Google Pixel(右)とGoogle Pixel XL(左)

NexusではなくPixel~Google、新スマートフォンを発表~(前編)

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by [2016年10月27日]

Google Pixel(右)とGoogle Pixel XL(左)筐体サイズ・ディスプレイ解像度及びサイズ、それに内蔵バッテリー容量の相違による2モデル展開だが、それ以外のスペックは基本的に同等となっている

Google Pixel(右)とGoogle Pixel XL(左)
筐体サイズ・ディスプレイ解像度及びサイズ、それに内蔵バッテリー容量の相違による2モデル展開だが、それ以外のスペックは基本的に同等となっている

Googleがスマートフォン・タブレット用OSとしてAndroidを提供する一方で、そのAndroidの動作するリファレンス環境として「Nexus」の名を冠した機種を各端末メーカーの協力を得て開発・販売してきたことはご存じの方が多いと思います。

2010年の「Nexus One」に始まり、2015年秋発売の「Nexus 5X」「Nexus 6P」までスマートフォンとタブレットを合わせて12機種を数えたこのシリーズですが、余計なキャリア/端末メーカー製アプリが一切インストールされておらずAndroid本体およびその標準アプリ、それにGoogle製アプリのみがインストールされている「だけ」というソフトウェア構成のシンプルさや、キャリアの思惑や都合に振り回されてOSのメジャーアップデートさえ保証されないことのある他のスマートフォン/タブレットとは異なり、少なくとも定められた期間内にリリースされたOSの新バージョンについてはアップグレード保証が得られるというOS開発メーカーによる純正端末ならではのメリットもあって、結構ファンが多いことが知られています。

そんなNexusシリーズは例年おおむね秋頃に新製品発表があったのですが、2016年は状況が大きく変わりました。

Nexusシリーズの新製品が一切発表されずに新スマートフォン「Pixel」「Pixel XL」が発表され、そればかりかGoogleストアからNexusシリーズの製品が全て削除されてしまった(※注1)のです。

 ※注1:記事執筆時点で公式にはNexusシリーズ各製品の生産や開発の終了、あるいはブランドの終了は宣言されていません。このため、「Nexus」ブランドそのものについては今後どこかで別の形で再利用される可能性が残されています。

実はこの「Pixel」という新ブランドは唐突に出てきたものではなく、昨年2015年秋にNVIDIAのTegra X1を統合プロセッサとして搭載する10.2インチタブレット機「Pixel C」として先行発表されていたものです。

この「Pixel C」は残念ながら日本市場での発売が見送られたため日本国内ではほとんど話題にならなかったのですが、「Nexus 5X」「Nexus 6P」と同時期に「Nexus」ブランドでのタブレット機発表を見送って新ブランドでのタブレット機発表となったことから、一部ではこの時点でNexusブランドが遠からずフェードアウトする可能性がささやかれていました。

そしてそれから約1年を経て今回、遂に「Nexus」ブランド製品の販売終了と「Pixel」ブランドでのスマートフォン発売となった訳です。

そこで今回は、今後のGoogleおよびAndroidの方向性を占う意味で重要な意味を持つこれら「Pixel」スマートフォン2機種について考えてみたいと思います。

主な仕様

PixelとPixel XLの記事執筆時点で公表されている主な仕様は以下のとおりです。

まずはPixelから。

  • OS:Android 7.1 Nougat
  • チップセット:Qualcomm Snapdragon 821(2.15 GHz + 1.6 GHz クアッドコア)
  • サイズ:69.5×143.8×7.3~8.5 mm
  • 重量:非公開
  • メインスクリーン
    • 種類:有機EL(AMOLED)
    • 解像度:1,080×1,920ピクセル(FHD解像度)
    • 画面サイズ:5.0インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:4GB LPDDR4 SDRAM
    • フラッシュメモリ:32GB/128GB
    • 拡張スロット:なし
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:12.3メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:8メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/b/g/n/ac(2.4GHz/5GHz 2×2 MIMO)
  • Bluetooth:Ver.4.2
  • SIMカードスロット:Nano SIM
  • 電池容量:2,770mAh
  • 防水:なし
  • 防塵:なし
  • NFC:対応
  • TVチューナー:なし
  • 生体認証:指紋認証

次はPixel XL。

  • OS:Android 7.1 Nougat
  • チップセット:Qualcomm Snapdragon 821(2.15 GHz + 1.6 GHz クアッドコア)
  • サイズ:75.7×154.7×7.3~8.5 mm
  • 重量:非公開
  • メインスクリーン
    • 種類:有機EL(AMOLED)
    • 解像度:1,440×2,560ピクセル(QHD解像度)
    • 画面サイズ:5.5インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:4GB LPDDR4 SDRAM
    • フラッシュメモリ:32GB/128GB
    • 拡張スロット:なし
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:12.3メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:8メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/b/g/n/ac(2.4GHz/5GHz 2×2 MIMO)
  • Bluetooth:Ver.4.2
  • SIMカードスロット:Nano SIM
  • 電池容量:3,450mAh
  • 防水:なし
  • 防塵:なし
  • NFC:対応
  • TVチューナー:なし
  • 生体認証:指紋認証

以上から、これら2機種はディスプレイのサイズおよび解像度と、筐体サイズに左右されるバッテリー容量以外はほぼ共通のハードウェアを備えた兄弟機種であることがわかります。

プロセッサとメモリ

それでは両機種の搭載するプロセッサとメモリについて見てみるとしましょう。

Qualcomm Snapdragon 821製品紹介ページX10 LTE比3倍のアップロードスピードと33パーセントのダウンロードスピード向上、それにSnapdragon 810比で2倍のCPUパフォーマンスなど、様々な面での性能向上が謳われる

Qualcomm Snapdragon 821製品紹介ページ
X10 LTE比3倍のアップロードスピードと33パーセントのダウンロードスピード向上、それにSnapdragon 810比で2倍のCPUパフォーマンスなど、様々な面での性能向上が謳われる

まずプロセッサは、Qualcommが自社開発したARM v8-A命令セット対応64ビットCPUコアである「Kryo」とARMの同じくARM V8系命令セット対応64ビットCPUコアであるCortex-A53を2基ずつ搭載するSnapdragon 821となっています。

QualcommはSnapdragonシリーズの最初期に「Scorpion」と呼ばれる独自開発のARM系命令セット互換のCPUを開発搭載して以来、そのデュアルコア化やコアの「Krait」への強化改良を行うなど、段階的に性能向上を続けてきました。

その延長上として登場したのが64ビットのARM v8-A命令セットに対応する「Kyro」(※注2)コアです。

 ※注2:なお「Scorpion」はサソリ、「Krait」は毒蛇といずれも毒をもった動物の名に由来する名称ですが、「Kyro」が何に由来するのかは明らかにされていません。

この「Kyro」コアはこれまでと同様、ARM純正のCortex-A57・72などの競合機種として、「Krait」で培われた高速化のノウハウを盛り込んで設計されたQualcommとしては初の64ビットCPUコアです。

14nm FinFETプロセスルールでの製造を前提として設計され、様々な高速化手法(※注3)が導入されて従来機種よりも高速な処理を可能としたこの「Kyro」コアを初搭載したSnapdragon 820は、しかしサンプル出荷が始まった頃から動作時の発熱量が過大であるという問題が指摘されていました。

 ※注3:一般にCPUコアの性能向上は多段パイプラインの複数本導入によるn Wayスーパースケーラ化やこれに伴う命令のアウトオブオーダー実行、条件分岐命令実行時の投機的実行機能の搭載、それに分岐予測機能の精度向上といった手法によって行われますが、いずれもその実現に必要なトランジスタ数が多く、往々にして高性能と高発熱がトレードオフの関係となりがちです。

このSnapdragon 821は型番からもわかるようにそのSnapdragon 820のマイナーチェンジモデルで、基本スペック的にはほぼ同一でKyroコアの動作クロック周波数が最大で2.2GHzから2.4GHzに引き上げられて約1割程度のCPU演算性能向上が実現し、またGPUでもSnapdragon 820比で5パーセント程度の性能向上が得られたとされています。

もっとも、これはむしろ同じ動作クロック周波数での発熱量低減あるいは消費電力の削減を重視してSnapdragon 820を再設計した結果、チップ内部のクリティカルパス、つまり高クロック周波数での動作を阻んでいた部分が解消されて結果として高速動作が可能となっただけと見た方が良さそうです。

というのは、このSnapdragon 821を今回の「Pixel」「Pixel XL」では最大でも2.15GHz、つまりSnapdragon 820の最大動作クロック周波数よりも若干低い程度の動作クロック周波数で動作させているためです。

回路設計や製造上のチューンにもよりますが、一般にこの種のプロセッサでは最大値よりも動作クロック周波数を引き下げればその分だけ、いやその分以上に消費電力≒発熱量が減少することが知られています。

そのため、ハードウェアの冷却系などの設計上の制約により熱的に厳しい状況であれば、定格最大値よりも動作クロック周波数を引き下げて動作の安定性を得る手法が一般に利用されています。

恐らく「Pixel」「Pixel XL」で最大値から10パーセント程度動作クロック周波数を引き落とす設計としている(※注4)のも、この手法を導入したためでしょう。

 ※注4:ちなみに爆発事件で生産打ち切り・回収となったサムスンのGalaxy Note 7ではSnapdragon 821ではなく、それよりも最大動作クロック周波数が0.2 GHz低い(2.2 GHz)Snapdragon 820を搭載しているにもかかわらずSnapdragon 821を搭載する「Pixel」と同じ、つまり定格の約98パーセントに当たる最大2.15GHzで動作させていました。このあたりの無理の積み重ねが問題の一因となった可能性が考えられます。

ただ、今回の2機種では画面解像度が異なり、同様な使い方をしてもGPUやCPUにかかる負荷が異なる他、筐体サイズの相違による冷却系の性能差もあるため、同じスペックを公称していても、CPUやGPUのチューンが異なっていて最大動作クロック周波数で駆動できる時間に差がある可能性があります。

Pixelの構造やスペックを示すGoogleの製品紹介ページこの分解イメージから、バッテリーの搭載方法を含め各部にある程度余裕を持たせた無理のない設計・構造となっていることが見て取れる

Pixelの構造やスペックを示すGoogleの製品紹介ページ
この分解イメージから、バッテリーの搭載方法を含め各部にある程度余裕を持たせた無理のない設計・構造となっていることが見て取れる

筐体の平面積および容積が大きくその分放熱量を大きく取れるPixel XLならば放熱量が相対的に小さいPixelよりもCPUを最大動作クロック周波数で動作する時間を長く設定できることになりますし、またGPUも同様に高負荷動作をより長い時間続けられると考えられるためです。

このあたりは公称スペックでは一切言及されない部分ですが、サイズ差がそうした性能上の相違をもたらす可能性があることは念頭に置いておく必要があるでしょう。

なお、今回の「Pixel」はWi-FiあるいはLTE接続でのインターネット利用時間がいずれも13時間、「Pixel XL」は14時間を公称しており、バッテリ-容量が24パーセント以上大きいにもかかわらず「Pixel XL」の利用時間の伸び率がわずか7パーセントと低めの値になっています。

これは画面の画素数増加による有機ELの消費電力増加も影響していると考えられますが、それにしても伸び率が低すぎることから、同じプロセッサを搭載するにもかかわらず「Pixel XL」の方が「Pixel」よりもGPUやCPUコアの負荷が高くなっている/そうした動作を許容するチューンとなっている可能性があることが見て取れます。

一方、メインメモリはSnapdragon 821の標準仕様通り現在モバイル機器で利用可能な低消費電力・高速動作タイプDRAMの中で最速のLPDDR4 SDRAMが4 GB搭載されています。

昨今の他社製ハイエンドAndroid端末ではメインメモリ容量を6 GB、あるいは8 GB搭載する機種も珍しくなくなっていますが、現在の使用実態や搭載バッテリー容量、それに連続動作時間などを考慮するとこれら2機種でのメモリ4 GB搭載は、少なくとも現時点では妥当な容量設定(※注5)であると言えます。

 ※注5:常時定期的にメモリ全領域に対してリフレッシュ動作と呼ばれるデータの読み出し→再書き込み動作を行わねばメモリ内のデータが喪失してしまうDRAMの場合、メモリ容量増量は直接消費電力増大に結びつきます。このため、充分以上に大容量のバッテリーを搭載した機種でなければメモリ容量の増強は難しく、またバッテリー容量の増量で無理をすると発火事故に結びつく恐れもあります。一方、メインメモリ容量の増大はOSによる仮想記憶機能の利用頻度を低下させマシン全体の実効性能向上に大きく寄与します。その点ではメモリは積めるだけ積んだ方がより快適な動作を期待できるため、特にスマートフォンの場合はプロセッサなどの消費電力と実効性能、それに利用できるバッテリー容量の間でのせめぎ合いの中でメモリ容量が決定されることになります。

言い替えると、Googleが自社ブランドで発売するリファレンス的立ち位置のこれらの機種でメモリ4 GB搭載としたということは、今後のバージョンのAndroidではメモリ4 GB搭載を前提とするようになる可能性が高いということです。

もちろん、それ以下でも動作するでしょうが、アプリ開発で4 GB搭載の機種を前提としたチューンが基準となるということで、今後は実装メモリ容量が3 GB以下の機種はARM v7系対応の32ビットCPUを搭載したローエンドの機種に残るのみとなりそうです。

後編ではカメラや通信機能、それに新機能であるGoogle Assistantなどについて見ていきます。

▼参考リンク
Pixel, Phone by Google – Made by Google
Official Google Blog: Introducing Pixel, our new phone made by Google
Introducing Pixel, our new phone made by Google
Snapdragon 821 Quad-Core Processor | Kryo CPUs | Qualcomm

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