KDDI(株) 技術統括本部 技術企画本部 モバイル技術企画部長 吉田 智將 氏

携帯電話の未来へ向けて ~『auネットワーク品質向上への取り組み』その3~

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by [2013年6月21日]

KDDI(株) 技術統括本部 技術企画本部 モバイル技術企画部長 吉田 智將 氏

5月29日から5月31日まで東京ビッグサイトで開催されていた様々な最新無線通信技術を紹介する展示会、『ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2013』では、「セミナー・プログラム」と題して現在無線通信技術の第一線で活躍する様々な人々を講師に迎えたセミナーが多数開講されていました。

今回はその中から、KDDI(株) 技術統括本部 技術企画本部 モバイル技術企画部長の吉田 智將氏を迎え、『auネットワーク品質向上への取り組み』と題して5月30日に行われたセミナーの内容を3回に分けてご紹介します。

その1はこちら
その2はこちら

トラフィック容量の増大

さて、ここまではセルラーネットワーク(3G/LTE通信)を流れるデータ量を抑制する方向の取り組みが示されてきましたが、当然ながらau(KDDI)では容量を増やす方向性の対策も講じられています。

周波数割り当て

移動体への周波数割当
国内各キャリアへの3G/4G LTE通信への周波数割当状況。ソフトバンクモバイルがeAccessを傘下に収めたため、KDDIは他の有力キャリア2社と比較して割り当てられた周波数帯域が狭く、若干不利になっている。

まず、周波数割り当てについては、現状の各社周波数割り当て状況が示され、800MHz、1.5GHz、2.1GHz、700MHzの4つの周波数帯がauには割り当てられていて、他社と比較するともう少し欲しいが現状ではこれで対処するしかない、と幾分諦め混じりの見解が示されました。

続いて、国民の共有財産である電波の利用効率を向上するため、これまでその技術進化を続けてきた、として通信方式の発達と変遷が示されました。

周波数利用効率の向上
上図の上段が3GPP2陣営に属するKDDIの、下段が3GPP陣営に属するNTTドコモおよびソフトバンクモバイルの通信方式の変遷となる。図中でも示されているように、いずれの方式も従来と同一の周波数帯を利用しつつ、通信方式の改良・変更によってその利用効率を飛躍的に向上している。

auは3G通信ではQualcomm主導のCDMA 1x(3GPP2)陣営に属していて、W-CDMA(3GPP)陣営のNTTドコモやソフトバンクとは異なった技術発展の系譜に属しているのですが、いずれの陣営も最終的なゴールは4G LTEであるとして、日本国内のオペレーター各社は4G LTEの導入を進めている。ポストLTEの技術については恐らく4G、正確にはIMT-Advancedと呼ばれる技術が出てくるので、これが導入されるだろう、と吉田氏は語り、周波数や技術の進化だけではなく、基地局の設置方法についても工夫が必要となる、としました。

auのピコセル(スモールセル)基地局
4G LTE通信導入の際に、通信方式が3G通信以前とは異なるものに変更されたため、既設基地局の配置ではエリア内に間隙が生じるのを防ぐため目的で、4G LTE通信サービス開始と同時に導入・稼動が開始された。

元々、基地局設置時には規模が大きく対応エリアも大きく取れるマクロセル局(※通常はビルの屋上などに設置されます)でセルを構成することが多いのですが、KDDIではLTEサービス開始当初より、ピコセル(スモールセル)局を導入し、マクロセル局群の対応エリアから漏れてしまった間隙を埋めるようにして設置しています。

これは、従来のCDMA 1xのCDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)方式とLTEのOFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重方式)とでは電波の飛び方に若干の相違があったため、3G通信時代に整備された基地局の配置ではLTE通信で完全にエリアサポートが難しいことへの対策として実施されたものです。

4G LTEの進化

4G LTE(800MHz帯)のエリア展開状況
実情に近い実人口カバー率で2013年6月に96パーセントに到達予定で、今後2013年度末までに99パーセント達成の予定で整備が進められている。

auの4G LTEについては、様々なエクスキューズはつくものの、Android端末で使用されている800MHz帯で2013年6月時点で実人口カバー率96パーセント(※実人口カバー率は500メートル四方で区切ったメッシュの内、サービスエリア内となるメッシュに含まれる人口を合算した数の総人口に対する比率を示したものです。従来の計算法では、各市町村の役場所在地をカバーすれば、それでその市町村全体の人口をカバーした扱いになっていて、実態を正しく反映しているとは言えない状況でした)を達成予定で、2014年3月末までには同条件で実人口カバー率99パーセントを達成する予定で整備が進行している、としています。

もっとも、高周波数の2.1GHz帯などの方が800MHz帯よりも電波が届きにくくなるため、基地局整備では高周波数帯の方が困難度が高く、またauの場合iPhone 5は2.1GHz帯にしか対応していないため、その意味ではこのカバー率表示そのものが4G LTE通信の利用実態に即していない面があります。

4G LTE(Android)の高速化
Android端末については、2013年夏モデル(4機種とも)より、受信最大100Mbps(理論値)での高速4G LTE通信への対応を開始した。
これは基地局側は112.5Mbps(理論値)での通信が可能だが、端末側が対応していないため、最大100Mbpsでの通信となったものである。

また、高速化については、2013年夏モデル(※4機種全機種とも対応)より、従来10MHz刻みだったLTEの帯域幅を15MHzに拡幅し、受信速度上限を75Mbpsから100Mbps(※厳密には15MHz幅で扱った場合の理論上限値は112.5Mbpsなのですが、端末側のチップセットが対応していないため、この数値が示されています)に引き上げ可能とし、既に四国の一部でこの速度でのサービスが開始されている、と吉田氏は説明しました。

基地局密度の向上

高品質の追及
SON(Self Organizing Networks:自己組織化ネットワーク)の導入により、従来は人海戦術による情報収集・解析で行っていた基地局のパラメータ設定が、SONサーバによる情報の自動収集・解析・設定で自動化できるようになった。

続いて、SON(Self Organaizing Networks)に触れ、自律的に基地局のエリア構築・最適化を行うことで、コストのかかるエリア構築作業の自動化を、これもLTE導入開始時より実施している、としました。これは特に設定の難しいLTE通信と3G通信のハンドオーバーのパラメータ設定、つまり次にどの基地局に切り替えて通信するのか、というパラメータが自律的かつ最適化して設定できるというメリットがある由です。

HetNet(Heterogeneous Network:異種混合ネットワーク)
マクロセル局のエリア内にピコセル局などの規模の異なる小型基地局を設置し、eICIC(enhanced Inter-Cell Interference Coordination:拡張セル間干渉調停)技術によってグループごとに交互に電波送信を行うようにして相互間の干渉回避を行うことで効果的に容量を確保する。

さらに、HetNet(Heterogeneous Network:異種混合ネットワーク)についても触れ、マクロセル局とピコセル局を混在させた場合に避けて通れない電波干渉の問題について、回避策としてeICIC(enhanced Inter-Cell Interference Coordination:拡張セル間干渉調停)という技術が説明されました。

このeICICは、マクロセル局とピコセル局の間で干渉が発生するのを防ぐため、それぞれのグループごとにマクロセル局の送信時はピコセル局からの送信を止め、逆にピコセル局の送信時はマクロセル局の送信を停止することで、相互干渉を物理的に排除するという制御技術です。

この技術については、auでは今後サポートが予定されていることが明らかにされました。

CoMP(Coordinated Multi-point transmission/reception)
基地局間の「谷間」というべきセル境界に位置するユーザーの端末について、各基地局が協調制御を行って送受信を行うことで、各基地局の電波の相互干渉を防ぎ、さらに端末が得られる通信スループットの改善を実現する。

また、このHetNetに関連して、CoMP(Coordinated Multi-point transmission/reception:セル間協調送受信)にも言及がありました。このCoMPもまた、複数のセル間の境界付近に位置する端末からのアクセスの際に隣接セル間で協調制御を行い、通信品質を向上する、という技術です。

Career Aggregation
複数の周波数で同時に送受信を行い、それらの帯域を束ねて見かけ上広帯域の1つの通信として扱う技術。異なる周波数を束ねるため、どれか一つの周波数で接続が途切れても、他が切れなければ通信が継続でき、また複数の帯域それぞれの受信速度を合計したものが理論最大通信速度となるため、束ねた周波数の数に応じて劇的な高速化が期待できる。

次に、Career Aggregation技術が紹介されました。

この技術は異なる周波数の通信を同時に行い、それらを束ねて1つの高速通信(※現状で下りの理論最大通信速度が150Mbpsに達するとされます)とみなす、というものです。その考え方は、LANで用いられている通信冗長化・高速化技術のLink Aggregation(※業務用ルーターで有名なCisco社ではEtherChannel、nVIDIA社などではTeamingと呼んでいます)と同じで、これにより見かけ上の通信速度を、束ねた周波数の帯域に応じて向上させることができるほか、いずれかの周波数で通信できなくなっても、1つでもつながっている周波数帯があれば、それで通信を維持し続けられて冗長性が確保できる、という大きなメリットがあります。

基地局にかかわる改良では、他にMU-MIMO(Multi User Multi-Input Multi-Output)の発展改良版であるAdvanced MIMOと、基地局送信施設のコンパクト化を実現するAAS(Active Antenna System)の概略が紹介されました。

AAS(Active Antenna System)
アンテナに無線装置を一体化し、コンパクト化と省電力化を実現する技術。

前者はKDDI研究所が開発に取り組んでいる技術で、従来のMIMOでは送信側でどれだけ多くのストリーム送信が可能でも、端末側のアンテナに受信ストリーム数が制限されることから、端末のアンテナ本数から1端末あたり送信に用いるアンテナの本数を判定して最適化することで、基地局側の送信ストリーム数のキャパシティを無駄なく生かしつつ、同時により多くの端末に効率よくストリーム送信を行うためのものです。

Advanced MIMO
基地局に複数のアンテナアレイを設置し、1台の端末に対して複数アンテナ(複数ストリーム)から同時送信することで通信の高速化を図るMIMOを改良し、複数の端末に、それぞれの端末が受信可能なストリーム数ずつアンテナを割り当てて通信を行う技術。これにより、過剰なアンテナ割り当てで無駄になる通信を減らし、効率よく通信が行える。

これに対し、後者はパワーエレクトロニクスの発展などにより、無線装置の小型化が容易となったことを受けて、アンテナ素子を一体化に適した新設計のものに変更、これを無線装置を一体化した、コンパクトなアクティブアンテナを採用しています。

小型のピコセル局ではこの種のアンテナ・無線装置一体型の装置が珍しくありませんが、このAASはマクロセル局クラスの大型施設でアンテナ・無線装置の一体化によるコンパクト化を実現しよう、という、ものです。

このアンテナはアンテナ素子と無線装置が直結であるためその間の送信電力の損失が無い、という省電力化の観点で好ましいメリットがあり、また、アンテナ本体をスリム化することで、既設の従来型アンテナとの交換も容易となっています。

新たな品質改善の取り組み

Big Data活用によるネットワーク品質改善
構造化されていない、非構造化データを含め、社会に存在するデジタルデータの総量が急増している。

最後に吉田氏は、今後のネットワーク品質改善でキーポイントとなるのはビッグデータ処理である、と断言しました。

ビッグデータというのはその名の通り、通常のパソコンなどでのデータベース処理では扱いきれないような巨大かつ構造化されていないデータの集合体のことです。そうした巨大なデータを膨大な数のサーバ上で並列データ処理を行う特別なアプリケーションを用いて処理・解析することで、局所的なデータの傾向などを分析しよう、といういかにも力ずくの考え方なのですが、確かにこうした通信トラフィックの動向分析はデータサイズが巨大かつ膨大なものとなり、通常の分析処理では必要な要素を見落とす可能性があります。

このビッグデータ処理で具体的に何をどのように処理するかについては、auの保有するユーザーからのクレームなどのデータが例として挙げられました。

Twitter活用によるネットワーク品質改善
Twitterから、auのネットワーク品質に関する不満のつぶやきを検出・抽出してリアルタイムで問題の発見と迅速な解決を図るシステムが構築されている。

それらのデータに追加するデータとしては、ユーザーが苦情を呟くTwitterの書き込みが挙げられました。auの研究所では、Twitterの呟きがどこでつぶやかれたかを解析するTwitter分析ツールを開発している由で、それらによって得られたデータもすべてビッグデータとして保有している、としました。

エリア送信機能の活用
au Wi-Fi接続ツールに含まれているエリア情報送信機能を利用して接続品質情報を収集、ユーザーから苦情や要望が寄せられる前に予防的に改善を図る、といった目的にその分析結果を利用する。

また、先ほど取り上げたau Wi-Fi接続ツールにも、ユーザーの承認(ダウンロード時あるいはプリインストール機種では初回起動時に実施)を得て、エリア情報送信機能という機能が搭載されていることが説明されました。

この機能は読んで字のごとく、現在端末が所在しているエリアの情報と、そこで何をしたのか、という情報を収集し、auのビッグデータを蓄積・保持しているサーバに送信する機能です。こうして収集・蓄積した情報を、複合・分析することで通信品質が劣化しているポイントの洗い出しや、エリアを作る必要のある地点の選出、など通信品質の改善に利用しているのです。

もっとも、こうした複合化されたデータを単に二次元の座標上にプロットしても、トラフィックの出方、つまり時間ごとのトラフィックの変遷については、理解を得るのが困難です。具体的には、こうした時間軸方向でのトラフィックの出方が極端にでこぼこになっているネットワークについて、どのように改善してゆけばよいかをチェックする意味でも、三次元的に時間と空間を可視化してゆく必要があり、KDDIとしてそのような取り組みを行っている、と吉田氏は説明しました。

更にこれまで再三例示されてきた山手線エリアについて、周辺とのトラフィック格差がこれほどあるならば今後、たぶん基地局の打ち方(設置パターン)を変えてゆかねばならないだろう、という見解が示され、ピコセル・フェムトセル(Femtocel:超小型基地局)、それにWi-Fi、これらをどう組み合わせるとエリアカバー率を最大にできるのかを考えている、としました。

ここで、au社内で用いられている解析ツールでデータを100m×100mのメッシュ単位で扱うのが、細分化処理できる限界がこのサイズだった、ということの他にピコセルあるいはWi-FiのAPがカバーできるエリアサイズとほぼ近似である、という理由であることが示されました。

つまり、山が立っている=トラフィックがピークになっている所に1局追加設置するのか、それとも1局だけではたりないから周波数を重ねて複数設置するのか、それともWi-FiのAPを更に追加設置するのか、といった判断を行う上で扱いやすいサイズが、この100m×100mというメッシュサイズである、ということなのです。

具体的に、例えば商業エリアと住宅エリアに分ける場合、ピコセル設置で対処するパターンなのか、それともユーザーの個宅単位での(ルーター貸し出しによる)Wi-Fi AP整備で対処するパターンなのか、といったことを日々検討している、と吉田氏は語り、キーポイントはミクロエリアの構築であり、ユーザーがどう動くか、ということを先読み・推測して改善を行ってゆかねばならない、としました。

おわりに

以上、3回に分けて『auネットワーク品質向上への取り組み』と題して5月30日に行われた、KDDI(株) 技術統括本部 技術企画本部 モバイル技術企画部長 吉田 智將氏による講演の内容をご紹介してきましたが、全体を聴講して痛感させられたのは、高速・安定な無線ネットワークを構築するのに、特効薬となるような技術は存在しない、ということです。

ひたすら地道な分析と改良、基地局の増設のみがそれを実現しうるのだ、ということで、通信障害事故の最中での講演でありましたが、筆者も1auユーザーとして関係者のご苦労にはただただ頭が下がるばかりでありました。

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