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ひょっとしてIGZO液晶搭載? ~新iPadに見るAppleの哲学~

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by [2013年10月24日]

iPhone 5sの発表時点で予測されていたことですが、このたびAppleからiPadシリーズの最新作、iPad AirとiPad mini Retinaディスプレイモデルの2機種が発表となりました。

これらの機種ではiPhone 5sの内容から予測された改良点が概ね盛り込まれていた、として良いのですが、それ以外にも幾つか注目すべき改良・変更点がありました。

それらの改良点を見る限り、Appleがタブレット機にどのような需要を想定し、またどのような使い方を提案しているのかが、従来にも増して鮮明になった印象があります。

そこで今回はこれら2機種について、ハードウェア寄りの視点からAppleの意図するところを独断と偏見に基づいて読み解いてみたいと思います。

まずはお約束のハードウェアスペックから

iPad AirとiPad mini Retilaディスプレイモデルで共通の仕様は以下の通り。

  • OS:iOS 7(64ビット版)
  • チップセット:Apple A7 + Apple M7
  • 内蔵メモリ
    • RAM:容量非公開
    • フラッシュメモリ:16/32/64/128 ギガバイト
    • 拡張スロット:なし
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:5 メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:1.2 メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/b/g/n
    • 対応周波数:2.4GHz、5GHz(※MIMO対応)
  • LTE:
    • 対応周波数帯:バンド1 - 5、7、8、13、17 - 20、25、26
    • Bluetooth:Ver.4.0
    • 防水:非対応
    • 防塵:非対応

    iPad Airの固有仕様となる部分は以下の通りです。

    • サイズ:約169.5 × 240 × 7.5 mm
    • 重量:約469g(Wi-Fiモデル)・約478g(Wi-Fi + Cellularモデル)
    • 電池容量:32.4 Wh(≒8,700mAh 端子電圧3.7V)
  • メインスクリーン
    • 種類:IPS液晶
    • 解像度:2,048×1,536 ピクセル
    • 画面サイズ:約9.7 インチ(対角線長)
  • また、iPad mini Retilaディスプレイモデルの固有仕様は以下の通り。

    • サイズ:約134.7 × 200 × 7.5 mm
    • 重量:約331g(Wi-Fiモデル)・約341g(Wi-Fi + Cellularモデル)
    • 電池容量:23.8 Wh(≒6,400mAh 端子電圧3.7V)
  • メインスクリーン
    • 種類:IPS液晶
    • 解像度:2,048×1,536 ピクセル
    • 画面サイズ:約7.9 インチ(対角線長)
  • 以上から、iPad AirとiPad mini Retinaディスプレイモデルの間では、ディスプレイと筐体寸法および重量、それにバッテリー容量以外、全くと言って良いほど相違点がない、ということがわかります。

    なお、同じプロセッサー搭載でありながら、またバッテリー容量が異なるにもかかわらず、これら2機種の連続稼働時間は同一であると公称されています。

    端末の均質性と明確な機能分化を重視するApple

    今回の2機種で注目されるのは、iPhone 5sと同じARM-v8準拠のApple A7 64ビットプロセッサと、モーションコプロセッサを呼称するM7コプロセッサを搭載した、64ビットOSマシンとなったことです。

    大画面かつ高解像度なディスプレイを搭載し、大容量バッテリーの搭載が容易なiPadの方がiPhoneよりも高性能プロセッサ搭載に対する設計の自由度が高く、またその必要性も高いことは言うまでもありません。

    やや意外だったのは、2機種とも公称スペックの上ではiPhone 5sと全く同じチップ構成で統一されたことです。

    前世代のiPadでは下位のiPad miniがA5、上位のiPad(第4世代)がA6X、とCPUコアの世代から異なるプロセッサを搭載して性能面での差別化が行われていたのに対し、今回の2機種では額面上のスペックには差がつけられていません。

    そればかりか、iPad(第4世代)ではiPhone 5向けA6プロセッサを搭載した場合、内蔵GPUの描画性能が不足したことからGPUの演算処理を司るシェーダーユニット数を増強したA6Xプロセッサを別途設計、搭載していたのに対し、今回の2機種ではそのままiPhone 5sと同じA7プロセッサを搭載しています。

    元々Appleは、初代Macintoshの時代から同世代の機種ごとの性能差を大きくすることには否定的な傾向があるのですが、大画面ディスプレイモデルとコンパクトモデルで同じプロセッサ、同じ高解像度で同じ連続稼働時間を公称するとなると筆者の記憶する範囲では前例がなく、これはさすがにインパクトがあります。

    これら2機種は本当に画面や筐体の物理的なサイズと重量以外、何一つ違わないように作られているのです。

    このことから、AppleがiOSデバイスはiPadとiPhoneで明確に2分されるものの、基本的にそれぞれの機種カテゴリごとでのユーザーエクスペリエンスに差が付かないような製品作りを意識していることが読み取れます。

    それは、今回は2機種でプロセッサに差が付けられたiPhoneでも、画面に関しては5sと5cでiPhone 5と同じ解像度を維持しており、またiPadでもRetinaディスプレイ搭載モデルとそれ以外の機種で解像度に4倍の差があるものの、縦横2倍ずつ拡大と最も簡単なスケーリング処理で済む解像度(※この解像度の縦横2倍拡大はiPhoneでも過去に採用された実績があります)を選択、各機種間でアプリの動作に相違が生じないようにしていることからも明らかです。

    このあたりを見ると、iOS搭載製品は基本的にApp storeで販売されるアプリの動作環境としての均質性・動作互換性の保証が何より重視されている(そのため、今後のiPhoneでは現在の縦横2倍の画素数を備えたパネルが搭載可能になるまで、高解像度化は実現しないと推測できます)と言えます。

    Android搭載端末が機種ごとの画面解像度や縦横比の相違など頓着も想定もろくにせず、それ故に(特にゲームの)ソフト開発者側が画面デザインについて端末ごとの動作検証を厳重に行わねばならないため、近年とみにそうした端末ごとの互換性チェックの負担が(それも線形的にではなく指数関数的に)増大しつつあるのと比較すると、対照的な設計コンセプトであると言えます。

    こうした相違は、Appleがハードウェア・ソフトウェア・サービスの全てを自社で開発・提供する総合コンピュータメーカーであり、Googleがソフトウェアとサービスに特化した企業である、という両社の立ち位置の相違がもたらしたもの、と言えます。

    公称スペックの裏に隠されたもの

    さて、今回の新iPad 2機種を比較する場合、一つ無視できない点があります。

    同じプロセッサを搭載し、内蔵バッテリー容量に大きな相違(※約8,700mAhと約6,400mAhで約2,300mAh)があるにもかかわらず、これら2機種の連続稼動時間が少なくともビデオ再生時などでは同一である、と公表されていることです。

    もちろん、同一方式のディスプレイパネルを使用する限り、画面サイズがより大きなiPad Airの方がパネルサイズの大きい分だけ消費電力が大きくなってしまいますから、この機種がより大きなバッテリーを搭載するのはごく自然な判断であると言えます。

    しかし、単純計算でディスプレイ面積と消費電力が比例すると仮定すれば、9.7インチクラスのパネルと7.9インチのパネルでは2倍以上の面積差となり、このクラスのパネルの一般的な消費電力量を想定すると、この内蔵バッテリー容量差で同じ連続稼動時間というのは、多アンテナで送受信することでWi-Fi通信を高速化するMIMOを導入したことを考慮するとなおさら、どうにも帳尻が合わないというか、うまく説明がつきません。

    特に、iPad Airは前世代のiPad(第4世代)よりも大消費電力のプロセッサを搭載し、しかもバッテリー容量が削減されてなお、同じだけの連続稼働時間を維持しているのですから、話は半ばオカルトめいてきます。

    A7プロセッサが動作時に電力を大量消費するのは、Apple自身が何と言おうと(※Apple自身はバッテリーの保ちが維持されたことを「それは、A7チップがよりパワフルなだけでなく、より効率的だからです」と公式ページで説明しています)、28nmプロセスで製造され、チップサイズ102平方mmで10億以上のトランジスタ数というその仕様から容易に推測できます。

    事実、このプロセッサを初搭載したiPhone 5sの連続稼働時間がバッテリー容量の増量(※1,440mAh → 1,560mAh)にもかかわらず、実質的にベースバンドプロセッサの変更による省電力化によって延長されただけ(※iPhone 5cと同値です)に留まり、バッテリー容量の増量分がほぼA7プロセッサへの移行に伴う消費電力増大で、それもM7コプロセッサによる可能な限りのA7プロセッサの動作停止を組み入れたにもかかわらず完全に相殺されてしまったと見られることからも、このA7プロセッサの消費電力がモバイル機器に搭載するには過大気味であって、少なくともApple自身が主張するような(電力消費の観点で)「より効率的」である筈がないことは明らかです。

    消費電力について都合の良い性能を実現する魔法が存在しない以上、A7搭載で前世代機よりもかなり少ないバッテリーを用いて連続稼働時間が保たれているとすれば、それは統合プロセッサと並ぶ大消費電力デバイスである内蔵ディスプレイパネルで何かよほど劇的な消費電力低減が実現された、と考えるのが妥当でしょう。

    そして、今回の新iPad 2機種ではいずれもIPS液晶を搭載していることが明記されています。

    IPS液晶にしたからと言って劇的な低消費電力化が達成されるわけではない

    しかし、結論から言えば単なるIPS液晶が劇的な消費電力低減をもたらした、というのはあり得ません。

    というのも、LEDバックライト搭載IPS液晶の導入はiPadの先行機種でとっくの昔に実施済みの話だからです。

    ここまで書くと、勘の良い方なら既にお気づきかもしれません。

    IPS液晶のカテゴリに収まり、ディスプレイの消費電力低減に劇的に効く、しかも本体の薄型化にも貢献する技術。

    そう、恐らく今回の新iPad 2機種のディスプレイパネルは、ここまでに記したような状況証拠から考えて、シャープのCAAC-IGZO技術が採用されたIPS液晶である可能性が高い、と筆者は推定します。

    ファブレットの流行に背を向けて

    一方、今回の新iPadは他社が相次いで「ファブレット」、つまり5インチ以上の画面サイズで通話機能を備えた、タブレットとスマートフォンの中間解というべき機能の端末を発表する中で登場したにもかかわらず、iPad miniの画面サイズを7.9インチのままとし、Wi‑Fi + Cellularモデルについても本体単独での通話に必要な全機能を搭載しない、つまり「ファブレット」的な扱い方を想定しないデザインで発表されました。

    他社での「ファブレット」流行が、多分にAndroid搭載スマートフォンとタブレットの機能分化が不明瞭で、どちらか一方のみを所持するユーザーが多い、という状況を反映したものであり、iPadとiPhoneを併用し必要に応じて使い分けるユーザーの多いiOSデバイスとは状況あるいはニーズが異なることを考えれば、それはある意味当然の判断です。

    筆者の見る限り、携帯電話としての実用性を半分放り出したも同然の「ファブレット」ブームが長続きするとは正直思いがたいのですが、それに背を向け、自社のタブレット製品ラインナップ内での性能の均質化を重視し、従来以上にiPhoneとの機能分化を明確化した今回の新iPadは、一般受けするような新鮮味は薄いかも知れません。

    しかし、それだけに実用性や完成度は確実に高まっており、「道具」としての魅力もまた高い、と筆者は考えます。

    唯一不満があるとすれば、iPad mini RetinaディスプレイモデルのWi‑Fi + Cellularモデルで内蔵ストレージ容量16ギガバイトのモデルで55,800円、ストレージ容量がそこから倍増するごとに1万円ずつ高くなるという結構理不尽な価格体系くらいのものでしょうか。

    正直、外付けのFLASHメモリ(SDメモリカードやUSBメモリなど)がこれだけ低価格化したご時世に、外部メモリを接続するためのスロット類も搭載せずにこの価格体系、というのは、ストレージ容量で暴利を貪っている、と非難されても文句を言えないと思うのですが・・・。

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