Wiko Tommy
フランスのスマートフォンメーカーであるWikoが日本市場参入に当たって投入した低価格SIMフリーAndroid搭載スマートフォン。一見よくある低価格スマートフォンに見えるが…

フランスからの黒船来航 ~Wikoによる日本のスマートフォン市場進出を考える~ 前編

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by [2017年3月02日]

Wiko Tommy Wikoが日本市場参入に当たって投入した低価格SIMフリーAndroid搭載スマートフォン。一見よくある低価格スマートフォンだが…

Wiko Tommy

Wikoが日本市場参入に当たって投入した低価格SIMフリーAndroid搭載スマートフォン。
一見よくある低価格スマートフォンだが…

過去、日本のコンピュータ市場では何度も海外企業の大がかりな新規参入が行われ、大きなインパクトを与えてきました。

例えば、1992年末の米コンパック社※注1による日本のパソコン市場への本格参入の際には、最小構成時価格12万8千円、基本構成時19万8千円というそれまでではあり得なかった低価格の機種を発売し、それまで本体価格が高止まり状態だった国産パソコンの価格が一気に低下する※注2など、「コンパック・ショック」と呼ばれる大規模な価格破壊をもたらしたことが知られています。

 ※注1:当時アメリカのIBM PC互換機メーカーの最大手で、ローカルバス技術の導入やEISA規格32ビットバスの開発主導など以後のパソコン市場に大きな影響をおよぼした技術開発で知られます。後にヒューレット・パッカード社に吸収合併されています。
 ※注2:ただしこの価格低下はそれまでの様なオーバークオリティの部品の使用を不可能にし、特にNECのPC-9800シリーズでは定価をコンパック製品並に引き下げた機種で思わず目を覆いたくなるほどの品質低下があったことが知られており、価格低下で人々の手に入りやすくなった一方でキータッチが悪くなる、従来機種と比較して故障しやすくなる、あるいは機能が制限されるなど必ずしも良いことばかりではありませんでした。

こうした海外メーカーの新規参入は、幕末に浦賀へ来航し、その武力を見せつけることで江戸幕府へ開国を迫ったペリー提督率いるアメリカ海軍東インド艦隊の船体が黒く塗装されていた故事にちなんで、「黒船来航」などと日本企業などから呼ばれることがあります。

それは、異なる商慣習、異なるサービス体系、異なる商品展開を行う海外企業に対する警戒心や危機感がそう呼ばせているものですが、一般的なユーザーの立場に立てば、これまでの市場では存在しなかった選択肢が、つまりは従来機種にないデザインや機能でしかも低価格の製品が提供されるようになること自体は決して悪いことではありません。

実際、先に触れた「コンパック・ショック」で起きたパソコン本体価格の下落傾向とそれを望む市場の圧力は、その後の「10万円パソコン」誕生の大きな原動力となりました。

そしてこのほど、日本のAndroid搭載スマートフォン市場に、フランス発の黒船が来航しました。

新規参入メーカーの名はWiko(ウイコウ=Wiko Société par action simplifié※注3)。2011年にフランス南部のプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏の首府であるマルセイユにおいて、Cedric Wilmots氏によって創業された、フランスでも新興の、そして同国で2位に位置するスマートフォンメーカーです。

 ※注3:SAS:略式株式会社。現行のフランスの会社法(「略式株式会社を制度化する1994年1月3日の法律第94-1号」)で規定されている最新の会社制度で、従来のSociété anonyme(SA:株式会社)と比較して出資者の最低人数や最低資本金の規制がなく、ベンチャー企業の起業に好適な会社形態とされます。

今回はこのWikoが日本市場へ投入した同社初の製品である「Tommy」と、今後市場投入が考えられる同社の他の各機種について考えてみたいと思います。

Wikoという会社

Wikoはフランス市場へのローカライズに必要不可欠な開発・設計部門こそマルセイユに置いていますが、その一方でその株式の大半(一説には95%とも)を中国のTinno Mobile(深圳天瓏移動技術有限公司:2005年創業)が握っていて、実際の端末製造は中国で行われています。

Wikoが設立された2011年と言えば中国の経済成長に陰りが見え始めた頃で、それでもその安い人件費を武器として深圳などに林立したいわゆるハイテク企業の工場による低コストでの製品製造が絶頂を迎えていた頃でもありました。

そんな時期にフランス最大の港湾都市であるマルセイユで設立され、そうした中国メーカーの生産力を背景として低価格スマートフォンで市場を席巻したのが、このWikoだったのです。

もっともWikoのスマートフォンは、安かろう悪かろうという低価格スマートフォンにおいてありがちな展開とはなりませんでした。

低価格でも優れたデザインや洗練されたパッケージなどよく考えられた商品企画を武器にしており、所謂普通の低価格中華スマートフォンとは一線を画したセンスを発揮してきたのです。

Wikoは創業3年目の2013年にはデュアルSIMスロット搭載のAndroid搭載スマートフォンを260万台出荷、内170万台がフランス国内向けであったとされ、フランス市場でトップシェアを占めていたサムスンに次ぐ国内2位(シェア7~8%)の有力スマートフォンメーカーに急成長を遂げました。

そして翌年からはイギリス、ベルギーなどへも進出、徐々に各国市場でシェアを拡大しつつあります。

「Tommy」の仕様

それではここで、そんなWikoが日本市場進出にあたって初号機種として選んだ「Tommy」の主な仕様を確認してみましょう。

  • OS:Android 6.0(Marshmallow)
  • チップセット:Qualcomm Snapdragon 210 (MSM8909+:Cortex-A7 1.3 GHz クアッドコア)
  • サイズ:71.5×146×8.8 mm
  • 重量:165 g
  • メインスクリーン
    • 種類:TFTカラー液晶(IPS方式)
    • 解像度:720×1,280ピクセル(HD解像度)
    • 画面サイズ:5.0インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:2 GB
    • フラッシュメモリ:16 GB
    • 拡張スロット:micro SD(最大容量64 GB)
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:8メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:5メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 b/g/n
  • Bluetooth:Ver.4.1
  • USB:2.0(OTG対応)
  • SIMカードスロット:micro SIM
  • 電池容量:2,500mAh
  • ステレオFMラジオ:あり
  • TVチューナー:なし

いかにも廉価機らしいスペックのTommy

まずはじめにお断りしておかねばならないのですが、この「Wiko Tommy」は発売価格14,800円の低価格SIMフリー機という位置づけです。

つまり、現在の日本のAndroid搭載スマートフォン市場では最安クラスの激戦区と見なされる価格帯に投入された機種であるということになります。

そのことを踏まえた上で、この機種のハードウェアについて考えてみましょう。

安くてもSnapdragon

QualcommのSnapdragon 210製品紹介ページローエンドの機種らしく、「The Qualcomm Snapdragon 210 processor supports 4G LTE for everyone, 」と簡潔にその特徴・目的が示されている

QualcommのSnapdragon 210製品紹介ページ
ローエンドの機種らしく、「The Qualcomm Snapdragon 210 processor supports 4G LTE for everyone, 」と簡潔にその特徴・目的が示されている

まずはプロセッサから。この機種では、Qualcomm Snapdragon 210が搭載されています。

これは2014年に発表された、記事執筆時点ではQualcomm Snapdragonシリーズで最後のARM v7系32ビットCPUコア(Cortex-A7)内蔵プロセッサの一つです。

つまり、Raspberry Pi 2に積まれているプロセッサ(Broadcom BCM2836:Cortex-A7 900MHz ×4※注4)の動作クロックを引き上げたCPUとなっていると言えば判りやすいでしょうか。

 ※注4:現行のRaspberry Pi 2は2016年10月生産分から動作クロック周波数は900MHzで変更ないものの搭載プロセッサが64ビットのARM v8系命令セットに対応するCortex-A53 ×4内蔵のBCM2837へ変更され、Raspberry Pi 3の低クロックCPU搭載・無線ネットワーク非対応バージョン的な位置づけとなっています。つまり、この種の教育用コンピュータでさえ既に32ビットCPUから64ビットCPUへの移行が急速に進みつつあります。

もちろん、搭載されているGPUはQualcomm独自開発のAdrenoシリーズですから、ローエンド向けとは言えRaspberry Pi 2とは比較にならないほど高性能ですし、他の部分の構成も全く異なっているのですが、かなり低スペックなCPUコアが搭載されているということになります。

CPUコアが低速でもLTEカテゴリ4対応

もっとも、内蔵されているCPUコアそのものは低スペックですが、開発時点で最新のQualcomm製コミュニケーションプロセッサやモデムが組み合わされていて4G LTE通信ではカテゴリ4に対応し下り最大150Mbpsでの通信が可能であるため、また低スペックなCPUコアとは言えクアッド構成であるため、2012~2013年頃のデュアルコアCPU搭載LTE対応ハイエンドスマートフォンなどからの乗り換えであればむしろ高速化・性能向上によって快適性が高まる部分の方が多くなるでしょう。

このあたりは技術の進歩の早さを痛感させられる部分ですが、言い替えれば3Dグラフィックを多用するような「重い」ゲームを遊ばず、ただLINEなどのSNSを多用するだけのカジュアルなユーザーであれば、必要充分な性能を備えているということになります。

なお、この「Tommy」でサポートされているLTE通信の周波数帯は 2100(バンド1)/1800(バンド3)/900(バンド8)/800U(バンド19)/800L(バンド18) (MHz)の5バンドで、NTTドコモが使っているバンド21(1500MHz)やauが使っているバンド28(700MHz)が抜けていますが、それでもNTTドコモ・au・ソフトバンクの大手3社が利用している周波数帯の主だったところは一通り抑えてあります。

バンド選択については搭載できるモデムなど通信に関わる回路の仕様に左右されるため、そう簡単に変更できないのですが、それでも日本市場では、そもそも通話できないといった致命的な状況は回避できそうです。

付け加えておくと、この製品ではWi-FiでサポートされているのがIEEE 802.11 b/g/nとなっていますが、Snapdragon 210そのものはIEEE 802.11 aもサポートしています。これにより5GHz帯をサポートするとなってRFモジュールその他通信に関わるパーツのコストが増えるため、低価格帯の機種では忌避されるケースが多いのですが、IEEE 802.11 b/g/nで用いられる2.4GHz帯はBluetoothなどと干渉しやすく、また最近ではUSB 3.xとの干渉も指摘されるようになってきている※注5ので、できれば5GHz帯もサポートして欲しいところです。

 ※注5:USB 3.xはPCI Expressの1レーン分の信号線1対を引き出したような通信プロトコルであるため、電磁放射ノイズの問題はその最初期から指摘されていて、光伝送とすることさえ真剣に検討されていた程でした。この規格で利用可能なケーブル長がUSB 2.0までより短くなっているのも、このノイズ放射を抑制する必要によるものです。こうした事情から、USB 3.0/3.1 接続の機器近くでBluetoothや2.4GHz系のWi-Fiを利用した場合、状況によっては通信途絶が頻繁に起きたり、通信速度が著しく低下したりといった問題が生じることがあります。

画面解像度はHD

次はディスプレイ回りです。

この「Tommy」ではディスプレイパネルとして5インチサイズのHD解像度(720×1,280ピクセル)IPS液晶ディスプレイを搭載しています。

ポケットに入れるにはやや大きめですが、HD解像度であれば字が小さすぎて読めないということもまずなく、また視野角178°を実現し相当斜めの視線からでも色が概ね正しく視認できるIPS液晶方式であるため、視認性や操作性の点で問題が出ることはまずないでしょう。

なお、画面解像度がHD解像度に留まっているのは、Snapdragon 210に内蔵のAdreno 304クラスのGPUでは描画性能的にフルHD解像度は厳しいことが原因※注6と考えられます。

 ※注6:QualcommのサイトにあるSnapdragon 210の製品紹介ページでは「Display」の項で「Maximum On-Device Display Support 720p 1280×720 WXGA」と明示してあります。カメラでは1080Pでの撮影が可能とあるため、このあたり、CPUのグレードを低くしつつGPUだけ2ランク上の機種を搭載するといった変則的な構成はプロセッサメーカー側の想定にないらしく、いわばチップメーカーのあてがい扶持となっています。ただし、プロセッサメーカー側がこうした構成を避けているのは相応に理由があって、プロセッサ性能が不十分な状態でGPU性能だけを上げても、例えば1フレームの描画時間内に必要なCPU側の演算処理が終わらず、GPUの性能がフルに発揮できず積むだけ無駄という状況となってしまう可能性が高いことがあります。その意味では、プロセッサメーカーが各製品のページで記載している対応ディスプレイ解像度はこれらのプロセッサの性能を推し量る際に重要な判定情報の一つとなります。

メモリは2GBだが…

「Tommy」のメインメモリ容量は2GBとなっています。

これはプロセッサのCPUコアが32ビットのCortex-A7となっていることから考えれば妥当な判断です。

このクラスのCPUコアの場合、仮に3GBメモリを積んでも全てをメインメモリとして認識・利用できないことが多々あるため、チップの入手性やその価格も安い2GBのラインで止めたのは賢明であると言える※注7でしょう。

 ※注7:そもそもの話として、32ビット版のAndroidではOSそのものや各アプリの消費するメモリ容量が64ビット版よりも小さくなる傾向があるため、普通に利用する範囲ではメモリが2GBで足りないということにはまずなりません。

一方、本体内蔵のストレージは容量が16GBと小容量となっています。

これはAndroid 6.0をインストールしてアプリを実用的に使用できる下限に近い容量ですが、その一方でAndroid 6.0では外部ストレージ、具体的にはMicro SDカードを仮想的に本体内蔵ストレージと同じ扱いで利用できる機能※注7が搭載されているため、アプリのインストールなどで内蔵ストレージが足りなくなったらこの機能を利用しろ、ということなのでしょう。

 ※注7:Android 6.0以降では「設定」の「ストレージと USB」にある「SDカード」で「本体メモリとしてフォーマット」という項目が追加されており、これを利用することで本体内蔵ストレージ容量を拡張できるようになっています。

ちなみにフランス本国向け「Tommy」のメインメモリ容量は1GB、内蔵ストレージ容量は8GBで、いずれも日本向けの1/2の容量となっています。

この差は文字種があまりに多く表示用のフォント(およびそのキャッシュ)としてメインメモリ容量を大量に消費する、日本市場特有の事情に合わせたローカライズ=倍増が行われ、またアプリのリソースでも文字表記に必要なメモリ/ストレージ容量の上乗せが行われるため、先述のMicro SDカードを仮想的に内蔵ストレージ扱いとする機能を利用しない場合に最低限必要となるストレージ容量が増えることを考慮したためと推測されます。

こうしたローカライズは単なる「安かろう悪かろう」な製品にしないためには結構重要な要素で、Wikoが日本市場で求められるものをきちんと理解して製品が市場投入を行っていることが判ります。

一方、問題の外部ストレージについてはMicro SDによる64GBが最大容量と公表されています。

128GB以上の容量への対応が示されていないのは、ハードウェアやOSの仕様などによるものなのかどうか判然としませんが、内蔵ストレージが16GBでこの機種の本体価格が約1万5千円であることを考えれば、1枚が記事執筆時点での最安でも税込で4,700円弱の128GBタイプや本体よりも高い1万9千円弱の256GBタイプのmicro SDXCメモリがこの機種で使用される可能性は低そうです。

後編へ続きます。

▼参考リンク
Wiko Mobile France
TOMMY – Smartphone – Wiko Mobile
Wiko Mobile
Snapdragon 210 Mobile Processor with Quad-Core CPUs | Qualcomm

Android 6.0 API | Android Developers

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