サムスン Galaxy Note 7発表・発売開始当時、後の悲劇的状況を予想できた人はおそらくいなかったに違いない。専用スタイラスペンを内蔵し防水防塵にも対応するなど、これまでのサムスンのGalaxyシリーズの設計の集大成と言える設計・スペックであった

Galaxy Note 7の結末 ~サムスン期待の新星はいかにして終焉を迎えたか~(前編)

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by [2017年1月11日]

サムスン Galaxy Note 7発表・発売開始当時、後の悲劇的状況を予想できた人はおそらくいなかったに違いない。専用スタイラスペンを内蔵し防水防塵にも対応するなど、これまでのサムスンのGalaxyシリーズの設計の集大成と言える設計・スペックであった

サムスン Galaxy Note 7
発表・発売開始当時、後の悲劇的状況を予想できた人はおそらくいなかったに違いない。専用スタイラスペンを内蔵し防水防塵にも対応するなど、これまでのサムスンのGalaxyシリーズの設計の集大成と言える設計・スペックであった

2016年8月19日に市場の大いなる注目・期待の中でデビューし、8月の終わりにはバッテリー発火・爆発事故の頻発でリコール対象となって10月には早くも市場からの完全退去を強いられたサムスン電子のGalaxy Note 7。

この機種がどのようにしてリコールされるに至ったかについては、既に過去の記事でご紹介していますが、先日、サムスンから現在稼働中のGalaxy Note 7のソフトウェアにアップデートを行い、充電できないようにする、という発表がありました。

リコールの時点で既に、この機種は安全対策としてソフトウェアアップデートによりフル充電が行えないような措置がとられていたのですが、今回爆発が発生したメカニズムについての原因究明が終わっておらず公式発表もないままの状況で、そこから更に一歩踏み込んで事実上モバイル機器としての命脈を断つような措置が行われたことは、一部で話題となりました。

そこで今回はこうした「リコール決定以後」の動きを中心に、Galaxy Note 7およびスマートフォン事業そのものについてのサムスン電子や周囲の動きを振り返ってみたいと思います。

はじまりは突然の発火・爆発だった

今回のリコールの発端は、発売されて間もないGalaxy Note 7で充電中に発火・爆発するトラブルが複数報告されたことでした。

このGalaxy Note 7はサムスンが例年の慣例から秋に発表されると見られていたAppleの新型iPhoneにぶつける形で、それに先行して発表した機種でした。

こうしたタイミングでの新機種発売自体はこれまでにも何度か実施されていて、それなりに成功を収めてきたため今回も大きな販売実績となることが期待されていました。

そんな状況下での、Android搭載端末市場では最大手の製品でのトラブル発生でしたから、当然ながらこれは世界的に大きな注目を集めることになりました。

充電中のこうしたトラブルは、例えば容量の十分でない純正/指定品以外のACアダプタなどを使用して充電を行った際などにも起きうる(※注1)ため当初はそちらを疑う意見もあったのですが、それらのトラブルが発生したユーザーが純正アダプタを使用していたことが判明して、次第に雲行きが怪しくなってきました。

 ※注1:例えば電圧は適正でも容量が不適切なACアダプタを使用した場合、アダプタ内部で電源回路の定格を超えた電流が長時間流れ続けた結果、電源回路を構成するスイッチング素子の破壊がショートモードで起きて過大電流がスマートフォン側に流れてしまうと、こうした現象が起きることがあります。スマートフォンに限らずACアダプタ接続の機器でマニュアルなどに専用アダプタ以外を使用しないよう繰り返し書かれているのは、こうした現象を未然に防ぐためなのです。

純正のアダプタを使用して充電していて、発売から1ヶ月と経たないうちに発火や爆発が起きるとすれば、それは全くの別問題となるためです。しかも、この頃には単純に使用している最中に突然発火・爆発したケースが報告されるようになっていました。

具体的に言えばこれはバッテリーパックか本体そのものの設計製造に何らかの問題が存在する可能性が高くなるということで、そのためサムスンは発売から2週間と経たない間にこのGalaxy Note 7の全世界での販売を一旦中止、9月2日には出荷済みの250万台を対象とした大規模リコールの実施を発表するという素早い対応を行いました。

一般的にはこうしたトラブルが発生した場合、リコール決定までには幾らか時間がかかることがあって、それが被害を拡大させてしまうことが珍しくない(※注2)のですが、さすがにサムスンの擁する各種事業の中でも収益面で大黒柱の役割を果たしてきたスマートフォン・タブレット事業で製品の名はともかくブランドそのものに傷がつくのは可能な限り避ける必要があって、そのためこの短期間での販売中止・リコール実施が決定されたものと考えられます。

 ※注2:この業界では、過去にリチウムイオンバッテリーと本体、どちらの問題か特定できずにリコール費用の分担を巡って電池メーカーと本体メーカーの間で合意が遅れた結果、被害を拡大してしまったケースがありました。

問題はその後だった

ここまでのこの問題についてのサムスン電子の対応・意思決定は非常に迅速で良かったと思うのですが、問題はこの後でした。

同社はこの時点でGalaxy Note 7の発火・爆発問題について正確な原因は不明かつ調査中としたものの「バッテリーセルの問題」(battery cell issues)が発見された」とし、これが主因であるとの見解を早い時期に示しました。

化学反応の現象として考えれば、このGalaxy Note 7に搭載されているような大容量のリチウムイオン二次電池が発火ないしは爆発を引き起こすのは、一般には電池内の正極と負極を分離して両者間でイオンの移動のみを行わせるためのセパレータと呼ばれる部品に当初から欠陥があったか、さもなくば後で破損し、正極と負極の間が同じ電解液/電解質でつながって直結状態となって過電流が流れ、リチウムが析出するなどの現象が起きた場合ですから、広義で言えば「バッテリーセルの問題」であるのは確かです。

この内の前者、当初より欠陥があった場合が一般的にはこのサムスンの見解の示す「バッテリーセルの問題」の主因で、つまりGalaxy Note 7に搭載されていたバッテリーパックを生産したグループ企業であるサムスンSDIの生産工程に何らかの問題があることを、サムスン電子は暗に示唆していたのです。

もしこれが本当の原因であれば、他のメーカーが製造した同等容量のバッテリーパックに交換すればそれで問題が解決したはずです。

そして実際、そのつもりでサムスン自身も「良品」とする他社製バッテリーパックを搭載した個体をリコールに伴う交換用として提供していました(※注3)。

 ※注3:このため、サムスン電子の開発・設計部門はともかく、この見解を示した同社上層部は少なくともこの時点ではこれを発火・爆発の原因であると信じ込んでいたものと考えられます。

Galaxy Note 7で自社製バッテリーパック搭載品が発火事故を引き起こした直後に出されたAmperex Technology Ltd.(ATL)の声明

Galaxy Note 7で自社製バッテリーパック搭載品が発火事故を引き起こした直後に出されたAmperex Technology Ltd.(ATL)の声明

しかし、この対策とその「バッテリーセルの問題」が主因であるとするサムスンの主張は、その後サムスンSDIではないメーカー製のバッテリーパック(※注4)を搭載した個体でも発火・爆発したことで否定されることになりました。

 ※注4:日本のTDKの子会社で香港に本拠を置くAmperex Technology Ltd.(ATL)が供給したバッテリーパックが当初計画では全体の3割を占めていたとされます。9月19日から実施された「良品」のGalaxy Note 7への交換プロセスではサムスンSDIからのバッテリーパック供給が停止され、このATL製バッテリーパックを搭載した製品が提供されました。

それはつまり、この問題は単なるバッテリーメーカーの製造工程上の問題ではなく、どのメーカーが作った(内部構造の異なる)バッテリーパックでも起こり得るものであって、つまりGalaxy Note 7本体の設計に何らかの問題がある可能性が極めて高いことを意味しています。

サムスン電子はGalaxy Note 7のATL製バッテリー搭載品への交換、あるいはサムスン製の他の機種への交換を主軸とするリコールプログラムを進める一方で、9月末から10月初頭にかけて大々的な再発売キャンペーンを発売各国で開始されていたのですが、こうした施策とそれを前提としたGalaxy Note 7の販売再開計画はこれにより瓦解してしまいました。

このキャンペーン開始から間もない10月4日にケンタッキー州ルイビルのルイビル国際空港でサウスウェスト航空の旅客機機内において「良品」つまりATL製バッテリーパックを搭載して出荷され「安全」とされていた筈のリコールプログラムでの交換済み個体が発煙事故を引き起こしてしまったのです。

事態の深刻さからアメリカ国内のキャリア各社はGalaxy Note 7の販売を緊急停止し、サムスン電子自身も供給量調整を名目として出荷を停止、さらには10月11日には「生産、販売、対策品への交換プログラムの中止、全てのGalaxy Note 7の利用停止要請」を発表、この機種そのものの生産を終了することを発表しました。離陸前の待機状態の機内で発煙が発生し、ここで爆発や発火にまで至らなかったのは不幸中の幸いでしたが、この事故によりGalaxy Note 7全体に対する信頼性が完全に喪われてしまったのです。

アメリカ運輸省(The U.S. Department of Transportation :DOT)がGalax Note 7の航空機内からの排除を命じた通達を伝える連邦航空局( Federal Aviation Administration:FAA)のプレスリリース

アメリカ運輸省(The U.S. Department of Transportation :DOT)がGalax Note 7の航空機内からの排除を命じた通達を伝える連邦航空局( Federal Aviation Administration:FAA)のプレスリリース

なんと言っても危険物厳禁の航空機の機内で発煙事故が発生したのは致命的で、この結果Galaxy Note 7はアメリカでは連邦航空局(FAA)が10月15日に電源を切った状態でも航空機内への持ち込みを禁止する指示を出し、日本でもこれを受けて同日に国土交通省が日本国内の航空各社へ持ち込み禁止の指示(※注5)を行いました。その後10月の終わり位までには世界中の多くの国でこの機種が機内持ち込み禁止品に指定され、搭乗時にこの機種を携行していると問答無用で没収されることとなってしまいました。

 ※注5:日本の国土交通省は航空各社に対し9月9日の段階でGalaxy Note 7を機内に持ち込む際は電源を切り充電せず、また預け荷物に含めないことを要請していましたから、この指示は追加措置となります。

ソニー・エリクソン W44S背面手前側の電池室は裏蓋を外してある。auのロゴの入った箱状の部品がリチウムイオン二次電池パックで、この機種の場合は四囲にスペーサーを置いて若干の隙間を設け、さらにバッテリーパックそのものをW44S本体からフローティング状態で支持することで膨張・変形に対応する。こうしたバッテリーパックの支持・固定方法とその隙間寸法はメーカー各社のノウハウに属する

ソニー・エリクソン W44S背面
手前側の電池室は裏蓋を外してある。auのロゴの入った箱状の部品がリチウムイオン二次電池パックで、この機種の場合は四囲にスペーサーを置いて若干の隙間を設け、さらにバッテリーパックそのものをW44S本体からフローティング状態で支持することで膨張・変形に対応する。こうしたバッテリーパックの支持・固定方法とその隙間寸法はメーカー各社のノウハウに属する

こうなると、Galaxy Note 7本体の中でも、特にバッテリーパック周辺の筐体そのものの物理的な設計が疑わしくなってきます。

具体的に言えば、リチウムイオン二次電池の充放電の際の化学反応プロセスで生じるバッテリーパックの膨張・変形に対して充分な空間的マージンを筐体内部に確保していなかったために膨張・変形したバッテリーパック内でセパレータが圧迫されて破損してしまった可能性が高いということなのです。

2年の使用でバッテリーパックがメーカー規定値を超えて膨張・変形してしまい筐体がいわゆる「妊娠」してしまったHTC J Butterfly HTL21防水性能が失われるなど実用上色々問題があるが、それでも爆発や発火よりはマシである

2年の使用でバッテリーパックがメーカー規定値を超えて膨張・変形してしまい筐体がいわゆる「妊娠」してしまったHTC J Butterfly HTL21
防水性能が失われるなど実用上色々問題があるが、それでも爆発や発火よりはマシである

リチウムイオン二次電池の膨張・変形については過去の記事でHTC J Butterfly HTL21でのそれをご紹介したことがありますが、通常は筐体内にある程度の隙間を持たせてバッテリーパックの膨張・変形に備え、また膨張が規定値を超えるような場合でも、筐体側の変形によって極力ストレスがバッテリーパックにかからないように膨張・変形の圧力を外に逃がすため、ある部分の接合力をわざと弱くしておくなどの設計上の工夫を行うのが一般的です。

Instrumentalのサイトで公開されたGalaxy Note 7の内部写真ご覧のとおり内蔵バッテリパックの周囲にはほとんど余裕が無く、バッテリーパックの膨張・変形でその内部のセパレータが破損する恐れがある。この設計ならば、充放電の過程で突然発煙・発火・爆発したとしても不思議はない

Instrumentalのサイトで公開されたGalaxy Note 7の内部写真
ご覧のとおり内蔵バッテリパックの周囲にはほとんど余裕が無く、バッテリーパックの膨張・変形でその内部のセパレータが破損する恐れがある。この設計ならば、充放電の過程で突然発煙・発火・爆発したとしても不思議はない

そして、こうした疑念を裏付けるように、12月2日に、Instrumentalというハードウェアエンジニア集団のサイトで公開されたGalaxy Note 7の発火・爆発原因についての記事に掲載された内部写真では、驚いたことにこの機種のバッテリーパック周囲にはほとんど余裕が無いことが明らかになりました。

ひどい箇所では隙間がわずか0.1mmしかないところもあることが示されていて、なるほどこれならば充放電時のバッテリーパックの膨張・変形で周囲と接触、バッテリーセル内部のセパレータを損傷させ発火・爆発に至る事もあり得る印象です(※注6)。

 ※注6:サムスン電子は安全対策として、またリコールプログラムにユーザーが参加するよう促す目的で、Galaxy Note 7のシステムソフトウェアについてのアップデートを11月に実施した際に、バッテリー充電容量をスペック上限一杯から60%まで引き下げる予防措置を行っています。ここで「60%」という具体的な数字が閾値として出てきたこと自体、この時点までにこの問題の根本的な原因について同社がある程度把握していた可能性を示唆するものです。恐らく、充電率がこの位までならば、バッテリーパックの膨張・変形が許容範囲内に収まり、セパレータ破損を回避できるという判断なのでしょう。

冷静に考えれば、あのディスプレイパネルの平面積で、しかも薄い筐体で、かさばるスタイラスペンを内蔵可能としつつあれだけの大容量バッテリーパックが搭載できていた段階で設計に無理がある可能性を疑うべきだったのです。

このあたり、サムスン電子はリコール開始から3ヶ月以上が経過した今もなお調査結果を発表していませんが、この調査のあおりで人員が動員された結果Galaxy S8となるべき次世代機種の開発に遅れが出ているとの報があり、またGalaxy Note 7だけでなく他の機種でも発煙があったとの報もあったことから、この問題は同社社内においてGalaxy Note 7だけでは済まない状況になってきている可能性さえ考えられます。

後編へ続きます。

▼参考リンク
[Official Statement] Galaxy Note7 – Samsung Newsroom
Samsung Establishes U.S. Product Exchange Program for Galaxy Note7 – Samsung Newsroom
Samsung Will Ask All Partners to Stop Sales and Exchanges of Galaxy Note7 while Further Investigation Takes Place – Samsung Newsroom

Statement on the U.S. Department of Transportation’s new order to ban all Galaxy Note7 devices – Samsung Newsroom
Galaxy Note7 Update – Samsung Newsroom
Samsung Taking Bold Steps to Increase Galaxy Note7 Device Returns – Samsung Newsroom
Galaxy Note7 Safety Recall and Exchange Program

ギャラクシーノート7、充電中に爆発相次ぐ…サムスン、供給中断後に全数調査 | Joongang Ilbo | 中央日報
ギャラクシーノート7の爆発原因は中国製バッテリー? | Joongang Ilbo | 中央日報
中国で組立のサムスンSDIバッテリー分離膜に欠陥か(1) | Joongang Ilbo | 中央日報
サムスン「250万台のノート7を全量交換」 | Joongang Ilbo | 中央日報
【時視各角】サムスン、発火の原因を把握できないのがより大きな問題(1) | Joongang Ilbo | 中央日報

報道発表資料:サムスン電子社製ギャラクシーノート7の航空機への持ち込みについて – 国土交通省
報道発表資料:サムスン電子社製ギャラクシーノート7に係る追加的な措置について – 国土交通省

Aggressive design caused Samsung Galaxy Note 7 battery explosions — Instrumental Millions of Things
Beyond the Teardown: How we think about failure analysis, Samsung Galaxy Note 7 edition — Instrumental Millions of Things

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