出典: ウィキメディア・コモンズ(Wikimedia Commons)

【ジョブズがやり残したこと:後編】アップルが生体認証DBを独占?「認証局ビジネス」の未来

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by [2013年7月04日]

本記事は【ジョブズがやり残したこと:前編】iPhone5Sの指紋認証で生活は「ここまで」変わるの後編です。前編に引き続き、指紋認証のリーディングカンパニーである株式会社DDSの三吉野代表取締役社長(以下、敬称略)にお話を伺っています。

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アップルの決済に指紋認証が必要なワケ

───先ほどの指紋認証が普及すると考えられた、Apple IDと指紋認証の組み合わせによる決済システムについて、お話をいただけますか?

三吉野DDS社長(以下、敬称略) アップルは、iPhone5Sに指紋認証機能を「おもちゃ」で載せる気は無いと思います。いま、アップルはApple IDを複雑化しています。これはApple IDとパスワードを複雑化することにより、指紋認証とApple IDの組み合わせで使う方向への布石とも読めます。すなわちアップルストアの決済をはじめとして、その他すべてのコンテンツの決済を統合、すべてを独自決済でまとめようとしているのではないか、ということです。

───この独自決済の構築のためには、ID・パスワードではなく、指紋認証が必要とのことですが、そもそも、ID・パスワードと指紋認証の一番の違いは、どういった点にあるのでしょうか?

三吉野 それは「なりすまし」の難しさです。ID・パスワードやカード認証は簡単にロックが外れます。つまり「なりすまし」が非常に容易にできる。それどころか、ユーザーが意図的に別人になりすますことを許すのが当たり前になってきています。CDやDVDを貸すというのがその典型例ですが。

───アップルがこうした動きをするようになったのは、ジョブズの死後からなのか、その前からでしょうか?

三吉野 ジョブズの時代からでしょう。オーセンテックの買収も計画的なものであったに違いないと考えます。そもそもはiPodから始まったことです。音楽の媒体をiTunesで動かすというアイデア。これがiTVになったときに、画像や動画をはじめとしたすべてのコンテンツをアップルが動かすということになる可能性は極めて高い。それをどうやってビジネスにするかとなったとき、アップルはすべてを囲い込む気でいるんじゃないかと思います。つまり決済システムまでを…ということです。その時に、ビジネスを遂行する手段として使われるのが、Apple IDと指紋認証になるはずです。

生体という「究極の個人情報」がビジネスに

───この場合の認証とは、ネットワークにつながっている個人の本人確認をするということですか?

三吉野 そうです。その中核とした事業を展開するのが「認証局ビジネス」です。認証局ビジネスは、この十年ずっと必要だと言われています。しかし、それにもかかわらず、誰もやれないでいます。というのも、認証局ビジネスをやるためには、認証に使う個人情報のデータベースを徹底的に守らなければいけません。しかし、実際のところ、個人情報のデータベースを守ることに確固たる自信を持つ企業がないのです。

───本人確認に必要な認証のデータベースというのは究極の個人情報です。確かに、私企業が背負うには重いかもしれません。

三吉野 リスクの高さから、生体情報をデータベース化し、汎用的に使用するということは避けられる状況にありました。その結果、指紋認証機能は年間数千万台の電子端末に付属していますが、そのほとんどは「おもちゃ」と言ってもいいくらいの使われ方しかしていません。

───指紋の「認証局」があれば、指紋認証で本人確認ができる。ユーザーのニーズは十分にあるが、ベンダー側のリスクが高すぎて誰も手をつけない「認証局ビジネス」。しかし、アップルが「認証局ビジネス」をやろうとしている、というのが三吉野社長の読みですね。

三吉野 アップルが本当にこれをやれば、世界で初めて本格的に認証局ビジネスをする会社になる。そして、アップルが認証局ビジネスに取り組めば、おそらく波及効果が生まれます。つまり生体情報を使った認証技術が一般化、「なりすまし」ができないような世界が生まれるかもしれません。

───アップルが、これだけ強固な個人認証システムを、高いリスクを被ってまでやる意味は何でしょうか?

三吉野 アップルが指紋認証とApple IDとの組み合わせにより、強力な成りすまし防止機能を有する決済システムをリリースする。その意味は、アップルは最終的に、自社コンテンツ内での決済をマルチカレンシーでやろうとしているのではないか、ということです。私がジョブズの本を読んで思うことですが、あの人は誇大妄想癖がある(笑)。そしてコンシューマーの囲い込みのためにはなんでもしますから。

日本こそが情報セキュリティで世界を牽引すべき

───この分野でアップルが先行すると、他の陣営は厳しそうですね。

三吉野 そうなった場合、おそらくサムソンも同じような決済システムを作るでしょうし、他のスマートフォン陣営もそれに続く。アップルが啓蒙するかたちで、ものすごい波及効果が生まれる。私が一番言いたいことは、アップルをAndroidやウィンドウズフォンが追いかけた後に、日本はどうするのということです。ここは日本企業が頑張らないといけない。もっと言えば、頑張ればいろいろなチャンスがある、ということです。

───スマートフォンOS市場に続き、指紋認証を使用した決済システムの分野においても、日本企業は出遅れてしまうのか、という危惧ですね。

三吉野 日本のキャリアがやりたいこと、できないことを先にアップルがやってしまう。日本のキャリアと、グーグル、アップルとの間で引き合いになる。その結果、またアメリカに持っていかれてしまう。それを私は心配しています。

───頑張ればチャンスがある、ということですが、それは具体的にはどうすればよいのですか?

三吉野 日本こそが、この情報セキュリティの世界を牽引すべきだということです。というのも、安全性という話において、世界で一番信頼されるのは日本人だからです。だからこそここで、日本のメーカー、ベンダー、サービス提供者、ソフト開発会社が一体となり、頑張るべきなのです。
端末のほうでは、確かにアップルとサムスンに勝てません。とはいえ、その端末にしろ、開けた中身はほぼ日本製ですから、技術では負けているわけはないです。 とにかく、スマホのセキュリティが確保できる技術さえあれば、その部分のパーツでも、ミドルウェアでも、もしくはプラットホームでも、日本勢がとれば、いろいろなビジネスチャンスの可能性があるということです。

───ありがとうございました。


株式会社DDS 代表取締役社長
三吉野健滋氏

株式会社DDS 東証マザーズ3782
主に企業、自治体、官公庁など大組織向けの指紋認証事業を展開。名古屋に本社、東京に支店、韓国に子会社を持つ。

株式会社DDS
DDS製品情報サイト

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