Apple iPhone 7 plus ジェットブラック磨き上げられた艶やかな仕上がりの塗装だが、そうであるが故に細かな擦り傷が目立ってしまうという弱点がある。利用に当たっては保護用カバー/ケースの装着が必須と考えた方が良いだろう

iPhoneはガラパゴスの夢を見るか?~iPhone 7/7 Plusを考える~「プロセッサ編」

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by [2016年10月03日]

毎年恒例行事となった感のある、秋のApple Special Eventで発表される新型iPhoneですが、今年も無事(?)新世代iPhoneが発売されました。

これも例年通りのことですが、発表前には様々なリーク記事やマスコミによる(記者の個人的願望混じりの推測による)かなりいい加減な飛ばし記事が飛び交っていて(※注1)、一部ではそれらがどこまで合っているのかが(冗談交じりの)賭けの対象になる有様でした。

 ※注1:例年、当たり外れがそれなりに出るのですが、今回はNTTドコモが今年こそはiPhone販売を開始する、というまるで古代ローマの政治家、大カトーの演説のような飛ばし記事を長年に渡って執拗に掲載していた某経済紙による、発表前日の記事での「FeliCa対応は2017年」という大技炸裂の「外れ」が出て一部で話題になっています。

そうしたリーク情報や飛ばし記事がどの程度実際のそれと一致していたのかはともかく、今回発表されたiPhone 7・iPhone 7 plusでは機能にこれまでにはなかった特徴が幾つか現れています。

今回はそのiPhone 7とiPhone 7 plusについて色々考えてみたいと思います。

主な仕様

iPhone 7とiPhone 7 Plusの記事執筆時点で公表されている主な仕様は以下のとおりです。

Apple iPhone 7 plus

Apple iPhone 7 plus

●共通部分:

  • OS:iOS 10
  • チップセット:A10+M10(仕様非公開)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:容量非公開
    • フラッシュメモリ:32/128/256 GB
    • 拡張スロット:なし
  • カメラ
    • フロントカメラ解像度:7 メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/b/g/n/ac MIMO対応
    • 対応周波数:2.4GHz、5GHz
  • LTE:
    • 4G LTE-Advanced
  • 対応バンド:
    • モデルA1779(iPhone 7)・A1785(iPhone 7 Plus):
    • (FDD-LTE)1・2・3・4・5・7・8・11・12・13・17・18・19・20・21・25・26・27・28・29・30
    • (TD-LTE)38・39・40・41
    • SIMスロット:nano-SIM
    • Bluetooth:Ver.4.2
    • 電池容量:容量非公開
    • 防水・防塵:IP67
    • TVチューナー:なし
    • NFC:対応
    • 生体認証:指紋認証
    • 外部入出力端子:Lightningコネクタ
    Apple iPhone 7

    Apple iPhone 7

    ●iPhone 7:

  • サイズ:67.1 × 138.3 × 7.1 mm
  • 重量:138g
  • メインスクリーン
    • 種類:Retina HDディスプレイ
    • 解像度:750×1,334 ピクセル
    • 画面サイズ:4.7 インチ(対角線長)
    • LEDバックライト・マルチタッチ対応 IPS液晶
  • カメラ:
    • メインカメラ解像度:12 メガピクセル
      最大5倍デジタルズーム・光学手ぶれ補正搭載

    ●iPhone 7 Plus:

  • サイズ:77.9 × 158.2 × 7.3 mm
  • 重量:188g
  • メインスクリーン
    • 種類:Retina HDディスプレイ
    • 解像度:1,080×1,920 ピクセル
    • 画面サイズ:5.5 インチ(対角線長)
    • LEDバックライト・マルチタッチ対応 IPS液晶
  • カメラ:
    • メインカメラ解像度:12 メガピクセル(広角) + 12メガピクセル(望遠)
      2倍光学ズーム + 最大10倍デジタルズーム・光学手ぶれ補正搭載

    バッテリーの持ちと性能向上の両立が図られたプロセッサ

    今回のiPhone 7・iPhone 7 plusでは、これまでの例と同様、搭載される統合プロセッサのブラッシュアップが図られ、A10(および内蔵モーションコプロセッサのM10)と命名されました。

    昨年発表のiPhone 6sに搭載のA9+M9プロセッサでは「新トランジスタアーキテクチャ(New transistor architecture)」と称して、その時点で一般に利用可能な中では最も微細かつ低消費電力動作を期待できる台湾TSMCのFinFET 16nmプロセスと韓国サムスン電子のFinFET 14nmプロセスを併用するという荒業(※注2)により最先端プロセスゆえの製造歩留まりの悪さ、つまりプロセッサチップの供給不安定を防いだ上で高性能な製品の安定供給を実現していました。

     ※注2:2種の異なった半導体製造プロセスルールで同じ論理回路構成のチップを製造する場合、それぞれのプロセスに最適化した物理設計が必要となります。そのため、その開発コストはその部分が2倍に膨れあがるため、通常はこうした異種プロセスの併用は行われません。

    今回のA10+M10では特にそのあたりの事情について触れられていませんが、技術解析サービスで知られるアメリカのChipworks社の発表によれば少なくともTSMCのFinFET 16nmプロセス(※注3)が使用されていることは判明しており、さらにiPhone 7ではそのA10プロセッサに容量2GBのLPDDR4 SDRAMメモリチップが接続されていて、このメモリ周辺のインターフェイス設計はA9+M9プロセッサのそれと酷似している、つまり設計がほぼそのまま流用されていることが明らかになっています。

     ※注3:ただしA9から1年を経てTSMCのFinFET 16nmプロセスも経験の蓄積によって進化しており、それなりに性能向上が期待できます。

    また、発売された実機でのベンチマークテストを用いた確認によりフルHDディスプレイパネルを搭載するiPhone 7 plusでは搭載されるメインメモリ容量が最近のiPadに順じて3GBに増量されていることも判明しており、このことから同じA10+M10プロセッサ搭載ながらiPhone 7とiPhone 7 plusでは仕様が異なることになります。

    このように、A10+M10プロセッサは概ね前年のA9+M9プロセッサの設計・製造プロセスを踏襲しつつブラッシュアップを図っているのですが、にもかかわらず性能向上(※注4)やバッテリーの持ちの改善(※注5)が謳われています。

     ※注4:Appleの公式製品紹介ページでは「iPhone 6の最大2倍の速さで動作」と直接iPhone 6sとの比較を避けていますが、iPhone 6s登場時にiPhone 6からのCPU性能向上が約70パーセントであると発表していたことから、単純計算でiPhone 7のCPU性能はiPhone 6s比で最大約18パーセント増となります。恐らく、今ひとつぱっとしない数字に見えることからこの数字の提示を避けたものと考えられますが、A10プロセッサがA9プロセッサと同じ製造プロセスを利用している≒動作クロック周波数の大幅引き上げなどによる飛躍的性能向上が期待できないことを考えると、むしろこれはなかなかの性能向上です。
     ※注5:iPhone 7のiPhone 6s比で約2時間、iPhone 7 plusのiPhone 6s plus比で約1時間とかなり動作時間が伸びています。

    これは、CPUのコア構成変更によるものです。

    A7からA9までのiPhone用統合プロセッサでは、負荷がほとんどかからないため低クロック周波数で動作する待ち受け動作時から、ゲームなどのアプリケーションによって重い処理が求められ高クロック周波数で動作する状況まで、全て同じApple自社設計のARM v8系アーキテクチャに従うCPUコア2基によって分担処理される構成になっていました。

    このCPUコアは半導体製造プロセスの関係でCPUコア数を増やせない中で性能向上を図る必要があったことなどから1コアあたりの規模が結構大きく、性能的には申し分ないものの待ち受け動作時などにはどうしても消費電力面で不利な傾向(※注6)にありました。

     ※注6:AppleがA7以降M7にはじまるモーションコプロセッサ、つまりメインのCPUコアを止めてセンサー系の監視など必要最小限の機能だけをサポートするサブプロセッサを追加、あるいは内蔵するようになったのも、こうしたCPUコアのアイドリング動作時の消費電力過大が原因でした。

    一方、このシリーズのARM v8系アーキテクチャ準拠のプロセッサとして初号機種となったA7プロセッサが登場した時点で、このCPUアーキテクチャの開発元にしてライセンス供与元であるARMはbig.LITTLEとして高性能かつ規模の大きなCPUコアと、プロセッサの回路規模を小さく簡素化して処理速度は低いものの低消費電力で動作するCPUコア(※注7)を組み合わせる構成を提案しており、最近のAndroid搭載スマートフォン/タブレットではこの種の規模の異なるCPUコアの混在によるマルチコアプロセッサの搭載が当たり前になってきています。

     ※注7:これらの2種のCPUコアはソフトウェア側から見ると、回路規模の相違による処理速度の差はあるものの、命令などの動作については完全に同じとなるように注意を払って設計されており、同じソフトウェアが速度以外は全く同じ動作をします。

    こうした状況下でAppleがこの手法をこれまで取り入れてこなかったのは、A7の設計時点ではそもそも利用可能な28nm 半導体製造プロセスでARM v8系アーキテクチャ準拠の64ビットCPUコアを2基内蔵したプロセッサを製造するだけでも精一杯でそれ以後も製造プロセスのシュリンクに合わせた再設計が必要な状況にあったこと、またその状況故に恐らくは2種の性質の違う、しかし同じ命令が同じように動作するCPUコアを設計するだけの開発リソース面での余裕が無かったこと、などといった事情によるものと推定できます。

    AppleはiPhone用統合プロセッサのCPUコアを自社で設計しているため、恐らくはARMが提供するCortex-A53のような既存設計の「小さい」CPUコアをそのままでは利用できなかったと考えられ、またA7からA9までの間は段階的に半導体製造プロセスルールのシュリンクが進行していたため、それに合わせて既存CPUコアの最適化を図るだけで手一杯であった可能性が高いのです。

    今回のA9からA10への世代交代では久々に同じ半導体製造プロセスルールのままでの設計変更となったため、製造面でのリスクが低い状態で新しい技術の導入を行う余裕ができた(※注8)と言えます。

     ※注8:一般に半導体設計では業界最大手のIntelをはじめとする大手各社の場合、リスク回避やトラブル発生時の原因究明を容易にする目的で、半導体製造プロセスルールがシュリンクされる際には極力既存の論理設計をそのまま流用して論理回路には問題の無い状態でプロセスルールの切り替えを行って新しい半導体製造プロセスルールに起因するトラブルを完全に潰し、しかる後の同じプロセスルールを踏襲したままで製品の世代交代を行う際に論理設計面での大きな変更を行い、ここでその論理設計の問題を潰す、といういわゆる「Tick-Tack」モデルと呼ばれる開発手法がとられるケースが大半を占めます。こうすることで、製造プロセスが原因なのか論理設計が原因なのか判らないトラブルが発生し開発期間が長期化するのを防いでいるのです。

    ともあれ、今回のA10+M10プロセッサではCPUコアが「2つの高性能コアと2つの高効率コア」となり、iPhoneとしては初の4CPUコア化が実現しました。

    この高効率コア、つまり恐らくは分岐予測の精度低下やアウトオブオーダー実行のインオーダー実行への変更などによる命令デコーダやスケジューラの規模縮小によってチップサイズ/回路規模の劇的な縮小を実現したと考えられる(※注9)小型CPUコアでは「高性能コア」との比較で実に1/5に電力消費が低減されているとのことで、このCPUコアで充分処理をまかなえるような軽負荷での動作の場合の消費電力大幅低減=動作時間延長に大きく貢献しています。

     ※注9:同じ命令セットが同じように動作させるには各CPUコアに内蔵される演算ユニットやレジスタなどの構成を変えるわけにはゆかないため、また条件分岐予測やアウトオブオーダー実行をサポートする場合は電力消費の大きな命令デコーダやスケジューラの規模拡大が避けられません。

    また、低速動作時の消費電力削減をそれほど考慮せずとも構わなくなった高性能コアではその分高速化が図られ、先にも少し触れたように公称最大で2割程度の性能向上が実現しています。

    なお、製品発売後のベンチマークテスト結果レポートではiPhone 7で概ねシングルスレッド時に3割強、マルチスレッドで2割程度の性能増となっており、Appleの公称性能がマルチスレッド時の性能を基準としていることが判ります。マルチスレッドでの性能向上がシングルスレッド時よりも低いのは、恐らくメモリインターフェイス回りの性能などの制約によるものでしょう。

    通常、ゲームなどのシングルスレッド性能を要求するタイプのアプリではそれ自体が多コアを必要とすることはあまりないため、この高性能コアが2基搭載とされているのは今後設計されるであろう後継プロセッサも含めて妥当と言えます。

    一方、高効率コアについては、今回のA10では2コア搭載として高性能コアと同数としています。しかし、最近のミドルレンジ価格帯向けスマートフォン用統合プロセッサでは、QualcommのSnapdragon 618/650などでApple流に言えば「2つの高性能コアと4つの高効率コア」構成とするケースが増えており(※注10)、軽負荷の処理で複数のCPUコアを使用し処理の並列度を高めた方が消費電力や実効性能の観点で有利であるという判断に傾きつつあります。

     ※注10:一方この種のミドルレンジモデルの上位機種では、「4つの高性能コアと4つの高効率コア」とした機種が大半で、高負荷処理については高性能コアを増やす以外の手法がない状況にあると言えます。なお、ミドルレンジの機種でもSnapdragon 617のように「8つの高効率コア」構成とするケースがあって、CPUコア数とその構成についての最適解の模索は今なお続いています。

    こうしたAndroid搭載スマートフォン/タブレット用統合プロセッサ内蔵CPUのデザインのトレンドを勘案すると、次のiPhone用プロセッサ、あるいは今期以降のiPad新製品で「2つの高性能コアと4つの高効率コア」構成が採用される可能性も無きにしもあらずです。

    特にiPad系は放熱などの点でiPhoneよりも有利ですから、ことによると近い将来、上位モデルで「4つの高性能コアと4つの高効率コア」構成もあり得るかも知れません。

    なお、iPhone 7とiPhone 7 plusの2モデル間で動作時間の伸びに結構大きな差があるのは、先に触れたiPhone 7 plusでメモリが3GBに増量されたという報告の裏付けとなるものです。同クラスの前世代機との比較であることと今世代の2機種で画面サイズ・解像度およびカメラ回り以外の相違がDRAM増量のみであることから、常時定期的なリフレッシュ動作(※注11)が必要なDRAMの容量増大がかなり消費電力に響くことを示しています。

     ※注11:フリップフロップ回路でメモリセルが構成されるため一旦データを書き込めばごくわずかな電力供給で概ね特別な処理なしにその状態を維持できるSRAMや、電力を供給せずとも長期間のデータ保持が期待できる構造を備えるFlashメモリとは異なり、メインメモリに利用されるDDR4 SDRAMなどのDRAM(Dynamic Random Access Memory)の場合、データを特定のメモリセルに書き込んで一定時間放置するとそこに書き込まれたデータが回路の放電で喪われてしまう/そもそもメモリセルに対して読み出しの動作を行うだけでもデータが破壊されるほどデリケートな構造になっています。そのため、DRAMでは定期的に各メモリセルの内容を一旦読み出して専用のバッファ領域に保存し、再度それを同じ領域に上書きすることでメモリセルの電荷を再チャージする「リフレッシュ」と呼ばれる動作が必要となります。この定期的なリフレッシュ動作=電力消費が必要であるため、これまでiPhoneをはじめとするスマートフォンでDRAMによるメインメモリ容量増がなかなか進まなかったという事情があります。

    iPhone 6用のA8プロセッサに対応するiPad用プロセッサであるA8XプロセッサでCPUコア数が2基から3基に増やされ、DRAM容量が2GBに倍増されていたことを考えると、今後登場するであろうiPad系の新製品ではこのA8・A8Xの例と同様にCPUコア数を増やしたプロセッサを搭載し、内蔵メモリが4GB以上に増強される可能性があります。

    次回へ続きます。

    ▼参考リンク
    iPhone 7 – Apple(日本)
    Apple (日本) – Apple Press Info – Apple、iPhone 7およびiPhone 7 Plusを発表 — これまでで最高かつ最も先進的なiPhone
    Apple (日本) – Apple Press Info – Apple Pay、iPhone 7と共に日本に登場
    Apple (日本) – Apple Press Info – Apple、AirPodsによってワイヤレスヘッドフォンを再発明

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