UE BOOM製品ページ360°の全方位サウンドを訴求しているが、これだけ、というわけではない。

高価格には十分過ぎる理由がある~コンパクトでも高音質な『UE BOOM』

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by [2014年10月10日]

ロジクールの名はパソコン用マウスやキーボードのメーカー・ブランドとしてご記憶の方が多いのではないかと思います。

スイスに本社と開発拠点を置き、日本以外ではLOGITECH(ロジテック)の社名で知られる(※注1)この会社は、パソコンなどの周辺機器メーカー大手として、いわゆるマルチメディアスピーカーの製造販売も行っています。

 ※注1:同社の日本進出の時点で既に別のパソコン周辺機器メーカーであるロジテック社(※現在は同じく周辺機器メーカーとして著名なエレコムの100パーセント子会社)が存在していたため、同社日本法人はロジテックに代えてロジクールの社名・ブランド名で製品展開を行っています。

Logicool z130
LOGITECH(日本ではロジクール)が販売している比較的低価格設定のステレオマルチメディアスピーカー。質実剛健な造りで値段の割に良好な音質なのだが、どうにも安物の印象がつきまとう。

もっとも、「周辺機器メーカーの自称マルチメディアスピーカー」というのは昔からどうしても「とりあえず音が鳴る」レベルの安物というイメージがつきまといがちで、試しに筆者がパソコンにあまり詳しくない知人何人かに訊いてみても「ロジクールのスピーカー? ああ、あの2,000円か3,000円くらいの安い奴??」などと言われてしまう始末です。

実のところ、日本の国内市場で販売されているロジクールの「パソコン周辺機器としての」スピーカー製品群は、簡潔な設計・デザインながらどれも値段の割に音が破綻なくまとまっていてなかなか良い出来なのですが、それでもある意味良心的すぎる値段とシンプルなデザイン、それにどことなくプラスチッキーな質感に起因する「安物」というイメージはどうしてもぬぐい去れません。

なかなか難しい廉価なイメージからの脱却や
買収ブランドの統合

同社自身、iPodやiPhone向け周辺機器としてヘッドフォンやポータブルスピーカーなどの音響製品をラインナップするようになってから、そうした「安物」イメージがこの分野での成功に大きな障害となっていることは痛感していたようです。

UE社のカスタムインイヤーモニター(IEM)紹介ページ
カスタムIEMは安い物でも約8万円、高い物だと約18万円ものプライスタグがつけられている。これに加えて耳型(インプレッション)を取る費用と手間もかかるため、通常はまずお目にかかることのない製品である。

そのため、カスタムインイヤーモニター、つまり耳の型を取ってそれに合わせて形状決定を行い製作する、インイヤータイプの特注モニターヘッドフォンの分野では草分け的存在にしてトップメーカーであったアルティメット・イヤーズ(Ultimate Ears:UE)社を2008年夏に買収していました。

もっともスタジオミュージシャンなどに供給される、日本円に換算して10万円以上もする高価なカスタムインイヤーモニターや、それを一般化した「ユニバーサルフィットイヤホン」と呼ばれる、それでもかなり高級な部類に入るカナル型イヤホンを主力とするUE社と、高くても1万円前後までの比較的低価格なスピーカーやマイク付きのヘッドセットなどを扱ってきたLOGITECH社とでは、同じ音響機器を扱うと言ってもあまりに芸風が違いすぎました。

そのせいかUEブランドのカスタムイヤーモニターは、現在も合併以前と同様にLOGITECH社日本法人としてのロジクールの通常販売チャネルではなく、外部のその種の製品を専門に扱う販売代理店によって国内販売が続けられていて、イヤフォン系の製品では唯一UE 900Sという「ユニバーサルフィットイヤホン」に属するモデルのみが量販店での取り扱いがある状態となっています。

会社買収から6年が経過した今なおこの状態ということからは、水と油と言えるほど性質の異なるブランドの融合や統合がいかに難しいかが透けて見えます。

ただしこれは言い換えればスイスのLOGITECH本社がUltimate Earsのブランドや技術力をそれだけ高く評価し大切に扱っている証左とも言え、会社買収で焼き畑農業よろしく貴重な会社資産を溶かし食い散らかされたあげくブランドそのものが事実上消滅してしまったかつての名門オーディオ機器メーカーも少なくない昨今、拙速を避けたLOGITECH社経営陣の見識が光る部分であるとも言えます。

ロジクールのチャネルで販売される
Bluetoothスピーカー

UE BOOM製品ページ
360°の全方位サウンドを訴求しているが、これだけ、というわけではない。

そんなわけで今でも高級イメージの強いUE社の製品ですが、現在では「UE BOOM」(WS700)・「UE mini BOOM」(WS510)としてBluetooth接続に対応するモバイルスピーカーが同社ブランドで発売されるようになっています。

そこで今回はそのうち上位で防水対応の「360度ソーシャルミュージックプレイヤー」を謳う「UE BOOM」について考えてみることにしたいと思います。

総合RMS出力18W(9W+9W)、周波数特性90Hz~20kHz、BluetoothのA2DP(Advanced Audio Distribution Profile)による通信およびNFCによるペアリングに対応、マイク内蔵でハンズフリー通話に利用可能、といった額面上の仕様だけで見ると、この「UE BOOM」にはここ最近各社が発売しているモバイルスピーカーと比較してそれほど尖った部分はありません。

むしろ、あれだけ先鋭的かつ高級なインイヤーモニターを作ってきたUE社の製品としてみると、拍子抜けするほど平凡なスペックのスピーカーであるとさえ言えます。

筒型でコンパクトなエンクロージャ

しかし、実際に製品を手に取ってみるとそのスペックから受けるのとは全く異なった印象を受けることになります。

筒型でやや大きめのジュースの缶ほどのサイズながら剛性が高くずっしりとしたエンクロージャ(筐体)。

そしてその容積からは予想できないような音量と意外なほどバランスの良い分厚い音質。

Bluetooth接続故に通信時にCODECを用いて不可逆圧縮が行われるため音質的にある一線を越えることができませんが、それでも純粋にスピーカーとしてみた場合の素性の良さはひしひしと伝わってきます。

この種のモバイルスピーカーの場合、かつて某社でiPod用モバイルスピーカーやヘッドセットの開発に関わっていた筆者自身の経験から言っても、どうしても共鳴に用いる容積が足りなくて低音がきちんと出ない、あるいは無理に低音を出すためにいわゆるドンシャリ型の周波数特性にチューンして中域の音が奥に引っ込んでしまう、といった周波数特性面でのゆがみが出がちです。

パッシブラジエータ方式の原理図
密閉された筐体に2つの開口部を設け、一方(この図では上)にボイスコイルの備わった通常のスピーカーユニットを取り付け、もう一方(この図では下)に振動板のみの通電しないユニットを取り付けて空気の流れ的には完全に密閉された空間を形成する。これにより、下のユニットでは上のユニットの振動板の動きに合わせて位相が反転した動きが生じ、低域増幅効果が得られる。

この「UE BOOM」の場合はそこをデュアルパッシブラジエータと呼ばれる設計手法(※注2)を用いることで解決しています。

 ※注2:密閉されたエンクロージャに通常のスピーカーユニットと別に通電しない振動板だけのユニットを取り付け、エンクロージャ内の空気を介して通常ユニットから発せられた振動波を非通電ユニットの振動板駆動に用いる手法。これによりダクトに一定の長さが必要で小型化が難しいバスレフ方式のスピーカーよりも小さな容積の筐体で低音放射による低音増幅が実現します。

これは小型スピーカーで豊かな低音再生を実現するための常套手段の一つなのですが、空気を介して非通電ユニットの振動板を駆動する、という動作原理が物語るように、その空気を閉じ込めるエンクロージャは通電・非通電の2つのユニットに備わる振動板で開口部に蓋をした、完全密閉の空間であることが求められます。極端な言い方をすれば、通電ユニットの振動板を手でそっと押し込んだら非通電ユニットの振動板がその分前に出る位の密閉度が維持できていないと、効果が全く出ないのです。

また、このことから想像できるように、2つの振動板以外の部分が変形するようであればこの効果は低減するため、エンクロージャそのものは振動が伝わっても一切変形しない、高い剛性を備えた強固な構造であることも必須です。

つまり、例えば筐体接合部のどこかに隙間があって空気が漏れる、あるいはエンクロージャ自体が簡単に変形するような脆弱さだとパッシブラジエータがパッシブラジエータとして機能しなくなるということで、この手法を用いる場合には厳密な密閉構造を維持でき、さらに十分に高い剛性を備えた筐体設計と、それこそ水も漏らさぬ組み立て工程の品質管理の双方が必要となる(※注3)のです。

 ※注3:本機種はIPX4準拠の防水性能を備えていますが、これはこの密閉度の高い筐体構造の副産物であるとも言えます。

こうした事情から採用例はそれほど多くありません。手間暇かけてきちんとした筐体を設計し、組み立て工程まで厳密に品質管理せねば効果が得られない、すなわち生産コストが他の方式と比較しても高くつく可能性が高いためです。

この機種で内蔵アンプ出力の割に、またエンクロージャ容積が小さいにもかかわらず驚くほど豊かな低音が出力できていることから判断する限り、この設計手法の有益さは疑う余地もないのですが、価格的な競争力の観点では不利な方式であるのです。

実際、この「UE BOOM」は店頭での実売価格が発売開始から約1年半経過した記事執筆時点でも税込みで2万円弱といったところで、同程度のスペックを備える他社製Bluetooth対応モバイルスピーカーと比較するとどうしても高めの価格となってしまっています。

このあたりは値段と性能・音質の間でのトレードオフとなる話ですので、UE社の考える音質を実現するには価格面でこれ以上の妥協は許せなかったのでしょう。

これは単なるBluetooth対応スピーカーではない

さてこの「UE BOOM」、上で値段が高いと書きましたが、実はこれには筐体構造以外にもう一つ理由があります。

専用アプリによる2台の「UE BOOM」の出力割り当て設定画面
2台それぞれ単独でステレオ出力を行うか、2台一組のステレオスピーカーとして扱うか、を設定できる。

この機種のBluetooth通信機能は単なる音声の受信だけでなく入力された音声信号の再送信中継機能も備えていて、2台の「UE BOOM」を用意しGoogle PlayあるいはAppStoreで配布されているAndroid・iOS対応専用アプリを用いて設定すれば、2台の「UE BOOM」で同時に同じようにステレオ音声出力を行う「Double」モードと、2台の「UE BOOM」それぞれに左右の音声信号いずれかを振り分けて出力させる、つまりそれぞれの「UE BOOM」をモノラル出力として2台で1組のステレオスピーカーとして扱う「Stereo」モードの2つのモードを選択可能となっているのです。

「Double」モードは野外などでの音量増強に、「Stereo」モードはその名の通りステレオ感の強化に有益な機能で、2台あればシチュエーションに合わせて使い方を変えられるわけです。

しかもこのユーティリティは現行バージョンでは音楽再生によるアラーム機能や5バンドのイコライザー機能を搭載しており、1台だけ接続して使用する場合にも有益です。

ちなみに、このあたりの機能でお気づきの方もおられるかと思いますが、この「UE BOOM」(および同様の機能を搭載する「UE mini BOOM」)一つの独立したコンピュータを内蔵していて、そのファームウェアを更新することで今後も新たな機能の追加や機能の改善が可能(※実際にも本体ファームウェアのアップデートが既に実施されています)となっています。

古い言い方をすれば、要するにこの「UE BOOM」はファームウェアやユーティリティのアップデートで「進化し続けるスピーカー」ということで、ファームウェア容量や内蔵DAC性能、あるいはプロセッサ性能などからできることには限界はあるでしょうが、LOGITECHのこれまでのマウスドライバ更新ペースなどから考える限り、今後の展開にいろいろ期待が持てそうです。

このあたりの考え方はいかにもパソコン周辺機器メーカーらしい発想で、専用アプリ開発を含めてマウス用ユーティリティをはじめとする周辺機器用ユーティリティソフトウェア開発で培われてきたLOGITECHの技術力が生かされた形になっており、これまでのUE社製品になかった文化や作法が持ち込まれたものと言えるでしょう。

確かに高価だがそれに見合った機能・性能が得られる

UE BOOM限定版カラーの案内ページ
既に品切れとなった物を含め、UE BOOMの全てのカラーバリエーションモデルを確認できる。

以上、「UE BOOM」を見てきましたが、これはこの種のBluetooth接続対応モバイルスピーカーとしては高価な部類に入るものの、そのコストに見合った音質や機能が実現しています。

またIPX4準拠の防水機能、つまり防雨形と呼ばれ「鉛直から60度の範囲で落ちてくる水滴による有害な影響がない」レベルの高度な防水機能を備えるため野外での悪天候下におけるラフな利用にも耐え、内蔵のバッテリーにフル充電すれば公称で15時間もの出力が可能です。

このあたりのまとめ方の巧さはUE社というよりはLOGITECHの製品らしいというべきで、両社の良さが高度にバランスした良作と言って良さそうです。

ちなみにこの「UE BOOM」は筒型の単純な形状故か、「+ MAKE MUSIC SOCIAL」をうたい文句としたアーティストシリーズという限定版のカラーバリエーションモデルが用意されていたりもします。

この辺の展開やセンスはお堅い優等生的なLOGITECHの芸風ではちょっと無理だったものですが、個人的には限定カラーで気に入って後からもう1台同じのが欲しいと思っても手に入らない、という状況になりがちなのは勘弁して欲しいところです。

▼参考リンク
UE BOOM: 360度のサウンドワイヤレススピーカー | Ultimate Ears

アプリ基本情報

UE BOOM製品ページ360°の全方位サウンドを訴求しているが、これだけ、というわけではない。

UE BOOM

配信元:Logitech Europe S.A.

Android価格:無料 / iOS価格:無料

  • バージョン Android:4.0.3以上 / iOS:6.0以降

Androidアプリのアクセス内容

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※記事内の情報はすべてレビュー時(2014年10月10日)の情報です。

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