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M1ピアノをiPadで! 新たにKAOSS PADも装備した『KORG iM1』

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by [2015年6月10日]

 近年、ハード、ソフト問わず往年の名機を復刻した製品のリリースが続いていますが、コルグから1988年に発売されたデジタルシンセの名機「M1」がついにiOSアプリとしてリリースされました。
 およそ10年前にPC版「KORG Legacy Collection Digital Edition」に収録されたソフトシンセとして既に復活していましたが、iOSアプリ版ではどのように実機が再現されているのかも含めて紹介しましょう。文:内藤 朗(有限会社FOMIS)

M1サウンドを完全再現したiOSアプリ

 iM1 for iPad(以下、iM1)は、M1のオリジナル設計時の回路図を解析してハードウェア部の細部のパラメータに至るまでをソフトウェアで完全再現し、さらに開発に際してはM1の全てを熟知したエンジニアによる丁寧なチューニングが行われるなど、実機サンプリングでは不可能な本物のサウンド追究によって誕生した製品です。

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iM1のメイン画面

 また、実機では不可能だったプログラムモードとコンビネーションモードの完全独立構成も実現するなど、新たな音源モジュールとして構成されています。
 内蔵されているプリセット音色は実機に内蔵されていたプリセットはもちろん、オプションとして当時発売されていたM1用PCM ROMカードの全19種類と、内蔵PCM波形が拡張されたM1 EXのサウンド、M1の後継機Tシリーズのサウンド、「Universe」「Lore」などの代表的M1プリセット音色100プログラムをピックアップした「BEST OF M1」など全34種類のカード、3,300に及ぶサウンド(※)が使用可能です。※カードとサウンドの総数は、アプリ内課金で購入可能な別売の全拡張サウンドROMカード搭載時のものです。

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「スマートサウンド・ブラウザ」と呼ばれるブラウザ状の画面で膨大な音色は管理され、目的とする音色を容易に選ぶことができる

 これらの膨大な数のサウンドを選ぶための支援機能として、プログラム選択画面では楽器の種類やキャラクターから音色の絞り込みができるSEARCH機能を装備しています。さらに世界中のiM1ユーザーが良く使用する音色をリストアップするRANKING表示されるのもユニークな特徴です。

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iM1のKAOSS PADを表示させた状態。2個のパッドで自由に演奏パフォーマンスが行える

 もう一つiM1独自の機能として注目したいのは、演奏する際のコントローラとしてキーボードコントローラに加えてKAOSS PADを2個装備している点です。左側のパッドでフィルターやエフェクトのパラメータなどを、右側のパッドでは演奏するノート情報のスケールやキーなどを自由自在に動かして演奏可能ですので、鍵盤楽器に慣れていない人もiM1の音色を使用したパフォーマンスを行うことができます。

 また、iM1はAudiobusやInter-App Audioに対応していますので、Cubasisを始めとするDAWアプリなどで音源として使用したり、オーディオトラックへの録音などが可能です。更にBluetooth-MIDIもサポートしているので、ワイヤレス接続による演奏も可能など、拡張性も十分備えた仕様となっています。

完全独立構成の演奏モード

 次にiM1の各部について解説しましょう。
 メイン画面は一つで、モードやエディットセクションなどを切り替えることで、それぞれの操作画面が表示されます。演奏モードは画面右上部分のモード選択ボタンをタップして切り替えます。

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モード切り替えボタン部分。左からコンビネーションモード、マルチモード、プログラムモードとなっている

 前項で触れたように、iM1は実機とは異なり、プログラムとコンビネーションそれぞれの演奏モードが完全に独立して構成されている他、マルチモードが新たに追加されています。
 各モードについて簡単に説明すると、プログラムモードは1音色だけを演奏するためのモード、コンビネーションモードは複数の音色をレイヤーして一つの音色として構成するモード、マルチモードは8パートのマルチティンバー音源として使用するためのモードです。
 iM1の画面上ではコンビネーションモードとマルチモードの表示は同じで、実際にどちらも同じ設定ができてしまうので慣れない人は戸惑うかもしれませんが、両モードの違いは各トラックに設定されているMIDIチャンネルの初期設定とマスターエフェクトの扱われ方のみです。MIDIチャンネルの設定で、全て1チャンネルに設定されているのがコンビネーションモード、各トラックが別のチャンネルに設定されているのがマルチモードとなります。もう一方の違いとなるマスターエフェクトは、8トラック全ての出力を一まとめにしたものに対してマスターエフェクトをかけるのがコンビネーションモード、8トラックそれぞれにセンド・リターンでマスターエフェクトのかかり具合を設定できるのがマルチモードとなります。
 実務的には一つの音色として演奏に使用したい場合はコンビネーションモード、PC版のDAWの音源として使用する場合にはマルチモードを選ぶと良いでしょう。

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コンビネーションモードの場合のマスターエフェクトページ。全てのトラックにまとめてエフェクトがかかるので、個々のトラックのかかり具合は設定できない

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マルチモードの場合のマスターエフェクトページ。センドリターンで各トラックにエフェクトをかけられるので、個々にかかり具合の調整が可能

iM1の音色エディット(基本編)

 iM1で音色をエディットするには、1音色の単位となるプログラムモードで行うのがわかりやすいでしょう。プログラムモードの場合、エディットを行う画面はEASY、OSC、VDF、VDA、CONTROL、INSERT FXの各ページを表示させて行います。音色作りに慣れていない人は、プリセット音色を自分好みの音色に調整することから始めると、iM1のしくみが理解しやすく、初期設定状態からの音色作りにも役立つと思います。例えば「音の立ち上がりを速くしたい」「音を明るくしたい」などのエディットは、iM1の音作りを行う上で重要なパラメータを手早く変更することができるEASYページで行うとわかりやすく、かつ便利です。EASYページでのエディットに慣れてきたら、OSC、VDF、VDAなどの各ページできめ細かいエディットを行うと良いでしょう。

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EASYページの活用法としては、既に仕込んだ音色を微調整したい場合などのようなエディットを行いたい場合にも重宝する

 ちなみにOSC、VDF、VDA、CONTROL、INSERT FXの各ページでは以下のような調整を行います。

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OSC:オシレータセクション。アナログシンセのVCOに相当する部分で、iM1では音色の元となる波形やピッチに関わるパラメータを調整する

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VDF(Variable Digital Filter):フィルターセクション。音色の明るさ調整に関わるパラメータの調整を行う

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VDA(Variable Digital Amplifier):アンプセクション。主に音量に関するパラメータの調整を行う

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CONTROL:演奏表現に使用する各種コントローラの調整を行う

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INSERT FX:音色にかけるエフェクトの調整を行う

iM1の音色エディット(上級編)

 続いて初期設定状態から音色を作成する場合です。
 音色名の表示されている部分をタップするとプログラム選択の画面が表示されますので、ここでUSER**のカードを選びます。

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スマートサウンド・ブラウザ上でUSER 1のカードを選んだ状態。エディットした音色は各カード50種類保存しておくことができる

 するとリスト上にはInit Progという音色名がありますが、これが初期設定状態の音色データです。これをタップするとピアノの波形がオルガンのように持続した設定となっている素の状態の音を選ぶことができます。

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Init Progを呼び出した状態。各パラメータともデフォルト値になっているのがわかる

 後は自由に各セクションのパラメータを調整するだけなのですが、前項での説明からアナログシンセの仕組みを知っている人なら「アナログシンセと同じ感覚で音色作りを行えるのでは?」と気がついた人も多いと思います。
 iM1では、オシレータ部分がマルチサンプリング波形になっている他は、VDFをVCF、VDAをVCAと置き換えて考えるとアナログシンセと同様の方法で音色作りを行うことができます。また、ビブラートやワウ効果などをかけたい場合にアナログシンセで使用するLFOは、iM1ではMG(Modulation Generator)となっている部分が相当します。

KORG Gadgetのインストゥルメントにもなる!

 さて、冒頭でも少し紹介しましたが、他のアプリ等との連携や拡張性などについて詳しく見ていきましょう。
 まず、DAWとの連携は、AudiobusやInter-App Audioに対応していますのでCubasisやGarage Bandなどで使用することができます。

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図はCubasis上でInter-App AudioによってiM1を使用している状態

 他のアプリとの連携で特にオススメしたいのは、先日バージョンアップしたコルグのアプリKORG Gadgetのガジェットとして使用する方法です。iM1と最新版のKORG Gadget両方がiPadにインストールされている場合、KORG Gadget上でiM1が他のガジェットと同じように使用することが可能です。ちなみにiM1はKORG Gadget上ではDarwinというガジェット名になっていますので、iM1という名前で探しても見つからないので注意しましょう。なお、KORG Gadgetとの連携については、改めて紹介したいと思います。

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KORG Gadget上でDarwinを2台立ち上げた状態

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Darwinを割当てたトラックでDarwinのエディット画面を表示した状態

実機やPC版とも音色データ共有が可能

 これまでに実機のM1やKORG Legacy Collectionを使ってきた人であれば、オリジナルの音色データを作って保存していることも多いと思います。また、逆にiM1で作成した音色データをKORG Legacy Collectionに読み込んで使いたいケースもあるでしょう。iM1は、インポート&エクスポート機能を装備しており、iTunes経由でKORG Legacy Collectionと音色データを共有することができます。また、実機のM1とも音色データの互換性が図られているため、M1で作ったsyxファイル形式の音色データをiTunes経由でiM1にインポートすることが可能です。これらの機能を活用することによって、iM1を新たな音色制作作業用アプリとして使用するのもアリだと思います。特にKORG Legacy Collectionを使っている人には、DAW上での本作業前の音色の仕込み時に重宝するでしょう。

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音色データのインポートとエクスポートは左上のFILEメニューで行う

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iTunes上でiPadを同期している状態

iM1を音源として使ってみた印象

 以前に実機とPC版で同じ曲を演奏させて聴き比べを行ったことがありましたが、ハード音源からソフトシンセに差替えてもほとんど気がつかないほど、ソフトの音はハードに肉迫していました。しかし、細部に注意して聴いてみるとソフトの方がエンベロープやエフェクトの処理が滑らか、かつ自然な感じになっていて、M1ならではの「荒さ」が軽減され、スタイリッシュなサウンドに感じられたのを覚えています(もちろん、質感的にどちらが良いというものではないことも付け加えておきます)。
 それを踏まえてのiOS版の印象ですが、PC版をiPadに移植したので音質クオリティも同じと考えられ、既発のソフト音源と同じ質感がありました。また、演奏した際の出音のレスポンスも良く、速いパッセージも弾きやすく感じられました。
 また、実機にはないKAOSS PADコントローラを使用した演奏感は、M1サウンドを新しいアプローチで使えて新鮮。クリエイティビティを掻き立てられる機能なので、ライブの飛び道具として使うのもおもしろそうです。それだけに実機の代用としてだけではなく、全く別の新しいシンセとして自由に使ってみるのもオススメします。

現在のPCMシンセへと続くオールインワン・シンセサイザーの祖「M1」

 最後にデジタルシンセサイザーの歴史的な部分をおさらいしておきましょう。
 電子楽器の演奏情報をやり取りするための世界共通規格となるMIDIが誕生したのは1982年のことで、その翌年にはMIDI規格に対応したシンセサイザーが発売されました。それから約5年が経過した頃から、コンピュータの進化に追従するような形でデジタルシンセサイザーも急速な進化を始めました。当時はシンセサイザー1台だと1つの音色しか演奏できないモデルがほとんどで、複数のシンセサイザーやドラムマシンなどをシーケンサーと接続したMIDIシーケンスシステムを構築するのが一般的でした。
 やがてシンセサイザー1台だけで複数のパートを異なる音色で演奏可能な「マルチティンバー」タイプのシンセサイザーが登場し、さらにドラムマシンやシーケンサーの機能もシンセサイザー本体に包括したタイプへと進化します。このようなタイプは「オールインワン・シンセサイザー」あるいは「ミュージック・ワークステーション」などのように呼ばれ、現在のデジタルシンセサイザーは、このスタイルを発展、進化させたものとなっていますが、その実質的な1号機はコルグから1988年に発表された「M1」だったのです。

iM1_01_M1 M1は、核となる音源方式にコルグのPCM音源方式である「AIシンセシス」が採用されました。同時期にローランドから出ていた「D-50」はワンショット波形が多かったのに対して、M1はマルチサンプリングされた波形を多く内蔵していた点が異なります。スペック的には、同時発音数16音、8パートマルチティンバーで独立2系統ステレオ・デジタル・エフェクター、最大記録数7,700音のシーケンサー内蔵、といった仕様で、当時としては最高水準の機能を有していたのは言うまでもないでしょう。
 2行表示のディスプレイでは全体を把握しにくかったり、シーケンサーの使い勝手が必ずしも良いわけではなかったのですが、それ以上に本体の音(音色)の良さと1台で何でもできるという便利さは画期的でした。また、PCM波形を拡張したM1 EXや、音源モジュール版であるM1Rが発売されたことなどもあり、音楽制作機器として使用しているキーボーディスト以外の楽器アーティストがシンセサイザーに触れるきっかけになった機種と言っても過言ではないでしょう。
 M1が今日まで語り継がれる名機たるゆえんは、個性的なプリセット音色を持っていたことも理由の一つですが、M1の代表的な音色と言えば俗に「M1 Piano」と呼ばれるピアノ音色でしょう。サンプリングされたアコースティックピアノに強くコンプレッサーをかけたようなアタックとエンベロープが特徴的な音で、高音域は、やや琴のような響きを持っているのが特徴です。その音色は様々な楽曲で使用されていましたが、最近では2000年代のヒップホップ系の楽曲で一時期よく耳にしたピアノ音色が、このM1 Pianoの音色の使用例です。
 その他にも、SFX系ループ波形とシンセ波形をミックスして作った独特なパッド音色、マリンバとパンフルートを組み合わせたリード音色など、M1のプリセット音色がカバーするジャンルは非常に幅広いので、使用していたアーティストも多岐に渡ります。代表的なところでは、リック・ウェイクマン、ジョー・ザヴィヌル、ゲイリー・ニューマン、ディペッシュ・モード、喜多郎、ケンイシイなどが挙げられます。

アプリ基本情報

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KORG iM1

配信元:KORG INC.

iOS価格:3600円

  • バージョン iOS:1.0.2

※記事内の情報はすべてレビュー時(2015年06月10日)の情報です。

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