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あまねく世界にiPhoneを! ~iPhone 5c~

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by [2013年9月13日]

Appleから現地時間9月10日に発表されたiPhoneの新製品は、様々な意味でインパクトのある新機軸が盛り込まれていました。

なぜなら、上位機であるiPhone 5sと下位機であるiPhone 5cの2機種が同時発表され、従来ならばストレージ容量のラインナップを整理の上でミドルあるいはローエンドのモデルとして継続販売される筈のiPhone 5をばっさり切り捨ててしまう(※ただし、従来ミドルレンジモデルとして販売されていたiPhone 4sはローエンドモデルとして継続しています)、というこれまでにない思い切った製品構成となったからです。

特に、これまでiPhone普及の鍵だとされてきた、購買力の低い新興国市場向け低価格モデルとしての性格を備えるiPhone 5cは、これまた従来さんざん指摘されてきたカラーバリエーションについても、多色展開を図られており、ハードウェア的な面での革新が盛り込まれた技術志向のiPhone 5sとは対照的に、既存のiPhone 5をベースとしつつ、いかにより広い市場に受け入れられるモデルとできるか、という命題に挑戦した、マーケティング志向の強い機種となっています。

今回はこのiPhone 5cがどこを変え、どこを変えなかったかを探ってみることとしましょう。

ハードウェアはiPhone 5とあまり変わらない

iPhone 5cの主なハードウェア仕様は以下の通りです。

  • OS:iOS 7
  • チップセット:A6(仕様非公開)
  • サイズ:59.2 × 124.4 × 8.97 mm
  • 重量:約132g
  • メインスクリーン
    • 種類:Retinaディスプレイ
    • 解像度:640×1,136 ピクセル
    • 画面サイズ:4.0 インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:容量非公開
    • フラッシュメモリ:16/32 ギガバイト
    • 拡張スロット:なし
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:8 メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:1.2 メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/b/g/n
    • 対応周波数:2.4GHz、5GHz
  • LTE:
    • 対応バンド:
      • モデルA1532:1・2・3・4・5・8・13・17・19・20・25(LTE)
      • モデルA1456:1・2・3・4・5・8・13・17・18・19・20・25・26(LTE)
      • モデルA1507:1・2・3・5・7・8・20(LTE)
      • モデルA1529:1・2・3・5・7・8・20(FDD-LTE)、38・39・40(TD-LTE)
  • Bluetooth:Ver.4.0
  • 電池容量:容量非公開

ご覧の通り、iPhone 5cは従来であればiPhone 5が占めるはずであったミドル~ローレンジの価格帯の後継機種という性格を備えているためもあって、統合プロセッサやディスプレイ、カメラ、それにセンサーなどの各機能は全てiPhone 5と同等の仕様となっています。

そのため、相違点は材質と構造の変更のあった筐体とLTE通信を行うベースバンドプロセッサに関わる部分に集中しています。

ちなみに、iPhone 5c・5s共に3G通話とLTE通信を行う際の公称連続稼働時間がiPhone 5の8時間から10時間に、そして連続待ち受け時間が225時間から250時間に、それぞれ延長されています。一部ではこれをバッテリーの増量によるものと報じているようですが、3G通信やWi-Fi通信、動画および音楽再生の公称連続稼働時間が変化していないことと、iPhone 5sはともかくiPhone 5cはプロセッサが変わっていないこと、それにiPhone 5とiPhone 5sの公称重量が共に112グラムで全く同じになっていることから判断する限り、両機種共にバッテリーの増量が行われたとは考えにくい状況です。

というのも、現在のスマートフォンで多用されるリチウムイオン/リチウムポリマー充電池については、画期的な新技術による軽量化はとても見込めない状態で、ほぼ極限に近いエネルギー密度に到達しているため、同じ質量でより大容量を、というのは制御のできない爆弾を作るようなもので大変危険だからです。

そのため、質量の増大なしでの抜本的な容量増大はありえず、容量が変わらないならば消費電力が同じ機器につなげば同じだけの時間しか使えないのが道理です。にもかかわらず、ある機能を用いる時だけ稼動時間が延びたとすれば、どこか別のところ、それもその機能に関わるところで消費電力を削減する手立てがとられたということになります。

後述するように、iPhone 5cもiPhone 5sも、共にLTE通信で扱える周波数帯(バンド)の数が増やされており、しかもそのLTE通信で公称連続稼働時間が増大していることから、コプロセッサの追加など様々な変更があったiPhone 5sはともかく他の部分がiPhone 5から変わっていないiPhone 5cについては、LTEモデムを内蔵するベースバンドプロセッサとその周辺のアナログ信号回路について何らかの設計改良による消費電力低減があった可能性が高い、と考えるのが自然でしょう。

プロセッサとGPUは全く変わらない

この機種の統合プロセッサはA6、つまり32ビットのARMv7アーキテクチャに従うApple独自設計のデュアルコアプロセッサです。

このプロセッサはiPhone 5での実機解析によって英国のImagination Technologiesが開発したPowerVRシリーズの第五世代モデルであるPower VR SGX543MP3をGPUとして内蔵していることが判明しており、動画や音楽再生時の連続稼働時間が変化していないことから、製造プロセスや動作クロック周波数、それにGPUなどの仕様がiPhone 5からほとんど変更されていない可能性が高いことが推定できます。

ハード面では最大の変更点となったLTEモデム回り

iPhone 5s/iPhone 5c世代で目立たないながら重要なトピックの一つとして、LTE通信で扱える周波数帯域が飛躍的に増大したことが挙げられます。

具体的には、iPhone 5では最低で2つ、最高でも5つしか扱えなかったLTE周波数帯(バンド)が、今回の製品群では最低で7つ、最高で13も扱えるように拡大されています。

この部分が原因で、au向けiPhone 5はせっかく割り当てられた800MHz帯(バンド18:いわゆるプラチナバンド)が利用できず、2GHz帯のバンド1でLTE通信するしかない、という悲しいことになっていたのですが、今回のiPhone 5cでは日本向けは新規参入のNTTドコモを含む3社分全てが最も扱えるバンド数の多いモデルA1456となっており、これまで利用されてきたバンド1に加え、auに割り当てられているバンド18もNTTドコモに割り当てられているバンド19も共にiPhone 5s/5cで利用可能となりました。

さて、iPhone 5ではソフトバンク向けのモデル(モデルA1429)でQUALCOMMの第2世代LTEモデム内蔵ベースバンドプロセッサであるMDM9x15(Gobi:Category 3準拠)系のMDM9615と、やはりQUALCOMM製で同社として第4世代に当たるRFトランシーバーのRTR8600が搭載されていたことが実機の分解調査により確認されています。

そのため、上位のiPhone 5sについては最大150Mbps(下り)での通信が可能な第3世代LTEモデム内蔵ベースバンドプロセッサのMDM9x25系(Category 4準拠、キャリア・アグリゲーション対応)が搭載され、RFトランシーバーも同様にキャリア・アグリゲーションに対応する最新のWTR1625Lが搭載されているものと推定されます。

問題は、下位に位置づけられたiPhone 5cです。

現状ではCategory 4での高速LTE通信は限られたエリアでしか行えず、またその最高速度で通信できる状況も限られることを考えると、通信速度はそのままで扱えるバンド数を増やして確実に接続できるようにした方が得策で、端末コストも低価格に抑えられます。そのため、こちらは(現時点では仕様で一切触れられていませんが)iPhone5sとの差別化の意味でもCategory 4の高速LTE通信モードをサポートするとは考えがたく、また最新のベースバンドプロセッサもRFトランシーバーも共に本体価格上昇の要因となることから、ベースバンドプロセッサはiPhone 5と同じMSM9615のままとしてRFトランシーバーをRTR8600より一世代新しくより高性能・多機能なWTR1605Lに変更、LTEバンド数の増加と消費電力の低減に対応した可能性が考えられます。

この構成ならば、LTE通信と3G通話だけピンポイントで連続稼働時間が増大した、とする今回の仕様も「あり得る」話となります。

もちろん、大盤振る舞いでiPhone 5cにも最新のMDM9x25系+WTR1625Lが搭載されている可能性もなきにしもあらずですが。

このあたりは実際に実機を分解してみないことにはわからない部分で、答えは9月20日と決まった実機の発売待ちとなります。果たして真相やいかに。

低コスト化のために採用された樹脂製筐体

iPhone 5cに用意された純正カバー
本体よりも多くのカラーバリエーションが用意されており、カラフルさを演出する。

さて、今回のiPhone 5cでは、これまで初代iPod以来連綿と続いてきた金属製筐体に替わって、一体成形のバスタブ状樹脂製筐体に変更となりました。

筆者のように長いことパソコンを見てきた人間になると、Apple IIeや初代Macintoshの昔から「Appleのプラ製製品=日焼けで変色しやすい」というのが頭にこびりついていて、あの初代iMacがトランスルーセントと称する半透明ABS樹脂製の筐体デザインを採用したときにも、「これはやはり経年変化による変色対策なのではないか?」と思ったりしたのですが、この樹脂製筐体、写真を見る限りは表面をガラケー時代からおなじみの紫外線硬化塗装としているようで、よほどのことが無い限りは大丈夫でしょう。

ちなみに今回のiPhone 5cでは本体でホワイト・ピンク・イエロー・ブルー・グリーンの5色が用意されて、なかなかカラフルです。

もっとも、この筐体、iPhone 5までの金属筐体と同程度の強度・剛性を確保するにはどうしても肉厚とせざるを得なかったようで、筐体サイズが高さ・幅・厚さの全てで0.6mmから1.3mm程度大きくなっています。

下位機だが決して廉価機とは言えない

いかにもプラスティッキーで派手派手しい筐体に騙されそうなのですが、このiPhone 5c、確かに低コスト化の努力があちこちに見受けられるものの、その本質は決して廉価機ではありません。

むしろ、下位機という位置づけの枠内で、LTEモデム回りをはじめ各所でiPhone 5の正常進化あるいはアップデートを試みた機体だ、と評した方が恐らく正解でしょう。上位に位置づけられるiPhone 5sが極端に先進的な技術を満載してしまったがゆえに、数を揃えられる「抑え」の1機種として、こちらはコンサバティブな仕様を墨守せざるを得なかった、とも言えます。

実際、筐体構造の大幅な単純化によりこのiPhone 5cは職人芸じみた不思議な部品構成だったiPhone 5よりはよほど作りやすくなっていると推測され、量産効果によるコスト低減の恩恵も受けやすそうです。

もっとも、Appleの狙いはそれだけではないように見えます。下位の「新型機」としてこのような機種を投入することで、どうしても高コストになりがちなiPhone 5sの実売価格が低下してしまうのを抑止し、ブランドイメージを維持することにこそ、Appleの真意があるのでは無いか、と筆者は考えます。

ともあれ、そんな難しい話は置いておくとしても、LTEでの接続性が向上あるいは改善し低消費電力化が図られたiPhone 5、と見るとこれは実に魅力的な機種です。

iPhone 5ユーザーがキャリアそのままで機種変更するにはかなり微妙な感じではありますが、携帯電話番号ポータビリティ(MNP)を利用してキャリアの乗り換えを検討するならば、どこからどこへ乗り換えるにしてもLTEの接続性向上が期待できるわけで、これはかなり「おいしい」機種になるのではないでしょうか。

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