Star Digital Technology F1

Star Digitalって何者? ~低価格SIMロックフリー端末の新潮流~

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

by [2015年7月30日]

Star Digital Technology F1

Star Digital Technology F1

中華人民共和国広東省深圳市は、香港に隣接する立地もあって、中国がその経済政策を改革開放路線へと転換した1980年代以降、経済特区に指定されて劇的な発展を遂げた都市の1つです。

この街は宋の時代には南方海洋交易の拠点として栄え、清朝末期に南の香港島がイギリスにより植民地化されて以降は香港との国境の街として発展する、という歴史をたどってきたのですが、1980年代以降はその立地に加えて破格の人件費の安さから、北に位置する東莞市と共に香港や台湾の企業の工場進出先として急速に発展し、また九広鉄道と呼ばれた香港の九龍と広東省の省都広州を結ぶ鉄道が電化されたことで香港のベッドタウンとしての性質も備えるようになるなど、広東省でも広州に次ぐ大都市となっています。

その深圳市には経済特区指定の頃から、香港や台湾などに本拠を置く企業からの発注を受けて、相手先の要求した仕様・設計に基づいて製品を生産・供給するOEM(Original Equipment Manufacturer)メーカー群がまず設立され、それらはさらに相手先の要求に応じて自社で製品を開発・設計して生産・供給するODM(Original Design Manufacturing)メーカーに発展しました。

当初は貧しい農村に建てた工場で相手先企業の指示通り唯々諾々と製品を作って納入していたのが、自分たちで相手先の要求に見合った製品の提案を行い、それを開発し供給するようになったのですから、この30年ほどの間のこのエリアでの工業化とその発展がいかに凄まじいものであったかが知れますが、ともあれ、こうしてOEMとODMで経験を積んできたこれら深圳・東莞のメーカー群は、今やジャンルを問わず自らのブランドで製品を企画開発し製造販売する、総合メーカーへと発展を遂げようとしています。

前置きが長くなりましたが、そんな深圳に本拠を置くODMメーカーの1つであるStar Digital Technology社(2011年設立)が、このほど自社オリジナルブランドである「ONE-FIVE」(ワン・ファイブ)の製品として、SIMロックフリースマートフォン「F1」「F1L」「C1」の3機種を日本で発売することを発表しました。

大手ODMメーカーとして著名なFOXCONなどとは異なり、後発でしかもこれまで南米やロシアなどの企業へ製品を供給するのを主力事業としてきた(※注1)ため、日本での知名度はほぼ皆無のスターデジタルですが、わざわざ自社ブランドで、それも3機種同時発表で日本市場へ乗り込んできたからには、それ相応の勝算があってのことでしょう。

 ※注1:会社設立以来、これまでに150万台の端末を出荷したと発表しています。

そこで今回は、この日本市場初お目見えとなる「ONEーFIVE」ブランドの端末3機種について、公表されている仕様などを手がかりに考えてみたいと思います。

主な仕様

まずは基幹機種と考えられる「F1」とその大画面版である「F1L」の主な仕様から。

  • OS:Android 5.1
  • チップセット:MediaTek MT6753(1.5 GHz オクタコア)
  • サイズ:70 × 143 × 6.8 mm(F1)・77 × 153 × 6.9 mm(F1L)
  • 重量:130 g(F1)・135 g(F1L)
  • メインスクリーン
    • 種類:液晶
    • 解像度:1,080×1,920ピクセル(フルHD解像度)
    • 画面サイズ:5.0インチ(F1)・5.5インチ(F1L)
    • ※対角線長
  • 内蔵メモリ
    • RAM:2 GB
    • フラッシュメモリ:16 GB
    • 拡張スロット:なし
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:13.0メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:5.0メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 b/g/n(2.4GHz)
  • Bluetooth:Ver.4.1
  • 外部入出力:microUSB・MHL・ヘッドセット接続端子
  • 電池容量:2,100 mAh(F1)・2,600 mAh(F1L)

ご覧の通り、これら2機種はディスプレイと筐体のサイズ、それに内蔵バッテリー容量以外は全て共通で、型番が示すとおりサイズ違いによる姉妹機種です。

この種のサイズ違いのバリエーション展開の場合、往々にして画面解像度やプロセッサ性能などに差が付けられることが多いのですが、ここでは筐体容積に影響されるバッテリー容量以外の性能に関わる仕様は全て同一を公称しています。

次はエントリーモデルに位置づけられる「C1」。

  • OS:Android 5.1
  • チップセット:MediaTek MT6735(1.0 GHz クアッドコア)
  • サイズ:143.5 × 143.5 × 7.2 mm
  • 重量:170 g
  • メインスクリーン
    • 種類:液晶
    • 解像度:720×1,280ピクセル(HD解像度)
    • 画面サイズ:5.0インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:1 GB
    • フラッシュメモリ:8 GB
    • 拡張スロット:なし
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:8.0メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:2.0メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 b/g/n(2.4GHz)
  • Bluetooth:Ver.4.1
  • 外部入出力:microUSB・MHL・ヘッドセット接続端子
  • 電池容量:2,000 mAh

いかにも低価格帯のエントリーモデルらしいスペックです。

ハイエンドというにはやや足りない「F1」「F1L」の統合プロセッサ

メーカー自身は「高性能スマートフォン」という用語を用いているのですが、昨今の国内スマートフォン市場を見渡す限り、ハイエンドに位置づけられる「F1」「F1L」でも「高性能」を謳うには若干厳しい印象があります。

具体的に言うと、両機種に搭載されている統合プロセッサのMediaTek MT6753は、CPUコアがARMのCortexーA53 でこれが8コア搭載され、GPUに同じくARMのMali-T720を搭載する、といういかにもARMのリファレンスデザインに従って設計されました、と言わんばかりの構成になっています。

このプロセッサ、CPUコアがCortexーA53 ×8ですからARM v8アーキテクチャ準拠であり、64ビットOSに対応しています。

もっともCortexーA53、つまりARMの省電力技術であるbig.LITTLEではLITTLE側として使用される前提で開発されたコンパクトな省電力CPUコア「だけ」でオクタコア構成としていることと、動作クロック周波数が1.5GHz上限となっていることから、QualcommのSnapdragonシリーズで言えばミドルレンジのSnapdragon 615と同レベルのCPUコア構成であり、また動作クロック周波数はそのSnapdragon 615が最大1.7GHz駆動のコア4基と最大1.0GHz駆動のコア4基を組み合わせて性能と消費電力のバランスをとっているのと比較すれば、少なくともMediaTekが自社サイトで公開しているMT6753の仕様を信ずる限り、若干見劣りする印象があります。

一方、このプロセッサに内蔵されているGPUのMali-T720は開発元であるARM自身がMidgard(ミッドガルド)シリーズと呼ばれる同社のMali-T7xxシリーズの中で「Mid-Range GPU」と位置づけられる製品である、と明言している製品で、カテゴリ的にも「Mali Cost Efficient Graphics」と呼ばれる下位モデルに位置づけられています。

8基のプログラマブルシェーダーコアを内蔵し、Androidでの動作に最適化して設計されたと称するこのGPUは、既存のMali-400MP比でGPU性能が5割増し、電力効率では150パーセント向上と劇的な性能向上を果たしたとされています。

もっとも、このMali-T720が発表されたのは2013年10月末のことで、同時に発表された上位モデルのMali-T760では最大16基のプログラマブルシェーダーコアを内蔵可能になっていましたから、その段階でも決して高性能とは言えない程度の性能で、現在ではその後継としてMali-T820/830シリーズが提供されているため、総じてより高性能なGPUが各社から発表された現在ではハイエンドとは言えないレベルのGPUです。

つまり、このMT6753は根本的にミドルレンジ製品向けの統合プロセッサであって、QualcommのSnapdragonシリーズやサムスンのExynosシリーズの現行上位モデルと比較すると明らかに見劣りするレベルのものでしかないのです。

また、このプロセッサは、カメラで最大16メガピクセルクラスのものまで、動画は1080PのフルHD解像度まででといった状況で、またWi-FiやLTEの通信を司るコミュニケーションプロセッサもLTEには対応するもののUEカテゴリ4(下り最大150Mbps)での動作が精一杯、Wi-Fiは2.4GHz系のIEEE 802.11nまで、つまり最大150Mbpsでの通信にしか対応していません。

これらの仕様から、このMT6753に内蔵されたシグナルプロセッサやコミュニケーションプロセッサの設計はかなり古く、それはそれなりに開発時点での最新型を採用したCPU・GPUと組み合わせて利用するにはかなり苦しいことが見て取れます。

スマートフォンやタブレットなどを購入する際には、どうしても搭載されたプロセッサのCPUやGPUの性能に目が行ってしまいがちなのですが、例えば1080P 60fpsの動画を再生したい、といったケースではCPUやGPUだけでなく、通信機能の性能も重要な要素となってきます。

自動車で言えば、エンジンがいくら高性能でもシャーシが脆弱だとまともに走れないのと一緒で、こうした統合プロセッサでも足回りに当たる周辺回路の性能がものを言う局面は意外なほど多いのです。

エントリーモデルとしては妥当な「C1」の統合プロセッサ

「C1」に搭載の統合プロセッサであるMT6735は、MT6753の下位に位置づけられるモデルです。

もっとも、内蔵GPUはMT6753と同じARMのMali-T720で、しかもCPUコアもコア数こそ半減の4基搭載ですが、やはり同じARMのCortexーA53を搭載しており、基本的な設計が共通していることを示しています。

同じARMから提供されたリファレンスデザインのGPU・CPUなどのIP(Intellectual Property:設計資産)コアと呼ばれる回路設計情報の組み合わせを変えて目的に応じたプロセッサを設計するのですから、これは当然と言えば当然の話です。

ただし、動画の最大解像度が1080Pでも最大フレームレートが30fpsに制限され、カメラも最大画素数13メガピクセルに制限されていることから、同じ基本設計を使用しているとは言っても、MT6735では内部のデータバスやメモリインターフェイスなどの帯域性能がMT6753よりも一段格下になっていることが見て取れます。

実際問題として、搭載されているCPUコアの最大動作クロック周波数が1.0GHzと低く抑えられているため、データを受け取って処理をするCPUコアの処理能力が足りないことからいくらデータのやりとりを行う部分の帯域性能を引き上げても意味が無いばかりか電力が無駄になるだけで、その意味では合理的な仕様決定が行われていると言えます。

そもそも、現在のエントリーモデルクラスの機種では13メガピクセルを超える画素数のカメラを搭載するというのは、そうしたカメラの供給元が極端に限られている状況からも、ナンセンスな話で、一般的な数値として8メガピクセルカメラ搭載を標準と考えて、余裕を持たせて13メガピクセル上限としたこの機種の仕様は妥当であると言って良いでしょう。

CDMA2000方式に対応する?

さて、性能的には芳しくない印象のMT6753・6735ですが、実はこの系列のプロセッサにはQualcommのSnapdragonシリーズ以外では割と珍しい特徴が1つあります。

それは、3G通話・通信機能としてauが採用しているCDMA2000方式がサポートされていることです。

よく知られているようにこの方式はQualcommの開発で、同社の特許で固められているために他社がこれに対応するモデムを搭載したプロセッサを開発するのは色々難しかったのですが、何をどうやったのかさらりとサポートが明示されているのです。

もっとも、今回発表された3機種の仕様では通信系について、デュアルSIMスロットを搭載することの他は2GでのGSMサポートとWCDMAでのバンド1/5/8のサポート、それにFDD-LTEでのバンド1/3/7/8のサポートが示されている程度で、3GでのCDMA2000方式への対応可否は明らかにされていません。

昨今の日本市場におけるMVNO事業者の増大による格安通話プランの普及状況を考えると、CDMA2000方式に対応するより、ドコモ回線を利用するMVNO事業者でLTEプランを契約した場合に高速で利用できる可能性の高いLTEバンド3をサポートしてくれていることの方がずっと重要だしありがたいという話もあるのですが、技術的には色々興味深い部分です。

やはり決め手は価格か

以上、日本市場への新規参入を発表した中国Star Digital Technology社の新端末「F1」・「F1L」・「C1」について現時点で公表されている仕様などを中心にみてきました。

おおむね最近のMVNO事業者向けLTE対応端末の流行に乗った仕様・設計であるといえ、プロセッサやカメラの性能なども特に問題ない水準にあるとみて良いでしょう。

初期状態での搭載OSがいきなりAndroid 5.1というのはなかなか勇気のある決断ではあるのですが、これは全機種で64ビットプロセッサを搭載していることからすると、ある意味必然的な選択であったと言えます。

現状では、日本語IMEとして何が標準搭載されるのか明らかにされていませんが、Google Playストアに対応するとのことなので、これも何が搭載されたとしてもそれほど致命的なことにはならないでしょう。

さて、ここまで特に触れてきませんでしたが、価格はF1が34,800円、F1Lが39,800円、C1が 19,800円、とそのハードウェアスペックを考慮するとかなり格安の設定となっています。

どこのMVNO事業者がこれら3機種を取り扱うことになるのか、現時点では明らかにされていませんが、この価格でこの性能ならば、今後SIMロックフリー端末市場における台風の目となることは間違いないでしょう。

▼参考リンク
Onefive
onefive-F1
onefive-F1L
onefive-C1

MT6753 – MediaTek
MT6735 – MediaTek

Mali-T720 – ARM

PageTopへ