Apple iPhone 7

iPhoneはガラパゴスの夢を見るか?~iPhone 7/7 Plusを考える~「GPUとディスプレイ編」

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by [2016年10月04日]

前回はiPhone 7/7 Plusのプロセッサまわりを見てきました。今回はGPUやディスプレイ、それに筐体について考えてみたいと思います。

順当に強化されたGPU

Imagination Technologies社公式サイトのPowerVR Series 7XT紹介ページここで示されているブロックダイアグラムやシェーダの構成などを見る限り、iPhone 6s・iPhone 6s PlusはA9プロセッサに内蔵の形でこの系列のGPUを搭載している可能性が高く、また今回のiPhone 7・iPhone 7 Plusも同様にA10プロセッサ内蔵の形でこの系列の上位機種を搭載している可能性がある

Imagination Technologies社公式サイトのPowerVR Series 7XT紹介ページ
ここで示されているブロックダイアグラムやシェーダの構成などを見る限り、iPhone 6s・iPhone 6s PlusはA9プロセッサに内蔵の形でこの系列のGPUを搭載している可能性が高く、また今回のiPhone 7・iPhone 7 Plusも同様にA10プロセッサ内蔵の形でこの系列の上位機種を搭載している可能性がある

先に記したとおり懸案であったCPUの消費電力と性能の両立が実現されたこともあってか、今回のiPhone 7・iPhone 7 Plusではグラフィックス性能の大幅な向上が実現し、Appleによる公称値でiPhone 6比最大3倍のGPU性能が得られるとされています。

iPhone 6とiPhone 6sとの比較ではGPU性能は90パーセントの向上であったと発表されていますから、ここから計算するとiPhone 7とiPhone 6sの間ではおよそ60パーセント程度の性能向上が実現した計算となります。

同じ半導体製造プロセスルールの下で製造されるGPUにおいては、その性能向上は回路上のクリティカルパスの解消による高クロック周波数での動作実現、論理回路設計の見直しによる性能向上、GPUを構成するシェーダユニットなどを束ねた演算ユニットクラスタの搭載数を増やす、メモリインターフェイス回りの改良を行うといった手法を用いることが考えられます。

もっとも、GPUの動作クロック周波数引き上げは、この種のモバイル機器の場合は発熱と消費電力の増大という観点であまり積極的に行いたくない類いの行為です。そのため、一般にこの種のGPUではそのシェーダーユニットなどの設計を見直したり、低クロック周波数動作のままで搭載されるクラスタ数を増やす、あるいは各演算ユニットそれぞれのレーン数を増やす、といった手法が用いられます。

iPhone 7・iPhone 7 Plusの場合、このあたりについては一切公表されていないのですが、発熱の問題もあるため動作クロック周波数を引き上げだけで約6割の性能向上が実現できるとは考えにくいと言えます。

そのため、クロック周波数の引き上げの可能性もありますが、基本的には搭載する演算ユニットクラスタ数を増やすか、あるいはそれぞれのクラスタに含まれる演算ユニットの設計を見直すことで性能向上を実現していると推測できます。

A9に搭載されているとされる英イマジネーション・テクノロジーズ社製PowerVR 7XTシリーズに属するGT7600と、その後継として発表されたPowerVR 7XT Plusシリーズに属するGT7600 Plusというモデルの演算性能を比較すると、同じ動作クロック周波数の場合に後者は前者比でおよそ2倍の性能が実現されるとしていることから判断すると、今回のiPhone 7・iPhone 7 Plusではこの後者のモデルを搭載し、動作クロック周波数を低めに設定している可能性があります。

今回のA10プロセッサでは先に触れたとおり搭載されるCPUコア数が増えているため、GPUと共有するメモリインターフェイスがボトルネックとなって動作クロック周波数が定格でも実効性能が期待したほど出ないことからこのような公称性能向上率としている可能性もあります。

英Imagination Technologies PowerVR 8XE製品紹介ページ日本語版同社サイトでは未公開の、正真正銘できたばかりの最新GPUシリーズ下位モデルである。あるいは、iPhone 7・iPhone 7 Plusにはこの系統の上位にあたるPowerVR 8XTと呼ばれるであろうGPUが搭載されている可能性がある

英Imagination Technologies PowerVR 8XE製品紹介ページ日本語版同社サイトでは未公開の、正真正銘できたばかりの最新GPUシリーズ下位モデルである。あるいは、iPhone 7・iPhone 7 Plusにはこの系統の上位にあたるPowerVR 8XTと呼ばれるであろうGPUが搭載されている可能性がある

ただ、イマジネーション・テクノロジーズ社は現在PowerVR Rougeシリーズと呼ばれるこの系統のGPUについて、シリーズ7からシリーズ8へのラインナップ移行を下位モデルであるXEグレードの機種から進めつつあります。そのため、今回のA10チップに未発表のシリーズ8上位GPUが搭載されている可能性も皆無ではありません。

このあたりは様々な要素が絡むため断定的には言えないのですが、現在iPhone 6 Plusユーザーである筆者が店頭でiPhone 7実機を触ってみた際の反応を見る限りは、一目で違いがわかるレベルでGPUの挙動が高速になっており、大手キャリアの2年契約縛りでiPhone 6・iPhone 6 Plusを使用してきた筆者のようなユーザーの場合は機種変更で相応の性能向上が期待できる設計になっていると言ってよろしいでしょう。

IPS液晶のまま様々な改良の施されたディスプレイ

今回の発表前に流れた次期iPhoneに関する様々なリーク情報や推測記事の中で、今回の機種ではディスプレイについて初代iPhoneから長らく搭載されてきた液晶を止め、有機ELディスプレイパネルに変更するのではないか、というものがありました。

化学的な反応により有機色素を自己発光させることで発色する有機ELは、それゆえに基本的には光の通過を防ぐシャッターの集合体であるためその背後にバックライトを搭載するか、何らかの反射材によって外部の光を反射することで光源とする必要のある液晶よりも薄型化や応答の高速化、それに低消費電力化で有利なディスプレイです。

しかし、近年液晶はシャープによるIGZO技術の実用化をはじめこれまでよりも飛躍的な性能向上・低消費電力化を実現するようになってきており、例えばスマートウォッチなどの超小型デバイスへの搭載ではそのアドバンテージが生かせるものの、逆に例えばノートパソコンクラスのディスプレイサイズのデバイスでは、最新の液晶よりもかえって消費電力が大きくなってしまうケースも報告されるなど、その差をかなり詰められてきています。

有機ELの場合、その発色は基本的には赤・緑・青の三色の有機色素を並べて発光させることで実現されるのですが、実はこの3種の有機色素には同じ条件で発光させた場合の性能が基準値を下回るまでの時間、一般的には「寿命」という言葉で説明されるそれがそれぞれ異なっていて、経時劣化によって画面の色特性が寿命の長い緑に傾くという問題があります。

もちろん、この問題についてはこの方式を採用する有機ELメーカー各社は様々なアプローチで改良や回避策を講じているのですが、この方式を採用し続ける限りは抜本的な解決策はそれらの有機色素を開発・生産している石油化学メーカー各社頼みとなる部分があり、なかなか根本的な改良ができないでいます。

この問題を解決する手段としては光の三原色を混ぜた色の光である白色の有機色素を光源として、その前に赤・緑・青の三原色カラーフィルターを並べることで、有機色素の寿命差による色特性の偏位を光源部から根本的に排除する(※注12)手法が開発されていますが、こちらはカラーフィルターを並べる分、どうしても各色色素を並べる方式よりもディスプレイパネルの厚みが増します。

 ※注12:もちろん、カラーフィルターに着色される色素もそれぞれ経時劣化で褪色しますが、有機ELのそれと比べれば緩やかな変化で、少なくともこの種のデバイスが使用される期間中に問題とはならないレベルのものです。

こうした事情や、そもそも高価な有機色素を使用し製造の難度も液晶と比較して高い傾向にあることからコスト的にどうしても液晶より不利なこともあって、自社あるいは自社傘下の子会社で有機ELパネルを生産しているためコスト面で有利なサムスン電子などの一部メーカーの製品を除くと、有機ELの採用はスマートウォッチ主体となっています。

加えて言えば、現状では有機ELでディスプレイパネルを量産供給できるメーカーはかなり限られているため、それらの工場で不具合があった時のパネル供給元確保に不安がややあります。

前置きが長くなりましたが、恐らくはそうした諸々の事情を勘案して、今回のiPhone 7・iPhone 7 Plusでは両機種共にIPS液晶パネルの搭載が継続されることになりました。

ちなみに、歴代iPhoneに搭載の液晶は総じて製品発表時点での液晶製造技術の粋をあつめたパネルが搭載されることが多く、例えばiPhone 6・iPhone 6 Plusに搭載されたパネルは公称輝度が500 cd/㎡(※注13)と発表時点のスマートフォン用ディスプレイとしては最良に近い性能を実現していました。

 ※注13:ただし実際の製品では測定してみたところ1割程度輝度が公称よりも高く、コントラスト比も同様に1割以上公称より良い値であったことが報告されています。

今回のiPhone 7・iPhone 7 Plusでは公称輝度が625 cd/㎡となり、従来機種よりも25パーセント明るい画面が実現し、これに加えて映画のデジタルフィルムで利用されるDCI-P3と呼ばれる広色帯域カラープロファイルに対応し、色特性が大幅に改良されました。

分かりやすく言えば、これまで視認性が低下し見づらくなっていた極端に明るい場所でも、これまでの機種よりも見やすくなり、しかもこれまでならば記録されているのに見えなかった画像の「色」が区別して見えるようになるということなのです。

ちなみに、通常のパソコンなどで利用される液晶ディスプレイの場合、画面輝度は室内の蛍光灯の光の下で画面から50cm程度離れて見る場合に250~300 cd/㎡程度あれば良いとされていて、実際にも250~350 cd/㎡の範囲の輝度を公称する機種が大勢を占めています。

こうしてみると、屋外で利用されることの多いスマートフォンなどのモバイル機器のディスプレイが、そのサイズの小ささに反していかに厳しい条件で利用されているのかは明らかで、原理的に光源からの光の透過率の低い、つまり同じ光源を用いても他より輝度が低くなるIPS方式を採用しながら通常のディスプレイの2倍以上の輝度を実現したiPhone 7・iPhone 7 Plusのディスプレイパネルは、現在の液晶パネル設計製造技術でみると極限に近い性能を達成している(※注14)ことがわかります。

 ※注14:もっとも、これでも三原色色素による有機ELディスプレイを搭載するサムスン電子 Galaxy Note 7でディスプレイ生産を担当するサムスンディスプレイが発表した1,048 cd/㎡という実測値と比較すれば明らかに劣勢です。この方式はフィルタの類が殆ど必要ないこともあって輝度の向上ではIPS液晶よりも格段に有利で、これまでにも800 cd/㎡を超える輝度を実現した機種が幾つかありました。ただ、有機色素の性質上、最大輝度で長時間連続使用すれば色素の急速劣化は避けがたく、延命の観点から特に最大輝度で発光するのを極力避けるディスプレイ動作モードがデフォルトとなっているようです。いずれにせよ、輝度については各ディスプレイ方式の特性差について十分理解した上でメーカー公称値を比較する必要があって、これまでと同様、長く綺麗な画面を楽しむにはどの方式であろうとカンカン照りの屋外で一日中動画を見続けるといった使い方は避けた方が良さそうです。

iPhone 7のホームボタン周辺透視図モーターを用いて振動を作り出すため、Taptic Engineは意外と大きなサイズとなる

iPhone 7のホームボタン周辺透視図
モーターを用いて振動を作り出すため、Taptic Engineは意外と大きなサイズとなる

なお、今回の両機種では画面の3D Touch機能にも細かな改良が加えられていますが、タッチ関係でそれ以上に大きな変更となったのが、ホームボタンの機械式スイッチから感圧センサー方式への変更です。

「耐久性が高く、反応が良く、圧力を感知するように設計された先進的なソリッドステートボタン」と謳うこのセンサースイッチは、その操作を直下に内蔵されたTaptic Engineと連動させることでクリック感の代替となる振動を生じさせる仕組みとなっているのですが、店頭で実機を試した範囲では逆にその振動が違和感を強調しているような印象を受けます。恐らくは後述する防水の問題への対策や指紋認証用のセンサーを内蔵した機械式スイッチのコストが高く故障も少なくないことから、そもそも故障の原因となる要素を排除したこのセンサースイッチが採用されたのではないかと筆者は推測しますが、方式の是非はともかくこの感覚に慣れるまでには結構かかりそうです。

ほとんどサイズの変わらなかった筐体

iPhone 7・iPhone 7 Plusのカラーバリエーション左から順にローズゴールド、ゴールド、シルバー、ブラック、ジェットブラックとなる

iPhone 7・iPhone 7 Plusのカラーバリエーション
左から順にローズゴールド、ゴールド、シルバー、ブラック、ジェットブラックとなる

さて、iPhone 7・iPhone 7 Plusは双方ともに、基本的な筐体の構造や寸法にはほとんど変化がありません。後で触れるようにカメラ回りに幾つか変更点があったことと、防水防塵に対応したためこれに関わる部分の形状変更はありましたが、それ以外はほぼ前作にあたるiPhone 6s・iPhone 6s Plusのそれを踏襲しています。

つまり、アルミ材からの削り出しによる一体成形のバスタブ状筐体を基本としているということなのですが、今回の2機種では新機能の搭載があったりしたにもかかわらず、前世代モデルよりも4~5gですが軽くなっています。

これについては一体どの部分で軽量化が実現したのかよく判らない状況ですが、例え数グラムのレベルの話とはいえ軽くなるのは歓迎できます。
筐体外装部の仕上げ塗装はジェットブラック、ブラック、シルバー、ゴールド、ローズゴールドの5色で、iPhone 6s・iPhone 6s Plusにあったスペースグレイが無くなった代わりにジェットブラックとブラックの黒色が追加されています。

iPhone 7 Plus ジェットブラック

iPhone 7 Plus ジェットブラック

ジェットブラックはポリッシュ仕上げのいわゆるピアノ調のつやありブラック、ブラックはマットな仕上げのブラックです。

なお、ジェットブラックについては内蔵ストレージ容量が 128GBモデルと256GBモデルのみの設定で、32GBモデルの設定がありません。

ジェットブラックの光沢仕上げについては、かつてIBMが発売していたThinkPad s30という小型ノートパソコンで「ミラージュブラック」と称してこれと同様のピアノ調光沢仕上げの筐体とした機種があって、その機種ではユーザーが擦り傷などに一喜一憂していたものでした。

そうした記憶があったため、筆者は今回のこのジェットブラック、傷に対する耐性とか大丈夫なんだろうか?と不安視していたのですが、さすがのAppleも他のカラーバリエーション並の耐性を実現するのは難しかったらしく、「ジェットブラックのiPhone 7の高光沢仕上げは、精密な9段階の酸化皮膜処理と研磨加工によるものです。表面には酸化皮膜処理された他のApple製品と同等の硬度がありますが、使用とともに光沢に微細な摩耗が生じる場合があります」と告知し、さらに「磨耗が気になる方は、iPhone用のケースを使って表面を保護することをおすすめします」ともしています。

つまり、この色では小さくとも傷がつくとかなり目立つことを覚悟する必要があることを意味します。

次回に続きます。

▼参考リンク
iPhone 7 – Apple(日本)
Apple (日本) – Apple Press Info – Apple、iPhone 7およびiPhone 7 Plusを発表 — これまでで最高かつ最も先進的なiPhone
Apple (日本) – Apple Press Info – Apple Pay、iPhone 7と共に日本に登場
Apple (日本) – Apple Press Info – Apple、AirPodsによってワイヤレスヘッドフォンを再発明

PowerVR Rogue – イマジネーションテクノロジーズ
PowerVR Series8XE GPU Family – Imagination Technologies

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