アイキャッチ画像

富士通スマホ事業の今後を占う ~ARROWS M01~

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

by [2014年12月09日]

富士通 ARROWS M01

日本最速のスーパーコンピュータ“京”の開発を担当していることが象徴するように、富士通は日本でも有数の高度なコンピュータ開発技術をもったメーカーです。

もっとも、その優れた技術力は、パーソナルな分野でのコンピュータ販売ビジネスには結びつけられていないように見受けられます(※注1)。

大手キャリア向けスマートフォンの製品開発でも色々問題が発生するなど(※注2)、ここ数年、同社のスマートフォン事業はじり貧状態で、最大の顧客であったNTTドコモ向けでもau向けでも大ヒットが久しく出ず、あのドコモの「ツートップ戦略」では全く採用されずに終わっています。東芝との携帯電話事業の統合(※注3)がなければ、そろそろNECやパナソニックのようにスマートフォン事業そのものからの撤退が取りざたされる状況でもあったかもしれません。

そんな富士通が、このほど国内でのMVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)による低料金の通信サービスを利用し格安スマホ展開の先陣を切ってきたイオン向けに「ARROWS M01」の供給を行うことを発表しました。

イオンが主にシニア層をターゲットとして「スマホのLCC」を標榜し、「イオンスマホ」と称するSIMフリースマホ(および低価格の通信サービス)を販売するようになってからまだ8ヶ月ほどしか経っていないのですが、4代目にして早くも国内大手メーカーが参入となったわけです。

今回はこの「ARROWS M01」について考えてみたいと思います。

※注1:同社が開発した機種はいずれもその優れた性能や他にない特徴故に熱烈な支持者をかかえていたのも事実です。
※注2:常駐する機能が多過ぎてバッテリーが持たないなど。特に他社で採用実績がほとんどなかったNVIDIA Tegra3搭載機でのトラブルが多く、一部では訴訟沙汰にまでなりました。ちなみに富士通のスマートフォンは当初型番のみでブランドがないという他に例のない状態となっていました。
※注3:東芝との事業統合まで富士通はスマートフォンを含む携帯電話端末の納入先がNTTドコモ一本槍で、ガラケー時代はアプリケーションプロセッサに日立製作所(現・ルネサス エレクトロニクス)のSuperHシリーズを採用していました。KDDI(au)向け中心でガラケー時代からQualcommのチップセットをよく知る東芝との事業統合によりドコモとauの大手2キャリアに端末供給を行えるようになり、さらにAndroidスマートフォン用チップセットのメインストリームとなったSnapdragonシリーズを扱うノウハウを得たことが、結果として同社の携帯電話事業を救ったと言えます。

実用性の高いハードウェア構成

「ARROWS M01」の公表されている主な仕様は以下のとおりです。

  • OS:Android 4.4
  • チップセット:Qualcomm MSM8926(1.2GHzクアッドコア)
  • サイズ:約67×138×10.9mm
  • 重量:153g
  • メインスクリーン
    • 種類:有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ
    • 解像度:720×1,280ピクセル(HD解像度)
    • 画面サイズ:約4.5インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:1GB
    • フラッシュメモリ:8GB
    • 拡張スロット:microSDHC(最大32GB)
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:8メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:1.3メガピクセル
  • LTE:
    • 転送速度:下り最大150Mbps
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/b/g/n
  • テザリング:対応
  • Bluetooth:Ver.4.0
  • ワンセグ・フルセグ受信:非対応
  • 電池容量:2,500mAh
  • NFC:対応
  • 防水:対応(IPX5/IPX8)
  • 防塵:対応(IP5X)

以上からも判るとおり、メインメモリや内蔵ストレージの容量が少なくTVチューナーを一切搭載していないものの、防水防塵に対応し大容量バッテリー搭載となっています。

統合プロセッサのQualcomm MSM8926は先日の記事でご紹介したSnapdragon 400シリーズでLTE対応として後日追加されたモデルの一つです。

プロセッサ性能についてはCortex-A7 1.2GHzの4コア構成ですからそれほど悪くありませんし、これと2,500mAhの大容量バッテリーを組み合わせたことで、通話時間をはじめとするフル充電時の公称連続稼働時間が劇的に伸びているため、実用性は高いと言えます。

もっとも、メインメモリ容量と内蔵ストレージ容量がそれぞれ1GBと8GBしかないのは少々残念で、さらにメモリカードの対応が最大32GB上限かつ1ファイル当たりの最大サイズが2GB以下に制限されるmicroSDHC止まりとなっているため、大容量の動画データを転送しておいて視聴したい、といった使い方では少々不便な仕様となっています。

Wi-Fiは802.11 a/b/g/n 対応ですからピーク速度が出ない事以外は特に問題は無く、むしろ低価格スマートフォンでは省かれがちの5GHz系の802.11 a/nがきちんとサポートされていることは好感が持てます。

プロセッサ以外の仕様は概ね2012年~2013年前半くらいの大手3キャリア向けハイエンド機並と言え、低価格機ながら4.5インチの有機ELディスプレイパネルを採用しているため、見やすさの点でも困ることはないでしょう。

なお、先にも少し触れましたが、この機種にはワンセグおよびフルセグの地上波デジタルテレビ放送を受信するためのチューナーが搭載されていません。

グローバルエリアで市販されるためにローカライズの極みとも言えるこの種のチューナーを搭載しない、AppleのiPhoneやGoogleのNexusシリーズ並と言ってしまうと大げさかも知れませんが、ワンセグチューナー搭載の携帯電話・スマートフォンを所持しているだけで、全く放送を見なくともNHKに受信料支払いの義務が発生するように(NHKの都合の良いように)いつの間にか改正されていた日本の現行法規を考慮すると、自宅を含めてTV放送を全く見ない/見るつもりのない人にとってはありがたい選択肢(※注)となるかもしれません。

 ※注4:現在の大手3キャリア向け機種では先に挙げたiPhoneやNexus以外ではほとんどの機種に最低でもワンセグチューナーが搭載されていますが、筆者個人の感想としては、TV放送を見る気のないユーザー向けにハイエンドかつTVチューナー非搭載のモデルはあっても良い気がします。

ガラケーからの移行を重視したソフトウェア

このARROWS M01では日本語入力環境として、これまで富士通のスマートフォンで採用されてきた手書き入力可能のNX!InputとATOKの組み合わせが採用されています。

このNX!InputとATOKの組み合わせは、他機種で筆者が使用してみた感じだと、キー配列の選択や手書きの有効・無効切り替えなどが判りづらく(※注5)非常に使いづらかったのですが、従来のソフトウェア資産を利用することでコストダウンを図った、といったところなのでしょうか。

 ※注5:機種によってデフォルト設定が異なる可能性もあるのですが、筆者が試した機種(FJL21)だと手書きがデフォルトになっていて、フリックによるかな文字選択入力への切り替えが大変判りづらく操作しづらい構成で、しかもそのご自慢の手書き入力では濁点入力をほぼ確実にかなの「い」と誤判定するなど、お世辞にも褒められない判別精度でした。

「シンプルホーム」画面
「携帯電話」で使用頻度の高い電話・メール・電話帳・インターネット(ブラウザ)の各ボタンを大きく表示してあり、他にも使用頻度の高そうなボタンが並べられている。

また、これまでドコモ向けで「らくらくスマートフォン」など高齢者向けスマートフォンやフィーチャーフォンユーザーの乗り換え需要をターゲットとした機種を展開してきた経験を生かし、極力フィーチャーフォンの操作性に近づけたホーム画面「シンプルホーム」を搭載するなどの配慮も行われており、スマートフォン初心者で比較的高齢の利用者をターゲットとしていることを明確にしています。

これも既存ソフトウェア資産の活用ということなのでしょうが、この辺を新規開発を行っていたらとてもコスト的に見合わないはずで、富士通がこれまでドコモ・au向けにAndroid搭載スマートフォン開発を続けてきた経験が生かされていると言えるでしょう。

トレンドを押さえた低価格と高品質

これまでのイオンスマホでは、型遅れ状態の機種であるとかいわゆる中華スマホであるとか、とにかく低価格であることに重点を置いて端末を提供し、端末価格と通信料金の安さを前面に押し出したサービス展開が行われてきました。

しかし、他にもMVNO事業者が乱立してくると、単に安いことだけを前面に押し出していても十分な競争力が得られなくなってきます。

実際、この種の通信サービス向けに提供される端末でも当初は低速な3G回線での通信のみサポートであったものが、またたくまにLTE対応へとグレードアップしており、徐々にチキンレース的な各事業者の我慢比べに近い状況(※注6)になりつつあります。

 ※注6:こうなってくると価格競争で最後に勝ち残るのが企業として体力のある大手になるのは目に見えています。

そうした情勢下では、各事業者とも自ずと安さと通信速度以外の差別化要素を探すことになるのですが、そんな差別化要素の筆頭に位置するのが、端末の高品質化です。

先日ご紹介したASUSTekのZenFone 5もそうでしたが、最近統合プロセッサにSnapdragon 400を搭載して低価格化を実現しつつ高品質化を図った製品が増え始めています。

今回の富士通ARROWS M01は正にそんな最近の潮流に乗って開発された製品であると言えるでしょう。

特に、既存の低価格SIMフリースマートフォンでは全くといって良いほど顧慮されることのなかった防水・防塵性能の実現は、富士通の大手キャリア向けスマートフォンでは標準的な設計を援用しただけともとれますが大いに評価できる部分ですし、これを目当てにこの機種を選ぶユーザーが出ても不思議はありません。

富士通スマホの今後

以上、ARROWS M01の仕様をみてきましたが、ハードウェア的には価格設定を考えると概ね申し分ない出来だと思うのですが、ソフトウェア面、特にユーザーインターフェイス部分の出来に不安が残ります。

ことにフィーチャーフォンユーザーの乗り換えで一つの壁となる文字入力機能としてNX!Inputが採用(流用)されていることは、この機種の成功について最大の懸念材料となるように筆者には思えます。これまでガラケーやパソコンを使ってきた高齢者をターゲットとした場合、この操作体系の煩雑さというか直感的ではない部分が受け入れられない可能性があります。

プレスリリースに掲載の文章を読む限り、富士通としては今後こうしたMVNOを利用する低価格通信サービス向けにどんどん端末を売り込んで大手キャリア向けでの失地を回復したい意向と思われますが、その展開を上手く行うためには、文字入力機能のユーザーインターフェイス部分についてはより直感的かつシンプルに操作を行えるよう、改めて再検討を行うべきではないでしょうか。

ただ、繰り返しになりますが、この機種のハードウェア設計の素性そのものは有り物の、つまり既存の他社向け設計を適宜流用しただけに見えますが、決して悪くありません。極論すれば、文字入力は別途IMEを入手してそちらに切り替えてしまえば済む話(※注7)で、他のソフトウェア的な問題も気に入った代替ソフトで置き換えてしまえばそれでOKです。

 ※注7:そこでコストをかけてしまっては本末転倒ではないのか、という話もありますが。

そのあたりを考えると、これはむしろ使い方を熟知したユーザーのサブ通信端末としての方が用途として向いているかも知れません。

▼参考リンク
Androidスマートフォン「ARROWS M01」を提供開始 : 富士通
スマートフォン・タブレット・携帯電話(M01) – FMWORLD.NET(個人) : 富士通

Snapdragon 400 Processor Specs and Details | Qualcomm

コメントは受け付けていません。

PageTopへ