Apple iPod touch(6th)カラーバリエーションはスペースグレイ、ブルー、ゴールド、ピンク、シルバーの5色展開となる。

iPod touchを考える ~第6世代iPod touch登場~

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by [2015年7月27日]

Apple iPod touch(6th)カラーバリエーションはスペースグレイ、ブルー、ゴールド、ピンク、シルバーの5色に加え(PRODUCT)RED(レッド)の合計6色展開となる。

Apple iPod touch(6th)
カラーバリエーションはスペースグレイ、ブルー、ゴールド、ピンク、シルバーの5色に加え(PRODUCT)RED(レッド)の合計6色展開となる。

定期的に年一度のモデルチェンジが行われているスマートフォンのiPhoneとは対照的に、ポータブルミュージックプレイヤーであるiPodは2012年9月発表の第5世代iPod touch・第7世代iPod nano以来、3年近くに渡ってモデルチェンジが行われてきませんでした。

初期のiPodが、低迷していたAppleの復活の1つの象徴となり、また年に2度程度のハイペースでモデルチェンジが行われていたことから考えると、これは信じられないほどの「枯れた」扱いです。

もっとも、AppleがiPhoneやiPadの成功により、以後はiPodよりも収益性の高いそれらのモバイルデバイスに事業の軸足を移していったことを考えれば、iTunesストアを基軸としたビジネスモデルの起点となったものの、その機能の全てを代替可能なiPhoneが上位機種的な位置づけで存在しそれと同時に携行されることが考えにくい状況では、価格帯的にも低いレンジに置かれているiPodを高頻度でモデルチェンジする必然性は乏しかったと言えます。

Apple iPod shuffle(4th)今回のiPod touchのモデルチェンジに伴いカラーバリエーション展開がそちらに合わせて変更されたが、ハードウェアそのものは5年前から変わっていない。

Apple iPod shuffle(4th)
今回のiPod touchのモデルチェンジに伴いカラーバリエーション展開がそちらに合わせて変更されたが、ハードウェアそのものは5年前から変わっていない。

実際、ポータブルサウンドデバイスとして見た場合、例えば製品ラインナップの最下位に位置づけられるiPod shuffleは、後は半導体技術の進歩に伴うストレージ容量の増大か、はたまたカラーラインナップの追加(※注1)くらいしか「モデルチェンジ」の要因が存在しなくなっています。

 ※注1:実際に現行の第4世代iPod shuffleは2010年9月に最初のモデルが発売されて以降、カラーバリエーション展開が行われ為替レートの変動などによる価格改定が行われた以外はほぼ仕様変更のないまま約5年に渡って販売され続けています。

それはつまり、この第4世代iPod shuffleが何年経っても特に変える必要の無い、こと「音楽を聴く」という単一の目的に対して恐ろしく洗練され単純化され尽くしたデザイン・機能の製品として完成されてしまっているいうことなのですが、これと比較すると、上位のiPod nanoとiPod touchの2シリーズ、中でも後者についてはその搭載される機能が高度かつ複雑な分、未成熟・未完成な印象があることは否めません。

Apple iPod nano(7th)かつてのiPod miniの後継的な位置づけの機種だが、iPod touchとshuffleの間で迷いがあるのか各世代間での機能面での「ぶれ」が最も大きい。これも今回のiPod touchのモデルチェンジに揃える形でカラーバリエーション展開が変更された。

Apple iPod nano(7th)
かつてのiPod miniの後継的な位置づけの機種だが、iPod touchとshuffleの間で迷いがあるのか各世代間での機能面での「ぶれ」が最も大きい。これも今回のiPod touchのモデルチェンジに揃える形でカラーバリエーション展開が変更された。

OSに相当するファームウェアも専用アプリもiPod touchよりもずっと小規模なiPod nanoについては、iPod touchとiPod shuffleの間のポジションというラインナップ整合性維持の観点から、高機能・高性能化し過ぎる訳にもいかないため今後も色々難しい舵取りを強いられると考えられます(※注2)が、問題はiPod touchです。

 ※注2:今回の「モデルチェンジ」ではiPod shuffleと同様、カラーバリエーション展開の変更と価格改定が行われただけにとどまっています。

というのは、なまじiPhoneの電話機能なし、小型化モデル的な位置づけで作られているが故に、このiPod touchは他の2シリーズと違ってiPhoneでの最新トレンドあるいは性能にある程度追随し続けることを義務づけられた格好となっているためです。

分かりやすく言えば、モデルチェンジ周期が長くロングスパンで販売され続けるがゆえに、ある世代の機種の最初の発売時点で旧式化していた、つまり「枯れた」iPhone用デバイスを搭載して安く上げる、という戦略が取れず、またOSサポートの制約から他の2機種ほどのロングスパンでの販売も現状では困難であるためです。

そこで今回は、こうしたiPod touchの抱える「縛り」が最新モデルでどのような影響を及ぼしているのかを中心に考えてみたいと思います。

主な仕様

記事執筆時点で公表されている「第6世代 iPod touch」の主な仕様は以下のとおりです。

  • OS:iOS 8.4
  • チップセット:Apple A8(デュアルコア)+M8
  • サイズ:約123.4 × 58.6 × 6.1 mm
  • 重量:88 g
  • メインスクリーン
    • 種類:マルチタッチ液晶Retinaディスプレイ
    • 解像度:640×1,136ピクセル
    • 画面サイズ:4インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:非公開
    • フラッシュメモリ:16/32/64/128 GB
    • 拡張スロット:なし
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:8メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:1.2メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/b/g/n/ac
  • 外部入出力:Lightning・ヘッドセット接続端子
  • 電池容量:非公開(交換不可)

この仕様を見て、「何か色々混じってないか?」と思われた方もおられることでしょう。

分かりやすく言うと、「第5世代iPod touchの筐体・ディスプレイを現行のiPhone 6のプロセッサ・ストレージ・カメラ周りと組み合わせたもの」というのがこの第6世代iPod touchの概要ということになります。

第5世代のiPod touchのディスプレイサイズは解像度を含めiPhone 5・5c・5sと共通ですから、「第5世代iPod touchの筐体をiPhone 5のディスプレイやiPhone 6のプロセッサ・ストレージ・カメラ周りと組み合わせたもの」などと解しても構わないのですが、要するにほぼiPhone 6そのままのプロセッサ性能が小さなiPod touchの筐体に詰め込まれているわけです。

つまり、この第6世代iPod touchは、ことゲームなどのiOS対応アプリケーションの動作速度に限って言えばiPhone 5s以前の機種よりずっと高性能でしかも低消費電力ということになります。

iPhoneがiPhone 6・6 plusの世代でサイズアップしてしまったため、この第6世代iPod touchにTouch IDと通話機能を搭載した「だけ」のコンパクト版iPhoneが欲しい、という方も少なくないのではないでしょうか。

「音楽を聴く」ためのデバイスに64ビットCPUを搭載する

さて、今回のiPod touchのハードウェアを概観した際にもっとも注目されるのが、搭載される統合プロセッサがiPhone 6・6 plusと同じApple自社開発のA8プロセッサであることです。

つまり、CPUがARM v8アーキテクチャ準拠の64ビットデュアルコアCPUになっているということで、ポータブルミュージックプレイヤーとして考えると、極端なほどの高性能CPU搭載となっています。

正直なところを言ってしまえば、単に音楽を再生するだけのポータブルミュージックプレイヤーとしてならば、例えDSD1024などのハイレゾ音源に対応しようともここまで高性能なプロセッサを搭載する必要は無く、オーバーキルに過ぎる(※注3)とさえ言えます。

 ※注3:実際,現在市販されているハイレゾ音源対応ポータブルミュージックプレイヤーでは、ソニーのNW-ZX1やNW-ZX2をはじめ多くの機種で現行Android搭載スマートフォンのハイエンド機種に搭載されるクラスのものよりも動作クロック周波数もコア数も共に明らかに格落ちの32ビットCPUが搭載されており、単純に音楽を聴くだけならば、現行最新クラスの64ビットCPUは特に必要ないといえます。

そもそも、iPod touchでは後述するようにハイレゾ音源にも対応していないのですから、この目的に限って言えば、こんな高性能CPUが必要ないのは明らかです。

それでは、何故この機種でA8プロセッサが搭載されたのでしょうか?

iOSデバイスとして長期間販売するということ

このiPod touchにAppleとして現行最新の高性能プロセッサが搭載された理由、それは新サービスであるApple Musicの快適な動作環境を提供する必要があったということ以上に、このデバイスが長期間にわたって販売される前提で企画された製品であるためと推測できます。

冒頭でも触れたように、前代の第5世代iPod touchは2012年に発表され、以来現在に至るまで約3年間に渡って販売されてきました。

その間、このデバイスに出荷時点で搭載されるiOSはバージョンアップによりiOS 6から8まで順次変更されていったわけですが、次に予定されているiOS 9でもこの第5世代iPod touchが同じA5プロセッサを搭載するiPhone 4sと共に対応機種に含まれてはいるものの、iOS 8でさえかなり苦しくなってきていることや、過去にiOS 7でiPhone 3GS、iOS 8ではiPhone 4が対応機種から外されたことを考えると、さすがにこの世代の機種に最新OSをプリインストールして現行製品として販売を継続するのは厳しい状況になっている、つまりもうこれ以上この製品を継続販売できない状況になっているといえます。

言い換えれば、iOS搭載デバイスを最低でも3年間ハードの変更なしに販売し続けようと思うと、こうした過去製品での実績を見る限り、少なくとも発表の時点での最新iPhoneと比較して1世代前までの範囲の世代の十分に強力なプロセッサを搭載しておかねば、その製品販売期間中のOSバージョンアップに対応しきれなくなる恐れが大きいということになります。

そのため、恐らく今年秋に発表されるであろう次世代iPhoneについては現行のA8プロセッサよりも高性能なプロセッサが搭載されると考えられることから、それと同時期に発売開始が予定されている第6世代iPod touchについて最低で3年の製品ライフサイクルを全うするには、例え現時点でいかに過剰性能であろうとも、iOSをOSとする限りは現行のiPhone 6・6 plusに搭載されているA8プロセッサを搭載する以外の選択肢はなかったのです。

さらに言えば、先に触れたApple Musicへの対応や、このiPod touchにポータブルゲーム機としての性質が備わっている以上、十分な3Dグラフィック性能を提供する新API「Metal」のフルサポートとその訴求のためにもA8プロセッサの搭載は避けて通れず、またAppleが開発環境を含め急速にiOSの64ビット化を推進している状況では、3年後も現行製品として32ビットコード以外走らない古いプロセッサを残すようなことはできないのだ、とも考えられます。

こうした状況から、おおむね3年程度は現行製品であり続けることを強いられるこのiPod touchというシリーズは、製品ライフサイクルの末期には必ずといって良いほど業界のシーラカンスになることをあらかじめ宿命づけられた製品であるといえます。

そしてそうであるからには、3年後あるいはそれ以後のモデルチェンジの時点でOSサポートなどにかける負担を最小限にとどめる必要があって、発表時点での製品価格からは考えられないような破格のスペックも、単に将来的なサポート負担の費用を形を変えて前払いしているにすぎない(※注4)といえます。

 ※注4:当然のこととして、その長い製品ライフサイクルの間にA8プロセッサの生産歩留まり向上などにより生産コストが低下することも、スペックおよび価格の決定にあたって考慮されていると推定できます。

つまり、この第6世代iPod touchで64ビットのA8プロセッサが搭載されるのは、その製品ライフサイクルを綿密に検討し尽くした上での決定であって、そこに偶然が入り込む余地はほとんどないと考えられるのです。

Appleはハイレゾ音源がお嫌い?

さて、今回この第6世代iPod touchの仕様を眺めていて筆者ががっかりしたことに、破格の高性能CPUが搭載されるなどコンピュータとしての基本性能が大きく底上げされる一方で、全くといって良いほどDSDを含むハイレゾ音源への対応に言及されなかったことがあります。

まぁ、新サービスであるApple Musicでもついぞその方面の話が話題になっていなかったのですから、ある意味想定通りの結果と言えなくもないのですが、Android陣営がスマートフォンでさえハイレゾ音源対応を強力に推進し、また市場においても徐々にではありますがハイレゾ音源データが普及しつつあることを考えると、Appleのハイレゾ音源に対する反応の鈍さというか腰の重さには正直不安になってしまいます。

確かに現状ではハイレゾ音源というのは非常にニッチな市場で、光学メディアとしてのSACDやDVD-Audioが市場で呈している状況も合わせて考えると、ハイレゾ音源への積極的な対応を謳いにくい一面があるのは否定できません。

それゆえに、ポータブルオーディオレベルの機器ならばバッテリー負担を増大させるハイレゾ音源など必要ない、あるいはそんなにハイレゾ音源を聴きたければ外付けDAC内蔵ヘッドフォンアンプでもつないで使え、ということになるのかもしれませんが、それを判断するのはユーザーであってAppleではないはずで、メーカーとして技術的に十分提供可能な選択肢を提示さえしないというのは、筆者個人としては全く感心できません。

先にも触れたようにこのiPod touchは基本的に長期間販売される前提の製品ですから、その新製品、それもポータブルミュージックプレイヤーとしては最上位のハイエンド機種がこのような状況では、Appleはことによるとあと3年はハイレゾ音源に対応しないつもりなのかもしれません。

ポータブルミュージックプレイヤーであることを重視しなくなったiPod

以上、第6世代iPod touchについて主にCPUを中心に考えてきましたが、前世代までと比較していよいよポータブルミュージックプレイヤーとしての性質が重視されなくなり、「通話機能を省いて小型化したiPhone」あるいは「最も低価格な最新iOSの動作する端末」という印象が強まっています。

それも経営戦略的にはありなのだと思いますが、製品単体としての印象が弱まっているのも確かで、「この機種でなければ」という部分が弱いことはこの機種の弱点になりそうな気がします。

もちろん、iPod系列のポータブルミュージックプレイヤーとして唯一、Apple Musicが利用できることは間違いなく大きなアドバンテージではあるのですが……。

▼参考リンク
Apple (日本) – Apple Press Info – Apple、これまでで最高のiPod touchを発表
Apple – iPod touch

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