Lenovo ThinkPad X61sに搭載されていたAuthenTec製指紋センサーモジュールFRUナンバーを記載したシール下の横長の部品が指紋を読み取るセンサー部分で、この部分を指で上から下へなぞることで読み取り動作を行う。

iPhone 5sの神髄に迫る! ~センサー編~

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by [2013年9月25日]

ifixitのiPhone 5s分解ページ
最早恒例行事となった感があるが、その内容は単なる分解にとどまらない。

iPhoneの新型が発売になる度に早速分解し中身を公開してしまうことで定評のある米ifixit。

今回のiPhone 5sについても期待されていたのですが、期待に違わず今回もやってくれました。

その分解レポートでは、個々の部品名や実装状況、チップのパッケージ記載番号などを手がかりにした型番の特定などが示されていて、期待通りだった部分や、期待外れだった部分、あるいは想像もしなかった部分があって、毎度のことながら興味が尽きません。

今回はそのifixitの分解レポートで示された中から、センサー系について見てみたいと思います。

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ソニー製らしいカメラモジュール

iPhone 5sでは、iPhone 5から額面上のスペックをほとんど変えずに実質的な性能の向上を果たした部分が少なくありません。

その代表例がiSightと名付けられたメインカメラです。

具体的に言えば、iPhone 5では8メガピクセル、つまり800万画素クラスの裏面照射型CMOSセンサーを搭載し、これを開放絞り値F2.4のレンズと組み合わせたソニー製のカメラモジュールを搭載していたのですが、iPhone 5sではこれが画素数は同じで開放絞り値F2.2とやや明るくなった=大口径化したレンズと組み合わせた裏面照射型CMOSセンサー搭載に変更されています。

付け加えると、このiPhone 5s搭載のセンサーは画素サイズが1.5ミクロン、つまりソニーのビデオカメラなどに搭載されているExmor R裏面照射型CMOSセンサーの画素サイズ1.75ミクロンクラスに比べればやや小さいものの、最近のスマートフォン用センサーで一般的な1.12ミクロン~1.4ミクロンクラスのものよりは大きくなっており、画素サイズを大きくすることで低照度でもより高画質な画像が得られるようになっています。

そのことを踏まえて、ifixitのiSight部分を取り上げたページに掲載されている画像を確認してみると、同じ画素数でしかも画素ピッチが大きくなった=センサー部の平面積が大きくなったにもかかわらず、やはりifixitが分解内容を公開していたiPhone 5のセンサーモジュール部の画像と比較して、そのサイズが同等あるいはそれより小さくなっている様に見えます。

積層型CMOSイメージセンサーと従来の裏面照射型CMOSイメージセンサーの比較図
積層型にすると回路部分を画素部分の下に形成できるため、同じチップサイズという前提で、同じ画素サイズでより多くの画素が、同じ画素数でより大きな画素が、それぞれ実現できる。

また、ifixitの記事ではこのセンサーをソニー製としているのですが、それが正しいと仮定してソニー自身のプレスリリースで公表されている積層型CMOSセンサーの情報を参照の上で検討してみると、iPhone 5sに搭載されたこのセンサーは積層型の裏面照射型CMOSセンサーで、積層構造とすることで得られたセンサーサイズの縮小による余裕を、画素サイズの拡大で相殺した可能性が高い、と考えられます。

従来型だとセンサーの中核となる画素の部分の周囲にそれを制御する回路部分を形成する必要があったため、画素の部分の面積だけでなく、回路部分の面積がセンサーサイズに加わってしまっていたのですが、この回路部分を画素部分と重ね合わせて素子を形成する積層化技術が実用化された結果、センサーサイズが画素部分の面積だけで済むようになりました。それで節約された面積を画素そのもののサイズ拡大に振り向けたのであれば、分解写真に写っているカメラモジュールのサイズがiPhone 5とiPhone 5sで大差ないことにも納得できますし、従来よりも大きな画素のセンサー、それも同じ画素数のものを搭載している、というAppleの説明とも合致します。

ちなみに、画素サイズを拡大することでセンサーの画素単位での感度を引き上げ、低照度の被写体での画質改善を図ろう、というコンセプトは他社製品で既に存在しています。

同じサイズのセンサーで画素数が増減した場合の画素サイズの比較図
4メガピクセルだと13メガピクセルのものの約3倍、8メガピクセルのものの2倍の面積となり、それに比例して受け取る光量も多くなる。これによりS/N比が高くなるため、この条件の下では4メガピクセルのセンサーの方が撮影画像にノイズが乗りにくくなる。

例えば、日本ではauからHTC J Oneとして発売されているHTCのHTC Oneの系列の機種では、STMicroelectronicsが開発した画素ピッチ2.0ミクロンの4メガピクセル裏面照射型CMOSセンサーを搭載してます。

これはつまり、画素数を犠牲(※400万画素あればフルHD解像度=1,920×1,080ピクセルの画像が撮れるため、それで充分という割り切りでしょう)にしてでも低照度での画質改善を優先した、ということで、実際にもHTCはその点を大きくアピールしています。

それと比較すれば、このiPhone 5sのセンサーはまだしも抑え気味の画素サイズと言えますが、ソニーの場合、自前で優れたレンズ設計技術を持っており、実際にもこのiPhone 5sでは開放絞り値をF2.2と従来よりも明るくできるレンズと組み合わせてある(※ちなみに、HTC J Oneのレンズは前作HTC J butterflyから引き続き開放絞り値F2.0のレンズを搭載しています)ため、iPhone 5比では充分以上に低照度での画質改善効果が得られる設計です。

Appleが既にフルHD解像度よりも大きな解像度のディスプレイ(最大で2,880×1,800ピクセル)を搭載したiPadやMacBook、それにiMacを販売している現状を考えれば、それらとの連携を前提とするiPhoneでフルHD解像度の画像「しか」撮れない4メガピクセルセンサーを搭載する、というのはApple的にあり得ない選択肢です。そのため、最大で3,200×2,400ピクセル(アスペクト比4:3の場合)程度の画像が撮影できる8メガピクセルのセンサーを搭載しつつ、その枠内で可能な限りの高画質化を実現するこのiPhone 5sの新しいメインカメラモジュールは、画素数に対する要求と画質に対する要求を両立する、現時点でのベストに近い回答であると言えるでしょう。

ちなみに、このモジュールの供給元であるソニー自身は自社のスマートフォンブランドであるXperiaシリーズの最新作、Xperia Z135mmフィルム換算焦点距離27mm相当で開放絞り値F2.0のGレンズに1/2.3インチサイズと大きなセンサーを組み合わせ、ミドルレンジ以上のコンパクトデジカメ並みの画素数20メガピクセルを実現した、怪物のようなカメラモジュールを搭載しており、このiPhone 5sやHTC J Oneとはまた違ったコンセプトによる、物量作戦と言うべき力業の高画質化追求路線を歩んでいます。

これは、自社で最先端のセンサーも高性能のレンズも共に内製できるソニーだからこそできたとんでもない荒技ですが、「明るいレンズに大きなセンサーを揃えれば高画質を維持したまま画素数を増やせる」というのは、これもまた理に適った考え方ではあります。

こうしてHTC J One、iPhone 5s、Xperia Z1と最新世代のスマートフォン3機種のカメラ部分のスペックを並べてみると、HTC J OneとXperia Z1が両極端、iPhone 5sが中庸でどちらにも振らずにバランスをとっていることがわかります。

無論、それぞれに得失があって、どれがベストとは断言できないのですが、筆者の経験から言うと、8メガピクセルという解像度は、現状のストレージ容量やパソコンの画面解像度、それに連写時の負荷や速度などを考慮するとウェルバランスと言って良く、扱いやすい解像度であると思います。

注目の指紋センサー

Appleが出願、成立した指紋認証システムに関する特許(合衆国特許US20130211971)
図でiPhoneが堂々と示されており、iPhoneに搭載する気満々である。

2012年にAppleがAuthenTecを買収したことと、それに続いて同社が2013年1月に出願、成立した特許(合衆国特許US20130181949)、およびやはり同社が2013年3月に出願、成立した特許(合衆国特許US20130211971)などで露骨に次世代iPhoneで指紋認証を組み込むことを予告していたことから、搭載がほぼ確実視されていた指紋認証センサー「Touch ID」ですが、ifixitで公開された写真を見ると、予想以上に複雑な形状・構造となっていることがわかります。

これは、端的に言ってしまえばカメラで指の指紋を撮影し、特徴を維持したまま単純な形に線形化処理を行って、データベースに登録されている指紋のデータと照合する、というシステムです。

Lenovo ThinkPad X61sに搭載されていたAuthenTec製指紋センサーモジュール
FRUナンバーを記載したシール下の横長の部品が指紋を読み取るセンサー部分で、この部分を指で上から下へなぞることで読み取り動作を行う。

このシステム自体は結構昔からあって、先日のiPhone 5s紹介記事でも記したようにIBM → LenovoのThinkPadシリーズをはじめ、各社のノートパソコンなどで採用されてきたものです。

それだけに、まさかそこまで尖ったハードウェアになっていることもあるまい、せいぜい従来のAuthenTec製センサーモジュールを多少小型化したものが搭載されているのだろう、と思っていたのですが、実際に出てきたのはそれとは似てもにつかない、全く異なった構造・形状のセンサーモジュールでした。

これはつまり、動作の基本原理はAuthenTec製センサーと同じだが、実際の動作はそれとは違っている、ということで、丸いホームボタンにどうやってAuthenTec製センサーモジュールと同じような横長のセンサーを搭載しているのだろう、という疑問の謎が解けました。

何のことはない、ボタン中央にCMOSセンサーによるカメラを置いて、丸いホームボタンの内側全体を撮影して指紋を読み取っていたのです。

これならば、ThinkPadなどでおなじみの「指を上から下へスライドさせる」という操作も必要なく、特別な訓練なしに読み取りが可能となります。

もっとも、ボタンスイッチとしての機能とこのセンサーを両立させるのは簡単ではないはずで、海外のサイトなどではこの部品の生産歩留まりが悪いことが報じられています。

また、この構造だと指の向きの傾きを何らかの手段で検出・補正する必要があり、相応にプロセッサパワーの得られる今のスマートフォンやパソコンだからこそ採用できる技術であると言えます。

正常進化と初物と

今回扱ったセンサー類、というかカメラと指紋センサーですが、前者は画質と搭載スペース、それに解像度の3条件で厳しい制約がかかる状況で、なおかつコスト的にも無理ができない、という事情もあって、最新のセンサー技術は採用していると推測されるものの、見かけ上は意外と平凡な仕様になっています。

もっとも、一見平凡なハードウェアでもソフトと組み合わせることでとんでもない技術を実現してしまうのがApple製品の真骨頂ですから、これとて平凡なカメラだ、と笑って済ませられません。実際、今回のiPhone 5sでも「バーストモード」と称してシャッター長押しでひたすら連写し続ける、という一見大したことなさそうな、しかし実際にはハードのあちこちを酷使する機能が搭載されていて、カメラモジュールの(表に出ない)基礎体力がこっそりものを言っていたりします。

それに対し、後者はこれまでにない新機能、ということもあってか、かなり凝った、見るからにお金のかかっていそうな部品構成になっています。

今回、同時発表のiPhone 5cにはこれは搭載されなかったわけですが、この複雑な構造を見ると、それも仕方ないことなのか、と思わずにはいられません。

恐らく、今後世代を重ねるごとにこのセンサー内蔵ボタンもどんどん洗練されてシンプルかつ確実な動作の得られる構造に進化して行くのでしょうが、なかなか大変そうです。

▼参考リンク
iPhone 5s Teardown
ifixitで公開された写真
iPhone 5のセンサーモジュール部の画像
積層型CMOSセンサーの情報
合衆国特許US20130181949
合衆国特許US20130211971

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