出典: ウィキメディア・コモンズ(Wikimedia Commons)

【ジョブズがやり残したこと:前編】iPhone5Sの指紋認証で生活は「ここまで」変わる

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by [2013年7月04日]

アップルが指紋認証用では業界トップの半導体メーカーであるオーセンテックを買収し、指紋撮像用半導体を独占した。これにより5S以降のiPhoneには指紋認証が搭載されるとの報道がある。しかしアップルは指紋認証を利用した次のステップ、個人認証を一手に引き受ける認証局ビジネスに参入するのではないか、そしてそれはiPhone内の決済をすべて仮想通貨で行う前準備なのではないか、と予想する人物がいる。マーケット的な視点から、DDS三吉野社長にお話しを伺った。

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指紋認証の最大手メーカーをアップルが独占

───2013年9月に発売予定のPhone5Sのホームポジションのボタンに指紋センサーが載るだろうと言われています。スマートフォンと指紋認証の関係について、ご意見を伺いたいと思います。

三吉野DDS社長(以下、敬称略) 2012年7月にアップルが指紋認証の半導体を扱う会社、オーセンテックを買収しました。オーセンテックは指紋を撮像(画像化)するためのハードウェア、つまり指紋認証用半導体メーカーの最大手です。日本でいま販売されている電子機器上の指紋認証機能の多くに、オーセンテックの半導体が採用されています。ところが2012年10月から、オーセンテックが「アップル以外には指紋認証用半導体は渡さない」と言い出したんです。これは半導体業界ではとても珍しいことで、私自身はドッキリネタかと思ったぐらいです。

───オーセンテックから指紋認証用の半導体が仕入れられないと、DDSさんは製品が作れませんよね?

三吉野 DDSはもともと認証用の半導体は2番手のバリディディティセンサーズ社と連携していますので問題ありませんが、多くのメーカーは設計変更を強いられると思います。アップル以外が指紋認証機能を採用しようと思ったら、シェア2番手以下の会社を選ぶしかないわけです。そこで指紋認証製品に関係のある多くの企業が、指紋撮像用半導体の安定供給のために業界2番手のバリディティセンサーズに対して出資や買収をしかける動きがあり、結果として、わが社、インテル、クアルコム、あとTSMCともう数社で数パーセントずつ出資するという形に落ち着きました。

───アップルのオーセンテック買収は指紋認証業界が大混乱するほどの衝撃があったわけですね。

三吉野 多くのメディアが、アップルのオーセンテック独占は、半導体供給先であるサムスンなどのAndroid陣営や、PCのWindows陣営にとって多大な損失となる可能性を報じていました。それが現実になったわけです。特にサムスンは、買収の発表直前に、新製品にオ-センテックの技術を使用することを発表していたとのことですから、大変な変化となったと思います。

アップルが指紋認証を爆発的に普及させる

───指紋認証はiPhone5Sで普及すると考えていますか?

三吉野 はい、iPhone5Sの登場で、指紋認証が爆発的に普及すると考えています。理由は2つあります。ひとつは、ID・パスワードが氾濫する現状を指紋認証が解決します。セキュリティは簡単でなければ普及しません。そして、もうひとつはApple IDと指紋認証の組み合わせによるアップルの独自決済です。この2点でユーザーは指紋認証の使い方と使いみちを本格的に啓蒙されると思います。
また、アップルコンピュータが指紋認証用半導体機器メーカーの最大手、オーセンテックを買収したのは、おそらくジョブズの遺言でしょう。そう考える根拠は、アップルが今回のような大型の上場企業買収を行うことは非常に珍しいからです。そして、ここまでして手に入れた指紋認証のノウハウですから、アップルは普及まで持っていこうとするでしょう。指紋認証によるログインは非常に利便性が高いので、ユーザーも普及をサポートすると思います。

───確かに、WebではサービスごとにID・パスワードがあり、ブラウザに記憶させたりしている人もいますが、たくさんあるID・パスワードの管理が煩雑になりがちですね。

三吉野 仕事やプライベート、またはネット通販など、多くの人は用途に応じて複数のアカウントを使い分ける必要がありますよね。ですからインターネット上で使用するID・パスワードを、数え切れないほどたくさん持っているというユーザーは実際に多い。複数のID・パスワードを記憶することは大変なことです。ですから、多くのユーザーはID・パスワードをメモなどにして保存して、どうにか使用しているわけです。

───そう指摘されると、すごくストレスに感じたりします(苦笑)。

三吉野 そうなんですよ(笑)。そもそも、どうしてこのようなID・パスワードが氾濫する事態になっているのか…答えは簡単です。各サイト、各電子決済のシステムが、運営主体と顧客との間における閉ざされた契約・取引となっているからです。運営側から顧客個人へと、一方向的に、ある特定のID・パスワードを与えれば良いだけ、ということになります。それゆえ、ID・パスワードを与える側の運営側は、その他のサイトの運営者のことはまったく考慮しないわけです。ところがユーザーは単一のサイトを使用するわけではありません。ですから、その状況が複数続くわけです。ユーザーはID・パスワードを整理するだけでも、大変な状態に陥っている。

───iPhone5Sの指紋認証で個人認証ができれば、ID・パスワードがなくても簡単にセキュアな状態を作り出すことができるということですね。そもそもの話になってしまいますが、指紋認証に脆弱(ぜいじゃく)性はないのですか。

三吉野 完璧なセキュリティはないと思います。指紋認証についても、偽造指の作成につながる3Dプリンター対策など課題はまだまだあります。例えば、技術的なある部分で比較した場合、指紋よりも静脈のほうがある局面では性能が高いということがあるかもしれません。また、指紋認証も12ケタのID・パスワードに比べれば、誤認証率も高いかもしれない。しかし、12ケタのID・パスワードを記憶するのは大変です。

───12ケタのパスワードは記憶したくないですね。さらに常用しているアカウントが複数あると、混同しやすく困ります。

三吉野 指紋認証がスマートフォンで普及すると考える理由は、システムが安価で、装置がコンパクトで、そして利便性がとても高い。つまり、インターオペラビリティ(相互運用性:スマホとの親和性など)があるということです。指紋認証の技術的な問題はまだまだ存在します。しかし、それとは別次元の話として、ビジネス上の要請から来るニーズというものは非常に重要です。誰がマーケットを切り開くか、そして技術をどう扱うか、という話です。

すべての鍵束は指紋になる

三吉野 iPhone5SにNFC機能が載ると言われています。指紋認証とNFCがシステマティックに結びつくことで、生体認証の世界の技術全般が爆発的に普及するきっかけになる可能性があります。

───指紋認証とNFCが結びつくと、具体的にどのようなことができるようになりますか?

三吉野 指紋認証とNFCが結びつくと、物理セキュリティと呼ばれている、ドアや金庫といった部分にも応用できます。まず挙げられるのは、指紋認証のセキュリティ機能が付いたドアです。現状ではロックを解除するために、2段階の認証が必要です。まずIDカードを差し込み、次に指紋認証をします。これが将来的に1段階になる。つまり、指紋の情報を記憶したスマホをドアに「かざす」だけでよくなるということです。

───指紋認証機器に直接タッチする手間が省けますね。

三吉野 いままで、指紋認証がドアや金庫をはじめとした物理セキュリティの分野で普及しなかった最大の理由は、人が触ったものを自分は触りたくないという心理的な嫌悪感です。特に女性は「あのオヤジがさわった後、あたし絶対触りたくない!」という(笑)。それが、指紋認証とNFCならスマートフォンを「かざす」だけでよくなる。

───つまり心理的な問題も解消されるわけですね。

三吉野 また、指紋認証とNFCを併用したセキュリティ技術は、すでにヨーロッパでは自動車にも応用されています。スマホをかざすことで、キーの代わりになるだけではなく、車のパーソナライズが可能です。つまり、個人のミラーやシートのポジション、カーナビ設定といったものが、スマホをかざすだけで自動的に設定される。日本国内の自動車メーカーなどでも指紋認証の技術を相当研究しているようです。

───キーホルダーを持ち歩く必要がなくなる時代がくるかもしれませんね。

三吉野 ジャラジャラして重いキーホルダーなんて、誰も持ち歩きたくないですよね。スマホが鍵の代役になる時代があっという間にくる。私はそう考えています。

後編はコチラ
【ジョブズがやり残したこと:後編】アップルが生体認証DBを独占?「認証局ビジネス」の未来


株式会社DDS 代表取締役社長
三吉野健滋氏

株式会社DDS 東証マザーズ3782
主に企業、自治体、官公庁など大組織向けの指紋認証事業を展開。名古屋に本社、東京に支店、韓国に子会社を持つ。

株式会社DDS
DDS製品情報サイト

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