サムスン電子 Galaxy Note 72016年8月19日の韓国・北米各国をはじめとする10カ国での発売開始以来好調な売れ行きを示していたが、思わぬ形で足下を掬われる結果となり、遂に全数リコールとなった

これがスマホの“全部入り”!?~Galaxy Note7を考える~その1

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by [2016年9月01日]

サムスン Galaxy Note7

サムスン Galaxy Note7

中国メーカーの台頭その他でかつて程の勢いは無くなりましたが、Android搭載スマートフォン/タブレット市場において、韓国のサムスン電子がその有力メーカーの1つとして大きな勢力を占め続けていることには変わりはありません。

純粋にその製品を評価した場合、同社製のGalaxyシリーズがAndroid搭載スマートフォン/タブレットとしてハードウェアの完成度が高く、他社製の競合製品各種と比較して充分以上の競争力を備えている/有力な選択肢であることは明らかです。

ただ、近年は先にも触れたように中国のファーウェイをはじめとする、かつては下請けでOEM/ODMを行っていたメーカーの技術力やデザイン力が向上してきたことから、サムスンのアドバンテージは徐々に喪われつつあります。

そんなサムスンですが、このほど同社のGalaxyシリーズの最新作としてGalaxy Note7が、またこれに対応するVRアダプタであるGear VR for Galaxy Note7が、それぞれ発表されました。

今回はこれらについてご紹介したいと思います。

Galaxy Note7の主な仕様

記事執筆時点で公表されているGalaxy Note7の主な仕様は以下の通りです。

  • OS:Android 6.0.1(Marshmallow)
  • チップセット:Samsung Exynos 8890(Exynos M1 2.3GHz クアッド + Cortex-A53 1.6GHz クアッド)あるいは Qualcomm Snapdragon 820 (Kyro 2.15GHz デュアル + Cortex-A53 1.6GHz デュアル)
  • サイズ:153.5×73.9×7.9 mm
  • 重量:169g
  • メインスクリーン
    • 種類:Super AMOLED(有機EL)
    • 解像度:2,560×1,440ピクセル(WQHD解像度)
    • 画面サイズ:5.7インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:4GB LPDDR4
    • フラッシュメモリ:64GB
    • 拡張スロット:microSDXC (最大256GB)
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:12メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:5メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/b/g/n/ac(2.4/5.0GHz 2×2 MIMO)
  • Bluetooth:Ver.4.2 LE
  • SIMカードスロット:Micro SIM + Nano SIM
  • 電池容量:3,500mAh
  • 防水・防塵:IP68
  • ハイレゾオーディオ:対応
  • TVチューナー:なし
  • NFC:対応
  • 生体認証:虹彩認証
  • 外部入出力端子:USB Type-Cコネクタ

2種類存在する搭載プロセッサ

サムスン Exynos 8 Octa(Exnos 8890)サムスンが自社開発した現行最新のオクタコアプロセッサ。自社独自開発のCPUコアであるExynos M1を4基とARM Cortex-A53を4基搭載する

サムスン Exynos 8 Octa(Exnos 8890)
サムスンが自社開発した現行最新のオクタコアプロセッサ。自社独自開発のCPUコアであるExynos M1を4基とARM Cortex-A53を4基搭載する。またGPUコアはARM純正のハイエンドモデルであるMali-T880を内蔵し、前世代のExynos 7 Octa(Exynos 7420:Cortex-A57 2.1GHz クアッド + Cortex-A53 1.5GHz クアッド)比でパフォーマンスが約30パーセント向上、消費電力は10パーセント低減を謳う

このGalaxy Note7に搭載される統合プロセッサはこれまでの機種と同様、ARM v8-A系なのは共通ですがサムスン自社開発のExynos 8890とQualcommのSnapdragon 820の2種が選択できるようになっています(※注1)。

 ※注1:ExynosとSnapdragonが選択肢として提供されているのは、キャリアや国によって異なる様々な要求に対応するためとされています。もっとも、RFトランシーバをはじめとする通信回路設計ではQualcommに一日の長があり、日本市場向けでは多くの場合、NTTドコモを始めとするキャリア側が最新LTE規格への対応や認証で有利なSnapdragonシリーズを選択する傾向があります。

前者は昨年11月に発表されGalaxy S7・S7 Edgeに搭載されたモデルで、「Exynos 8 Octa」という愛称が物語るとおり4コア+4コアのbig.LITTLE技術による8コア構成、後者は2コア+2コアの4コア構成となっています。

Qualcomm Snapdragon 820 製品紹介ページ前世代のSnapdragon 810比で2倍のCPU性能、Snapdragon 810に内蔵のAdreno 430 GPU比で40パーセント増の性能を実現したAdreno 530 GPUの内蔵など、飛躍的な性能の向上を謳う

Qualcomm Snapdragon 820 製品紹介ページ
前世代のSnapdragon 810比で2倍のCPU性能、Snapdragon 810に内蔵のAdreno 430 GPU比で40パーセント増の性能を実現したAdreno 530 GPUの内蔵など、飛躍的な性能の向上を謳う

なお、Exynos 8890もSnapdragon 820も高速側のCPUコアがそれぞれの自主開発品、低速側がARMのCortex-A53となっており、高速側は前者はExynos M1、後者はKryoと命名されています。

製造はいずれもサムスンの14nm FinFETプロセスを利用して行われています。

これだけ見ると、クロック周波数の相違を勘案すると内蔵CPUコア数が倍となるExynos 8890の方が圧倒的に高速となるように見えるのですが、Galaxy S7シリーズでのベンチマーク結果などを確認すると実コア数が少ない割にSnapdragon 820が健闘しているようで、また内蔵モデムやRFトランシーバなどの実装では元々それが本職のQualcommに一日の長があることから、一長一短といった状況となっています。

サムスンの製品紹介ページでこの機種の搭載プロセッサについて機種名を明記せず「64 bit, 14 nm process」などと抽象的な書き方に終始しているのは、恐らく搭載プロセッサの相違による性能差がこの機種にとってさほど重要なことではないためと考えられます。

一方、これらのプロセッサに接続されるメモリは順当に最新のLPDDR4で4GBとなっていて、64ビットOS搭載が一般化したことと、昨今のARM系プロセッサの性能向上に追従するにはこれほどの高速メモリが必要であることを痛感させられます。もっとも、同世代の他社製Snapdragon 820搭載機種ではメモリ容量が6GBあるいは8GBとなっている機種が珍しくないことを考えると、むしろこれでも控えめな方であると言えます。

ちなみにExynos M1はARMの「big.LITTLE」技術と同様に負荷に応じて動的に内部CPUコアの動作を制御しているとされ、IntelのTurbo Boostと同じようにスレッド数が少ないタイミングで動作コア数を敢えて減らし、同じTDPの枠内で特定CPUコアの最大動作クロック周波数を引き上げる動作モードもサポートされています。

AMDのサイトで公開されている同社とHSAの関係を紹介するページ高性能なGPUにCPUと対等のリソースアクセス権を与えることでその演算性能を有効活用可能とするヘテロジニアスマルチプロセッシング技術を実現する

AMDのサイトで公開されている同社とHSAの関係を紹介するページ
高性能なGPUにCPUと対等のリソースアクセス権を与えることでその演算性能を有効活用可能とするヘテロジニアスコンピューティング技術を実現する

他にも、AMDが提唱したHSAと呼ばれるCPUコアとGPUコアで相互のメモリなどのリソースを共有できるようにするための規格・技術に対応するなど「ヘテロジニアスコンピューティング(異種混合コンピューティング)」を睨んだ機能拡張が行われるなど、このExynos M1コアには色々野心的な技術が採用されています。

このあたりは大なり小なりSnapdragon 820でも対応が進みつつある技術で、いずれにせよARM v8系の64ビットプロセッサでは有力な2社がその技術開発において同様の方向に向かっているというのは、今後のスマートフォンやタブレットの方向性を占う上で色々考えさせられます。

サムスン セミコンダクタの14nm FinFETプロセス紹介ページ

サムスン セミコンダクタの14nm FinFETプロセス紹介ページ
Exynos 8890もSnapdragon 820もその高性能・低消費電力をこの技術に依拠している

なお、これらプロセッサ2機種は現状のサムスンで最新のFinFET 14nmプロセスの利用を前提にして設計・製造されているため、同じチップサイズでも単純計算でこれまでの4倍、実設計を考えると最低でも2倍以上のトランジスタが集積可能となります。そのため、これまで長らく利用されてきた28nmプロセスと比較すると大幅な性能向上や連続通話時間の延長が実現できます。

特にこのGalaxy Note7ではバッテリー容量がこのクラスの機種でも大きい部類に入る3,500mAh(※注2)となっているため、搭載プロセッサの機種により多少の性能差はあれどかなりの動作時間が期待できるでしょう。

 ※注2:Galaxy S7 Edgeでは3,600mAhのバッテリーが内蔵されていますが、こちらはディスプレイがエッジスクリーンでより画素数が多くなっているため、そのあたりを差し引きするとこのGalaxy Note7は実効動作時間で同世代のGalaxyシリーズ最強スペックとみることができます。

ただ、このあたりで不安要素があるとすればそれは最新の製造プロセス故にチップ製造の歩留まりが、つまり良品率が低く潤沢な製品供給が行えない懸念があることです。

ここ30年来ぶっちぎりで半導体業界の最先端を疾走し続けるIntelの最新プロセスを別にすれば、サムスンのFinFET 14nmプロセスは技術開発基盤を共有するグローバル・ファウンダリのFinFET 14nmプロセスや台湾TSMCのFinFET 16nm/16nm+プロセスと並んで現状で最も集積度が高く低消費電力での動作を期待できる半導体製造プロセスルールにかかわる技術なのですが、半導体上での線の幅がここまで狭くなるとチップ製造の技術的なハードルは際限なく高まってしまっていて、また同じプロセスを利用したいライバル顧客も非常に多くなっています。

AMD RADEON RX480サムスンと同じ技術基盤によるグローバル・ファウンダリの14nm FinFET技術で製造されるGPUチップを搭載するグラフィックスカード。スマートフォン/タブレット用統合プロセッサとこうしたGPUチップは最先端半導体製造プロセスによる生産ラインを奪い合う関係にある

AMD RADEON RX480
サムスンと同じ技術基盤によるグローバル・ファウンダリの14nm FinFET技術で製造されるGPUチップを搭載するグラフィックスカード。スマートフォン/タブレット用統合プロセッサとこうしたGPUチップは最先端半導体製造プロセスによる生産ラインを奪い合う関係にある

スマートフォン/タブレット用統合プロセッサに加え、諸事情で長らく28nmプロセスでの足踏みを強いられていたグラフィックスカード用GPUもFinFET 14/16nmプロセスを利用するため、AMDは自社と縁の深いグローバル・ファウンダリのFinFET 14nmプロセスを利用して現行最新機種であるRADEON RX480などを生産していますし、そのライバルであるnVIDIAは台湾のTSMCが開発したFinFET 16nmプロセスでGeForce GTX 1060~1080を生産しています。さらに、アップルがA9プロセッサを多数安定供給する必要があったことからTSMCのFinFET 16nmプロセスとサムスンのFinFET 14nmプロセスで、つまり性能がほぼ同じの2種類のチップを設計して双方にて委託生産しているため、これら3社のFinFET 14/16nmプロセスは需要が大きすぎて供給が逼迫する状況となっています(※注)。

 ※注3:ただし、先日発表されたようにIntelは今後LG電子をはじめとする各社が設計したARM系CPUコア搭載チップを自社の最先端製造プロセスで受託生産するとしており、TSMCとサムスン&グローバル・ファウンダリという半導体委託生産メーカーの有力2グループが生産を独占する状況は変化してゆくものと考えられています。

Apple iPhone SE現行iPhone各機種はApple自社設計のA9プロセッサを搭載するが、サムスンの14nm FinFETプロセスと台湾TSMCの16nm FinFETプロセスで別設計にて生産された同等プロセッサが特に区別されることなく混用されている

Apple iPhone SE
現行iPhone各機種はApple自社設計のA9プロセッサを搭載するが、サムスンの14nm FinFETプロセスと台湾TSMCの16nm FinFETプロセスで別設計にて生産された同等プロセッサが特に区別されることなく混用されている

実際、これらの中では必要とするチップの数が恐らく最も多いアップルは先にも触れたとおりサムスンあるいはTSMC 1社単独でのチップ供給が困難と判断し、開発コスト増を承知で両社の製造プロセスに最適化した同等チップを個別に設計、それらを両社に作らせることでどちらか一方で問題が生じても安定的にチップ供給が行える様にしています。

こうすることでそれぞれの製造プロセスに適した形に再設計するため開発コストは余計にかかるものの、安定供給確保の観点では確実性の高まる、資金力のある大手でなければとても真似のできない力業のリスクヘッジ策となっています(※注4)。

 ※注4:もっとも、Appleほどの大口顧客によるこうした2社2方式での生産委託は、一方で何らかのトラブルが起きた際にもう一方の委託先の負担が急増し、他の委託元各社の製品供給スケジュールに悪影響を与えかねないものです。

もちろん、半導体メーカー各社は何としてでも歩留まりを改善して供給量を増やすべく努力を行っているものと考えられますが、今や光の波長の限界に近づきつつある光学リソグラフィによる回路パターンのシリコンウェハーへの焼き付けをはじめ非常に高度かつデリケートな製造工程を含んでいるため、今後当分の間はおいそれと供給が増えないと考えられます。

64GBのみとなった内蔵ストレージ

これまでのGalaxy Noteシリーズでは異なった内蔵ストレージ容量のモデルが提供されていたのですが、遂にと言うべきか64GBのモデル1機種のみとなりました(※注5)。

 ※注5:これについては後から顧客である各キャリアから要望があればいくらでも変更できるのでしょうが、世界中で販売されるワールドワイドモデルで64GBモデル1機種のみとなったのは、色々象徴的です。

このクラスのファブレット機、それも充実したカメラ機能を搭載した機種の場合、内蔵ストレージは例えば4K2K動画撮影を行うと、以下に高圧縮のH.264あるいはH.265をCodecとして記録しても、あっという間にストレージ容量を使いきってしまう恐れがありますから、そうした問題の対策として考えれば内蔵ストレージが64GB標準搭載となったのはある意味必然であったと言えます。

Galaxy Note7のmicro SD/SIMトレー

Galaxy Note7のmicro SD/SIM複合トレー

また、これに加えて外部ストレージとしてマイクロSDXCタイプのメモリカードが再びサポートされ、最大256GBのカードまで認識可能となっているため、このGalaxy Note7ではトータルで320GBものデータが一度に扱えることになります。

もちろん、内蔵ストレージはその一部がOSやアプリの保存などに割り当てられているため、ユーザーデータだけで全容量が扱えるわけではなく、出荷時点だと恐らく60GB程度が利用可能ではないかと推測されますが、いずれにせよこれだけデータが扱えるのならば余程の事がない限りはストレージが足りないということにはならないでしょう(※注6)。

 ※注6:ちなみに筆者は内蔵ストレージ容量が128GBのiPhone 6 plusを常用していますが、動画や音声データを多数保存した結果、「もう少しストレージ容量が欲しいなぁ」という状況となっています。筆者の現状を考えると、余程無茶をしなければ最大300GB程度のデータを扱えるこの機種で「ストレージ容量が足りない」という状況になることはまずないと思います。もっとも、記事執筆時点では256GBのマイクロSDXCカードは1枚あたり1万円~5万円もする高価なメディアで、それが購入時に予算上の理由からより容量の小さいモデルで妥協せざるを得なくなる可能性はあるのですが。

以下、その2へ続きます。

▼参考リンク
Samsung Galaxy Note 7 New Release, The Intelligent Smartphone
Galaxy Note7 | スマートフォン | Galaxy
Samsung Galaxy Note7 | Samsung US

Samsung Unveils the Latest Application Processor, Exynos 8 Octa, Built on 14-Nanometer FinFET Process Technology | News | Samsung Semiconductor Global
Snapdragon 820 Processor with X12 LTE | Quad-Core CPUs | Qualcomm

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