ZenFone-AR_ZS571KL_Set2

ARとVRをこの手に ~ASUSTek、世界初のTango・Daydream両対応スマートフォンZenFone AR~

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by [2017年5月29日]

ZenFone AR背面(右)上部のカメラ部分が他に無い構成となっている

ZenFone AR
背面(右)上部のカメラ部分が他に無い構成となっている

AR(Augmented Reality:拡張現実)とVR(Virtual Reality:仮想現実)は要素技術の点で共通点が多い一方で、その体験の目指すところの違いから、重要な部分では微妙に求められる技術が異なっています。

具体的に言うと、ARではより高度な機能を実現するにあたって、視界に収まる現実空間内での各物体の距離・位置関係を正しく測定・把握せねば充分な効果が期待できないため高精度のカメラなどによる深度測定・測距機能を利用した空間認識が求められ、VRではその視界に示される仮想空間を遅滞なく描き出すために極めて高速のGPU性能が求められます。そして、どちらも共通して充分な3Dグラフィックス描画機能と応答性の高いモーショントラッキング機能を求められます。

これはつまり、ARとVRの双方に対応し十分な性能を備えたデバイスを作るには、極めて強力なCPUやGPU、モーショントラッキング機能、それに高精度に深度測定・測距を行える空間認識デバイスを全て備えた、言わばセンサーによる入力系とCPU等による処理系、GPUによる3Dグラフィックス出力系のハイエンド全部盛りが求められるということを意味します。

筆者が本記事を書いている2017年春の時点で、市販されている本格的なVRデバイスがほぼ例外なくデスクトップパソコンや家庭用ゲーム機、それも非常に高性能な3Dグラフィックス描画能力を備えたGPUを搭載しているとか、高速なCPUを搭載しているとか、そういったいわゆるハイエンドなパソコンを必要とするか、あるいはゲーム機本体の性能的制約からVRデバイス側のスペックが抑えめになっているか、といった状況にあることが示すように、現在VRで求められる理想かそれにほど近い性能を実現するのは高発熱大消費電力のハイエンドGPU・CPUを搭載した強力なパソコンでなければ難しい状況です。

そして、それはプロセッサの絶対性能よりも低発熱性や低消費電力といった性能を優先せざるを得ないスマートフォンでは相応に画面解像度を落とす、テクスチャを粗くするといった画質劣化を受け入れない限り、リッチなVRコンテンツの実行は厳しいということでもあります。

つまり、端的に言ってスマートフォンでARとVRに両対応するというのは、かなりの無茶振りに類する話であるのです。

そのため、Googleが開発を進めてきた「Project Tango」の開発成果を受けて製品化された、ARプラットフォーム「Tango」に対応する初のスマートフォンとして開発されたLenovo「PHAB2 Pro」はARで求められるグラフィックスやCPUの性能が比較的低かったこともあって搭載プラットフォームがQualcommのミドルレンジモデルであるSnapdragon 652ですまされていて、この関係からかこの機種の製品紹介などではVRコンテンツへの対応が一切言及されていませんでした。

もちろん、段ボール+適当なレンズの組み合わせで自作できるような簡単なアダプタを利用したVRコンテンツ程度ならばこの機種でも動作したでしょうが、本格的なVRコンテンツの実行にはSnapdragon 652では力不足であったのです。

そしてこの「Tango」対応製品は、「PHAB2 Pro」の発表以降これまで新機種の発表がありませんでした。

「PHAB2 Pro」そのものは想定以上の注文が押し寄せた結果一時的な販売停止が行われた程の人気でしたから、当然のこととしてARコンテンツを利用するためのプラットフォームには相応の需要があった筈ですが、何故か昨年末の「PHAB2 Pro」発売からの約4ヶ月の間に、この機種に続く新製品はどこからも発売されませんでした

※注:その間、Lenovo傘下のモトローラが同社のスマートフォン「Moto Z」シリーズ用の拡張オプションパーツである「Moto Mods」の1つとしてこの「Tango」対応を実現するための空間認識デバイスを発売する可能性がLenovo幹部から示唆された程度でした。

これは「Tango」に対応する、カメラやセンサーを組み合わせた空間認識デバイス回りの設計ノウハウが特殊であることを示唆するものです。

そしてこのほど、PCメーカー大手にして「Zen」の名を冠したスマートフォンやノートPC、タブレットなどを開発製造販売している台湾のASUSTek Computer社から「Tango」に対応するスマートフォンとしては世界で2番目、そしてこの「Tango」とGoogleのVR対応プラットフォームである「Daydream」の両方に対応するスマートフォンとしては世界初となる、「ZenFone AR」が発表されました。

そこで今回は両立の難しいARとVRの双方に対応することを謳うこの機種が一体どんなスペックで、どのような構成となっているのかについて見てゆきたいと思います。

「ZenFone AR」の主な仕様

記事執筆時点で公表されている「ZenFone AR」(ZS571KL)の主な仕様は以下のとおりです。

  • OS:Android 7.0
  • プラットホーム:Qualcomm Snapdragon 821 (2.4 GHz クアッドコア)
  • サイズ:約77.7×158.98×4.6~8.95 mm
  • 重量:約170 g
  • メインスクリーン
    • 種類:有機EL(Super AMOLED)
    • 解像度:1、440×2,560ピクセル(WQHD解像度)
    • 画面サイズ:5.7インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:6 GB(ZS571KL-BK64S6)・8 GB(ZS571KL-BK128S8)
    • フラッシュメモリ:64 GB(ZS571KL-BK64S6)・128 GB(ZS571KL-BK128S8)
    • 拡張スロット:micro SDXC(SIM 2スロットと排他利用)
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:23メガピクセル(深度カメラ・モーショントラッキングカメラを併設)
    • フロントカメラ解像度:8メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/b/g/n/ac
  • Bluetooth:Ver.4.2
  • SIMカードスロット:micro SIM ×1 + nano SIM ×1(micro SDXCと排他利用)
  • 電池容量:3,300mAh
  • NFC:あり

ご覧のとおり、スマートフォンとしての基本的な部分の仕様・構成はディスプレイパネルの解像度がフルHDからWQHDに引き上げられたこととメインメモリ容量が上位モデルで8GBに増強されたこと、それに内蔵バッテリー容量が1割増加となっていることを別にすれば、ASUSTek社が先行して発売した「ZenFone 3 Deluxe」(ZS570KL)に準じており、また型番もこれの続番となる「ZS571KL」が付与されています。

※注:解像度23メガピクセルを謳うメインカメラもソニーの「Exmor RS for mobile」の1機種であるIMX318、つまり「ZenFone 3 Deluxe」(ZS570KL)に搭載されていたのと全く同じものが搭載されています。

このため、この「ZenFone AR」は「ZenFone 3 Deluxe(ZS570KL)のメモリを増強、これによりディスプレイの画面解像度を向上して基本性能の底上げを行った上で、Tangoの必要とするカメラ・センサー群よりなる「TriCam System」を付与してTango・Daydream両対応を謳った派生機種」とみるのが妥当でしょう。

基本となったと考えられるZS570KLそのものがSnapdragon 821をプラットホームとして搭載する非常に強力な機種ですから、通常のAndroid搭載スマートフォンとしての性能には不足はありません。

Tangoとは何か

Google Tango公式ページメジャーなしでサイズを測るアプリなど、空間認識を高精度で行うデバイスを搭載した機種ならではの、これまでにない対応アプリが紹介されている

Google Tango公式ページ
メジャーなしでサイズを測るアプリなど、空間認識を高精度で行うデバイスを搭載した機種ならではの、これまでにない対応アプリが紹介されている

さて、ここまで「Tango」「Tango」と連呼してきましたが、これは一体どのようなものなのでしょうか。

「Tango」は元々2014年にGoogleで始まったARの標準的なプレットフォームを確立するための開発プロジェクトで、その時点では「Project Tango」と呼ばれていました。

これはプラットフォームとなるデバイスに搭載されているメインカメラ・深度カメラ・モーショントラッキングカメラと3種類のカメラを併用して被写体となっている空間内に存在する物品をモデル化して把握、ARで必要な空間内オブジェクトの位置関係を認識して様々な操作を行える様にしよう、というものです。

具体的に言うと、現実の室内にある家具、例えば机をメインカメラで捉え、それを深度カメラで位置関係把握、そして例えば拡張現実の仮想的なオブジェクトとしての「仮想の花瓶に入った花」を「実在する机の上に載せる」といった動作とその映像出力を可能にするための技術でありプラットフォームなのです。

こうした性質から、「Tango」のシステムにおいて何を措いても必要なのは高い精度で空間内のオブジェクトを把握・認識して3Dモデル化するためのカメラ・センサーモジュールです。

先に少し触れたモトローラのMoto Zシリーズ対応オプションであるMoto Modsとして「Tango」対応空間認識デバイスの製品化が検討されているという話も、必要な性能を備えたこのデバイスを付与できれば、今のミドルレンジクラスの性能のスマートフォンで充分対応可能であるからに他なりません。

もちろん、この種のデバイスの常として、より高性能であればあるほど、応答性が改善されたり画面書き換えの処理落ちが減ったりといった形で恩恵が得られます。

しかし、実質的にステレオ立体視による3Dグラフィックス映像出力が技術的な根幹であってこの部分の改良・高速処理による描画速度や品質の改善が何より覿面に効果を現すVRデバイスとは異なり、現実の映像にオーバーラップして仮想の存在をピンポイントで描画するARデバイスでは、3Dグラフィックス映像の描画処理はそれが出来ることが当然としても、そこまで重要ではないのです。

その観点では、ことARデバイスとして見る場合、この「ZenFone AR」はプラットフォームのCPU・GPU性能が過大であるとさえ言えます。

「Daydream」のもたらすもの

さて、外観上目立つ場所にあるカメラ・センサー群が変更されているためにその対応が目立つ「Tango」とは異なり、この「ZenFone AR」ではVR技術への対応はわりとひっそりと行われている印象があります。

これについては1つには「Daydream」が「Tango」とは異なり、特に何かこれまでに無かった固有の専用ハードウェアをスマートフォン本体へ追加する必要があるような規格・仕様ではないことが指摘できます。

「Daydream」は基本的にVRコンテンツを動作させる場合にアプリケーションソフトウェアだけでなくOSなどのシステムソフトウェアもこれに最適化し、描画時の遅延(レイテンシ)を最低限に抑えてよりVRコンテンツを体験するのに適したシステムを構築することに主眼を置いた仕様・規格です。

※注:これはVRコンテンツの普及にあたって大きな障壁となっている、いわゆる「VR酔い」を未然に防ぐ上で重要なポイントです。

Android搭載スマートフォンでVRコンテンツを楽しむ場合、その端末の機種ごとの描画性能差、中でも特に描画の遅延がばらつく問題が表面化します。

搭載GPUの性能が充分高く低遅延かつ高速で3Dグラフィックス描画を実行できる機種であれば問題は無いのですが、現在世間一般で使用されているAndroid搭載スマートフォンを見渡すと、VRコンテンツを動作させる環境として考えた場合に不適当な性能の機種や、そうした新しい機能に対応しない古いバージョンのOSを搭載したままの機種は皆無ではありません。

OSのバージョンについてはGoogleストアでの入手/インストール時のバージョンチェックで古いものを排除できますが、問題は端末側の性能的な問題による対応可否の判定です。

「Daydream」という形でGoogleがVRプラットフォームを定義するのは、外部入力デバイスなどの接続を含めたソフトウェア的なAPIなどの標準化や最適化を推進することに加え、予め定められた条件を満たす機種を認定端末とすることでVRコンテンツを問題なく動作させられる機種を明確にしてVRコンテンツでの利用を目的とするユーザーが端末を選びやすくすることと、各メーカーが満たすべき条件を示すことで、端末の性能的な底上げを後押しする意図があると考えられます。

※注:この種の各種API整備や低遅延での動作への最適化などをOSメーカー側が主導して以後のハードウェア/ソフトウェアメーカー各社の開発目標、あるいはその方向性に強い影響を与えるという手法を利用した先行例として、Microsoft WindowsでのDirect Xがあります。Direct Xのバージョンが上がる度にGPUメーカーの淘汰とGPU製品の性能向上が推進された前例を考えると、この「Daydream」での端末認定も同様の状況を導く可能性があります。

これまでのスマートフォンでのVRコンテンツ動作についてはサムスンのGear VRのように各メーカーが自社の特定製品に対応するVRアダプタを製品化するといった形で「VRコンテンツが問題なく動作する」機種を明確化する、いわば端末メーカー側の自主性に任せたパターンが主だったのですが、そうではなく搭載OSなども含めて最適化を行って「VRコンテンツが問題なく動作する」機種をOSメーカーであるGoogleが認定することで、つまりGoogleがVRコンテンツ動作環境について積極的にコミットしその進むべき方向性を明確に示すことで、VR対応端末もVRコンテンツそのものも開発しやすくして普及を本格化させる意図があると考えられます。

なお、現状ではこの「Daydream」対応スマートフォンとしてモトローラの「Moto Z」、Google自身の「Pixel」「Pixel XL」、ZTEの「Axon 7」、それにファーウェイの「Mate 9 Pro」の4社5機種が示されています。

ここに挙げられた各機種は日本で未発売の機種が半数以上を占めていますが、いずれもAndroid 7.0以降搭載で強力なプラットホーム(プロセッサ)を搭載しているものばかりで、今回ご紹介している、そして今後この認定製品のリストに追加されることになる「ZenFone AR」もその例に漏れません。

そのため、今後しばらくはVRコンテンツの動作とは無関係に、「Daydream」対応=高性能スマートフォンの証明のような扱いとなる可能性さえあるでしょう。

優れた基本設計に積み上げられたVR・AR対応

以上、「ZenFone AR」とそれが対応する「Tango」と「Daydream」について見てきました。

「ZenFone AR」そのものについては、AR/VR対応もさることながらASUSTek社の「ZenFone」シリーズとして初の8MBメインメモリ搭載、かつWQHD解像度ディスプレイ搭載の機種という点でも注目の1台ですが、基本となるのが「ZenFone 3 Deluxe」(ZS570KL)であるため、基本設計やその性能については不安要素は少ないと言えます。

※注:逆に安定していて不安要素が少ないと判断されたために、ZS570KLがベース機種として選ばれたと考えられます。

そのため、この機種で何か問題があるとすればそれは恐らく背面メインカメラ周辺のモーショントラッキングカメラや深度カメラなどの「TriCam System」を構成する各要素部品と、これらを利用する「Tango」対応ARコンテンツということになるでしょう。

現状ではARコンテンツというと、近年最大のヒットとなった「Pokémon GO」を含めどうしても特定地点へのマーカー設置/検出と表裏一体で、そこからもう一歩先へ踏み出せていない印象があるのですが、空間内オブジェクトの位置関係を検出し周囲の環境を認識するこの「Tango」の空間識別デバイスとその対応アプリが行した状況に一石を投じることになるか否かが注目されます。

▼参考リンク
ZenFone AR (ZS571KL) | スマートフォン | ASUS 日本
Zennovation~ZenFone ARがその先へとテクノロジーの新たな扉を開く

Daydream
Tango

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