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PD音源の再現にとどまらないカシオのシンセアプリ『CZ App for iPad』

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by [2015年3月02日]

 CASIOのCZ App for iPadは、80年代のデジタルシンセサイザー黎明期に登場した名機CZ-101で有名なCZシリーズの復刻版とも言えるアプリです。文:内藤 朗(有限会社FOMIS)

アナログ的な手法でデジタルシンセ入門に最適だったCZシリーズ

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 まず本製品のモデルとなったCZシリーズのシンセサイザーについて解説しましょう。
 CZシリーズは1984年発表のCASIO社におけるデジタルシンセサイザーの1号機「CZ-101」からその系譜が始まります。このCZシリーズは「PD音源」という音源方式が採用されているのが特徴で、正式には「Phase Distortion音源方式」と呼ばれています。
 PD方式は、2系統あるDCO(アナログシンセのオシレータセクション相当)から出力されたサイン波の読み出し速度を変化させて波形の位相角を歪ませた後に、DCW(アナログシンセのフィルターセクション相当)、DCA(アナログシンセのアンプセクション相当)で音色の設定を行うものです。
 DCOセクションに用意されている基本波形は、SAW-TOOTH(ノコギリ波)、SQUARE(矩形波)、PULSE(パルス波)といった従来のアナログシンセ波形に加え、DOUBLE SINE(ダブルサイン波)、SAW-PULSE(ノコギリ-パルス波)、RESONANCE1~3(レゾナンス波形でデジタル波形の一種)の8種類なのですが、これら8種類の波形の中から2種類を組み合わせた波形が33種類用意されていたので、デジタルシンセならではの複雑な倍音の響きをもったベル風音色からアナログシンセ風サウンドまで多彩な音色作りを行うことができました。
 このようにCZシリーズのPD音源は、アナログシンセサイザー的な手法で音色エディットができるということから、初めてのデジタルシンセはCZシリーズ、という人も私の周りには多かったように思います。ちなみに当時のプロミュージシャンではザ・スクェア(現T-Square)のキーボーディストだった和泉宏隆氏やセンス・オブ・ワンダーの難波弘之氏などがレコーディングやライブ等で使用していました。また、YMOのドラマーの高橋幸宏氏が製品のイメージキャラクターになったこともあるなど、話題性も多いシンセサイザーでした。
 なお、CZシリーズはミニ鍵盤ボディが印象的な1号機CZ-101の他、標準鍵盤タイプのCZ-1000、2倍の同時発音数を持ったCZ-3000、8トラックMIDIシーケンサーを装備したCZ-5000、ベロシティ対応のCZ-1などがありましたが、いずれも鍵盤サイズや発音数などが異なる以外、音源方式は共通仕様です。このCZシリーズの後継モデルでは、PD音源を進化させたiPD音源を搭載したVZシリーズとして、VZ-1、VZ-10M、VZ-8Mなどがありました。

CZ App for iPadの基本性能をチェック!

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◯で囲んでいる部分がエディットを行っている時の状態。ここではビブラートのRATEを変更しているパラメータの数値が表示されている。

 本製品は4パートマルチティンバー仕様になっているので、4パートの同時演奏が可能です。ただし、最大同時発音数は全てのパートの演奏する音の合計で16音となっているため、一度に16音以上を鳴らすといずれかの音が発音されないことになるので注意が必要です。
 拡張性という点では、iOS 7以降のInter-App Audio、InputのみながらAudiobusに対応している他、外部MIDIキーボードを接続しての演奏も可能です。特にベロシティによる強弱表現ができることからもMIDIキーボードを使用するのがオススメです。※市販のMIDIインターフェイス、Apple社の『Lightning – USBカメラアダプタ』+USBケーブル、または『Apple iPad Camera Connection Kit』+USBケーブルを経由の方法で行うことが必要です。
 メインのGUIでは音色作りのためのパラメータがレイアウトされていますが、それぞれのエディットセクションをタッチすることで、その中のエディットパラメータが表示され、音色のエディットを行うことができます。

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GUI上のエフェクト設定部分。リバーブ、コーラスに加え、コンプレッサー、ディレイ等が本体内で付加できる。

 実機では小さな液晶表示部分に表示される文字情報で行っていた音色作りも本製品では格段にやりやすくなっているのは、当時を知る人には嬉しい機能でしょう。
 また、当時のCZシリーズでは内蔵のコーラスエフェクターが独特の味わいある効果を付加することができましたが、本製品ではマスターエフェクトのコーラスとリバーブに加えて8種類のデジタルエフェクトが内蔵されています。当時はアウトボードで処理していたエフェクトも本製品内で行うことができるため、サウンドデザインの幅は大きく広がっています。

 この他、CZ App for iPadは、CZシリーズを単に再現しているだけではなく、MULTI PLAYモードを装備するなど、iPadならではの特徴を活かした独自の機能も追加されています。この4パートはMULTI PLAYモードにすると2~4段表示や2段向かい合わせのレイアウトなど、7通りのレイアウトが選べます。一人で4段鍵盤演奏を行ったり、二人で向き合って2段ずつ電子オルガン的なデュオ演奏を行うなど演奏を行うためのインターフェイスがユニークです。

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MULTI PLAYモード4段表示状態

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MULTI PLAYモード向かい合わせ2段表示状態

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右上部分にあるAUDIOボタンを押して、オーディオファイルを選択している状態

 iPad内のオーディオファイルを再生しながら鍵盤演奏も行うことも可能です。

CZ App for iPadの音色エディットのポイント

CZ App for iPadで音色を作成する上で必要なPD音源の音作りの知識を最初に説明しましょう。PD音源で核となるパラメータセクションは以下の3点です。

DCO(Digital Controled Oscilator)…アナログシンセのVCOに相当。
DCW(Digital Controled Wave)…アナログシンセのVCFに相当。
DCA(Digital Controled Amplifier)…アナログシンセのVCAに相当。

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DCOセクションのピッチエンベロープの表示部分。DCW、DCAでも同様の表示によってエディットを行なう

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DCOセクションの波形選択部分。選べる波形はSAW TOOTH、SQUARE、PULSE、DOUBLE SINE、SAW PULSE、RESONANCE Ⅰ~Ⅲとなり、First、Secondのそれぞれで自由に選び、組合せることができる

 音色作りはDCOセクションで設定した波形を元にDCWやDCAの調整を行なうことになりますので、最初はDCOセクションでの波形選びから始めましょう。

 実際にやってみると、当時の実機と同様の組合せが設定できるようになっていますので、実機を知っている人には懐かしく、今回初めてPD音源に触れる人には新鮮なサウンドとして聴こえるのではないでしょうか。
DCOセクションを表示させると、First、Secondの組合せで様々な波形を作成できると同時にPITCH ENVELOPEで音程の時間的な変化を設定することができます。
 続いて、DCWで音色の調整を行いましょう。先程アナログシンセのVCFに相当と書きましたが、大きく異なるのはローパスフィルターやハイパスフィルターなどで音色を調整するのではないことです。イメージ的にはWAVE ENVELOPEで設定した時間的な変化によって音色の明るさが変化すると大まかに捉えてもらえると良いでしょう。実際には縦軸の上方向にいくほど(=値が大きくなるほど)、DCOで設定した波形に近づき、下方向に行くほど(=値が小さくなるほど)サイン波に近づくことになります。

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DCWセクションのエディット表示。DCWのエンベロープ表示で縦の変化が大きいほど音色的な変化が大きくなる

 その次にDCAで音量的な変化を調整する、という流れが基本的な音色作りのプロセスです。
ここまでである程度基本となる音色ができますので、あとは音色を聴きながら、各セクションを微調整して仕上げていきますが、音の厚みや音域のレンジ感がある音色にしたい場合にはDETUNEを、ベル系の音作りなどの際に金属的な響きが得たい場合にはRING MODULATIONを、演奏時に滑らかな音程変化が欲しい時にはPORTAMENTOを調整すると良いでしょう。最終仕上げとしてコーラス、リバーブ、DSPTypeで選べるエフェクトなどを調整すると本格的な音色に仕上げられます。

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DETUNE部分はOCTAVE、NOTE、FINEの3種類があるが、FINEを微調整すると広がりのあるコーラス効果が得られる

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リングモジュレーションは金属的な音程感の希薄な効果音作りにも最適だ

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ポルタメントはシンセリード系の音色などをモノモードで使用する際に不可欠な機能で、ポルタメントを加えるだけでアナログシンセ的なテイストを付加することが可能

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DSP.Typeはコンプ、ディレイ、ディストーション、エンハンサー、パンニング、フェイザー、トレモロ、ワウワウから1つ選択可能。選んだエフェクトの種類に応じて適切なパラメータが調整できるようになっている

出音はリアルなCZサウンド

 一通り操作してみると、機材が進化している分、音質のクオリティも格段に向上していますが、出てくるサウンドはリアルなCZサウンドだなという印象を受けました。
 やはり当時は音色エディットに煩雑さを感じながら苦労してやっていたこともあり、手軽にできるこのインターフェイスはサウンドクリエーターには嬉しいと思います。
 また、別アプリでも良いのですが、バージョンアップの際にはVZシリーズ系のサウンドも出せるようになると良いですね。

アプリ基本情報

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CZ App for iPad

配信元:CASIO COMPUTER CO., LTD.

iOS価格:2000円

  • バージョン iOS:1.0.3

※記事内の情報はすべてレビュー時(2015年03月02日)の情報です。

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