Exolens ZEISS (エクソレンズ ツァイス)iPhoneシリーズ用に展開されている、ドイツ・カールツアイスによるレンズキット

スマートフォンでツァイスレンズを『ExoLens PRO』

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by [2017年7月12日]

ExoLens ZEISS (エクソレンズ ツァイス)iPhoneシリーズ用に展開されている、ドイツのカール・ツァイスによるレンズキット

ExoLens ZEISS (エクソレンズ ツァイス)
iPhoneシリーズ用に展開されている、ドイツのカール・ツァイスによるレンズキット

2017年2月13日のニコンによる、高級コンパクトデジタルカメラ「DL」シリーズの突然の発売中止発表は、近年退潮著しいコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)市場の冷え込みが想像以上に深刻であったことを示して一部で大きな話題となりました。

ニコン自身はここのところ、長年にわたって収益の柱であった半導体ステッパーなどの事業が不振で、経営難や人員整理などが話題になっていたのですが、それでもカメラ事業についてはデジタル一眼レフをはじめ様々な新製品を積極的に投入していて、問題の「DL」の発売発表もそんな積極性の表れと見られていました。

そのニコンでさえ、他社製品の実績から考えて一定のニーズが期待できそうなハイエンドコンデジの投入を躊躇し止めてしまい、またこの4月に入ってからも、国内有力カメラメーカーでありハイエンドコンデジ「GR」シリーズを擁するリコーの個人向けカメラ事業縮小・撤退を検討という観測記事が経済紙に書かれ、リコーが慌ててそれを否定するリリースを出すなど、今のこの種のカメラを取りまく状況は変わりつつあります。

このようにコンデジ市場の状況が悪化した理由は至って単純。

スマートフォンに搭載されるカメラの性能がここ数年で大幅に向上し、性能的に競合する様になったコンデジのボリュームゾーンの機種の需要に大打撃を与えたためです。

劇的に進化したスマホカメラ

気がついてみると、スマートフォンのカメラが十分に良く写るなら、今更コンデジを別途携行する必要も理由も無いから買わない、あるいは持たないという状況となっていたのです。

実際、この10年ほどの間のデジタルカメラ市場の各社シェアや出荷台数などのデータを見ると、メーカーに関係なく全体的な傾向として、コンデジの出荷台数は著しく減少し続けています。

にもかかわらず、その一方でデジカメ全体の平均出荷価格は上昇傾向にあって、さらに上位に位置づけられるミラーレス一眼あるいは通常の一眼レフタイプのデジカメやその交換レンズは出荷数が下げ止まり状態かつその出荷金額も増えてきているといった状況となっています。

このことから、安いコンデジがスマートフォンにその市場を蚕食されて壊滅状態に陥りつつある一方で、それより高性能・高機能でスマートフォンやタブレットの内蔵カメラでは機能的に代替出来ないミラーレス一眼などの高性能。高機能カメラのニーズが増えつつあるつつある事は明らかです。

つまりスマートフォン内蔵カメラの急速な性能向上により、スマートフォンで写真を撮影するユーザー層はスマートフォン内蔵カメラの画質や機能で満足してそれで充分と考える層と、スマートフォンを手にして初めて写真撮影の楽しさを知り、それで満足できずより高画質・高機能を求めてミラーレスを含むデジタル一眼カメラを購入する層に二極分解しつつあるということで、前者の増加はカメラメーカーの収益悪化と直結しています。

そうした状況を反映し、最近ではファーウェイと提携したライカやシャープと提携したリコーのようにスマートフォンの内蔵カメラにコミットする会社や、チャプター11宣告による倒産状態から復活したコダックのように本格的なカメラ機能を搭載するスマートフォンを発売した会社など、活路を求めて様々な手段を試みるメーカーが増えてきています。

※KODAK EKTRA。プラットフォームとして10 CPUコア内蔵のHELIO X20を、メインメモリとして3GBのLPDDR3メモリを搭載するスマートフォンとしてもかなり強力な機種です。革装で薄いレンズを搭載した筐体は、これがスマートフォンであるとは思えない古典的なカメラとしてのデザインにまとめ上げられています。

しかし、こうして次第に画素数を増やし明るいレンズを搭載するなど高性能化しつつあるスマートフォンの内蔵カメラにも、幾つか弱点があります。

まず、薄型の筐体に収める必要などから、光学ズームレンズや望遠レンズの搭載が難しいこと。

望遠レンズや、ズームレンズを搭載するには、必然的にレンズの奥行きが必要となり、またズームレンズの場合はレンズそのものの枚数が増え光学設計が複雑となるため、こちらも鏡胴部にある程度の奥行きの確保が求められます。さらに、スマートフォンの場合狭い場所での撮影の機会が多いことも併せて考えると、どうしても内蔵カメラは広角寄りの画角の単焦点レンズ搭載を基本とせざるを得ません。

このあたりは、AppleがiPhone 7 Plusで広角寄りの画角の単焦点メインカメラと別に倍率2倍相当の単焦点望遠レンズ搭載カメラを搭載するデュアルカメラ構成としたことでも明らかでしょう。

端的に言って、スマートフォンのメインカメラに望遠レンズだけ搭載したのでは、どうにも実用性に欠けることになるのです。

次に、大口径レンズ搭載と言ってもコンパクトデジタルカメラ等と比較するとどうしてもその光学設計で不利となること。

これはスマートフォン側で年々開放絞り値をより明るくする必要から次第にメインカメラのレンズ直径が大型化してきていて、またその光を受け取るイメージングセンサーの側もサイズ拡大の方向性へ向かっていますから、ある程度解消されてきていると言えます。

もっとも、スマートフォンの内蔵カメラでの光学系改良、特に開放絞り値を明るくするためのそれは、ほぼ非球面レンズの多用など光学系の設計の複雑化・レンズ群構成の複雑化及びそれに伴う歪みの増大と表裏一体で、内部的な画像の現像段階などでのデジタル補正による歪みの補正が不可避になっていると推定できます。

3つ目は、筐体の奥行きや厚み、それに衝撃対策など様々な事情からカメラモジュールにレンズの絞り機構は搭載できないこと。

デジタルカメラで心臓部となるセンサーモジュールは、写真撮影の際に

シャッター速度×レンズの絞り値

によって決定される量の光を受け取って画像をデータ化するのですが、スマートフォンのカメラモジュールにおいては一般的にレンズに絞り機構を搭載せず、開放絞り値つまりレンズに入る光を最大限センサーに送り込む値で固定しています。そして写真撮影ではセンサーが受け取る光量の適正値は基本的に一定ですから、開放絞り値で固定されたレンズの場合、明るい場所ではシャッター速度を速く、暗い場所では遅くなるように制御することでセンサーが受け取る光量を調整することになります。

しかしこの様な制御を行う場合、撮影された写真の被写界深度、つまり撮影時にピントを合わせた距離の前後どの程度までピントが合っているかの範囲が非常に狭くなるため、ピンぼけ写真を量産しかねません。特に広角レンズの場合、スマートフォンの内蔵カメラで使われている様な明るい開放絞り値のものだと、ピントが合っている距離の範囲は本当に狭く、その周囲がぼけた写真となってしまいます。

言い替えると、開放絞り値の広角レンズで撮った写真は、隅々までびしっとピントが合ったシャープな表現というのが非常に苦手なのです。

このあたりの性能を現在の薄型化したスマートフォンの内蔵カメラに求めるのは何というか、物理的に無理な話です。

そのため、カメラモジュールそのもので対応しなければ他では対応が難しい3つ目はともかくとしても1番目と2番目の問題については、「スマートフォンのカメラモジュール部分に外付けで別のレンズを装着する」という荒業を行うためのレンズアダプタが各社から市販されてきました。

※デュアルカメラ搭載機種で、デジタル処理により被写界深度を変更する、つまり絞り値を変更するのと同様の効果を実現する機種が複数存在しますが、これらにしてもカメラモジュールを複数本体に搭載しているからこそできる話です。

レンズの特性として考えると、光学的な性能を保証できないという点でこれはあまり褒められた手段ではないのですが、これはお手軽に普通のスマートフォン内蔵カメラでは撮れないような写真を撮れるという点では有用な製品と言え、特にスマートフォン製品それぞれに最適化した形状・構造のアダプタやケースを介して装着するタイプの場合は、それでもそれなりにマシな性能が得られていましたから、この種の製品が市場で一定の市民権を得られていることは理解出来ます。

※以前筆者も話の種で3種の特性の異なったレンズをターレット式で搭載し、これを回転させて画角の異なる写真を撮れるようにしたスマートフォンケースを買って試したことがありますが、レンズの中央部はともかく周囲が暗くなったり歪んだりと、特性的には全く褒められない代物でした。

とはいえ、そもそもの話として各社のスマートフォンに搭載されているカメラモジュールのレンズ設計は基本的には公開されていませんから、この種のレンズアダプタ製品を出す各社は実機を使った試験や実機そのものを分解して得られた情報等を基にしてレンズアダプタの光学設計を行う必要があって、最適な光学系を設計する上でかなり厳しい状況にあるといえます。

カール・ツァイスをiPhoneで

そうした状況下にあって、そんな厳しい状況を誰よりも理解しているはずなのに、スマートフォン用レンズアダプタ、それも何万円もするような高価な製品を販売しているメーカー/ブランドがあります。

そのブランドの名はカール・ツァイス(Carl Zeiss)。カール・フリードリヒ・ツァイスによって1846年に設立されて以来、ドイツで光学機器メーカーとして君臨してきたトップブランドの1つです。

Contax T2かつて京セラが製造販売していたContaxブランドのコンパクトカメラ。カール・ツァイス Sonnar 2.8/38 T*レンズを搭載し、その突出した写りの良さで絶賛された。コンパクトカメラとしてはかなり高価だったにも関わらずヒット作となり、以後の高級コンパクトカメラ路線を確立した

Contax T2
かつて京セラが製造販売していたContaxブランドのコンパクトカメラ。カール・ツァイス Sonnar 2.8/38 T*レンズを搭載し、その突出した写りの良さで絶賛された。コンパクトカメラとしてはかなり高価だったにも関わらずヒット作となり、以後の高級コンパクトカメラ路線を確立した

日本では、京セラが提携してContaxブランドで販売したカメラのレンズシステムにカール・ツァイスの光学設計が導入されて「下手くそが撮っても腕が上がったと錯覚する」と評されるほどの抜群の表現力を絶賛され、更にその後ソニーが自社製ビデオカメラなどに同社が設計したレンズを搭載、あるいはオプション提供していることでよく知られています。

そんなカール・ツァイスですが、近年は各社の一眼レフ用マウント向けに交換用レンズを販売する一方で、iPhone向けに「ExoLens® PRO with Optics by ZEISS」としてアダプタとアクセサリーレンズを開発・販売しています。

京セラ/Contax時代にも抜群の描写力を称賛される一方で、それ1本でそこそこのカメラ本体が買えるほど高価だったカール・ツァイスのレンズですが、そういうハイエンドなブランドイメージであったが故に、iPhone向けのアクセサリーレンズが発表された際にはちょっとした驚きを持って迎えられました。

とはいえ、それまで数千円レベルの製品しか存在しなかった市場に、いきなりレンズとアダプタのセットだけで3万円前後のプライスタグがついた、言うならば「ガチもガチ、マジもマジ」な大変にストロング過ぎる製品が投入されたのですから、その驚きは大変なものでした。

※本記事執筆時点でのAppleストアでの販売価格は広角レンズとコンパクトなクリップを組み合わせたキットが25,000円、望遠レンズのキットが27,000円、そしてマクロレンズのキットも25,000円(いずれも税別)となっています。

そして、iPhoneの滑らかな筐体デザインとはおよそかけ離れた、無骨極まる「Bracket」と名付けられたアルミ合金を機械加工したアダプタ(三脚取付用ねじ穴やコールドシューのマウントを内蔵)の姿もまた、大きな衝撃をもたらしました。スマートフォンの内蔵カメラを利用しつつそれに適合したアダプタレンズを、それも高性能レンズの求めるレベルで正しく装着するためのこの部品は、随所に鉄橋のようなトラス構造を組み込んで歪みを防ぐ構造となっており、iPhone本体内蔵カメラのレンズと光軸を確実に、そしてきちんと一致させることの大変さを雄弁に物語っています

※もっとも、流石にこれだけではあまりに不便と考えたか、アルミの一体成形でiPhone本体の端部をタイトに挟み込んでレンズを支えるクリップもレンズとセット販売されるキットなどの形で提供されています。この構造だと「Bracket」ほどの精度は得られませんが、利便性は格段に高くなります。

カール・ツァイスがここまでごついアダプタを用意した理由は色々考えられますが、iPhoneを本格的に「カメラ」として使用することを想定すると、三脚取付やコールドシューによる補助照明のマウントなどの機能が欲しいのは確かで、大形のレンズを装着した場合の安定性が良くなることも無視できないでしょう。

記事執筆時点でこの「Bracket」(および同様の機能を備えた「Case」)に対応するのは以下の3本のアクセサリーレンズです。
 
 Mutar 0.6x Asph T*広角レンズ
 Mutar 2.0x Asph T*望遠レンズ
 Vario-Proxar 40-80 T*マクロレンズ

「Mutar」というのはカール・ツァイスのレンズシステムでは画角を変換するだけの「コンバータ」に与えられる名称で、その意味では「レンズでは無い」のですが、製品名として便宜上「レンズ」と呼んでいるようです。一方、「Vario-Proxar」はVarioが焦点距離可変、つまりズーム機能を、Proxarが近接、つまりマクロ撮影機能を示しています。そして「Asph」はAsphericの略で非球面レンズを採用している事を示し、最後の「T*(Tスター)」がカール・ツァイスの誇るT*コーティングがレンズ表面に施されていることを示しています。

これらから、広角レンズはiPhoneの内蔵カメラのレンズ比で画角を0.6倍、望遠レンズは2.0倍にそれぞれ変換し、最後のマクロレンズが焦点距離40~80mmのマクロズーム機能を提供することがわかります。

また、iPhone側のカメラのオートフォーカス機能やAE(自動露出制御)機能との兼ね合いからか、これらには絞りやフォーカス機能は搭載されていません。下手にレンズ側に絞りやフォーカスリングを装着するとセンサーによる内蔵露出計が光量判定を正常に行えず、また余計な合焦動作を行う必要が生じるため、iPhone本体のカメラアプリにとっては百害あって一利無しで正常に動作しなくなる恐れがあるためです。それゆえ、単純にiPhone本体のレンズ群の前に置かれてそれを光学的に変換することだけに徹した、カール・ツァイス流に言えば「コンバータ」として割り切ったシンプルな設計となっているのです。こうした設計故か、これらを装着する「Bracket」などとの接続部は古典的ながら最もシンプルで確実な、マウント部外縁にネジを切ってここにレンズ本体をねじ込むスクリューマウント構造とされています。

なおこれら3本の内、望遠レンズである「Mutar 2.0x Asph T*」については本体搭載のカメラと光学系の倍率が同じ(2.0倍)ということもあって、iPhone 7 Plusでの使用が推奨されていません。

機種変更がネック?

これら3本のレンズは、さすがに伝統あるツァイスの看板を背負い、また3万円前後と結構なお値段となっているだけあって内蔵カメラ単独ではちょっと得られないような画を見せてくれます。

今後デジタル一眼レフカメラやハイエンドコンパクトデジタルカメラなどを買う気は無いが、iPhone本体のカメラでは画角的に物足りない、他と違う画作りを楽しみたい、といった場合にはこれらは大変良い選択肢となるでしょう。

ただ、問題があるとすればそれは今後の機種変更でiPhone本体を交換した場合に、これらのレンズとアダプタを使用できるかどうか保証が無い点です。

iPhone 5とiPhone 5s、あるいはiPhone 6・6 PlusとiPhone 6s・6s Plusのように殆ど筐体形状に変更がない場合には、そのまま横滑りでアダプタを流用できますが、iPhone 6s PlusとiPhone 7 Plusのようにカメラ設計そのものが大きく変更されてレンズ回りの筐体形状も変えられたようなケースだと、アダプタを設計変更して新しい本体の形状に合わせる必要があります。

その際にちゃんと今後とも継続して同じレンズを使用できるアダプタが設計・発売され続ければさしあたり問題ないのですが、もしそれが提供されないとすれば、ユーザーは手持ちの交換用レンズ群をこれまで使ってきたiPhone本体と心中させるしかなくなってしまいます。

このあたりはライフサイクルが実質2年周期となっている今のスマートフォンと、一度買ったら一生物的な性格の強い交換レンズの商品としての性質差が露呈した感じですが、それは言い替えれば、自分の使っているスマートフォン本体に適合したアダプタが提供されさえすれば、レンズ本体を破損するようなことにならない限り、同じレンズを末永く利用出来るという事です。

今後5年、10年と時間が経ってから、果たしてこの種のアダプタ・レンズをスマートフォンに装着しなければならないような状況がどの程度発生するのかは判りませんが、カールツァイスには安定的な利用のため、是非とも同一規格対応のアダプタを長期間多機種向けに提供して頂きたいところです。

▼参考リンク
ExoLens® PROFESSIONAL LENS SYSTEM (PDF)
ExoLens with Optics by ZEISS Mutar 0.6x Asph T*広角レンズ – Apple(日本)
ExoLens with Optics by ZEISS Mutar 2.0x Asph T*望遠レンズ – Apple(日本)

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