Wiko Tommy 背面表面の質感や色使いなど、低価格機ではあるが、決して侮れないセンスで纏められている

フランスからの黒船来航 ~Wikoによる日本のスマートフォン市場進出を考える~ 後編

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by [2017年3月03日]

Wiko Tommy 背面表面の質感や色使いなど、低価格機ではあるが、決して侮れないセンスで纏められている

Wiko Tommy 背面
表面の質感や色使いなど、低価格機ではあるが、決して侮れないセンスで纏められている

前編ではフランスの新興スマートフォンメーカーであるWikoの日本参入と、その最初の製品である低価格帯向けSIMフリーAndroid搭載スマートフォン「Tommy」について見てきました。

後編ではその続きと、今後投入が予想されるWikoの上位機種について考えてみたいと思います。

いかにも廉価機らしいスペックのTommy(承前)

定番スペックのカメラ機能

「Tommy」に搭載されているカメラは、フロントカメラが5メガピクセル、メインカメラが8メガピクセルで、少し前までのミドルレンジ機種で一般的であった画素数のカメラモジュール2基を組み合わせた構成となっています。

しかもメインカメラは今やすっかり定番となってしまったソニーの「Exmor RS for Mobile」が採用されている由で、このクラスの価格帯の機種としては充分以上の画質※注9が得られるでしょう。

 ※注9:この8メガピクセルクラスの「Exmor RS for Mobile」はiPhone 6/6 PlusまでのiPhoneシリーズで長らく標準搭載されており、画質に定評のあった機種です。撮影画像の解像度としては、画質設定などにもよりますが最大で約3200×2400ピクセル程度の画像が得られます。

ちなみに動画撮影は720p解像度で30fps撮影が可能となっており、メインカメラの画素数ともども搭載プロセッサであるSnapdragon 210のスペック上限一杯の仕様となっています。

このあたりはディスプレイ回りもそうですが、どうしても搭載プロセッサのシリーズ内グレードあるいはランクのヒエラルキに影響される部分で、上位モデルを搭載した機種では当然に出来ることが出来ないケースが少なくありません。

もっとも、HD解像度のディスプレイを搭載するこの機種では、例えフルHD解像度で動画撮影ができてもこの機種単独では再生するとスケーリングされてHD解像度での表示となるため、この仕様はこれはこれで一つの正解ということになるでしょう。

見栄を張って実用上使われる機会のほとんど無い余計な機能を無理に搭載したりせず、必要な機能を取捨選択して搭載するのは、低価格モデルを上手くまとめ上げる上でとても大切なことなのです。

今時珍しい規格のSIMカード対応

さて、この「Tommy」には幾つか今となっては珍しい仕様・機能があります。

ソニー・エリクソン BRAVIA Phone S004 電池室内部右下にある接点部がMicro SIMスロットで、かつてのフィーチャーフォン(ガラケー)では一時標準的にこのMicro SIMが利用されていた

ソニー・エリクソン BRAVIA Phone S004 電池室内部
右下にある接点部がMicro SIMスロットで、かつてのフィーチャーフォン(ガラケー)では一時標準的にこのMicro SIMが利用されていた

一つは通信で利用するSIMカードの規格が最近の機種で当たり前になっているnano SIMではなくガラケーの時代の後半に一般的だったmicro SIMであること。

最近の機種ではAppleやサムスンをはじめ大手メーカーの大半がnano SIMを採用していることや、デュアルSIMスロット対応にあたってスロット部分が筐体内で占有するサイズを極力小さく抑えたいという設計意図もあって、大柄なmicro SIMを採用した端末を見る機会はほとんど無くなってきています。

そのため「Tommy」でmicro SIMスロットが採用されていることには、筆者には少々意外感がありました※注10

 ※注10:「Tommy」の製品パッケージには標準でmicro SIM - nano SIM変換アダプタが同梱されているため、この仕様が問題になることはまずないでしょう。

また、そもそもの話としてWiko製スマートフォンはデュアルSIM対応機種まで含めてことごとくmicro SIM対応として設計されています。

そこでフランス国内の大手キャリア、例えば国内第4の大手キャリアとして台頭してきた「free」などでのSIMカード販売状況を調べてみると、同社は自動販売機によるSIMの販売が売りとなっているのですが、そこで販売されているSIMの形状がMicro SIMあるいはMini SIM、ないしはnano SIMの2種から選択するようになっています。

つまり、フランスではAppleなどが使用しているためもあってnano SIMも当然にサポートされている一方で、未だmini/Micro SIMを使用する端末が少なくなくこのタイプのSIMカードの入手性が良いことが見て取れます。

つまり、既存の機種からの端末乗り換えをユーザーに促そうと思えば現用中の端末と同じタイプのSIMが利用できた方が望ましい訳です。

Wikoが今なおMicro SIM対応のSIMトレイを自社製端末に採用し続けているのは、恐らく既存のMicro SIMはそのままではiPhoneなどが利用しているnano SIMスロットに挿せず(大きすぎて物理的に入らず)変換も出来ないためでしょう。

Micro SIM対応スロットであればSIMスロット変換アダプタを同梱すれば「大は小を兼ねる」ということでMicro SIMもnano SIMも利用できますが、その逆は余程器用にSIMカードを自分でカットしないことには利用できません。

このあたりの選択に関わる事情は国や各キャリアの方針が影響するため、端末メーカー側にはままならないことばかりなのですが、当時既にワールドワイドで販売していたAppleやサムスンなどがnano SIM制定後早期にこれに移行していたことを考えると、現行製品でもなお、それもデュアルSIM機までMicro SIM対応としているWikoの方針はいかにも独立独歩のフランスらしいと言うべきか、我が道を行くといった印象です。

この「Tommy」で今時珍しい仕様の二つ目は、ステレオ放送対応のアナログFMラジオが搭載されていること。

ソニー・エリクソン W44s2006年12月に発表された、縦横2方向いずれかにディスプレイが開く「デュアルオープン」対応フィーチャーフォン。これほどまでにワンセグ受信を重視したデザインでありながら、日本初の地上デジタルラジオ受信機能搭載機種でもあった

ソニー・エリクソン W44s
2006年12月に発表された、縦横2方向いずれかにディスプレイが開く「デュアルオープン」対応フィーチャーフォン。これほどまでにワンセグ受信を重視したデザインでありながら、日本初の地上デジタルラジオ(2003年10月に実用試験放送を開始し2011年3月末をもって放送終了)の受信機能を搭載した機種でもあった

ラジオ受信は日本市場でもいわゆるガラケーの時代には搭載機種がそれほど珍しくなかった機能で、SIMカード依存の通信回線を使用せず、アナログで送信されている電波を受信してアナログ音声出力回路にそのまま出力しているだけであるため、通信量に影響を及ぼしません。

そのため、通信料金に敏感なこの種の低価格端末ユーザーにとっては、通信料金に関係なく比較的高音質で放送を聴取、あるいは音楽を楽しむ事ができるこのFMラジオ機能は今なお結構「使える」機能であると言えるかも知れません。

Micro USBコネクタケーブル最近の日本のスマートフォンではそろそろこれを使用する機種が減ってきたが、Wikoの現行機種は全てこれに対応する

Micro USBコネクタケーブル
最近の日本のスマートフォンではそろそろこれを使用する機種が減ってきたが、Wikoの現行機種は全てこれに対応する

三つ目は充電やデータ送受信に用いるUSB端子がmicro USB端子によるUSB 2.0規格であること。

USB 2.0規格なのはプロセッサの仕様なので当然としても、急速充電対応などが容易なUSB type Cコネクタを採用せず従来通りのmicro USB端子なのは恐らくType-Cコネクタが高価なためと推測できますが、ここから急速充電機能があまり重視されていないことが判ります。

なお、この「Tommy」の内蔵リチウムポリマー充電池の容量は2,500mAhで、搭載されているプロセッサがローエンド寄りの低消費電力モデルであることを考えると、むしろこのクラスの機種としては大容量バッテリーを搭載していると言えます。

スペックは凡庸かもしれないが、日本にはないセンス

以上、Wikoの日本市場参入初号機種となる「Tommy」を見てきました。

スペック的には、身も蓋もないことを言えば「Qualcomm Snapdragon 210プロセッサの仕様が許す上限一杯の機器構成を行った機種」ということが全てで、それ以上でもそれ以下でもありません。

ただ、この機種には同程度の価格帯の他の機種にないものがあります。

それは、ちょっとした筐体造形の工夫であるとか、他に無い色使いであるとか。

そのあたりはもう、語彙力に欠ける筆者としては「デザインセンス」という手垢まみれの陳腐な言葉で片付ける他ないのですが、この低価格な端末でさえ、それも同業他社の競合製品と同様に、同程度の技術水準の筈の中国の工場で生産してなお、これだけ洒落た印象の端末が作れてしまうのですから、デザイン力という物について考え直さざるを得ません。

「神は細部に宿りたまう」という言葉がありますが、隅々まで神経を行き届かせてこそ、デザインは輝くのだと改めて思わされました。

低価格スマートフォンなんてどうせどれも同じでしょ、という方にこそ手に取って見てみて欲しい1台であると言えます。

Tommyだけで終わる筈がない

Wikoの本国サイトのスマートフォン製品紹介ページご覧のとおり多数の機種が、それもかなりカラフルなカラー展開で発売されている。総じて下位の廉価機ほどカラー展開が多彩である

Wikoの本国サイトのスマートフォン製品紹介ページ
ご覧のとおり多数の機種が、それもかなりカラフルなカラー展開で発売されている。総じて下位の廉価機ほどカラー展開が多彩である

さて、前編でも少し触れましたが、Wikoは今やフランスでもトップクラスのスマートフォンメーカーで、同社のフランス語サイトを確認すると、ユーザーニーズに合わせて実に沢山の機種が提供されているのが見て取れます。

Wiko SUNNY製品紹介ページWVGA解像度の4インチディスプレイを搭載するWikoとしては最安価のモデルだが、こんな機種でもデュアルSIM対応でプロセッサはTommyと同等、OSもAndroid 6.0搭載となっており、決して「安かろう悪かろう」ではない

Wiko SUNNY製品紹介ページ
WVGA解像度の4インチディスプレイを搭載するWikoとしては最安価のモデルだが、こんな機種でもデュアルSIM対応でプロセッサはTommyと同等、OSもAndroid 6.0搭載となっており、決して「安かろう悪かろう」ではない

今回市場へ送り出された「Tommy」は日本では低価格機種というカテゴリになる訳ですが、実のはWikoの製品ラインナップでは、「SUNNY」(59,99ユーロ)、「LENNY 3」(99,99ユーロ)と「Tommy」(129,99ユーロ)よりもさらに安い機種が2機種用意されています。

それらはLTE対応の有無やディスプレイサイズ、あるいは搭載されるカメラの画素数などで差別化されているものの、どれもOSはAndroid 6.0搭載でCPUコアも「Tommy」と同じCortex-A7 1.3GHz ×4となっています。

つまり、Wikoの販売する端末はその設計についてOS上でのアプリ利用の際のユーザビリティの点で一本筋の通った方針が貫かれていることが、基本性能の点ではある一定の水準を保つことを厳守する方針である事が見て取れます。

このあたりはどのメーカーでも方針の遵守がなかなか難しいことなのですが、このように最下位の機種でも中の下の機種と同じような操作性を期待できるのであれば、Wikoが2011年の創業からあっという間にフランス国内市場で大きなシェアを獲得するに至ったのも納得できます。

そして、上位機種も下位機種もどれも同じ「センス」で貫かれた筐体デザインとなっていることも重要で、流石は芸術と文化を売り文句にしてきたフランスのメーカーであると感嘆せずにいられません。

そんなWikoですから、今後日本でも上位機種が発売されることを期待してしまいます。

実は2月26日よりスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2017」でWikoはデュアルカメラ搭載のWIMをはじめ複数の新機種を発表しているのですが、同社サイトでは未だ正式発表されておらず、その仕様については記事執筆時点では全貌が明らかになっていません。

そこで、ここでは現時点で同社サイトで紹介されている現行製品の内、価格設定面で「Tommy」よりも上位にあって、かつ明らかに古い世代でない機種をご紹介してみることにしましょう。

現状でWikoが発売しているAndroid搭載スマートフォンの内、世代的に明らかに新しいAndroid 6.0搭載で条件を満たすのは以下の各機種です。

  1. UFEEL LITE (169,99ユーロ)
  2. UFEEL (199,99ユーロ)
  3. UFEEL PRIME (249,99ユーロ)
  4. FEVER SPECIAL EDITION (249,99ユーロ)

UFEEL系は下から順にLITE、無印、PRIMEという実に判りやすいブランディングが行われていることから、仮に日本市場で発売されるとすれば、提供される機能面から恐らく最上位の「UFEEL PRIME」一択となるでしょう。

この「UFEEL PRIME」と同じ価格設定の「FEVER SPECIAL EDITION」は共に64ビットCPUであるCortex-A53 1.3GHz ×4を搭載し、ディスプレイサイズを取るか※注12、それともメインメモリ容量の多さやデュアルSIMスロットの片方をMicro SDカード用に使える自由度の高さを取るか、という二択になっていて、このあたり同じ価格である事に納得しつつ異なるバリューを利用者が得られる様、かなり苦労して仕様設定を行っていることが見て取れます。

 ※注12:「UFEEL PRIME」が5インチサイズ、「FEVER SPECIAL EDITION」は5.2インチサイズで、後者の方が若干大きく解像度が同一のため相対的に画素密度が低くなっています。その一方で前者はメインメモリ4GB搭載、後者は3GB搭載となっています。これらは同じプロセッサを搭載していると推測できるため、サイズの異なるディスプレイを搭載しつつ同じ価格枠に収めるためにメモリ容量に差をつけた可能性が高いといえます。

この辺は先に触れたWikoの「Tommy」やその他のローエンドモデル群でも同様の傾向となっていて、同じ値段の2機種が同じCPUを搭載していることからも、Tommy経営陣は明快なビジョンを持って製品ラインナップ構築を行い、価格設定については相当神経質に決定していることがわかります。

このあたりから考えると、Wikoは上位の機種でも極端に高性能なハイエンドプロセッサは搭載せず※注13、そこそこの性能のプロセッサで最大限の効果を得られるようなデザインとしていると推定できます。

 ※注13:QualcommのSnapdragonシリーズは余程の大手でないとハイエンドモデル、つまりSnapdragon 820や835などの最新高性能プロセッサは供給しない/供給契約を結ばないという方針を採っているため、そもそもハイエンドプロセッサは導入したくとも出来ない、という話もあります。このあたりは各社ともOEMやODMで製造を担当している中国メーカーの生産規模や技術力も関わってくるので、色々難しい問題となっています。

その辺については少数の高価なハイエンド機種を売るよりも、ある程度の価格・性能の、つまりボリュームゾーンに位置する機種を多数販売した方が生産上の量産効果も期待できる、というOEMによる製品供給元でもある大株主サイドの思惑も手伝っていそうです。

正直なところを言えば、この会社が今のこの企画・デザインセンスを保ったままで真のハイエンドモデルと呼べる様な機種を作ったらどうなるのだろうかなどと個人的には思います。

もっとも、Mobile World Congress 2017で発表された最新鋭機種である「WIM」でさえSnapdragon 626止まりであることから判断するに、Snapdragonで800番台の型番のプロセッサを搭載した機種をWikoが出す様になるまでには相応の時間が必要となりそうな気がします。

▼参考リンク
Wiko Mobile France
TOMMY – Smartphone – Wiko Mobile
Wiko Mobile
Snapdragon 210 Mobile Processor with Quad-Core CPUs | Qualcomm

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