ARATAS DEVICEとして提供されるKAZE 01日本のデザイナーによってデザインされた筐体を備え、中国のメーカーで製造される。

当分は日本では買えない? ~低価格スマートフォン向けプログラム「ARATAS」のもたらすもの~

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by [2016年1月29日]

グートがARATASで提供する3つのプロダクト

グートがARATASで提供する3つのプロダクト

一般に、スマートフォンをはじめとする携帯電話端末はそのハードウェアの製造を担当するメーカーが企画開発を行い、通信キャリアなどを経由してユーザーに販売されています。

その開発にあたっては、供給先となる通信キャリア側の要求で特別なサービスとそれに対応したアプリを搭載したり、あるいは専用のユーザーインターフェイスを搭載したりすることもありますが、基本的にはメーカーがその開発の主導権を握ることになります。

言い替えれば、通信キャリアなどの販売を行う側が十分な技術力や資金力を持っていない場合、メーカー側の提供する製品をほぼそのまま販売する以上のことができなくなってしまいます。

しかし、特にスマートフォンの場合は何のカスタマイズも行わなければその販売地域ごとの事情に対応するのが難しいという問題があります。

もちろん、多言語対応やサマータイム制度のある国などでの変則的な時間の設定・調整といった基本的な部分は今時のスマートフォン用OSならばよほど特殊なものでない限りはサポートされていて、中には自動でその地域のサマータイムを設定してくれるものさえあったりします。

しかし、1つの地域に複数の言語を用いる民族が併存し、また複数の宗教が信仰されているような状況であると、それだけで言語と地域を指定して「はい終了」という訳には行かなくなります。民族ごとの文化的な嗜好や慣習の相違や宗教的なタブーなどから、例えば壁紙1つ、広告1つとってもうかつなことができなくなります。

そうなると色々その地域に合わせたローカライズ作業が必要になってくるのですが、そうした地域では往々にしてローカライズがどうのという以前の状況、極端なケースではローカライズの前にまずJavaScriptでプログラムを書ける人材を育成するところからはじめなければならない、などという恐ろしく手間暇のかかる状況にあったりします。

つまり、この場合単に端末を売るだけではなく、その端末を利用した諸サービスのためのシステム構築や運用体制の整備まで一切合切をパッケージングして面倒を見なければならないということになります。

アップルなどの大手メーカーならば、自社でそうした諸サービスを独自に展開していて、その運用ノウハウも持っているため、サービス全体を包括して提供することが不可能ではないのですが、それと同じことを例えば中国においてこれまでODMやOEMで端末の製造販売を行ってきただけの新興メーカーに行え、というのは相当な無茶振りになってしまいます。

そして、そうした包括的なサービスの提供が必要な地域/国は往々にしていわゆる第三世界、つまり発展途上国と呼ばれるような所に集中しており、スマートフォンによる携帯電話サービスを構築するのに十分な予算がないことが珍しくありません。

つまり、スマートフォンサービスを始めたいけど、金がないから大手メーカーに丸抱えで面倒を見て貰うこともできず、さりとて低価格で端末を提供してくれるようなメーカーはサービスの部分の面倒をみてくれないためスマートフォンを導入しても意味がなくなる、というあっちが立てばこっちが立たずの状態になってしまうわけです。

これは当事者である地域・国の通信事業者にとっては悩ましい問題です。

しかし、見方を変えれば、低価格で端末を供給してくれるメーカーと件の通信事業者の間に大きな商機が転がっていると言えます。

要は、通信事業者とメーカー(※注1)の間を取り持ち、ローカライズにかかわる一切合切や広告を含む諸サービスをパッケージングして提供すること「だけ」で事業化の可能性がある、ということです。

 ※注1:もちろん、自社ブランドをアッピールすることも難しいこんな仕事を引き受けてくれるようなメーカーは限られていますから、この種の事業を始めるにあたってはまず端末製造を引き受けてくれるメーカーを確保せねばならないでしょう。

こうした事業が成立するためには、先進国でそのカテゴリに属する製品がある程度以上普及し市場が成熟して一定の飽和状態になる、つまりメーカーサイドで生産力が過剰状態になっている必要があります。

そしてこのほど、シンガポールに本社を置くグート社(Gooute Pte. Ltd.)が海外市場向け低価格スマートフォン向けプログラム「ARATAS(アラタス)」を開始することを発表しました。

ここでスマートフォンそのものではなく「プログラム」と謳っているのが、まさに先に述べた「通信事業者とメーカーの間を取り持ち、ローカライズにかかわる一切合切や広告を含む諸サービスをパッケージングして提供する」部分のことであり、つまりはスマートフォンもこうした事業が成立しうるほどに成熟してきたということになります。

幾分前置きが長くなってしまいましたが、今回はこのグート社の「ARATAS」が提供する諸サービスを通して、スマートフォンサービスを展開する上で何がどう必要になってくるのかについて考えてみたいと思います。

「ARATAS」の提供するサービス

今回の発表で「ARATAS」として提供することが示されたサービスは以下の通りです。

 1:ARATAS DEVICE(アラタス・デバイス)
 2:ARATAS UI(アラタス・ユーアイ)
 3:ARATAS NET(アラタス・ネット)

名前を見るだけでもそれがどういうサービスなのかすぐ判るような名称ですが、それぞれの具体的な内容は以下の通りです。

低価格なだけに留まらない端末

ARATAS DEVICEとして提供されるKAZE 01日本のデザイナーによってデザインされた筐体を備え、中国のメーカーで製造される。

ARATAS DEVICEとして提供されるKAZE 01
日本のデザイナーによってデザインされた筐体を備え、中国のメーカーで製造される。

「ARATAS DEVICE」は、その名の通りこの種のサービスで重要なスマートフォン端末にかかわるサービスです。

具体的に言えば、日本のデザイナーをはじめとするクリエーターに依頼してデザインされた筐体を持つスマートフォンを、「ARATAS」のプログラムに協力するパートナー企業(発表時点では中国・深圳に本社を置くKingtech Mobile Ltd.)に委託して生産、それをターゲットとなる各市場で販売するというものです。

現時点で発表されているのはKAZE 01・KAZE 02と名付けられた機種で、これらは外形寸法や重量などの日本人クリエーター達の手が入らない部分について、以下のようなスペックを備えています。

  • OS:Android 5.1
  • チップセット:MediaTek MT6735(1.3 GHz クアッドコア)
  • メインスクリーン
    • 種類:液晶
    • 解像度:720×1,280ピクセル(HD解像度)
    • 画面サイズ:5.0インチ
    • ※対角線長
  • 内蔵メモリ
    • RAM:1 GB
    • フラッシュメモリ:8 GB
    • 拡張スロット:Micro SD(32GBまで)
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:8.0メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:2.0メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 b/g/n
  • Bluetooth:Ver.4.0
  • 外部入出力:microUSB・MHL・ヘッドセット接続端子
  • 電池容量:2,200 mAh

なお、KAZE 01についてはメインメモリ容量とストレージ容量について変更可能との但し書きがありますが、KAZE 02にはありません。

ARATAS DEVICE KAZE 02KAZE 01と共に提供される兄弟機。KAZE 01よりも一回り大きく分厚い筐体を備える。

ARATAS DEVICE KAZE 02
KAZE 01と共に提供される兄弟機。KAZE 01よりも一回り大きく分厚い筐体を備える。

筐体サイズで比較すると、KAZE 01は144.8㎜×73.0mm×8.1㎜、KAZE 02は149.0㎜×80.0mm×10.5㎜で明らかにKAZE 02の方が大柄で分厚い筐体となっています。

そのため、内部容積的にはKAZE 02の方がメモリやストレージなどの増量について有利ではないかと思うのですが、何故かKAZE 01だけメモリとストレージ容量について変更可能とされています(※注2)。

 ※注2:あるいは逆に、KAZE 01ではメモリやストレージ容量を減らすような方向のオプションが用意されている可能性もあり得ます。

搭載される統合プロセッサが台湾MediaTekのMT6735で、これはCPUコアとしてARMのCortexーA53を4基内蔵していますから、当然に64ビットのARM v8系命令セットをサポートしています。

また、このプロセッサの内蔵GPUはこれまたARMのMali-T720ですから、ローエンド~ミドルレンジ市場向けの製品とはいえ、それなり以上のCPU・GPU性能を備えています。

なお、KAZE 01・02共にサポートされるmicro SDメモリの容量が32GBまでとなっていますが、これはこのMT6735のスペックによるもので、この他このプロセッサは通信方式としてNTTドコモなどの使用しているGSM系だけでなく、auが使用しているCDMA2000やTD-SCDMAもサポートしています。

このため、3G通信サービスが行われている地域ならば概ねどのキャリアでも対応可能ということで、この製品でこのプロセッサが採用されたのはプロセッサの基本性能もさることながら、こうした通話方式のサポート範囲が広いことが評価された可能性が高いと言えるでしょう。

いずれにせよ、これら2機種のハードウェアは最近の機種としては割とローエンド寄りの性能で、スペック的にもサポートされる通話方式の種類が多いことを別にすれば、取り立てて特筆すべき要素はありません。実際、スペックだけを取り上げれば、これらは最近MVNO事業者が展開しているサービス向けに販売されているローエンド寄りのSIMフリー端末と大差ない、いささか厳しい言い方をすれば凡庸な性能のハードウェアであると言えます。

そのため、これらの機種に他の競合製品に対して差別化できる要素があるとすれば、それは先にも触れた、日本人クリエーター達によるスマートフォン本体の外装デザインとなります。

恐らく、今後も同じ基本的なハードウェアにこれらとは異なるデザインの筐体を組み合わせることで差別化を図ってゆくことになるのだと推測しますが、現状の2機種でも大枠では既存のスマートフォンと大差無いものの、あまりお目にかからないような形状や意匠、あるいは色の組み合わせが選ばれており、フレームを極力意識させないようなデザインが流行している昨今、スマートフォンのデザインにはまだ別の可能性があることを見せつけられた感じです。

シンプルで特徴的なユーザーインターフェイスデザイン

ARATAS UIで提供される壁紙やアイコンを利用したテーマの例こちらも日本のクリエイターが担当している。

ARATAS UIで提供される壁紙やアイコンを利用したテーマの例
こちらも日本のクリエイターが担当している。

次はスマートフォンの「顔」と言うべきフロントエンドのデザインであるARATAS UIです。

もっとも、UI、つまり「ユーザーインターフェイス」と銘打っていますが、実際にはアイコンや壁紙、効果音といったWindowsでいえば「テーマ」に含まれるような要素のデザインや作曲にとどまっており、少なくとも現状で発表されている範囲ではOSの操作について新しい「作法」を定義・実装するようなシステム寄りの性質のものではありません。

まぁ、サムスンとAppleの間の訴訟でも争点となった、いわゆる「ルックアンドフィール」に属する要素はうかつにいじるとどこにどんな地雷が埋まっているか知れたものではありません。

その意味ではカスタマイズの範囲を「テーマ」レベルでとどめたのはリスク管理の観点で正解かもしれません。

とはいえ、現在公表されているデスクトップのスクリーンショットを見る限り、新規に作成された幾何学的・抽象的な壁紙と特徴的なアイコンのデザインは、いかなる宗教的な偏りも見出しがたく、無難と言えば無難なラインでまとめられています。

これならば、ほとんど無宗教に近い日本は別格としても、複数の宗教が混在するようなエリアでも問題となりにくいでしょう。

この観点では、デザインを担当したデザイナーが日本人主体であるというのは、宗教的な観点でニュートラルな立ち位置でデザインを落とし込むのに貢献していると考えられます。

ちなみにこのARATAS UI、一見してARATAS DEVICEとひとくくりにして扱っても良さそうなものなのですが、ARATAS DEVICEではないパートナー企業各社が販売する各種低価格スマートフォンにARATAS UIとARATAS NETだけをプリインストールして販売するモデルもありうるため、独立したサービスとしての提供が行われるようです。

このあたりはパートナー企業各社の思惑次第といったところでしょうか。

最新のアドテクを使用するキュレーションポータル

LOUCUS 動作イメージ

LOUCUS 動作イメージ

ARATASの3つのサービスの内、最後の1つが、グートが企画提供するキュレーションポータル「LOUCUS」と「GOOUME JP」よりなるメディアプラットホームです。

これらは「LOUCUS」が各国の情報をキュレーションして配信し、「GOOUME JP」が日本の情報やコンテンツを海外に配信するために提供されるアプリです。

これ自体は特にKAZE 01・KAZE 02でなければ動作しないというものではなく、それ以外のAndroidの動作するスマートフォンでも動作するため、グートのパートナー企業経由でそれらの企業が販売するスマートフォンへのプリインストール、あるいは各社公式サイト等での配信によって提供されることになっています。

これらの2アプリはモバイル広告配信ネットワークを運営するInMobi社との提携により、最新アドテクを駆使した広告配信の手段としても利用され、これによってマネタイズを行うように計画されています。

広告配信とセットで運用することで、これまでスマートフォンが利用されていなかった地域・国などで巨大市場を創出しパートナー企業と共に収益を得るというのがグートの基本的な経営戦略となります。

GOOME JP動作イメージ日本市場での展開にあたってはこれは何らかの手直しや見直しが必要となろう。

GOOME JP動作イメージ
日本市場での展開にあたってはこれは何らかの手直しや見直しが必要となろう。

ちなみに、ARATAS DEVICE、つまりKAZE 01・KAZE 02の販売地域・国はインド・インドネシア・フランス・フィリピン・スペイン・南米・北米・シンガポール・台湾・香港・マレーシア・バングラデシュ・ベトナム・日本と14の地域・国で予定されているのに対し、このARATAS NETのサービス展開は中国・台湾・香港・ロシア・インドインドネシア・フィリピン。ベトナム・北米・南米・アフリカ・マレーシア・バングラデシュ・日本となっており、展開先が異なっています。

これは、既に低価格スマートフォンが普及している地域・国を避けてARATAS DEVICEを販売し、またサービスの展開先として収益を期待できる地域・国としてARATAS NETの展開先が選ばれているということで、双方共に東南アジア市場に重点が置かれていることが見て取れます。

双方共に一応日本がターゲットとして列挙されていますが、既にスマートフォンが一定規模で普及し、また低価格スマートフォンを巡る市場でも各社のシェア争いが拡大している状況で、また「日本人クリエーター達のデザイン」ということがそれほど大きなセールストークとならない状況で、グートは一体どのような販売・サービス展開戦略を採るのでしょうか。

一応、現状ではテーマソングの制定やイメージキャラクターの露出、CM展開などの予定が示されていますが、日本でのパートナー企業がどこになるのかが示されていないため、不確定要素が結構大きいと言えます。

まさか大手3キャリアが自社のサービスと競合する部分のある、また端末デザイン戦略ともバッティングするこの種のサービスを利用するとは考えにくいのですが、MVNO事業者などでは採用される可能性があり、今後の動向が注目されます。

▼参考リンク
グート、海外市場向け低価格スマートフォン向けプログラム「ARATAS(アラタス)」を開始 | プレスリリース | ニュース | グート

MT6735 – MediaTek

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