NTTドコモの提唱している高度化C-RAN技術のコンセプト図キャリアアグリゲーションと異種局であるスモールセル局を混在させるヘテロジーニアスネットワークの考え方を併用することで、より効率的かつ効果的にスモールセル局の増設を行う。

【ドコモセミナーレポート③】LTE-Advancedの導入に向けた課題

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by [2013年6月28日]


5月29日から5月31日まで東京ビッグサイトで開催されていた様々な最新無線通信技術を紹介する展示会、『ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2013』では、「セミナー・プログラム」と題して現在無線通信技術の第一線で活躍する様々な人々を講師に迎えたセミナーが多数開講されていました。

(株)NTTドコモ無線アクセス開発部担当部長 安部田 貞行 氏

今回はその中から(株)NTTドコモ無線アクセス開発部担当部長の安部田 貞行氏を迎え、『LTE-Advancedの導入に向けたドコモの取り組み』と題して5月31日に行われたセミナーの内容をご紹介します。

その1は【ドコモセミナーレポート①】LTEの普及へ向けたNTTドコモの取り組み
その2は【ドコモセミナーレポート②】LTE-Advancedの技術仕様

ドコモのLTE-Advancedへ向けた取り組み

LTE-Advancedの導入イメージ
LTE-Advancedは個別の要素技術を段階的に導入することで、必要な場所をピンポイントで強化する、といった利用法が考えられている。

ここまでは前回ご紹介した、前日KDDI(株) 技術統括本部 技術企画本部 モバイル技術企画部長の吉田智將氏が行った講演でも一部同様の内容が示されていた部分だったのですが、最後にNTTドコモとしてのLTE-Advancedへの具体的な取り組みが示されました。

ここで安部田氏は、冒頭でLTE-AdvancedがLTEに対するフォワードコンパチビリティとバックワードコンパチビリティを備えているので、スムーズなマイグレーション(移行)ができるとご紹介させていただいたと思いますが、と前置きしてLTE-Advancedは必要な所(エリア)から導入できる、としました。

これは当然と言えば当然の話なのですが、ユーザー数の多い場所やスループットの低下する場所に打って(対応基地局を整備して)通信容量の増大、およびスループットの増大を図る、ということで必要に応じた形で徐々に(対応基地局を)増やすことを考えている、と漸進的なLTE-Advanced対応基地局整備の方針が示されました。

もっとも、先にも示されましたが、例えばキャリアアグリゲーションを導入すればそれですべからくハッピーかというと、やはり導入でどれだけ旨味があるか(=費用対効果で十分な効果が得られるか)という部分で課題が残っていると思っている、とのことで、現状ではLTE-Advancedの導入について解決すべき課題が多いことが示唆されました。

キャリアアグリゲーションの課題
導入によってピークスループットは確実に引き上げられるが、混雑時のスループット改善にはあまり役立たない。

ここで車と車線の関係によるイメージ図により、キャリアアグリゲーションを行わない場合、1車線(1周波数)で通信を行っていると周囲に人がいたらスピードが出ない、あるいは混んできたらスピードが出ません。一方、キャリアアグリゲーションを行うと2車線(2周波数)を持つため2車線自由に行き来できるので、車(回線)がある程度空いていれば(通信の)スピードが出る、という状況が示されました。

ただ、通信のスループットを増やしたいと思っても、(元々)2車線両方が混んでいるかもしれず、そうなっていれば(例えキャリアアグリゲーションを行っても)速度は出ません。

例えば、単純に800MHzと2GHzという周波数があって、そこに既にユーザーが利用しているところを、(キャリアアグリゲーションによって)両方使えるようになります、としただけでは中々スループット、容量の増大にはつながらず、もちろん、回線が空いていればユーザーエクスペリエンスの向上は可能だと思うが、ユーザにとってスループットの出ていない箇所の解決においては(キャリアアグリゲーションの導入は)十分でない、と安部田氏は指摘しました。

これは、受け皿となる周波数が共に通信の輻輳で飽和状態となっている状況で、それらの周波数を同時に利用できるようにしたとしても、既に容量一杯まで使われていれば、それ以上のスループットが得られない、という至って当然の話です。例え何車線あっても、その道路全体が渋滞していれば、速度が出るはずはないのです。

スモールセル局の課題
混雑エリアの容量増大に有効なスモールセル局のマクロセル局エリア内への追加設置だが、同一周波数で利用している場合両局の電波が干渉して通信品質が悪化する、という問題があり、またスモールセル局のエリアは狭いため、通信切り替えに伴うハンドオーバーが頻発するという問題がある。

それでは、セルを小さくする=小規模局の導入で混雑しているエリアを細分して各エリア単位での容量増大を図れば良いのか、つまり昔から言うマイクロセル化を推進すれば良いのか、という話になります。

スモールセル局を導入してエリアの細分化を行うと、1つのエリアの中に入るユーザー数が減るため、見かけ上1つの基地局あたりの通信量は減ることになります。

ただ、スモールセル局をどんどん打てば(設置すれば)良いのかというと、実際にスモールセル局を設置したい場所は駅の周辺などの人が集まってくる場所で、そういう場所は電車なり車なりが多数走るため、そうしたスモールセル局を普通に設置した場合、それらの間でどんどんハンドオーバー(移動中の基地局切替)が発生することになります。そのため、ハンドオーバーの頻発が必ずしも駄目かというとそうではないものの、切替が頻発すると(通信の)安定性が劣化します。

特に、電車のように高速で移動している所に、スモールセルの非常に小さなエリアを設置してしまうと、安定性が劣化することが考えられます。

NTTドコモの提唱している高度化C-RAN技術のコンセプト図
キャリアアグリゲーションとスモールセル局を混在させるヘテロジーニアスネットワークの考え方を併用することで、より効率的かつ効果的にスモールセル局の増設を行う。

それでは、NTTドコモがこのようなケースにどのように対処しているか、という話になるのですが、安部田氏は、スモールセル(局)は容量を増やす上で必要であるが、単純に打つだけでは駄目であって、そこに先に説明したキャリアアグリゲーションと上手く組み合わせてやって行くことを考えている、としました。

キャリアアグリゲーションとスモールセルの組み合わせでどのようなメリットがあるのか、については、キャリアアグリゲーションには2つめのキャリア(周波数)を追加するイメージがあります。

これは、元々のキャリアで(通信の)リンクを張ったまま、新しい周波数を増やすのですが、それは(周波数を切り替える)ハンドオーバーではなく、元々のリンクはきちんと保たれたままになります。

そのため、エリアの問題や、あるいはハンドオーバーが頻発する、といった問題は発生せず、これに加えて必要なところにスモールセル局を打つことで容量を増やすことができます。

こうした運用形態に、NTTドコモではアドオンセル(Add-on Cell)と命名している由です。

このような展開をした場合、実際にどうなるかについては、マクロセル局の周波数にスモールセル局の周波数が随時アドオン(追加)されて、スモールセル局のエリアに入った場合、そのエリアのユーザー数が少なければスループットが向上し、エリアを出るとマクロセル局の速度に戻る、といった形になる、というイメージモデルが示されました。

マクロセル局のみのキャリアアグリゲーションとアドオンセルの比較図
必要な箇所のみ追い越し車線を増設するようなイメージのアドオンセルの方が、混雑時の輻輳でのパフォーマンス低下の影響が小さくなる。

これについては、先ほどのキャリアアグリゲーションの例と同様、車と車線の関係によるイメージ図により、マクロセル局だけで2車線間でキャリアアグリゲーションを行う従来の方法と、マクロセル局による1車線に対して混雑度に応じてスモールセル局による1車線を随時追加する方法の対比が示されました。

これによれば、後者の方法の場合は混雑しているエリアだけ、スモールセル局側で上手く接続する、といった回避策を講じることができますが、前者の方法の場合、ユーザーの所在位置にかかわらず、そのマクロセル局のエリア内にいる限り、全体的な混雑であっても局所的な混雑であっても、関係なく一律にそのエリア内全体が混雑することになる、というイメージになります。

このため、前者の方法を採った場合、混雑時の容量の増大や・スループットの向上は期待できず、対して後者の方法の場合は、容量・スループットの増大・向上が期待できることになります。

実際、前者の方がスモールセル局を増やす分、基地局数が増えるため容量が増大することになるのです。

高度化C-RAN(アドオンセル技術)の展開イメージ
ハブとなる高度化C-RAN装置を中心にマクロセル局とそれを補完する超小型のアドオンセル局を組み合わせて設置し、基地局設置の最適化を図る。

それでは、実際にNTTドコモがどのようにこのアドオンセル局の展開をイメージしているかというと、アドオンセル(スモールセル)局は容積2リットル程度、つまりペットボトル程度の超小型のものを考えていて、これだとマクロセル局のようにビルの屋上などに設置する必要が無いため、例えばビルの壁などにインストール(設置)することができる、と安部田氏は説明しました。

そうすると、(アドオンセル局の)エリア自体はさほど広くないかもしれないが、元々人の集まっている場所に設置できるため、必要なエリアは確保できて、なおかつマクロセル局と連携しているため(アドオンセル局のエリア外に出ても通信が)切れることもない。またハンドオーバーも発生しない。ということで、容量を増やすこともできるし、スループットを上げることもできる、としました。

NTTドコモの主張する高度化C-RAN技術の特徴
安定性を確保しつつ動的に通信の高速化や大容量化を図ることが重視されている。

以上が高度化C-RANという名称を与えられた、NTTドコモのLTE-Advanced展開の考え方なのですが、これによりアドオンセル局追加によるスループットの向上および容量の増大、それに安定した品質を実現する、と安部田氏は語り、更に今後新しい周波数、特に高い周波数を扱うようになると、マクロセル局の周波数でエリアをカバーし、高い周波数でスモールセル局を設置すれば、エリアを確保しつつ必要に応じ高いスループットや容量の増大が得られるということになる、と今後の展開見通しを示しました。

LTE-Advanced無線伝送実験

NTTドコモが実施しているLTE-Advancedの無線伝送実験の対象エリア
NTTドコモのYRP R&Dセンタが設置されている横須賀市のYRP(横須賀リサーチパーク)と、同じ神奈川県下でNTTの関連研究施設の多い厚木市周辺が選ばれている。

続いて、NTTドコモが行っているLTE-Advancedの試験についての紹介が行われました。

NTTドコモのLTE-Advancedの試験は、横須賀のYRP(にあるNTTドコモYRP R&Dセンタ)と相模原市で行っているとのことで、YRPでは屋外試験と共に室内試験も行っている由です。

この室内試験というのは、ケーブルで有線接続を行うのではなく、室内でも無線を飛ばして、室内環境での評価ということで、YRPではビルが色々並んでいる地区と、郊外、それに室内での試験を行っている、と安部田氏は説明しました。

NTTドコモが開発したLTE-Advanced伝送実験装置
現段階では動作の実証試験用のため、小型化は考慮されておらず、移動局はちょっとしたオフィス用デスクサイズ、基地局は一般的な冷蔵庫2台分ほどの大きな機材となっている。

ここで、LTE-Advancedの伝送実験装置の写真が示されました。

この実験装置は比較的大きなものになっていますが、これは特に小型化することを目的としていないためとのことで、純粋に送受信機能とその性能の評価試験のためだけに用意された機材であることが判ります。

この機材では基地局・移動局のそれぞれにアンテナが搭載されていて、アンテナのサイズや距離を可変できるようになっていると安部田氏は説明、これらを用いて様々な特性のデータを取得している、としました。

NTTドコモが試作の基地局と移動局を用いて屋内で行っている伝送実験の様子
基地局に4本のアンテナを用意して各2本ずつ送受信アンテナを搭載した移動局2セットと組み合わせ、MU-MIMOの効果やその干渉などについて調べている。

続いて、室内での試験の際のスループット測定結果が示されました。

これは2ユーザーのMU-MIMOで試験が行われたもので、1ユーザーあたりで見ると伝送速度は500Mbps程度で、2ユーザーのMU-MIMOでは2ユーザーの伝送速度の合計が1Gbpsというほぼ理論計算通りの性能が得られています。

NTTドコモが厚木市で実施しているLTE-Advancedの屋外伝送実験の様子
基地局から送信した電波を基地局アンテナが見通せる場合と見通せない場合での送受信状況を、車載移動局を用いて調査実証している。

次に、相模原の市街地での屋外試験の機器配置状況が示されました。

この試験では基地局の鉄塔に(LTE-Advancedの)アンテナを配置しており、さらに移動局は装置が大きく、また車内での作業もあることから、大型の自動車を用いて行っているとしました。

相模原に設置されたLTE-Advanced基地局アンテナ

NTTドコモが厚木市内などでのLTE-Advanced屋外伝送実験で使用している車載移動局
比較的大型のトラックを改造した特装車に移動局装置本体やアンテナなどを搭載、厚木市内などを走って各地点での通信状況を調査するのに用いられる。

なお、移動機(移動局)についてはまだ具体的な端末イメージはないものの、アンテナの形状・サイズ・距離を変えられるようにして設置したもので評価を行っているとのことです。

さらに、実際に相模原の市街地で行われたシングルユーザーMIMOの屋外実験の際のリアルタイム取得データが紹介されました。

このデータでは、走行中の移動局車両の運転席からの視界と、その各地点でリアルタイム取得された遅延プロファイル(伝搬遅延特性:LTEやLTE-Advancedのような高速・広帯域通信ではこの特性の良し悪しが伝送品質に大きな影響を及ぼします)とスループットのグラフが動画として示されており、各地点での伝送速度の変動が容易に確認できるようになっています。

相模原市で行われた屋外伝送実験の様子
移動局を車載した車両の前方視界と上下双方の電力遅延プロファイルならびにスループットがリアルタイムで表示されるため、どのような地形が通信障害の原因になるか、などトラブルの原因特定に大きく役立つ。

このデータによれば、市街地走行中の移動局と基地局の間のスループットが下り300Mbpsから550Mbps、上り50Mbps程度となっており、良好な環境では下り600Mbps前後、上りも200Mbps以上のスループットが得られている、と安部田氏は説明しました。

最後に、マルチユーザーMIMOの屋外伝送実験が紹介されました。

4×2のマルチユーザーMIMOの屋外伝送実験概要
静止状態の移動局と実際に移動する移動局を組み合わせることで、伝送性能だけではなく、移動局相互の電波干渉なども調査できる。

ここでは、4×2のMU-MIMOを評価しており、示された図に掲載の測定結果はYRPの施設で実験した結果得られたものとなっています。

紹介された写真では、4アンテナ構成の基地局アンテナが示され、2ユーザーの内1ユーザーが静止し、もう1ユーザーが移動している状態で、マルチユーザーMIMOの評価を行っていることが説明されました。

4×2のMU-MIMO屋外伝送実験の様子
静止する移動局は100MHz幅でスループット1Gbps前後を達成し、移動している移動局も400Mbpsから600Mbpsの間で比較的安定的に通信が成立している。

この内、静止している移動局の方がスループットが安定しているのは当然としても、移動している移動局の方も、おおむね400Mbpsから500Mbps前後のスループットで安定しており、状況の良い場所であれば1Gbps前後のスループットが得られている、と安部田氏は明言しました。

おわりに

以上、3回に分けて『LTE-Advancedの導入に向けたドコモの取り組み』と題して5月31日に行われた、(株)NTTドコモ無線アクセス開発部担当部長の安部田 貞行氏による講演の内容をご紹介してきました。

全体を通観して言えるのは、NTTドコモの基礎研究重視の開発姿勢です。無線通信について、これほどの実測データを集め、その挙動の確実性を確認してから商業サービスへの応用を図る、その姿勢であれば、サービス開始までの同社の尻が重い様に見えるのも致し方ないように思えます。

しかし、こうした基礎研究は地味で目立ちませんが通信インフラの開発を進める上ではなくてはならないもので、国内最大手である同社は最大手なるが故の社会的な責任を、こうした形で果たし、あるいはその利益を社会へ還元しているのだと言えます。

その点で、今回のこの講演はNTTドコモの持つ技術力の凄みや厚みを痛感させられるものでした。

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