複数のアンテナを組み合汗。データ送受信の帯域を拡張する無線技術。
  • (※11)ウェアラブルコンピュータ:メガネ型の「Google Glass」などが話題になった。
  • 大変に素晴らしい未来のプロセッサ。だが、2015年まではお預け確定か?

    問題は、今回挙げてたような要素を全て実現できるようにするために必要な技術の確立には、どんなに頑張っても2015年までかかりそうなことと、スマートフォンという一つの電子機器としてみた場合、それらの要素全てが揃わないとあまり意味が無いことで、そのため、それまでは色々過渡的で機能制約のあるプロセッサと、それらを搭載した端末が各種出回りそうです。

    言い換えれば、今後少なくとも(機種変更サイクルの目安となる)2年の間は今出回っているスマートフォンでも致命的な性能不足にはならない=劇的な変化はない、と予測できるということで、機種変更でスマートフォンの導入に踏み切るなら今だ、と言っても良さそうです。

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