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VAIO≠SONY ~VAIO Phone VA-10J~

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by [2015年3月23日]

b-mobile VAIO Phone VA-10J

b-mobile VAIO Phone VA-10J

ここしばらく、ソニーが経営難から自社の事業を次々に切り売りし、撤退し、あるいは分社してきたことについては、様々な形で報じられてきたためご存じの方も多いことかと思います。

そうして現経営陣から「儲けにならない」と切って捨てられた事業の一つに、Windows 95時代からアナログ信号とデジタル信号を表象した独特のロゴマークと個性的な筐体デザインを備え、AV機能やモビリティを重視した「VAIO」シリーズで知られたパソコン事業がありました。

その事業撤退という現経営陣の判断そのものの正否についてはここではあえて触れません。しかし、ソニーブランドの下で地方の放送局に長期間に渡って愛用され続けた独自規格CP/Mマシンの「SMC-70/777」シリーズやMSX規格の「HiTBit」シリーズといった日本のパソコン黎明期を飾る前史の時代から熱心なファンを抱え、特にモバイルパソコンの分野ではいかにも日本メーカーらしい、ピンポイントでマニア層のハートを直撃するようなハードウェア構成の機種(VAIO type Uなど)を出していて他では替えがきかない状態であったソニーによるパソコン事業からの撤退決定=VAIOブランドの消滅決定は、少なくない数の人々に衝撃を与えたものでした。

それはつまるところ、出荷台数の規模が無ければ十分な競争力が維持できない、という規模の経済の論理によるもので、相次ぐパソコンメーカーの合併や各社間での事業譲渡による統合といった動きと同根のものであって、かつて長期にわたって国内パソコン市場のトップシェアを占め続け隆盛を誇ったNECがレノボとの合弁事業に活路を見いださざるを得なくなったことが端的に象徴するように日本の市場規模では、そして日本メーカーのブランド力では、最早大量仕入れが可能で部品調達面で圧倒的優位に立つ国外メーカーと価格面で競争するのが困難となってしまっていることによるものです。

もっとも幸か不幸かVAIOのブランド力あるいは神通力はそれはそれなりに健在と見え、従来よりVAIOの開発生産に携わっていた安曇工場(旧ソニーイーエムシーエス長野テクノロジーサイト)を本拠とし、新たな出資者を得てVAIO株式会社が設立され、事業規模は縮小されたもののVAIOブランドパソコンの開発生産はひとまず継続されることとなりました。

さすがに、かつてのようにAV機能を充実させた個性的なデスクトップ機を、というわけにはいかないようで現時点でモバイル機種のみがラインナップされていますが、ソニーから引き継がれた既存機種に加え、ソニー時代には自社(厳密にはソニーエリクソン由来の子会社であるソニーモバイルコミュニケーションズ)のブランドであったXperiaとの競合を避けるためになかなか製品化しづらかったタブレット機(※注1)として、4コア8スレッドの高速CPUを搭載したハイエンド機種である「VAIO Z Canvas」が発表されるなど、新しい道が模索されはじめています。

 ※注1:ソニー時代には最末期にWindows 8搭載タブレットとして「VAIO Tap 11」が発売された程度でした。

そんなVAIO株式会社がこのたび仮想通信事業者(MVNO)の一つである日本通信との協業で同社製スマートフォンのデザイン監修を行い、「VAIO Phone VA-10J」として発表されました。

「XperiaではなくVAIOのスマホ版が欲しい」という声はこれまでも少なからず存在していたため日本通信による予告開始以来注目を集めていたこの機種ですが、一体どんな機種なのでしょうか。

今回はこの「VAIO Phone VA-10J」について考えてみたいと思います。

主な仕様

VAIO Phone VA-10J背面Xperia Zシリーズ同様に、筐体正面だけでなく背面にもガラスが貼付されている。

VAIO Phone VA-10J背面
Xperia Zシリーズ同様に、筐体正面だけでなく背面にもガラスが貼付されている。

記事執筆時点で公表されている「VAIO Phone」の主な仕様は以下のとおりです。

  • OS:Android 5.0.2 Lollipop
  • チップセット:Qualcomm MSM8916 Snapdragon 410(1.2GHzクアッドコア)
  • サイズ:約71×141.5×7.95mm
  • 重量:約130g
  • メインスクリーン
    • 種類:TFT液晶(IPS方式 LCDバックライト 1600万階調)
    • 解像度:720×1,280ピクセル(HD解像度)
    • 画面サイズ:5.0インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:2GB
    • フラッシュメモリ:16GB
    • 拡張スロット:microSDXC card(最大容量:64GB)
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:13メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:5メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/b/g/n
  • LTE:
    • 対応周波数帯域:2100MHz(バンド1)/1800MHz(バンド3)/800MHz(バンド19)
  • Bluetooth:Ver.4.0
  • NFC:非対応
  • 電池容量:2,500mAh(交換不可)
  • MHL:非対応
  • ワンセグ・フルセグ:非対応
  • テザリング:対応(Wi-Fi・USB)
  • 防水:非対応
  • 防塵:非対応

ハードウェア的には最近の大手キャリア向け端末ではほぼ搭載されていて当たり前のNFCもMHL(による外部ディスプレイ出力)もワンセグ/フルセグチューナーによる地上波デジタル放送視聴もない、という非常に簡潔というかシンプルな構成で、5インチサイズのディスプレイながらHD解像度にとどめられており搭載されているGPU性能に見合った解像度となっていると言えます。

内蔵カメラの性能から恐らくはソニーのExmor RS for mobile系のカメラモジュールが搭載されている可能性が高いと考えられますが、後述するようにほぼ余計なアプリを搭載しない状態の製品であるため、専用の画像エンジンなどによる余計な処理を行わない状態での同モジュールの特性を見るまたとない機会となりそうです。

なお、筐体デザインはXperia Zシリーズよろしく表裏にガラス面を配したいかにもソニーっぽい外観になっていますが、それ以外には取り立てて特筆すべき点はなく、ごく一般的なAndroid搭載スマートフォンにありがちなボタンや各種カードスロット、それにカメラの配置となっています。

一見凡庸、だが実は…

色々非対応の機能があり、統合プロセッサがミドルレンジよりやや下程度のグレードのものでしかありませんが、このVA-10Jには一つ大きな特徴があります。

それは、記事執筆時点で国内販売されているAndroid搭載スマートフォンでAndroid 5.0搭載かつ64ビットCPUコア内蔵の統合プロセッサを搭載する機種は大手3キャリアでもまだ存在していないため、またOSの開発元であるGoogle自身もAndroid 5.0搭載かつ64ビットCPUコア内蔵の統合プロセッサ搭載の端末は9インチタブレットのNexus 9(Denverコア版NVIDIA Tegra K1搭載)しか提供していないため(※注2)、Android 5.0.2をOSとし、64ビット化されたARM v8系アーキテクチャに基づくARM Cortex-A53をクアッドコア構成で搭載するSnapdragon 410を統合プロセッサとして搭載するこのVA-10Jが、「日本初のAndroid 5.0搭載でしかも64ビットCPU搭載の市販スマートフォン」であることです。

 ※注2: 京セラがソフトバンクに供給している「DIGNO U」などがこの「VAIO Phone VA-10J」と同じMSM8916を搭載していますが、現時点では(アプリの互換性の問題からか)OSが一世代古いAndroid 4.4となっています。また、Google純正のNexusシリーズのスマートフォンとして最新のNexus 6はAndroid 5.0を搭載するものの32ビットCPUコア内蔵のQualcomm Snapdragon 805を統合プロセッサとして搭載しており、NexusシリーズとしてはAndroid 5.0+64ビットCPU搭載のスマートフォンはまだ提供されていません。

ただし、現状ではVA-10Jに搭載されているAndroid 5.0.2が64ビット版なのかそれとも32ビット版なのかについては公表されていません。

正直なところを言えば、メインメモリ2GBしかないミドルレンジのマシンで64ビット化してもほとんど意味が無い上、Androidの場合NDKを使用して開発された各CPUネイティブコードのアプリを別にすればJVM上で動作するアプリが基本になっていますから無理に急いで64ビット化する必要はありません。恐らく、実機においても32ビット版のAndroid 5.0.2がインストールされているものと筆者は推測します。

ただ、OSのコンテキストスイッチの処理高速化を筆頭に基本的な部分で差が出ることは出るので、可能であれば今後のアップデートで64ビット化していて欲しいところではありますし、将来的にその可能性があることが同クラスの既存32ビットCPU搭載機にない、この機種の大きな強みであると言えます。

いずれにせよ大手キャリアが揃ってあえて一世代古いAndroid 4.4を搭載している状況で日本通信があえてこのVA-10JにAndroid 5.0.2を搭載してきたのは、過去の自社開発アプリ資産やサービスがほとんどないからこそだという見方ができます。また、今後Androidは5.0系へ移行するのがGoogleの既定路線であることから将来的なOSアップデートの手間を省く意味ではこれが一つの解であるとは言えるのですが、いずれにせよ現時点ではなかなか勇敢というか勇気の要る決定です。

VAIO Phone VA-10J正面画面上に表示されているアイコンが示すようにごく標準的なユーザーインターフェイスを備える。

VAIO Phone VA-10J正面
画面上に表示されているアイコンが示すようにごく標準的なユーザーインターフェイスを備える。

ちなみに現状で公開されている実機画面に表示されているアイコンなどを見る限りはユーザーインターフェイスを含めてほぼ素のAndroid 5.0.2、いわゆるASOP(Android Open Source Project)版のままで自社開発のアプリは皆無に近い状態で、限りなくリファレンス環境に近いソフトウェア構成ということになっているようです。

つまり、OSとGoogleが提供しているPlayストアやGmailなどのアプリ以外ほとんど余計なアプリがプリインストールされていないということで、ソニーのXperiaでさえ余計な削除不可アプリが少なからずあることを考えると、こういったスタイルも悪くは無いのでは無いか、と筆者は考えます。

仮にVAIO株式会社自身が自前でスマートフォンを発売するようになったとして、果たしてこのようなスタイルを踏襲するのかどうか、そもそも同社がAndroid搭載スマートフォンを出す気があるのか、といった疑問もある(※昨今の情勢を考えるとパソコンで扱い慣れたAtomなどのx86系のプロセッサを搭載するWindows 10搭載スマートフォンの方がよほど実現可能性が高いように筆者には思えます)のですが、こうしてみてくるとこのVA-10Jはソフトウェア環境的にはNexusに近く、ユーザーインターフェイスに独自色を出して欲しい(例えばかつてのVAIOで搭載されていたクロスメディアバー(XMB)でも積めば満足が行くのでしょうか?)、といった一部の意見を別にすればそこでマニア層から大々的な不満が出るとは考えにくい状態です。

これは果たして期待外れなのか

スペック公表後発売までのネット上での意見や評価などをみると、このVA-10Jについては残念ながら(なまじVAIOの名を冠しているがゆえに)特にハードウェアスペックを中心に期待外れと評する声が多いようです。

ただ、ソニーから分社する形でVAIO株式会社が誕生したのが昨年7月、日本通信との協業が正式発表されたのが昨年末のことで、またXperiaを擁するソニーがそれ以前に日本通信との協業について交渉していたとは考えられませんから、分社後ただちに事前協議を始めていたとしても開発期間が最大でも約半年という計算(※注3)になります。

 ※注3:VAIO株式会社設立後の同社の動きを見る限りは、恐らくこの機種に関わることができた期間は3ヶ月もなかったものと推測されます。

そのあたりの事情を勘案すると、「期待外れ」とする評には皆一体どれだけ過大な期待をこの製品にかけていたんだ、と筆者は思ってしまいます。

はっきり言ってしまうと、VAIO分社後のスケジュールを考えればこのVA-10Jが既存の海外ODMメーカー製端末の基本設計をほぼそのまま流用し、筐体デザインを可能な範囲で手直ししたものでない方がむしろ不思議です。

そもそも、これまでx86系CPUを搭載するWindowsパソコンを設計生産してきたメーカーが、いきなり文化の異なるARM系CPUを搭載するスマートフォンをそんな短期間で0から設計できるわけが無く、またそれらに搭載される独自開発アプリを短期間で多数準備できるとも思えません。言い方は悪くなるのですが、それができるほどスピーディに対応できていたなら、ソニーがパソコン事業を切り離す判断をすることはなかったでしょう。

ただ、VA-10Jに対する「期待外れ」の評には日本通信によるティザー広告戦略がいささか過剰かつ過大なものであったことへの反動、という側面があることは否定できません。製品の完成度あるいはグレードに見合わない過大な広告が行われてしまったことが、問題を深刻化してしまったのです。

問題は別の所にある

筆者としては問題はむしろ、そうしたハードウェア面におけるVA-10Jそのものの出来不出来の評価や、日本通信による広告戦略の失敗よりも、ブランド再構築のために重要なこの時期に何故そんな拙速かつ非常に中途半端な形でのスマートフォン市場への関与を始めてしまったのか、というVAIO株式会社経営陣の判断の方にあるのではないか、と考えます。

というのは、せっかくVAIO Zシリーズで高級ブランドとしての再構築を行いつつある今この時期に、格安SIMとのセットで販売される、いわゆる「安物」として売られる端末にVAIOのブランドを与えても逆効果になってしまうと思われるからです。

このあたりについては、現在のVAIO株式会社が日本産業パートナーズ(JIP)という投資ファンドの傘下にあり、その経営方針について親会社の意向を無視できないことも影響していそうですが、もう少し上手いやり方はなかったものかと思います。

Android 5.0搭載機としては基準となり得るが過剰な「のれん」代上乗せを許容できるほどのものではない

以上、「VAIO Phone VA-10J」について見てきました。

端的に言うとこれは「Android 5.0を搭載する最新リファレンス機種に限りなく近い端末」であって、VAIOであることにはほとんど意味の無い機種です。

そうなってくると、それに付された一括払いで約5万円というプライスタグの適正性が問題になってくるのですが、台湾などで販売されている近似スペックの機種が3万円前後の価格設定となっていることから単純に差し引きするとVAIOの「のれん」代に、厳しい言い方をすればインストールされたVAIOロゴ入りの壁紙や同じくVAIOロゴ入りでガラスを表裏に貼った筐体に約2万円程度を払う計算になります。

日本通信がどう考えてこのような価格設定としたのかは筆者にはわかりませんが、「のれん」代を上乗せしたとしても、また通話料金そのものが低価格に設定されているとしても、この価格設定はいささか高すぎるように思います。

真価を問われるのは「次」か

歴史を振り返ってみると、初代VAIOはインテルからのマザーボード供給などに頼った形でデビューを飾り、当初は割と平凡なハードウェア設計でそれほど高い評価を受けていませんでした。

VAIOの評価やブランドイメージが高まったのは名機として知られる「505」こと「VAIO NOTE 505」の初代機(PCG-505)が登場し、さらにタワー型デスクトップ機に独自設計のハードウェアMPEG2エンコーダボード(※注4)が搭載されるようになって以降の話でした。

 ※注4:自作機を愛用する動画編集マニアを中心に「頼むからあのボードだけ単体製品として売ってくれ!」という叫びが上がったほど飛び抜けて優秀な、高速かつ高画質なハードウェアMPEG2エンコーダチップが搭載されていました。

そう考えると、VAIOブランドのスマートフォンが真にその価値を問われるのは、「次」の機種であると言えます。

果たして「次」も日本通信発売・VAIO株式会社監修となるのか、それともVAIO株式会社直接の開発製造販売となるのかは判りませんが、もし「次」が出るのであれば、是非とも今回の機種がネットで炎上するほど批判される原因となった各要素について十分検討と反省を行った上での製品開発を強く望みたいと思います。

▼参考リンク
VAIO® Phone | b-mobile
VAIO
VAIO® Phone 誕生(PDF)

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