京セラ S301

MILスペック準拠の耐衝撃を備えた格安スマホ ~京セラ S301~

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by [2015年3月27日]

京セラ S301

京セラ S301

スマートフォンや携帯電話を使用してゆく上で(通話料金が高いとかそういうのを別にすると)一番怖いのは、手が滑って本体を落としてしまうことではないでしょうか。

特に画面サイズの大きなスマートフォンの場合、耐衝撃性能の高さを謳う高強度の強化ガラスをディスプレイ面に使用したものでも、ちょっと高いところから落とすと当たり所が悪ければ割と簡単にディスプレイのガラスが割れてしまったりします。

幸い、筆者は二つ折りタイプの携帯電話でもスマートフォンでも、ディスプレイ面のガラスにひびを入れたり割ってしまったことはありません。

しかし、周囲を見回すと思ったよりも多くの端末がガラスが割れたりひびが入ったままの状態で使われていて、携帯電話もスマートフォンもユーザーの日常生活の中でかなりハードな使われ方をしていると考えて良さそうです。

薄くて大きなガラスを貼り付けたスマートフォンを高いところから落としたらガラスが割れるのは自明のことなのですが、そうなってくるとラフな扱いをしてもガラスが割れない/筐体が破損しないということは、携帯電話やスマートフォンの製品開発において、一つの重要なアッピールポイントとなります。

実際、各社のスマートフォンの仕様を見ていると、コーニング社の「Gorilla Glass」シリーズに代表される高強度と高い透明度を両立させた特殊強化ガラスを使用していることをアッピールする機種が少なくありません。

もっとも、ではそれがどのような評価方法によってその強度を測定しているのか、となると従来機種との比較など、相対的かつ曖昧な形でしか説明されない機種もまた、少なくありません。

この種の耐衝撃性の評価については、アメリカ軍が物資調達規格の一環として「MIL-STD-810」という詳細な仕様・評価方法を定めていて、その現行最新版が「MIL-STD-810G」(2008年10月31日改訂)です。

もっとも、それとて万能というわけではなく、またその仕様を全部満たすことは現実的ではない(※注1)という事情もあって、この「MIL-STD-810」は割と恣意的に(つまみ食い的に)一部の仕様が腕時計メーカーやパソコンメーカーなどによる製品の耐衝撃性アッピールに利用されてきたという歴史があったりします。

 ※注1:何しろ元々軍用規格ですので、耐衝撃性能以外にもアメリカ軍の全作戦行動域での動作が求められて気温-51℃~49℃での動作が必須で、燃料が気化した環境など日常生活ではまずお目にかかる機会のなさそうな環境での動作も求められます。ただし、意外なことには防水性能に対する要求はそれほど高くなく、むしろ日本の防水防塵規格の方が厳しい部分もあったりします。

ただ、それでも「MIL-STD-810」準拠を謳う製品の多くが、何の対策も講じられていない機種よりはずっとましな耐衝撃性能を実現しているのは確かで、またこれに代わりうる客観的かつ合理的な評価基準/手法が存在しないため、「MIL-STD-810」は今も耐衝撃性能の一つの基準として多くの分野で利用されています。

そしてこのたび、京セラからイオンリテール向けとして「MIL-STD-810G Method 516.6:Shock-ProcedureⅣ」準拠を謳うスマートフォン「S301」が発表されました。

今回はこの「S301」について考えてみたいと思います。

S301の主な仕様

京セラ S301 カラーバリエーションガンメタとホワイトの2色が用意される。

京セラ S301 カラーバリエーション
ガンメタとホワイトの2色が用意される。

記事執筆時点で公表されている「S301」の主な仕様は以下のとおりです。

  • OS:Android 4.4 KitKat
  • チップセット:Qualcomm MSM8916 Snapdragon 410(1.2GHzクアッドコア)
  • サイズ:約73×144×10.8mm
  • 重量:約146g
  • メインスクリーン
    • 種類:TFT液晶
    • 解像度:540×960ピクセル(qHD解像度)
    • 画面サイズ:約5.0インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:1GB
    • フラッシュメモリ:8GB
    • 拡張スロット:microSDHC card(最大容量:32GB)
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:5メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:2メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 b/g/n
  • Bluetooth:Ver.4.0
  • 電池容量:2,300mAh(交換不可)
  • ワンセグ・フルセグ:非対応
  • テザリング:対応(Wi-Fi・USB)
  • 防水:IPX5/IPX7
  • 防塵:IP5X
  • 耐衝撃:MIL-STD-810G Method 516.6:Shock-ProcedureIV準拠

CPUは64ビット対応だがOSは32ビットのまま

この「S301」で注目されるのは、耐衝撃性よりもむしろ、最新世代の64ビットCPUコアを内蔵するQualcommのSnapdragon 410を統合プロセッサとして搭載しているにもかかわらず、OSが現行最新よりも一世代古いAndroid 4.4とされていることです。

これはつまり、少なくとも現状では(64ビット版を含め)Android 5.0を搭載するのは時期尚早であると京セラが判断しているということと、それでも最新世代の統合プロセッサであるSnapdragon 410の搭載には一定のメリットがあることを示しています。

ちなみに京セラはソフトバンク(DIGNO U 404KC)およびワイモバイル(DIGNO C 404KC)としてLTEなど通信系を除くとこの「S301」とほぼ同一スペック・同一ハードウェア構成かつ同一寸法で酷似した筐体デザインの端末を発表しています。

同社が北米やヨーロッパでも一定のシェアを持つことから考えると、世界規模での同一部品の一括大量仕入れによる端末生産コスト低減策を講じている可能性が高く、このSnapdragon 410の一括採用もその一環でしょう。

auの端末でもそうですが、京セラ製の端末は一つのプロセッサを採用するとそれを長期にわたって採用し続ける傾向が強く、そうすると最初に採用する時点での最新モデルを採用しておかないと、製品ライフサイクルの後半に他社製品と比較して著しく性能で見劣りすることになりかねません。

恐らく、低価格機種でのSnapdragon 410の早期採用はそうした問題に対する対策という側面があると考えられ、現行機種では使わなくとも、中期以降の機種では64ビット版Androidへの移行の可能性がある以上、ここで一世代古いSnapdragon 400を採用するという判断はなかったのでしょう。

Cortex-A53というCPUコア

QualcommのSnapdragon 410製品紹介ページご覧の通り4G LTE通信・カメラ機能・グラフィック機能、それにバッテリー性能を訴求しており、Qualcomm初の64ビットCPU搭載シリーズの一つであるにもかかわらずCPU性能がさほど重要視されていないことが判る。

QualcommのSnapdragon 410製品紹介ページ
ご覧の通り4G LTE通信・カメラ機能・グラフィック機能、それにバッテリー性能を訴求しており、Qualcomm初の64ビットCPU搭載シリーズの一つであるにもかかわらずCPU性能がさほど重要視されていないことが判る。

Snapdragon 410に搭載されているCortex-A53というCPUコアは、ARM純正のARM v8系CPUコアとしてはローエンド扱いですが、3,4年ほど前にARM系CPUコア搭載スマートフォンで広く使われていたCortex-A9と比べると、同じ半導体製造プロセス技術を使用した場合にチップのダイサイズ(面積)が40%強で済み、実際にはCortex-A9は一般に32nmプロセスで生産されていてCortex-A53は20nmプロセスでの生産が一般的であることを勘案すると、1コアあたりCortex-A53はCortex-A9比で約25%のダイサイズで済む計算となります。

つまり、32nm版Cortex-A9 1コアと20nm版Cortex-A53 4コアがチップ面積的にはほぼ等価ということになるのですが、性能的にはアーキテクチャ的な相違もあって1コアあたりで見るとCortex-A9≧Cortex-A53といったところで、仮にCortex-A53の2コア構成で同じCPU動作クロックで動作させたとしても、同じ動作クロック周波数のCortex-A9 2コアよりも性能が若干劣ることになります。

もっとも、より微細な半導体製造プロセスで製造されるということは、同じクロック周波数でCPUコアを動作させた場合にはより低消費電力で、同じ電力で動作させる場合にはより高クロック周波数での動作が期待できるということです。

上にも記したとおり、この「S301」に搭載されているSnapdragon 410はCPUコアのクロック周波数が1.2GHzと公表されています。

このため、2011年頃のスマートフォンに多用されていたTexas Instruments社のOMAP4430(Cortex-A9 デュアルコア 1GHz/1.2GHz駆動)あたりのプロセッサと比較すると、各コアの処理能力は多少劣っていてもコア数が倍でしかも消費電力では大幅に有利であるため、また内蔵されているメモリコントローラの相違から消費電力・メモリアクセス速度にもかなり大きな差がついているため、おおむねCortex-A9をCPUコアとする統合プロセッサを搭載した2011年当時のハイエンド端末と比較して優れたCPU性能が期待できます。

なお、「VAIO Phone VA-10J」の記事でも記しましたが、この「S301」でもアップグレードが実施されればOSが64ビット化される可能性が皆無ではありません。

画面サイズがqHDであるとはいえ、メインメモリが1GBしかないAndroid搭載端末でOSを64ビット化するメリットはiOSの場合と比較してそれほど多くない(※注2)のですが、これはそもそも32ビットCPU搭載機では最初から可能性のない話なので、ローエンドでも64ビットCPUコアを搭載するSnapdragon 410搭載機ならではのアドバンテージということになりそうです。

 ※注2:iOS向けアプリの場合、現在の標準的な開発環境(Xcode 5以降)では実行形式バイナリコードがApple LLVMコンパイラでコンパイルされたARM v7/v8命令セットのネイティブコードとなっているため、CPUが64ビット化した影響が割と直接的にアプリの挙動に反映されます。一方、Androidの場合はアプリはNDKを用いて開発した場合などを除き基本的にJava仮想マシン(JVM)上で動作する中間言語コードの形で供給されるため、64ビット化はJVMそのものには大きな影響があるもののアプリ側ではあまり表面的な影響が出ないような仕組みになっています。

低く抑えられている画面解像度

この「S301」では5.0インチサイズと比較的大きめのディスプレイパネルを搭載していますが、画素の解像度そのものはqHD、つまりquarter HDでフルHDサイズの1/4にあたる540×960ピクセルと比較的低めに抑えられています。

同じプロセッサ(=同じGPU)を搭載するVAIO Phoneが1ランク上のHD解像度ですから、GPU性能が問題となって解像度を低くしたとは考えにくく、これは耐衝撃性などを確保するための方策であるようです。

液晶の構造上、単位面積あたりの画素数が増えれば増えるほど、画面に圧力がかかった場合の画素の耐久性が低下する(※注4)という問題があります。

 ※注4:一般に画面へ圧力をかけた場合の変色(画素を構成するセルから外部への液晶の漏洩)など、目に見える形で影響が現れます。

液晶ディスプレイの場合、液晶ディスプレイパネル本体のうえに高強度の強化ガラスを貼り付けたとしても、その強化ガラスが画面にかかる圧力を全て筐体などに負担させてパネル本体に圧力面での影響が及ばないようにすることは、ほぼ不可能な話です。

実際、Gorillaガラスなどを使っている機種でも強くディスプレイ面を押せばごくわずかですがガラスが変形して液晶パネルを押し込んでいます。

そのため、一定の耐衝撃性を確保しようとすると、画面の単位面積あたりの画素数を減らす=低解像度で妥協するほかないのです。

もっとも、5インチでqHD解像度ということは画素密度が約220ppiとなります。

一般的な携帯電話(ガラケー)だと画素密度は概ね150ppi以下ですから、それらと比較すれば高密度で、それでいて現在市販されている通常のスマートフォンよりも画素密度が低いため、視認性の点では有利になります。

なお、過去の機種を見るとサムスンのGalaxy S IIが217ppiで、これと同程度となります。このあたりの機種を使用していた方なら、(画面サイズは大きくなるものの)違和感なく利用できるでしょう。

耐衝撃性はさほど重要ではない

アメリカ国防総省 MIL-STD-810G 表紙「MILスペック」という言葉は耳にしたことはあっても、これそのものを読んだことのある方は案外少ないのでは無かろうか。

アメリカ国防総省 MIL-STD-810G 表紙
「MILスペック」という言葉は耳にしたことはあっても、これそのものを読んだことのある方は案外少ないのではなかろうか。

この「S301」は公式サイトでもニュース記事でも、概ね耐衝撃性に重点を置いた紹介がなされています。

これは京セラ自身がワールドワイドで耐衝撃性の高いことを売りにした端末を販売していることからすれば、ブランディングの観点で当然のことです。

しかし、二つ折り構造のガラケーはともかく一枚板構造のスマートフォンの場合、MIL-STD-810G準拠を謳って耐衝撃性をアッピールするとしても、画面保護に透明な強化ガラスを使用する限り、どうしても限界があります。

実際、メーカーサイトで記されている仕様の注意書きをよく読むと、耐衝撃性について「米国防総省が制定したMIL-STD-810G Method 516.6:Shock-ProcedureIV に準拠した規格において、高さ1.22mからの合板(ラワン材)に製品を26方向で落下させる試験を実施しています。全ての衝撃に対して保証するものではございません。」としてあり、結構緩い条件で試験を行っていることが判ります。

正直、「え、それだけなの?」という感じなのですが、スマートフォンはこれでも壊れるときは壊れる訳でありまして、その意味ではそれなりに価値のある機能であると言えます。

イオンモバイルは2015年春モデルとしてこの「S301」に加え「VAIO Phone VA-10J」やソニーの「Xperia J1 Compact」をラインナップしているのですが、同じプロセッサを搭載しカメラやディスプレイの画素数が多い「VAIO Phone VA-10J」が約5万円の価格設定であるのに対し、この「S301」は約3万円とかなり割安な設定となっています。

まぁ、これについては「VAIO Phone」の価格設定が強気に過ぎるという見方もできるのですが、それは裏返せばこの「S301」に備わっている耐衝撃性能も防水・防塵性能も目立った価格上乗せを主張できるほどの付加価値ではなく、また自社のブランド力もそれほど強くは無い、と京セラが判断していることを示しています。

つまり、防水防塵耐衝撃仕様であってもqHD解像度ディスプレイ、メモリ1GB・フラッシュメモリ8GB内蔵のSnapdragon 410搭載端末ならば3万円が適正価格だ、と京セラは考えているということになります。

無論、兄弟機というべき「DIGNO U」・「DIGNO C」との部品共通化徹底などにより社内レベルで量産効果を得られるという事情もあるでしょうから、他社で同じように約3万円でこのクラスの端末を販売できるのかどうかは定かではありません。

しかし、auやソフトバンクモバイルに端末を供給する京セラが格安SIM用端末市場に参入し、しかもこのように低い値付けで端末を販売することの意味は決して軽くはありません。

イオンスマホに先行参入した富士通が一世代古いSnapdragon 400搭載のARROWS M01に約4万円というプライスタグをつけ、今回またVAIO PhoneもXperia J1 compactもそれぞれ約5万円、5.5万円というそれなりに高めの価格設定をしているのですから、そんな中で「安さ」を重視し、相応に実用性も重視するユーザーが(安い上にLINEも標準搭載する)この「S301」に集中するのは目に見えている気がします。

そのあたりは京セラの作戦勝ちになりそうですが、このクラスの機種でこの値段がついたことは、今後のメーカー各社によるスマートフォン販売戦略に結構大きな影響を及ぼすことになるのでは無いでしょうか。

▼参考リンク
S301 | 京セラ
耐衝撃※1に対応した京セラ製「S301」 登場 | ニュースリリース | 京セラ
イオンモバイルは、新たな市場創造へ(PDF)
Snapdragon 410 Processor Specs and Details | Qualcomm
Mil-Std-810G – U.S. Army Test and Evaluation Command(PDF)

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